Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ   作:猿野ただすみ

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Night Walker

≪third person≫

夜の帳が下り。エインズワースに囚われた美遊が、大きな窓から星空を眺めている。すると。

 

「やぁ」

 

その窓が開き、ダリウスが現れた。もっとも既に美遊は、その程度では驚かなくなっていたが。その態度にはダリウスも「つれないなぁ」などと言っているが、果たしてどこまで本気で「つれない」と思っていることか。

 

「……窓に繋げるのはやめてと言ったはず」

「また星を見ていたのかい? 飽きないものだねぇ」

 

美遊の意見を無視し、自分の言いたいことを事を言うダリウス。そして。

 

「……お仕事の時間だ。来い」

 

そう告げられた美遊の顔色が、暗く沈んだ。

 

 

 

 

 

美遊が連れてこられたのは、大きな台座を中心に、七方向に大人の身丈よりも大きな石盤(モノリス)で囲んだ、神殿風の部屋。美遊はその台座に寝かされる。

 

「力を抜きたまえよ、美遊。強行は簡単だが、キミに乱暴はしたくないんだ」

 

美遊の両腕を頭上に持っていった状態で、片手で抑えつけたダリウスが言う。

 

「……放し…て…っ!」

「これは珍しい。いつ以来だい。私に反抗するなんて。

いやはや、困ったものだ。悪い子にはお仕置きしなくちゃならないけど、大切な器に傷などついてはコトだ」

 

そして美遊の耳許に口を寄せ。

 

「ならば、妹の不始末は兄に贖ってもらうしかないか…」

 

ダリウスのそのセリフに、美遊は抵抗を諦めた。

 

「……よし。いい子だ」

 

満足そうに、ダリウスは言う。そして、十数センチほどの棘の生えた蔓の一部の様な物を取り出すと、魔力を通したのかそれが一振りの剣ほどの大きさになり。その先端を美遊の掌に突き刺した。

その痛みに美遊は声を上げ、その血は台座に付けられた溝を流れていく。そしてその血が床にまで達したとき、魔法陣が輝き、何も書かれていなかった石盤の1枚に文字が刻まれていく。

 

「御覧よ、美遊。また一節、()()が刻まれた。これで五節。あと、たったの二節だよ。

よく読んでおきなさい。キミが帰ってきてから今日までの、キミを求めて起きた出来事(エピソード)なんだから」

 

その言葉に視線を石盤へと向け、その中に「Illya」、そして「Lina」という名を見つけ。

 

(……今は、この男に従うしかない。……でも、きっと必ず…)

 

そう胸に誓いながら、美遊は意識を手放した。

 

 

 

 

 

美遊が意識を取り戻したのは、自分にあてがわれた部屋のベッドの上。その隣りには。

 

「あ。おはよう。美遊お姉ちゃん」

「……エリカ」

 

そう。エリカ・エインズワースがいた。

 

「おしごと、おつかれさま! 血をふやすくすりおいとくから、あとでのんでね!」

 

話しかけられた美遊は、辛そうに身を起こす。

 

「だいじょぶ? まだねてる?」

「……平気。……いつもの…事だから…」

「そっか!いつものことだもんね!」

 

心配をかけないよう、強がりを言う。それをなんの疑問も持たずに、エリカは受け入れた。

 

「あっ、そうそう! お姉ちゃんがヒマしないように、いっぱい本もってきたよ!

まじゅつとー。

れんきんとー。

ぶつりとー。

ちがくに、こーこがく! お姉ちゃん、こういうのが好きだったよね!」

 

積み上げた本を両手で抱え、よたよた歩きながらテーブルの上に置く。

 

「……エリカ。……いつも、気にかけてくれて…、ありがとう」

 

美遊のお礼の言葉に、一瞬呆けた顔になり。

 

「ホッ、ホメなくていいよっ! ア、アタマとか、ぜったいナデないでね! わたしが3回ダメって言ったら、ぜったい…」

 

いつもの強がりを言う、そんなエリカの頭を、美遊は優しく撫でた。

 

 

 

 

 

「ねえ、エリカ。イリヤとリナに会ってきたの?」

「うん! ふたりとも、やさしいお姉ちゃんだったよ!」

 

美遊の膝の上に、頭を預けて寝転ぶエリカは言った。

 

「……でも、イリヤお姉ちゃんはちょっとランボー」

「……乱暴?」

「パパを剣でこーげきしたんだよ。ひどいよね!」

 

文句を言うエリカに、少し悲しそうな表情を見せ美遊は言った。

 

「それは、わたしを助け出そうとしてるから」

「……たすけだす? どこから?」

「ここ…エインズワースから」

 

するとエリカは物凄く驚き尋ねる。

 

「お姉ちゃん、またいなくなっちゃうの!?」

 

と。

 

「お姉ちゃんがいなくなったら、エリカ、またひとりぼっち…。

うん! だいじょぶ! エリカはレディだから、ひとりでもぜんぜん…」

 

明らかに無理をしているその強がりに、美遊は思わず抱きしめた。

 

「お姉ちゃん…?」

「……エリカは優しいね。優しくて、強い子…」

 

優しく語りかける美遊。だが、エリカに感じた想いはそれだけではなく。

 

(そして、(いびつ)な子…)

 

歪な()()()()()()()()美遊自身でさえ、そう感じずにはいられなかった。

 

「……エリカはひとりでもだいじょぶだけど、やっぱりお姉ちゃんといっしょがいい」

「……そう」

「お姉ちゃんも、イリヤお姉ちゃんやリナお姉ちゃんといっしょがいい?」

 

その問いかけに、美遊は暫し言い淀むものの。

 

「……そう、だね」

 

自身の素直な気持ちを言った。それを聞いたエリカは、少しの間黙り込み、うん、と呟き頷いた。

 

「エリカ、もうもどるね。もう、ねるじかん」

 

そう言ってぴょん、とベッドから飛び降り、出入り口である降り階段へと駆けてゆき。

 

「それじゃ、おやすみなさい!」

 

エリカは手を振り、階段を降っていった。その様子を見送った美遊は視線を移し、窓の外を見てから呟く。

 

「星が…隠れちゃった」

 

 

 

 

≪リナside≫

いつの間にかの雨音が聞こえる真夜中に、ふと目が覚める。とは言え、前世の趣味の、盗賊いぢめに行くわけではない。そもそも盗賊なんていないし。かといって、トイレに行きたいわけでもない。

では何かと言えば、嫌な予感がしたのだ。虫の知らせと言った方が近いかも知れない。とにかく漠然とした感覚。気配察知などといった高度なものではない、言ってしまえばただの勘だが、こういった時の勘はかなりの確率で当たるのだ。

一体何が、と思ったその瞬間、嫌な予感が膨れ上がる!

あたしは咄嗟にベッドの上で、ごろんと横に転がって床へと落ちる。もちろん痛いが、そんな場合じゃないと足払いをするように蹴りを出した。

すると、何もないはずの空間に、確かに何かにぶつかる感触がして。

 

「ひゃうっ!」

 

幼い子供の声と共に、尻餅をついたエリカの姿が現れた。って!

 

「イリヤ、クロエ、ついでにルビー! 敵襲よっ!!」

 

あたしが叫ぶのと同時に、あたしと敵を挟んだ隣のベッドにいたクロエが、エリカに向かって飛びかかろうとする。

 

「させるか、下種(げす)が」

 

その声と共に、ダリウスの時と同じ様にクロエの手が弾かれ…いや、すり抜けてしまった。

 

「アンジェリカ!」

「……気付かれてしまっては、この布も意味をなさないか」

 

そう言って姿を現したアンジェリカの左手には[身隠しの布]が握られ、そして左腕に抱えられていたのは…!

 

「イリヤッ!?」

『イリヤさんっ!』

 

ビィィィ…という警報の中、クロエとルビーが叫ぶ。しかし、抱えられたイリヤが目を覚ます気配はない。おそらく、魔術か何かで強制的に意識を失わせているんだろう。

とにかく、まず言うべきことは。

 

「あんたら、ギルの[身隠しの布]を着服したわねっ!!」

「ってそこ!?」

『普段わたしに文句言ってるのに、ここでボケますかー!?』

 

そこもここも、重要なことだろう。あと、それこそルビーには言われたくない。

 

「ゴミ捨て場に捨てあったから、リユースしたまでだ」

「いや、アンタもそんな言い訳…って、リナ?」

 

がっくりと項垂れるあたしを見て、クロエはセリフを中断して声をかける。

 

「言い訳? そちらが先に言っていたことだろう?」

「……ああ、そういう事」

『あー、確かに言ってましたねー』

 

ええ、そうよ! 確かにあたしが言い出した事だけどもっ!

と、その時。

 

がらり!

 

「……でも、僕の財を勝手に使われるのは、やっぱり気に障るんだけどなぁ」

「!!」

「ギル!」

 

扉を開けて現れたギル。アンジェリカはエリカの前に左手を出し、庇う仕草をする。

 

「ちょっとギル、遅いじゃないの! おかげであたしは、いらない精神攻撃を受ける羽目になったんだからねっ!」

「いやぁ、それはリナさんの自業自得じゃないかなぁ」

「自業自得…って、それじゃああたし達の会話、最初っから聞いてたわねっ」

「おっと。これは失言だったかな?」

 

そう言って笑顔を浮かべながら、頭を掻く仕草をするギル。

 

「……? 貴様ら、一体…!? エリカさま!」

「うゆっ!?」

 

ぎゃしゃああん!!

 

突如エリカを左腕で抱きかかえたアンジェリカは、窓硝子を突き破って外へと飛び出した。

 

「ちっ! バレたか」

「アンジェリカも中々いい勘をしてるね」

『リナさん? ギルさん?』

「え? それってどういう…」

 

あたしとギルとの会話に、ルビーとクロエが疑問を口にするが。

 

どぐおぉっ!!

 

表から聞こえた音に、クロエが窓から顔を出す。

 

「な、バゼット!」

「そういう事だよ」

「ギルが現れたときバゼットさんの姿が無かったから、二手に分かれたんだと思ったのよ。だから時間稼ぎをしようと思ったってワケ」

 

因みに[身隠しの布]云々も、ギル達が来るまでの時間稼ぎである。思わぬブーメランを食らったけど。

 

「……って、説明してる場合じゃないわね。行くわよ、クロエ! ルビー! ギル!」

「えー、雨に濡れるのは嫌だなぁ」

 

……この際、ギルは無視しよう。あたしとクロエにルビーは窓から飛び出し、バゼットさんと合流する。

あたし達とアンジェリカ達の間の地面が一カ所、大きく抉れているのは、おそらくバゼットさんが殴りつけたためだろう。先程の音の正体もコレでしょうね。

 

「アンジェリカって言ったわね? イリヤ(いもうと)は返してもらうわよ!」

 

戦闘用のコスチュームに切り替え、干将・莫耶を手にしたクロエがアンジェリカに斬りかかる。しかしその斬撃は、またもや対象をすり抜けてしまった。クロエは反撃を警戒して、すぐに間合いの外へと飛び退いた。そのタイミングで。

 

炸裂陣(ディル・ブランド)!」

 

ずごおおお!!

 

あたしが術を発動する。アレンジをした術は、アンジェリカ達の足許を中心に地面が吹き上がるようにした…のだけど。術が収まった後には、傷ひとつないアンジェリカ達が平然と立っていた。

 

「……どうやら彼女の捕獲は無理みたいですね」

 

彼女…って、あたしを見てる? そういやアンジェリカ達、クロエは無視してあたしのベッドの前に来てたけど、ひょっとしてあたしも捕まえる気だった!?

 

「うゅ。しかたないから、かえろ?」

「はい。エリカさま」

「待ちなさい! 簡単に逃がすわ、け…!?」

 

クロエのセリフが途中で途切れる。しかしそれも、仕方がない。アンジェリカ達の後ろには、大人がそのまま通り抜けられるような範囲で、どこかの部屋が広がっていたのだから。これは、どこかと空間を繋げた、のか?

アンジェリカはイリヤを抱えたまま、エリカと共にその境界を越えて部屋へと入り。その空間は消えて、ただの校庭へと戻る。当然、アンジェリカ達の姿はここにはない。

 

「なん…なのよ」

 

クロエが呟く。あたしも同じ想いだが、あまりのことに言葉も出ない。するとバゼットさんが、ぽつりと言う。

 

「まさか…。置換魔術(フラッシュ・エア)…?」

 

……置換魔術(フラッシュ・エア)

 

『まさか! あり得ません!』

「そうよ! 攻撃を防ぐだけでも異常なのに、人間が移動できる規模の空間置換なんて…!!」

「ですがクロエ、貴女が使う投影魔術もまた、本来ではあり得ないではないですか」

 

……クロエの投影魔術があり得ない?

 

「ちょっと。あたしには置換魔術も、クロエの投影魔術の異常さも、全然わかんないんだけど?」

『「「……あ」」』

 

置いてけ堀のあたしに気付いた三人は、短く言葉を発した。と、そのタイミングで。

 

「ねえ、お姉さん達。そんな場所にいないで中に入ったら? そんな、雨で濡れ鼠状態じゃ風邪ひいちゃうよ?」

 

部屋の中から声をかけるギル。うみゅ。確かにこのままってワケにはいかないわね。

 

「そうね。取り敢えずお風呂で体を温めてから、服を乾かしつつ、その辺の事情やイリヤの奪還について話し合いましょうか」

 

あたしの提案に、三人は頷いた。クロエとルビーは、逸る気持ちを押し殺して。

 

 

 

 

 

風呂上がりにストーブを焚いた教室で、先程の事情を聞いているあたし。保健室はアンジェリカが窓硝子を割ったせいで外気が入り込むので、教室へと移動したのだ。

なお、衣類は乾かし中だが、あたし達はギルが出してくれたバスタオルを身体に巻いている。素っ裸ということはないので、変な想像はしないよーに。

 

「……要するに置換魔術ってのは、物質、空間、精神、概念にかかわらず、物事を他の何かに置き換える魔術って事ね?」

『そういう事です』

 

聞いてきた説明を要約して聞き返すと、クロエ、ルビー、バゼットさんの三人は深く頷いた。

 

「しかし本来、どうやっても劣化必須の、下位互換しか行えない魔術です。ですがエインズワースのものは…」

 

なるほど。ようやくルビーの、「あり得ない」の意味が理解できた。しかし大きな謎の代わりに、ひとつの謎は解けた。

 

「つまりエインズワースは、置換魔術を応用したのね。クラスカードの作製に!」

『「「!?」」』

 

そう。使用者が一時的に英霊となる…言い換えれば、一時的に英霊に置換していると言えるだろう。

 

『……確かに夢幻召喚や限定展開は、一部置換されていると考えれば辻褄は合いますねー。それにしたって異常ですけど』

 

……まあ、異常な精度の置換魔術が行えるカラクリまではわからんけど。

 

「そうね。置換魔術についてはこのくらいか。じゃあ次に、クロエの投影魔術についてね。……とは言え、置換魔術の話を聞いて何となく予想はついたけど。

もしかして本来の投影魔術って、宝具を抜きにしても、こんなに自由に複製できるもんじゃないって事?」

 

さすがに宝具の複製が異常なのはわかるが、バゼットさんのニュアンスは、それ以外の含みもあった気がするのだ。

 

『リナさん。そもそもの認識にズレがありますよ? 投影魔術は本来、鏡像を形にする魔術です。これは[強化]や[変化]の上位に価し、大量の魔力を消費して複製されます。しかしその複製品は[現実には存在しない物]であり、世界の修正力によって短時間で消滅してしまうんですよ。

ですがクロさんのものは、さほど魔力を使わずに宝具クラスのものまで投影し、なおかつ破損か投影破棄でもしない限り、半永久的に存在し続けるもの。魔術の常識を覆すほど異常な魔術なんですよー』

「な、なるほど。確かに冷静に考えてみりゃ、かなり異常な魔術ね」

 

クロエが普段からポンポン使ってるせいで、感覚が麻痺してたようだ。

 

「……ま、わたしのって言うより、アーチャーの英霊の、って言った方がいいんだけどね」

 

ああ、そうだった。クロエの投影は正しくは、英霊エミヤの投影魔術なのだ。

しかしそう考えると、至ったかも知れない可能性の兄の魔術を、義理とはいえ妹が使っているということになるのだが、これはこれで中々に興味深くはある。もちろん、口には出さないけど。

 

「……りょーかい。どっちの魔術にしろ、何かカラクリがあるんでしょーけど、どうせ考えたってわかりっこないし、この話は一旦終了ね。で、次はイリヤ奪還作戦だけど…」

 

と、あたしが言ったところでギルが口を挟む。

 

「お姉さん達、焦る気持ちもわかるけど、一旦眠った方がいいんじゃないかな? 少しでも睡眠をとらないと、いざって時に判断を誤るかも知れないよ?」

 

う…。確かにギルの言うことは正しい。睡眠不足では、思考が正常に働いてはくれないだろう。生死に関わる戦いにおいて、これはとても重要なことだ。

 

「……そうね。アンジェリカは、イリヤを生かして連れ帰った。ということは、少なくともすぐに危険が及ぶ可能性は低いって事よ。なら、少しくらい時間をおいてでも、こちらも万全の体制で挑むべきだわ」

「確かに一理ありますね」

「……仕方、ないわね」

『ここは、イリヤさんの強運に賭けましょう』

 

どうやらみんなも納得してくれたようだ。

こうしてあたし達は不安を押し込み、ひと時の休息をとるのだった。




今回のサブタイトル
TVアニメ「Night Walker -真夜中の探偵-」から
因みに、初のアダルトゲーム原作のTVアニメらしいです(笑)。なお、Night Walkerの意味は夜に徘徊する人、転じて売春婦や強盗等を指すスラングで、今回は後者の意味合いですね。

エリカのイリヤへの評価が、「ウソツキ」から「ランボー」に変わりました。田中がいないので諭すシーンが無くなり、評価が変化した次第です。まあ、どっちみちこちらのイリヤは、リナの影響で[仲間を巻き込む攻撃]にも馴れてますから、同じ諭し方したかは謎ですが。

リナは【UBW】の途中までを見てますが、士郎の投影魔術の異常さについてはスキップされてるので、クロエの投影魔術の異常さにも気付いてませんでした。

次回「その縫いぐるみ(テディベアー)は動き出す」
見てくんないと、暴れちゃうぞっ!
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