Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
「バゼットさん、それなに?」
養護教諭用の机に着き、複数の紙に何やら得体の知れない図を書いているバゼットに、イリヤは質問をする。
「結界用のルーンです」
「結界?」
「何? 敵感知の結界、更に広げるの?」
バゼットの説明を更に疑問で返し、事情を知っているクロエは別の質問をする。
「ええ。校舎内はすでにこのルーンを張り巡らせていますが、人手も増えたことですし、この敷地全域に範囲を広げようかと」
「なるほど」
リナは納得して頷くが。
「結界ってバリアみたいなの?」
ワクワクしながら尋ねるイリヤ。
げし!
「あ痛っ!?」
小さくため息を吐いたリナが、イリヤの頭に軽めのチョップを決めた。
「クロエが『敵感知』って言ったでしょ? ルヴィアさんのお屋敷やクレーターの中に仕掛けてあったのと同じよ」
「あ、そっか」
ちゃんと答えを聞いていたのに間違えたことで、イリヤは少しだけ恥ずかしくなる。
「では手分けをしてルーンの設置を」
「あ、ちょっと待って」
椅子から立ち上がるバゼットを制するリナ。
「あたしは別の仕掛を設置したいのよ」
「別の仕掛、ですか?」
「ええ、そう。それで相談があるんだけど…」
そう言うと、バゼットの頭を下げさせて耳打ちをする。しばらくその内容を聞き、やがて。
「ええ。本来よりもかなり落ちますが、相手も同じ条件なら、むしろこちらの方が有利でしょう」
「よかった。ならあたしは、自分の仕掛の方を設置するわ」
「お願いします。では我々はルーンの設置に向かいましょう」
「「う、うん…」」
二人の会話が気になったイリクロは、曖昧な返事を返すのだった。
「よしっ、と。後は校門前に貼れば終了だね」
校舎の横に植えられた木に、ルーンの呪符を貼り付け言うイリヤ。
『この学校も、意外に広いものですねー』
「でも、こんな藁半紙に模様描いただけのものに効果があるの?」
魔術に疎いイリヤの、当然の疑問である。
『その模様はルーン文字と言います。ルーン魔術は、それ自体に意味を持つ文字の組み合わせで事を成すものですから、簡易なものなら最低限の魔力を込めたこれでも充分なんでしょう。まあ、詳しくは知りませんが』
「……一瞬感心した、わたしの気持ちを返して欲しいんだけど」
どっかの世界線の、
「……ハイ! これでラスト! うー、さむさむ。早く戻ってストーブ当たろ」
門柱に最後の呪符を貼ったイリヤは、そのまま校内にとって返そうとする。が。
視界の片隅に、何やら不可思議なものが映り込む。ソレは塀の向こうから、女の子と思われる下半身がぶら下がっている姿。
「……人形、じゃないよね? プルプルしてるし」
『なんとまあ、可愛らしいお尻でしょう』
イリヤの疑問はスルーして、ルビーは自分の思ったままのことを口にする。
「ぜったいにわたしを下ろさないでねっ!!」
「!? ……え、えっと!?」
「視線をかんじるよ! なにか聞きたそうな
お尻は生意気なことを言っている。
「んー…。校門が閉まってたから塀をよじ登ったのはいいけど、降りるときに足が着かなくって固まっちゃったとか?」
「なんでしってるのーっ!?」
正解だったようだ。
「ううっ、レディのひみつが白日のもとにさらされちゃったよぅ…」
『生意気なお子様パンツも晒しておきましょうか?』
「きゃーーーっ!!?」
「ルビーッ!?」
そう言いながら、スカートをぴらりとめくるルビー。セクハラも甚だしい。お尻が悲鳴をあげて、イリヤは非難の声をあげる。
「う…、うゆっ……、ふぎゅうううううう…!!」
「え、泣いてるのかな、これ」
『変化が無さ過ぎてわかりませんねー』
とはいえ、このまま放置するわけにもいかない。
「え、えと、泣かないで。今、下ろしてあげるから」
「ぜ…ぜんぜん泣いてないし…下ろさなくていいもん…」
(……なんて強がりなお尻なんだろう)
内心でその様なことを考えてみたり。
「……わたしが3回下ろさないでって言ったら…ぜっっっったい…下ろさないで……」
「フリだねっ? フリって受け取るからねっ!?」
激しくツッコミを入れながら、イリヤはお尻…もとい女の子を下ろしてあげるのだった。
(どっと疲れた…)
肩で息をしながら、内心ではその様なことを思い。しかしすぐに、女の子へと声をかける。
「大丈夫? ケガとかしてない?」
「こ…こわかったよ…。ずっとあのままかとおも…」
震えながら言っていた女の子はしかし、震えとはまた違う感じで肩をピクリと震わせて振り返り。
「思ってないよ! ちょっと遊んで…そう! ぶら下がりっこしてただけだもん!」
やっぱり強がりである。ある意味で、子供らしい強がりではあるが。
(わぁ。青い瞳と、わたしみたいな赤い瞳。本物のオッドアイなんて初めて見た)
イリヤは女の子の瞳を見て感動を覚えた。
「……んゅ? もうひとりいなかった?」
「ううん。キレイさっぱりわたしだけだよ」
しっかりキッパリ断言するイリヤ。ルビーなど、『イリヤさんも図太くなりましたねー』などと思っていたりする。
「……んとね、さっきのことは…」
「大丈夫、誰にも言わないよ。レディの尊厳だもんね」
そう約束をすると、女の子の表情が笑顔に変わった。
「ねえねえ、あなたのお名前は?」
「わたし? わたしはイリヤスフィール。長いからみんな、イリヤって呼ぶよ」
イリヤの自己紹介を聞き、一瞬目を見開いてから女の子は言った。
「わたしはエリカ! 会えたのがお姉ちゃんでよかった。助けてくれてありがとう、イリヤお姉ちゃん!」
瞬間、イリヤの胸が高鳴る。
「エ、エリカちゃん。お礼なんていいから、もっとお姉ちゃんって言ってみて」
「? お姉ちゃん?」
「なにかなー、エリカちゃんっ」
(……お姉ちゃん呼びされるとチョロ子さんですねー)
ルビーは呆れ返っていた。
……と。またもやエリカが震えだした。
「どうしたの、エリカちゃん。そんなに高いところが怖かったの?」
「……イリヤお姉ちゃん。わたしをぜっ…………たいに、トイレに連れていかないでね……」
イリヤは一瞬フリーズし。
(そういう震えかあああ…)
想定外の理由に、心の中では頭を抱える。
「エリカちゃん、立って歩ける? ダメ!? もうそんな水位レベル!? あわわ~、ど、どうすれバインダー!?」
そんな非常事態に、パニックになるイリヤだった。
ところ変わって、穂群原小の校外。
「……よし。これでオーケーね」
何やらうずくまって作業していたリナは立ち上がって言った。
(……これで学校の敷地内はカバー出来るハズ。まあ、無用の長物で済めば、それに越したことは無いんだけど)
心の内でそんなことを考えていると。
「へぇ、こんな所にまだ人がいたんだ」
そんな声がかけられた。とはいえ、相手は別に気配を隠していたわけではなく、リナがもの思いに耽っていたために気配の察知が疎かになっていただけだ。
驚いたリナは、声のした方を振り返る。そこには、金髪ショートボブで前髪をインテークにした、赤い瞳の20歳前後の女性がいた。
「こんにちは。こんな場所で何してるのかな?」
「……いやぁ、余所から友達に会いに来たんだけど、今はひとりで散策中よ」
「へぇ。じゃあ、わたしと同じだ。わたしも、他の街からこの街まで来たんだ」
そう言って、意味ありげな笑顔を浮かべる女性。
「……お姉さんは何でこの街へ?」
「えーと、わたしの…上司になるのかな? そこからちょっと仕事を押し付けられて」
「ああ。それはごしゅーしょー様」
「ホントにそうよ! 本当なら今頃…って、あなたには関係ないわね」
女性は怒りを爆発させそうになりつつも、直前で冷静になる。
「そう、ですね」
リナは言葉短めに同意した。
「ごめんね。急に話しかけたりして。それじゃあね」
そう言って手を振り、女性はリナから離れていく。それを見送り姿が見えなくなったところで、リナは大きくひとつ息を吐いた。
「……一体、何者だったのよ」
そう呟いたリナの頬に、つうっと冷や汗が流れるのだった。
リナが教室に戻ると、そこには見知らぬ金髪幼女がひとり。青と赤のオッドアイが魅力的なその幼女は、腰から下をバスタオルで巻かれていた。よく見れば、ストーブの横にスカートと靴下、そしてお子様パンツが干してある。そこから、この状況の原因は理解したが、根本的なところ、この子は誰なのかがわからない。
「……イリヤ、その子は誰?」
「この子はエリカちゃん。学校へ忍び込んでたところに偶然出くわしたの」
リナが尋ね、イリヤが答える。リナは並んで立つクロエとバゼットをちらりと見るが。
(二人が何のリアクションも取らないということは、少なくとも敵意を持った存在ではないということ。……でも、何故か少し引っかかる)
エリカの顔を見た瞬間から感じていたことである。
「……お姉ちゃんは誰?」
「あ、えっと…。あたしはリナ。稲葉リナよ」
またもや思考を巡らせていたところでエリカに尋ねられ、慌てて自己紹介をする。
「リナお姉ちゃん…。わたしはエリカ。よろしくね、リナお姉ちゃん!」
そう言ってニコリと笑った姿はとても愛らしい。当然リナもそう感じたが、それでも心に引っかかるものは取れそうになかった。
「あー、ところでエリカ。赤い瞳のお姉さんとかいる?」
とりあえず、先程の女性との関係を疑ってみる。
「うゅ? いないよ?」
しかしこちらは見当違いであったようだ。
「?」
「あ、訳のわかんないこと聞いてごめんね」
キョトンとした表情のエリカに、リナは優しく声をかけて頭を撫でる。その一方でイリヤは、干してある衣類を触って確かめて。
「……あ、エリカちゃん。下着は乾いたみたいだよ」
「わあ、ほかほかだぁ」
手渡された下着を受け取ったエリカは、タオルを巻いたまま履き始める。
(なんだか、水泳の授業で着替えてるときみたい)
その様子を見たイリヤが、そんな益体もないことを考えていたりするが。
「……ゴムのぶぶんが、ジメジメする」
「ああっ!? ご、ごめん、エリカちゃん!」
「ベ、べつにイヤじゃないもん! わたし、ジメジメしたの好きだからっ!!」
(だから、なんでこの子は強がるのッ!?)
イリヤは心の中で突っ込んだ。リナがその様子をため息交じりに眺めていると、クロエが近づき小声で話しかけてきた。
「ねえ、赤い瞳のお姉さんって何のこと?」
「ああ。さっき校外で、術を仕掛け終わったタイミングで話しかけられたのよ。金髪で赤い瞳だったから、もしかしたらエリカの関係者かと思ったんだけどね」
「そういう事か」
クロエは納得しうなずく。
「あっ!」
突然声を上げるエリカにそちらを見れば、彼女は窓の外を見つめていた。そして。
「パパだ!! むかえに来てくれたんだ!!」
「ああっ、エリカちゃん! スカートと靴下、忘れてるよー!」
教室を飛び出していくエリカを追いかけるイリヤ。その髪の中からルビーがポロリと飛び出し置いてかれる。
「全く。結局なんだったのよ、あのお子様。……ん?」
ぼやくように言うクロエが、ルビーに…いや、その見た目の変化に気づく。
「どうしたのよ、ルビー。そのアンテナは…?」
「ちょっとルビー! それってテレフォンモードじゃないの!」
テレフォンモードで何度かお世話になったリナが、声を上げた。
一方、エリカを追いかけていったイリヤは、校門の前までやって来ていた。
「パパー!」
そう言って向かう先には、僅かな顎髭を蓄えた、上下のスウェットにサンダルという姿の中年男性。
「エリカ、やっぱりここだったか。おや? そちらは…」
「イリヤお姉ちゃんだよ」
「そうか…」
エリカと中年男…エリカの父が会話をし、そしてイリヤに。
「すまないねぇ。娘が世話になったようだ」
「いえ、そんな…。あ、今、門を開けますね」
イリヤは慌てて門を開け、男を迎え入れる。
「いやー、それにしても寒いねえ」
「そんな格好だからだと思いますよ!?」
イリヤのツッコミは、初対面の大人相手でも冴え渡っているようだ。
「あまり家から出ないものだから、外の寒さを忘れていたよ」
「パパったら、ジェントルにあるまじきドジっ子なの!」
(似たもの親子?)
イリヤのその感想も納得である。
「この子は7つでね。本来だったらこの学校に通ってるはずだったんだ。だから時々家を抜け出しては、廃校になったここで遊んでいるらしい」
「そうだったんですか」
なるほど、遅かれ早かれ、出会うべくして出会ったという事である。……と。
(……あ。ルーンの紙、剥がれちゃってる)
門柱に貼った藁半紙の上半分が剥がれ、めくれた状態になっていた。イリヤはそれを貼り直すため、門柱へと近づいていく。
「まったく、いつも言っているだろう。勝手に家を抜け出してはいけないと」
「うー、でもでもっ。どうしてもじぶんの目で見たかったの!」
(……なんの話をしてるんだろ。……ま、いっか)
二人の会話は気になるものの、イリヤはルーンの紙を直すのを優先することにした。
「それで、どうだった?」
「うんとね。ひとりは聞いてたより、ちょっとたよりないかな。もうひとりは、よくわかんないこと話してた。でも二人とも、とってもやさしかったよ!」
「そうか。それは良かったね」
(……あれ。この声)
どくり、とイリヤの胸の鼓動が跳ね上がる。
「それじゃあ、帰ろうか」
(この、声は…)
---この声を良く聞いておきなよ。こいつは、君達の本当の敵だ
ギルが言ったセリフが頭の中に駆け巡った瞬間。
ビイイイイイイイイ…!!
門柱の紙を貼り直したことで響き渡る警報の音。そしてその男は。
「……センスのない警報だねぇ」
ダリウス・エインズワースは言うのだった。
今回のサブタイトル
吾妻ひでお「ななこSOS」から
……字面からすると「ナースエンジェルりりかSOS」の方ですが、誰がなんと言おうと「ななこSOS」です(笑)
今回登場した謎の人物は、あの彼女です。因みにビジュアル設定は、リメイクではなく旧作の方。
次回「第六次聖杯戦争」
見てくんないと、暴れちゃうぞっ!