Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
『…………え……か。……こえ…すか、姉さん!? サファイアです!!』
テレフォンモードとなったルビーから聞こえてきたのは、サファイアの声だった。
『サファイアちゃんからの入電です! 映像も出しましょう!!』
そう言ってルビーは、自身の下部から現れたプロジェクターで壁に映像を投映するが、砂嵐状態で何も映し出されない。
しかしルビーのその行動で気づいたのか、サファイアは言った。
『……! よかった、ざ…繋がった』
『お姉ちゃんですよー。よかった、無事だったんですねー。サファイアちゃんは、今どこに?』
『ざざっわたしは今、敵の工房内にいます』
……!! やっぱりか。
『美遊さまと一緒に捕まり…ざっしたが、美遊さまが隙を見て逃が…ざざっした。
…………する事も出来ず、今…隠れ…』
「ノイズが酷いわね。映像も出ないし」
「工房の結界のせいでしょうか」
クロエの意見にバゼットさんが推測を述べるが、まあ、それが妥当な線だろう。エーデルフェルト邸や円蔵山にかけられていた結界もそれなりのものだったけど、エインズワースのものは空間そのものに影響を及ぼすものの様だったし、むしろ今通じているのが奇跡的なのではなかろうか。
そんな考察を肯定するように、サファイアが言う。
『結界ざっ…弱まっざざざ…通信が……』
そうか。結界が弱まったから、何とか繋げることが出来たってワケか。
……結界が、弱まった? 何だろう。ものすごく嫌な予感がするんだけど。
『ですざっ、気をつけてっ!
結界ざっ弱まったのは、ざざざっが外に出たから…!!』
ぞわり、と。体中の血の気が引き、背筋が凍る。まさか…!
『……エインズワースの当主ざっ!そちらにざざざっ!!』
ビイイイイイイイイ…!!
サファイアが、重要な事を伝えた直後に鳴り響く警報。そして。
がしゃぁん!!
硝子が破壊される音が響く。誰よりも早く反応したバゼットさんが、窓硝子を破って外へと飛び出したのだ。当然あたしとクロエもその後を追った。
「この結界を張った魔術師は君かな?」
外では薄い顎髭を生やした、おそらくはダリウス・エインズワースと思われる男が、バゼットさんに向かって言った。それに答えることなく、バゼットさんは男に向かって駆け出す。
「実用一辺倒も美学のひとつだけど、魔術師ならばもう少し舞台演出を考えてほしいね。
---例えば結界ならば、こうだ」
そう言って男は、1枚のカードを地面に落とし。
「
……え? あ、いや、今感じた疑問は後回しだ。それよりもこれは…!
え、これって一体…!? エリカちゃんのお父さんがカードを使って、気がついたらこの、硝子…ううん、水晶のようなものに周囲を囲まれた空間の中にいた。
「即興の舞台で恐縮だが、君とは一度落ち着いて話をしたかったのでね。本当は、もうひとりご招待したいところなのだが…。
初めまして、だ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンくん。私がエインズワース家の当主、ダリウスだ」
「あなたが…」
そう口には出したけど、本当はもう確信してた。ただ、信じたくはなかっただけ。だってそれはつまり、エリカちゃんもエインズワースの一員だって事だから。
「そう。私が、美遊という生きた聖杯を見つけ、英霊の力の一端を引き出すカードを創りあげ、聖杯を完成させるための儀式…聖杯戦争を興したのだ。ああ、全く。君からすれば私は、倒すべき魔王なのだろうね」
彼の言葉を聞いて、わたしは
だからこそ、わたしはエリカちゃんに尋ねる。
「エリカちゃん。あなたは何で、わたし達のところに来たの? わたし達を騙す気だったのか、それとも…」
「え!? だましてないよ! エリカはたしかめたかっただけだもん! イリヤお姉ちゃんとリナお姉ちゃんが、美遊お姉ちゃんが言ったとおりの人なのか」
ミユが…!? でも、そうか。確かにさっき、「勝手に家を抜け出してはいけない」とか言ってたし、エリカちゃんも「自分の目で見たかった」って答えてたっけ。
「君達の事は美遊から聞いたよ。出会った人、起こった事、
……何? 何なの、この違和感?
「いやいや、全くもって素・晴・ら・しいッ! 並行世界に単身飛ばされ!! 奇っ怪な魔術礼装と契約し!!! 自身が招いたカードの災厄を回収する傍ら、初めての友情を知る!!!
だが、偽りの日常は終わりを告げ、
何を言ってるの、この人? それにこの人のこの言動、まるで舞台演劇みたいな…。
「私のカードを集めてくれてありがとう、イリヤスフィール!! いやいや、返してくれとは言わないよ!! その力、存分に使って我々と…」
「パパ!」
「……何だい、エリカ」
「
やり過ぎ?
「……そうか」
ダリウスはフゥ…と息を吐いて言った。でも、違和感の正体が、何となくだけどわかった。
「……あなたが言ってる事って、確かに嘘じゃないんだと思う。でも、真実全てでもない!」
そう。リナやゼロスさんがよく使う、嘘ではないけど真実全てを語っていない。そういうことなんだ。
「ミユは、エリカちゃんにならまだしも、あなたなんかにわたし達のことを話すわけがない! わたしは詳しくないけど、きっとミユの記憶を知ることが出来る魔術かなんかがあって、それで知ったんでしょ!?」
「……いやはや、中々に想像力が豊かなようだねぇ。しかし、その想像力は侮れない」
やっぱり! わたしはクラスカードを取り出そうとして…。な、なに? 体が重い…!?
「ああ、もうそれほどの時間が過ぎたのか」
え?
「この結界の中は、時間が経つ毎に、身体機能が低下していき、およそ三〇〇秒で、刻が止まったかのように、身体が、動かなくなる。意識は、保ったまま、ね」
な…!
「いやぁ、喋るのも、億劫に、なって、きたよ」
って、あなたたちもですかーーー!?
「べつに、うごけなくっても、へいき、だもん」
どうしてこの子は、ここまで…ッ!
「さすがに…これ以上は…不味いな。……続きは……外で……」
ダリウスがそう言ったその時、それは起きた。
イリヤ達が、灰色の石に似たもので出来た、ドーム状の建物の様な結界に閉じこもってすぐ、バゼットさんが破壊しようと結界を殴り始めたが、いくらルーン魔術を付与した拳といえども、それで打ち破れるほど柔ではないようだ。
「どいてっ、バゼット! 大穴を開けてやるわッ!!」
そう言ってクロエは番えた
「……宝具ね。しかも、極めて高ランクの結界型宝具! カラドボルグの幻想をもってしても破壊できないほどの…!!」
『そんなー! イリヤさーん、無事でいてくださいー!!』
あまりにもの絶望的な状況に、ルビーが本気で心配し始める。
「……なら、あたしがやるしかないわね」
「リナ?」
疑問に思ったのかクロエが声をかけるが、あたしはそれを無視して、結界に歩み寄りながら呪文を唱える。
四界の闇を統べる王
汝の欠片の縁に従い
汝ら
我に更なる力を与えよ
[
凍れる黒き
我が力 我が身となりて
共に滅びの道を歩まん
神々の魂すらも打ち砕き
結界の前で立ち止まり、[力あることば]と共に術を発動させる!
「
両手の中に生み出された虚無の刃を振り下ろすと、結界の表面は音も、手応えも無く、あっさりと切り裂かれ。
ぱきゃあああああん!
澄んだ音と共に砕け、空間に塵となって消えていった。
「まさ、か…、根源接続者…?」
バゼットさんが驚き呟いているが、今は無視。
「リナ!」
「イリヤ、無事!?」
「うん!」
そうか。よかった。
「……美遊の記憶にも無い魔術。ああ、そうか。ベアトリスの宝具を打ち破ったという魔術がそれだね? 異世界からの転生者、稲葉リナくん。美遊から色々と聞いているよ」
美遊から?
「ふざけないで! ミユが敵に、わたし達の情報を教えるわけないでしょっ!!」
クロエが憤ってるけど、あたしも同意見だ。
「どーせあれでしょ? 魔術で口を割らせたとか、記憶を覗き見るだとか、悪役のやる事なんてそんなとこよ」
「……やれやれ。イリヤスフィールくんといいリナくんといい、中々に口さがない物言いだねぇ」
あたしの軽口に、ため息交じりで返すダリウス。そんな彼の態度に苛立ったのか、クロエが攻撃を仕掛けんと飛び出し、それに合わせてバゼットさんも駆け出した。
クロエの剣戟による攻撃に、バゼットさんが振るう拳。しかしそれは、ダリウスの周りに張り巡らされた何かによって弾かれてしまう。いや、弾かれたと言うよりもすり抜けたように見えたが、一体…。
その間にイリヤはルビーと合流し、転身を完了させる。……演出無しなのがちょっと寂しいけど、この状況じゃ文句も言えない。
「[セイバー]
夢幻召喚したイリヤは、ダリウスに向かって横薙ぎに聖剣を振り。
「……非常識じゃないか。子供の前で、こんな
あろうことかダリウスは、その刃を片手で掴み取って受け止めていた。
「
そう発した言葉と共にあたしたちの身体は、大地に押しつけられて身動きが出来なくなる。これは、身体操作でも重力操作でもない別の力。言ってしまえば、発動すればそうなるという、そういった力だ。
「……さて、リナくん。君が使うあの術はどういったものなのかな?」
「……あら、前にベアトリスに説明したと思ったけど? 異界の、全てを統べる王の術だって」
地面に押し付けられた状態で、それでもあたしは軽口で返した。
「ああ、言っていたねぇ。しかし、それにしたってあの破壊力は、人間が扱うには異質す…!?」
どうやら彼は、気がついたようだ。質問をしているその隙に、あたしが小さく
「
[力あることば]を放つと同時に、あたしの…いや、あたし達の身体に電気の様な痺れが一瞬走る。そしてあたしの体は軽くなり。
「転身が解けた!?」
イリヤが驚いている。ってか、あんたはこの術知ってるでしょーが。
「魔力封じの術かっ!」
初めて、ダリウスから余裕が消え失せる。
そう。敵の襲来に備え、あたしは学校の敷地全体をカバーする様に校外の五カ所へ、簡易魔法陣作成用の
因みにこの術、一定時間魔力を封じるが、術の維持にコントロールや魔力は必要としない。だからこそ、自分をも範囲内に含めた術の行使なんて荒技も出来たのだ。
もちろんデメリットとして、敵だけでなくあたし達全員、魔術の行使が出来なくなるわけだが…。
「おおおおおおっ!!」
ダリウスに向かって行ったバゼットさんが、その拳を振るい。
どぐぉっ!!
「かはぁ!?」
今度は防がれることなく、相手の腹にめり込んでいた。
そう。あたしがバゼットさんに耳打ちしたのはこの術に関しての説明と、魔術が封じられた状態での、バゼットさんの素の強さについて。結果は見ての通り。さすがに異常な怪力はないものの、並の格闘家よりは充分に強い。
たたらを踏んで数歩後退したダリウスに、バゼットさんが追い打ちをかけようと一歩踏み出した、その時。
「パパをいじめないでっ!」
エリカがダリウスの前に立って通せんぼをする。さすがにバゼットさんも躊躇ったのか、思わず足を止めてしまう。
「……ありがとう、エリカ」
ダリウスはエリカの頭をなでながら、
「……あなた達の親子愛には大変感服したわ。この間はあたし達を見逃してくれた訳だし、今日のところは見逃してあげる」
「リナ!?」
あたしの、突然の手のひら返しに、イリヤが驚き声をかける。当然それは、ダリウスにとっても同じ事で。
「……リナくん。どういった心境の変化かな?」
「あら、舞台演出としては王道の展開じゃない? ま、あたしとしては、
その発言を聞いたダリウスは、小さく「ほう」と呟いてから言った。
「なるほど。確かにそれは王道だ。それでは、私達は工房へと戻り君たちを待ち構える、と捉えればいいのかな?」
「ええ。それこそ王道ってもんでしょ?」
「その通りだよ、稲葉リナくん」
あたしの意見を聞き、愉しそうに頷きながらダリウスは言う。
しかし、舞台演出とか言ってたからそれに合わせてみたけど、まさかこうも見事に乗ってくるとは思わなかった。
「ああ、歓迎しよう。君達の舞台入りを。
ダリウスはそう告げると、踵を返して校門へと向かい。
「わたしの許へ辿り着くまで、せいぜい踊って魅せろ」
そんな捨て台詞を残して立ち去っていく。
「じゃあね。イリヤお姉ちゃん、リナお姉ちゃん」
そしてエリカも、その後を着いて去っていくのだった。
今回のサブタイトル
作品内用語から
ダリウスはちょっと書くのが難しいですね。台詞回しと言うより、紛れもない真実を語りつつ、嘘ではないけど真実全てを語っていない時もあり、思いっきり嘘つきな事もあります。普通なら人間らしいと言うべきところですが、魔術師的思想に万物流転を加えた、ある意味間桐と遠坂とアインツベルンを足して腐らせた様な存在なので。
次回「OVERLOAD」
見てくんないと、暴れちゃうぞっ!