Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ   作:猿野ただすみ

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久しぶりの更新です。やっとモチベーション回復した。
そして、いつもより長くなってしまった(8500字超え)。


その縫いぐるみ(テディベアー)は動き出す

≪イリヤside≫

皆さん、こんにちは。イリヤことイリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。

わたしは今、大変な状況に直面してます。ドールズのひとり、ベアトリスによって、命の危機に瀕してるのです。

……なんて、半ば現実逃避なんかしてる場合じゃないよおおお! あうう、どうして、どうしてこうなったーーーッ!?

 

 

~~~回想タイム~~~

 

 

『……。………』

 

最初は、何を言ってるのかわからなかった。頭の中はモヤがかかった感じで、この時のわたしは、まともに思考が出来てなかったんだと思う。

 

「せんのーおわった?」

「まだです。妙に入りが鈍い…」

 

だからこの会話も、その時のわたしには理解出来てなかった。

 

「……Into oblivion(忘却せよ)、……Into oblivion(忘却せよ)

 

再び紡がれる言葉に、わたしの意識が、記憶が、深いところに沈んでいきそうになる。だけど。

 

---生まれ変わるわ

 

わたしの…クロの記憶が脳裏に浮かぶ。赤ん坊だったわたし(クロ)に、ママが言った言葉。これは、あの時とおんなじ術なんだって、何となく理解した。

だからわたしは抗った。この記憶は消させない。絶対に失っちゃいけないものだ、って。わたしは心の奥にあった隙間、……多分クロが存在してた部分に入り込んで、深く、深く閉じこもって…。

 

 

 

 

 

そして次に気がついたときには、わたしはファンシーな熊の縫いぐるみになってました。いや、気がついた当初は、何が起きたか理解出来てなかったけど。

その時のわたしの目の前には、エリカちゃんとアンジェリカ、そして虚ろな瞳のわたしがいた。アンジェリカが言うには、意識を縫いぐるみに、身体には擬似人格を入れたらしい。わたしは色々と突っ込みたかったけど、当然縫いぐるみなので、身体は動かせないし、声も出なかった。

 

「あのね、イリヤお姉ちゃん。きゅうにつれてきちゃってごめんね。パパがねむってるあいだにすませたかったの」

 

そう言ってエリカちゃんが説明したことによると、ミユがわたしとリナに会いたがっていたから、わたしをさらってきたらしい。リナは上手く難を逃れたみたいだけど。でもこのままでは、きっとダリウスが許さないから、わたしを無力化したということだった。その結果が、ファンシーテディベアである。

 

「よかったね! これで美遊お姉ちゃんとイリヤお姉ちゃんは、ずっといっしょにいられるよ!」

 

エリカちゃんがそう言った瞬間、わたしは背筋が寒くなった気がした。この子は本気でそう言ってる。悪意の欠片なんて微塵も無く。この子は、とても歪なんだ…って。

 

「ねえ、パパはまだねてるー?」

「昨夜は0時頃に休まれたので、お目覚めになるのは昼頃かと」

「じゃあ、いまのうちに美遊お姉ちゃんとイリヤお姉ちゃんを会わせちゃおー」

 

そんな会話をしているとこまではよかった。いや、よくないけど、この二人の当初からの目的なんだから、ある意味予想どおりの展開だった。でも、この後が問題だったのだ。

 

「どちらを会わせるのですか? イリヤスフィールの意識と身体は分かれています」

 

アンジェリカのそのセリフが、わたしのさらなる悲劇への入り口だった。エリカちゃんはわたし(意識)と身体、どっちがイリヤスフィールかで悩んでいた。悩んでくれた。でも。

 

「中身に意味などありません。重要なのは器です」

 

アンジェリカがそんなことを言ったせいで、身体の方が連れてかれることになったのでした。しかもエリカちゃんからは、カラダお姉ちゃんとか名付けられるし、身体の擬似人格は認証しちゃうし、アンジェリカからはカラダスフィールとか呼ばれるし! 挙げ句の果てに、わたしはイシキお姉ちゃんとか言われて、部屋に置いてけ堀にされてしまった。

身動きとれないわたしは、諦めそうになった。だけどその時、思い出したのだ。

 

---そんなコチコチの頭では魔法少女は務まりませんよー?

 

---プロならもーすこし柔軟に考えなきゃね?

 

ルビーとリナが、空を飛びたがっていたミユに言った言葉。そしてわたしが、あの頃のミユ同様常識的に決めつけて、どうにもならないって思い込んでいたことに気がついた。

ルビーはこうも言ってた。『人が想像できることは全て、起こりうる魔法事象』って。そしてわたしの想像力は、現実(リアル)に打ち勝った! 現実(リアル)もやれば出来るじゃないか、なんて落とし神みたいな事思っても、この状況なら許されると思う。

そもそも考えてみたら、空間の狭間から見たポコタやナーマさんだって人形や鎧に魂を移し替えた状態で動いてたんだから、これくらい出来たっておかしくない。

そしてわたしは、部屋から抜け出して廊下を駆け出した。……けど。

 

ぎゅむ

 

と、踏みつけられた感触。

 

「あん? なんだぁ?」

 

それはベアトリスでした。その後グリグリされたり蹴り上げられたりした挙句、何故だかお持ち帰りされて。

 

「たっだいまぁー! ジュリアン様ぁ〜ん♡」

 

そんな甘い声を出すベアトリスが、わたしを入口付近の棚の上に放り投げた。そしてわたしは見た。

その部屋には、ジュリアンとかいう男の人のポスターやらなんやらが飾り尽くされていた。

 

「部屋開けちゃってゴメンね! 寂しかった? ねえ、寂しかった?」

 

わたしは多分、見てはいけないものを見てるんだろう。そんな思いの中、ベアトリスはテンションMAXになったかと思った次の瞬間。

 

「……世界なんて滅びちゃえばいいのに」

 

急にテンションがだだ下がり。

 

「ジュリアン様はわたしのことを…」

 

そう言って。

 

「好き」

 

ぶちっ

 

「嫌い」

 

ぶちっ

 

「好き」

 

ぶちっ…

 

あろうことか、部屋に飾ってある縫いぐるみの首を、端から順にもぎ始めたのでした。そして…。

 

 

〜〜〜回想タイム終了〜〜〜

 

 

「嫌…」

 

ぎゅむうううう

 

に゛ゃああああ! く、首が、首がもげるうううううう!?

 

「き、ら…うがああああっ!!」

 

ぬわあああっ!? 投げ飛ばされた!?

 

「フッざけんなよっ!! お前がいなけりゃ、す、す、好き…で終わってたのにっ! お前なんか拾ってくるんじゃなかったっ!!」

 

なんて理不尽!?

 

「アッタマきた! お前は占い関係無しにシメる!」

 

ええーーーっ!?

 

「捻り飛べ、元素の塵まで…!」

 

こんなくだらない理由で、決めゼリフ吐かないでえええっ!!

ああっ、ダメッ! これ以上は本当に首が…!

 

「失礼しまス」

 

いきなり開かれたドアにぶち当たったベアトリスは、わたしを手放した。うう、危うくこんな姿で命を落とすとこだったよぅ。

 

「てんめェ…!」

「おかしいでス。ドアが開きませン」

 

膝をついたベアトリスが障害物になって、向こう側からは扉が開かないことを疑問に思う声。……って、あれ?

 

「おかしいでス。おかしいでス…」

「どいてくださイ。ここはワタクシガ…」

 

この声って、まさか…。

 

「全力でいきまス」

 

ドゴォッ!という激しい音で扉は開き、ベアトリスはふっ飛ばされて。入口に並んで立っていたのは、リンさんとルヴィアさん。

 

「開きましタ」

「建て付けの改善を提案いたしまス」

 

でも、少し様子が…? 喋り方も、なんか抑揚がないし。……あっ、まさか…!? いやでも、今はまだ思いつき程度で確証はない。とにかく今は情報だ。By落とし神。

とは言っても、どうすればいいかなんて思いつきもしない。わたしにはリナやクロの様な頭の回転の早さはないし、落とし神の様な蓄積されたデータもない。一体、どうすれバイン…え?

 

「ゴミは廃棄しまス」

 

ちょ、リンさん!? ゴミ袋に放り込まないでッ!? わたし、ゴミじゃないよおおおお!?

 

「いい加減にしろっ! あたしの友達を弄びやがって! 特にそいつは、まだひともぎもしてねぇのにっ!」

 

いや、お友達の首をもがないでくださいっ!

 

「くそっ、これだから(から)脳はイヤなんだ。いいか。縫いぐるみは捨てんじゃねェ。ちゃんと直して…」

「一番の粗大ゴミでス」

「ちぎって処分しまス」

「ジュリアン様あああああっ!!」

 

ジュリアン様は相変わらずわかんないけど、その顔写真が貼られた人形が引きちぎられてゴミ袋に放り込まれてく。うん。ベアトリスは泣いてもいいかもしんない。……とか思ったら。

 

「テメェら、絶対に許さねェッ!!」

 

前に見た様に、腕に[バーサーカー]のカードを限定展開(インクルード)してリンさんとルヴィアさんを殴りつけようと! ……あれ? 当たる寸前で攻撃を止めた?

 

「……ダメだ。()()()()()()()()()

 

……戻る?え、 何? なんかわかりそうな気が…。

 

「もう出ていけ! 縫いぐるみはエリカの部屋にぶち込んどきゃ、アンジェリカが直してくれっから!!」

 

そのタイミングで、怒ったベアトリスに二人は追い出された。よし! 考えはまとまらなかったけど、おかげでわたしも部屋から脱出できたっ! さて、後は。

リンさーん! ルヴィアさーん!

わたしは立ち上がって大きく手を振る。と?

 

「これは…縫いぐるみではありませン」

「動くゴミでス」

 

動くゴミ!? さすがにそれは、あんまりだっ! ううっ、せめて会話できれば。……いけない。また諦めるところだった。『人が想像できることは全て、起こりうる魔法事象』だ。縫いぐるみの身体を動かすことができたわたしなら、喋ることだってきっとできるはず! わたしは声を出そうと集中して。

 

「リンさん! ルヴィアさん! わたし、イリヤだよっ!!」

 

やったっ! 本当に喋れた! わたしすごい!!

……って、それどころじゃなくって。もしわたしの悪い予想が当たってたら…。

 

「喋るゴミでス」

 

動くゴミから喋るゴミになっただけ!?

……でも、これで確信が持てた。やっぱり二人はわたしの身体と同じで、擬似人格が入った状態なんだ! それなら! ……それなら、どうすればいいんだろう? ……いや待って。ベアトリスは、「殴ったら戻っちまう」って言ってた。もしかして、強い衝撃を与えたら二人の意識が身体に戻るってこと?

 

むんず

 

ふぇ?

 

「困りましタ。喋るゴミの分別がわかりませン。可燃・不燃・資源、どれでしょウ」

「大体のものは燃えまス」

「でも、燃え残ったら怒られまス」

 

え、え~と。わたし、そもそもゴミじゃあ…。

 

「わかりましタ。確実に燃えるよう、バラバラに分解して廃棄しまス」

 

……。うん。ここはわたしの流儀で。

 

「あ」

 

つかみ上げているリンさんの手を振りほどくと、わたしは脱兎のごとく逃げ出したのでした。

 

 

 

 

 

に、逃げ切った。わたしはお屋敷の天井裏で荒い息を整えてる。お屋敷にも天井裏があるんだとか、縫いぐるみなのに息が切れるんだとか、どうでもいいことが頭の中を巡ってるけど。

 

ガサ…ガサガサ…

 

「ひえっ!?」

 

聞こえた音に驚いて振り返る。と。

 

「ネ、ネズミ?」

 

そこには数匹のネズミがいた。ハァ、びっくりした。これだけ大きいお屋敷なら、そりゃネズミがいてもおかしくないけどさ。

……あれ、なんだろう? 何かを忘れてるような…。

 

ガサガサ…

 

うわっ!? また!? ちょっと、ネズミ多くな…いっ!?

 

「いやあああああっ!? ネズミの山ーーー!?」

 

何コレ、めっちゃキモいっ! ここはネズミの王国、ネズミーランドなのっ!?

 

『く…。とうとう見つかってしまいましたか』

「喋ったーーーッ!?」

『潜伏ももはやこれまで。ですが簡単に諦めるわけには参りません』

 

……あれ? この声って。……あっ、そうだ! 思い出したっ!

 

『散開ッ!!』

「サファイア!」

『……え? もしやイリヤさまですか? 何故その様なお姿に…?

いえ、その前に挨拶を済ませていませんでした。お久しぶりです、イリヤさま。再開できたこと、とても嬉しく思います』

「そ、その前に、このネズミさん達を止めてえええッ!!」

 

わたしは今、ネズミさん達に、襲われています。

 

 

 

 

 

サファイアがネズミさん達を撤収させて。

 

「……そうだった。サファイアが潜伏してるって、ルビーに連絡があったんだった」

 

わたしはエリカちゃん、ダリウスと校門のところに居て、この情報は後から聞いただけだから、思い出すのに時間がかかっちゃったんだ。

 

『しかしまさか、イリヤさままで縫いぐるみにされてしまうとは…』

 

!!

 

「て事は、やっぱりリンさん達も…!」

『お二人に会われたのですか。身体はハウスメイドとしてこき使われているようですが、全くもって用をなしておらず、哀れで無様な姿は見るに忍びありません』

 

……やっぱりルビーの妹なんだなー。

 

「屋根裏だ。行け」

「わかりましタ」

 

なぁっ!? ここがバレた!?

 

『イリヤさま。わたしを手に取ってください』

「え?」

『カレイドステッキは単体では無力。ですが…』

 

……そうだ。ひとりじゃ戦えなくても二人なら!

 

『コンパクトフルオープン!!

鏡界回廊最大展開!!』

 

いつもとは違うエフェクトがかかり、そして。

 

『プリズマ☆イリヤ、サファイアVersion! 爆!! 装!! です』

 

わたしは、ミユの転身した衣装に似たコスチュームを身に纏ってた。……熊の縫いぐるみのままで。

うん。不安は残るけど…って言うか不安しかないけど、愚痴はこぼさずにいこう。「たとえ勝てる確率が1%しかなくても、後ろ向きな気持ちで戦ったらその可能性も0になる」…。空間の狭間で見たリナが言ってたことだ。そしてきっと、わたしの親友のリナも同じ考えのハズ。なら、親友のわたしも負けていられないから!

 

 

 

 

 

わたしは苦戦を強いられていた。

まず、状況の整理。サファイアの説明で、リンさんとルヴィアさんもやっぱり縫いぐるみに意識を移されて、身体の方には擬似人格が入れられている。そしてわたしの予想どおり、衝撃を与えれば身体に元の意識が戻る。

ところが魔力弾(フォイア)を放って判明したのが、わたしの魔力の著しい低下。サファイア曰く、魔術回路が1本、辛うじて通っているような、ということ。それでも、その威力程度でも元に戻るはずなのに、何故か戻らない。おまけにリンさんとルヴィアさんは、わたしを分解しようとハサミを持って襲ってくるし。

とにかくそんなわけで、今は打開策が見当たらずに逃げ回っているのでした。

 

「……ねえ、サファイア。意識を入れ替えた後に魔術でどうにかした、ってことはないの?」

『……え?』

「いやほら、物語とかでよく、魔物を封印した後に封印そのものを安定させるため、祠を建てたりとかってあるじゃない」

『……なるほど。確かに、術を安定させるために、別の術式で楔を打っている可能性は充分に考えられます』

 

おお、ものは試しでも言ってみるもんだ。

 

『しかしイリヤさまは魔術師ではないのに、よく思いつかれましたね』

「フ…。アニメではよくあることだ」

『……』

 

落とし神の様に言ってみたら、サファイアに引かれた。別にいいけど。

……なんて悠長に話してたら。

 

じょきり

 

「のわぁっ!?。髪の毛切られたああああっ!?」

 

ちょっぴりだけど。

 

『お気を付けください、イリヤさま。仮の身体とはいえ、分解されれば同調した意識にも影響が出ます。おそらく意識は拡散し、消滅することでしょう』

「そんな話、聞きたくなかったッ!!」

 

いや、そんな気はしてたけどッ!! ええい、こうなったら!

 

斬撃(シュナイデン)!」

 

魔力斬撃で応戦すると、ルヴィアさんの服が破れた!? なんかすごい既視感が! あ、いや、ルヴィアさん大丈夫かな?

 

『……!! イリヤさま! 胸の下!』

 

え? ……あ! もしかして!?

 

「……敵対行為を確認。喋るゴミを敵性個体と認識しましタ」

 

はい?

 

戦術(タクティクス)モードに移行」

可及的速やかに(ASAP)

「「排除しまス(Destroy)」」

『カード!? まさか、このお二人にまで…!』

「エインズワースは何枚カードを持ってるの!?」

 

……って、待って。よく見るとカードの図柄がおかしくない? 図柄の一部が掠れて…?

ううん! 今はとにかく先制攻撃を!

 

斬撃(シュナイデン)!」

 

再び斬撃を飛ばした、その直後。

 

()()()()()()()()()限定展開(インクルード)。無名・盾」

 

なっ!? 放った斬撃が、ルヴィアさんが発動させた黒いモヤの盾に防がれた。そしてモヤと共にカードも消えてしまう。

 

『宝具…? いえ、しかし、名前の無い宝具など…』

 

やっぱり、何かがおかしい。ただ推測できるのは、多分使い捨てのカードだって事だ。こうしたカードの違いに気づけたのも、リナのカードを見てたおかげだろう。

 

限定展開(インクルード)。無名・剣」

 

って、それどころじゃなかったっ! リンさんが発動させた黒い剣! ぱっと見はリーチの長い神滅斬(ラグナ・ブレード)ってカンジだ。さすがにそこまでの威力は無いだろーけど、当たって平気だとはとても思えない!

わたしは慌てて避けて。剣は盛大に天井裏を破壊して、わたしは落下する。その部屋は…?

 

「ふえっ!? ひょっとして、イシキお姉ちゃん?」

 

え? この声はエリカちゃ…んんん!? わ、わたしの身体、真っ裸ああああっ!?

 

『これはまた、センシティブなシチュエーションです』

「れーせーに言わないでえええっ!! エ、エリカちゃん! わたしの身体で一体何を!?」

「わたしはカラダお姉ちゃんをきがえさせようとおもっただけだもん。でも、ドレスのぬがしかたがわからなかったから…」

「ハサミを切りましタ」

 

Oh! セレブリティ!

 

『その言い間違いはわたしの専売特許です!』

 

いや、サファイアが何に怒ってんのかがわかんないんだけど。

わたし達がそんな会話を交わしていると、リンさんとルヴィアさんが天井裏から飛び降りて着地した。

 

「敵、再捕捉」

 

うう、マズい! とにかくここは。

わたしは自分の身体へ向くと突進して。

 

「牙突ーーーッ!!」

 

サファイアを片手で突き出し、胸の下、みぞおちの少し上にある(しるし)へと叩きつけた。瞬間、意識がぶれて。

 

「やっぱり、こういうことだったんだね」

 

自分の身体に戻ってすぐに転身したわたしは、そう言った。

直前に封印について話してたことや、以前バゼットさんと戦ったときに痛覚共有の(いん)に気づいたことから、簡単な指示だけで気づくだろうって思ったんだろう、サファイアが示してくれた、胸の下の小さな印。

そしてベアトリスが言っていた「殴ったら戻っちまう」や、サファイアが言ったダメージを与えれば元に戻るという話。これらを総合すれば、あの印にダメージを与えれば元に戻れるって事。

 

「敵性体、沈黙」

「標的を見失いましタ」

 

……ベアトリスが(カラ)脳って言うのもわかる気がする。でも、これでひとまずは安心…。

 

「まさか、置換の基印に気づいていたとは」

 

!!

 

「ア、アンジェリカ!」

 

扉からアンジェリカが現れて言った。

 

「……貴様には利用価値があったのだがな」

「利用価値…?」

 

わたしの疑問に、特になんの感情も見せずにアンジェリカは答える。

 

「ひとつは美遊さまの精神安定役としての人形。もうひとつはエリカさまの愛玩役としての縫いぐるみ。だが既に、貴様は本来の器へと戻ってしまった」

「あなた達は、本当に人を道具としてしか見てないんだね!」

 

わたしが想ったままのことを言うと、アンジェリカはやっぱり無感情のまま言った。

 

「目的を果たすための存在を道具と言う。人のみを例外とする意味はない。

お前の目的はなんだ。美遊さまを連れ出すことか? お前はそのためにカードを使ったな? 我々という敵の道具を使った。()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

エインズワースもまた、ある悲願のために動いている。我々とお前で何が違うというのだ」

 

無感情のハズなのに、その言葉はとても重くて。

 

「……そう、だね。わたしも英霊の力を使ったよ」

『イリヤさま!?』

 

わたしの発言にサファイアは驚き、アンジェリカは黙ってわたしを見る。

 

「でも! だけど、あなた達とは違う!」

 

それでもわたしは言い返した。

 

「……何?」

「結局あなた達は、そこでお終い。あなた達はきっと、キャスターが受けた呪いやランサーが自らの誓いに殉じたこと、ライダーが姉妹(きょうだい)を大切にしながらも手にかけてしまった悲しみ…。それにセイバーの、王として国や民を守れなかった苦しみ。そういったことに、なんの想いも抱かないんでしょ?」

「それに何の問題がある」

 

やっぱり、アンジェリカには…。

 

「だからあなた達は、ミユの気持ちがわからないんだ」

「何だと?」

「ミユが会いたがったのは[身体]でも[意識]でも、記憶を消されたわたしでもなくて、[イリヤスフィール・フォン・アインツベルン]。わたしがわたしでなくちゃ意味がない。その証拠に、身体のわたしをミユに会わせに行ったのに、そんなに時間が経ってないのにエリカちゃんの部屋に戻ってきてる。きっとミユは喜ばなかったんだよね?」

「うゆぅ…」

 

わたしの鋭い推理に、エリカちゃんは落ち込んだ表情でつぶやいた。……いや、実際は身体だけ連れて行かれたときに、ミユは絶対喜ばないだろうなって思ってたことが確信に変わっただけなんだけど。

 

「……多分、あなた達が言ってることは間違いじゃないんだと思う。でも、想いを切り捨てて機械の歯車のように扱うあなた達に、ミユを預けたままには出来ない! ミユは必ず助け出す!!」

「……少し教育が必要か」

 

わたしがその想いをぶつけると、アンジェリカはそうつぶやいて一歩を踏み出し。

 

リンゴーン…リンゴーン…

 

突然、チャペルの鐘の音が響き渡る。

 

「侵入者だと…?」

 

侵入者? ……まさかみんなが?

アンジェリカはこめかみの辺りに手を添える。

 

「……ソウイチロウが動いたか」

 

念話? というかソウイチロウって、葛木宗一郎(クズキソウイチロウ)…アサシンのカード使いだよね? って事はリナ!?

 

「ネズミは奴に任せるとしよう」

 

そう言ってアンジェリカはこっちに視線を向ける。わたしはルビー…じゃなくてサファイアを構え直したのでした。

 




今回のサブタイトル
福田晋一「その着せ替え人形(ビスクドール)は恋をする」から



イリヤ「これくらい出来たっておかしくない」←いや、おかしい。

イリヤ「喋ることだってきっとできるはず!」←絶対におかしい!

まあ、イリヤの頭は(夢が詰め込めるという意味で)空っぽだから、それがいい方向に働いてるんでしょう。



カラダ「ハサミを切りましタ」

実は推敲時、「ハサミが切りましタ」と間違えて入力してたのに気づき直そうと思ったところ、【月姫(PC版)】の翡翠ちゃんネタを思い出した次第です。その際により近く「が」を「を」に変えました。
因みにサファイア役の前任者、松来さんも後任者、かかずさんも、どちらも翡翠役でした(かかずさんはTVアニメ版、松来さんは格ゲー【MELTY BLOOD】含む多数)。【月姫(リメイク版)】はまた別の方ですが。



イリヤ「ミユが会いたがったのは[身体]でも[意識]でも、記憶を消されたわたしでもなくて、[イリヤスフィール・フォン・アインツベルン]。わたしがわたしでなくちゃ意味がない」

多分stay nightイリヤじゃ出てこない発想。ただし、身体だけ、意識だけの状態を蔑ろにしているのではなく、「美遊がイリヤをイリヤとして会いたい」事を説いていると思ってください。



取り敢えず原作と同じ流れですが、イリヤが若干賢くなってます。これはリナに鍛えられたことと、この作品のイリヤが落とし神をリスペクトしてるのが原因です。

次回「戦闘員、加勢します!」
見てくんないと、暴れちゃうぞっ!
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