Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ   作:猿野ただすみ

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今回も、前回に次ぐ長さになってしまった。


戦闘員、加勢します!

≪リナside≫

あ、あぶねー。危うく葛木に首を掻かれるところだった。

 

 

 

あたしは単独、エインズワースの居城へと乗り込んだ。方法としては上空から自然落下しながら神滅斬を発動、置換魔術の結界を突き抜けた瞬間に術を解除し、すぐに翔封界を発動して敷地内に着地した。要は伽藍の堂の結界を抜けた方法の応用である。

とはいえ、神滅斬解除から改めての詠唱の後に翔封界の発動だ。こんな綱渡り、めっちゃ心臓に悪い。もう二度と、この手は使うまいと心に誓ったりもしたが。

だが事態は、あたしに物思いに耽る時間さえ与えてくれない。早速、アサシン(ズーマ)を夢幻召喚した葛木が現れたのだ。

あたしは葛木の不意打ちを辛うじて躱し、セイバー(ガウリイ)のカードを限定展開する。それを葛木目がけて上から振り下ろすが、葛木は紙一重で躱してあたしに向かって踏み込もうと…。

 

「ブレイク!」

「!?」

 

した瞬間、光の刃を炸裂させた。

[光の剣]の刃は撃ち出すことが出来る。そしてオリジナルである[烈光の剣(ゴルンノヴァ)]は、魔王(ダークスター)が創り出した魔族に準ずる武器。冥王(ヘルマスター)が干渉したときも、黒い触手のようなものが飛び出したりもした。

つまり、光の刃を魔術のアレンジの様に扱うことも可能ではないかと思い、こっちへ来る前…ってか、11枚目のカード回収数日前に実験していたのだ。もしかしたら、オリジナルの写し身的な物だからこそ出来た可能性もあるけど。

ところが葛木は若干怯んだものの、それでもあたしの首目がけて手を伸ばしてくる。いや待て、いくら拡散させてるとはいえ、並の黒魔法の比じゃないレベルだぞ!?

あたしは慌てて後ろへ…!?

猛烈にイヤな予感が走り、後方から前方に切り替え、転がり込みながら攻撃を躱す。葛木の脇を通り過ぎ、立ち上がりながら振り向いたとき、丁度彼も振り向いて。

 

「がっ!?」

 

その目に向かって、転がりながら掴んでた土を叩きつけた。葛木は後ろに飛び退きながら、目に入った土を落とそうとしている。……ということは、ズーマ=セイグラムそのものと違って、気配以外は完全に視覚情報に頼っているって事か。なら!

あたしは急いで魔力増幅(ブースト)の呪文、そして目的の呪文を唱え。それを察した葛木が詰め寄ろうとするが、もう遅い!

 

暴爆呪(ブラスト・ボム)!!」

(ヴォイド)!」

 

着弾の寸前に空間渡りをする葛木。出来ればこれで決めたかったが、さすがにそこまで甘い敵ではない。

一方のあたしは、暴爆呪の爆風に乗る形で後ろに大きく飛び退いた。そんなあたしの目の前に、背を向けた葛木が姿を現し。

 

「光よっ!」

「ぐっ!?」

 

光の刃を編み直し、背後から斬りつける。葛木は声に反応して前へと避けたが、それでも肩口へ深く傷を負わせた。

葛木はあたしへと振り返り、そのタイミングで。

 

明りよ(ライティング)!」

 

魔術を込めた硝子玉を使い、目眩まし(ライティング)をぶつける。さすがにまともに閃光を食らい、目を灼き、完全にあたしを見失う。ここは追撃…と行きたいところだが、葛木は殺人鬼でズーマは暗殺者。まともに行けば気配を読まれ、反撃を食らいかねない。

あたしは逸る気持ちを抑えて、葛木の前から撤退したのだった。

 

 

 

 

 

そして現在。逃げ延びたあたしはようやく落ち着いた。そして冷静になってみて、あのイヤな予感の理由がわかった。それは空間の狭間で見た、葛木とセイバーとの戦い。葛木の攻撃を避けようとしたセイバーを追いかけるかのように彼の手の軌道は変わり、セイバーの首を締め上げていた。それが脳裏にあったため、あたしの直感が警鐘を鳴らしたのだ。

……さて、先程の戦いを振り返るのはこれくらいにして。あたしが今いるのは、エインズワースの魔術礼装廃棄場所(ゴミ捨て場)。そう。あたしが確実に知っている二つの扉のひとつに逃げ込んだのだ。

そもそもあたしは、イリヤ救出以外にもここに用事があった。お宝探索である。ここには[魔血玉(デモンブラッド)]が眠っていた。つまり、エインズワースとしてはガラクタだが、あたしにとっては途轍もないお宝が、まだ眠っているかも知れないのだ。

因みにあたしのリユース発言は、アンジェリカが皮肉交じりで真似してきた。つまりはあたしの行いを認めたって事。あたしがここのアイテムを勝手に使おうとも、もう文句は言えないのだ!

……ガウリイやゼルがいたら、「またそんな屁理屈を」とか言われそーな気がするけど、そんなん気にしたら負けである。

それはともかく。

 

「さぁて♡ おったかっら、おったかっら♪」

 

歌うように言いながら、あたしはゴミ(お宝)の山を漁りだす。我ながらこの性格は、前世から些かも変わらないよーだ。

 

「をや?」

 

なんか、早速見覚えがある物が。竜神を象った金属製の像。……これ、オリハルコン製よね? 普通これ捨てる? いやまあ、この世界にオリハルコンがあるのかわからんし、あったとしても[スィーフィード世界]のオリハルコンとは別モンかもしれんけど。それにしたって、かなりの神秘を秘めた魔法金属を捨てるって、どーゆー神経してるんだろ?

とまあ、それはともかく。あたしは取り敢えずその像を振ってみる。……むみゅ。特に何かが入ってる様子はないわね。どうやらこれは、フェイクということか。あたしが以前見た物は、中に[賢者の石]が隠されてたわけだが、それをやった人物は全く同じものを複数作り、隠し通そうとしていたのかもしんない。フェイクの方は貴族に売ったり、高名な魔道士に譲ったのだろう。そうすれば自分が所持していても、何ら怪しまれないというわけだ。

ともかくこれはキープしとこう。あたしにはオリハルコンの加工技術はないけど、向こうに戻ったらキャナルが何とか出来るかもしんないし。

さて、続き続き。……何コレ。真ん中から黒と白に色分けされた仮面。鼻や口元は見えるタイプだ。正体を隠すときには使えそうだけど、今更隠す必要なんてないし、どことなく禍々しいものを感じるのでやめておこう。

ええと他には…って! どーしてこんなもんが!? これって[影の鏡(シャドウ・リフレクター)]じゃない! おおう、思い出したくもない、影のあたしの姿がっ! ええい、こんな物ッ!

 

青魔烈弾波(ブラム・ブレイザー)!」

 

ばきゃん!

 

こんな危険物、破壊するのが一番である。……ん? 衝撃で少し掘り起こされて…え? こ、これってまさか!?

あたしは慌てて、その場所にある他の礼装を取り除いてゆき。姿を現したのは一振りの剣。それを手に取り鞘から引き抜くと、銀製の刃が煌めいた。やっぱりこれって…。

 

「てめェ、こんなトコに居やがったかッ!」

「……あら。むしろ、見つけるのに随分と時間がかかったんじゃない?」

 

突如かけられた怒鳴り声に、あたしは驚くことなく、ゆっくりと振り返りながら言った。気配が近づいてきたのを、既に感じ取っていたのである。

そこにいたのはベアトリス。まだ限定展開も夢幻召喚もしていない。

そんな彼女に向かって、あたしは更に言った。

 

「この中はエインズワースの結界の中。侵入した敵の位置は把握できてるはず。そう。侵入早々、葛木に襲われたように、ね?」

 

剣を鞘に納めながら説明すると、ベアトリスは機嫌が悪そうに返した。

 

「ああ、そのとおりだ。確かに反応はあった。()()()()()()()()()な! てめェ、一体何しやがった」

 

彼女の疑問に、あたしはポケットの中にあった最後の一枚を取り出した。

 

「これを使ったのよ」

 

それは以前、陰陽師の神名から教えてもらった人形(ヒトガタ)。紙で作った簡易のそれには、あたしの髪の毛をテープで止めてある。

あたしは専門外だから、災厄や受けた攻撃の身代わりなんてのは無理だったけど、魔術探知におけるあたしの身代わりは充分に果たしてくれた。

 

「身代わり人形ってヤツか。けど、急にお前自身の反応が消えたのは何でだ? むしろそれが怪しくて飛んできたくらいだゾ?」

 

え? あたしの反応が消えた? ……あ。あの像か! オリハルコンには、魔力(マナ)を遮断・阻害する性質がある。それを手にしたせいで、あたしが探知されなくなったのか。

 

「ちょっとした手品よ。バカ正直にそこまで答えると思う?」

 

それこそ、バカ正直に説明する必要などないだろう。

 

「……思わねェな」

 

そう言ってベアトリスはクラスカードを取り出し…。

 

明りよ(ライティング)!」

「に゛ゃッ!?」

 

おなじみ目を灼く閃光に、彼女は短く悲鳴を上げる。あたしは剣を携えたまま走り出し、ベアトリスの脇を通り抜ける瞬間。

 

「可愛らしい悲鳴だったわよ?」

「なァッ!?」

 

あたしに揶揄われたベアトリスは、おそらく恥ずかしさのあまりに拳を振るうが、まだまともに見えてない上に普段力任せな、武術の[ぶ]の字もないそんな攻撃が当然当たるはずもなく、あたしはそのまま部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

外へ出た途端、ドン! という大きな音が響き渡る。まさか、イリヤ!?

あたしは危険を承知で、音が響いた方へと駆け出した。そして。

 

「アンジェリカ!」

 

アンジェリカが視界に入り、名前を叫ぶ。その背後には凛さんとルヴィアさんがメイド服姿で付き添っている。お約束として、操られているとかそう言ったところだろう。その瞳に意思の力を感じないのも大きな理由だ。

 

「貴様はリナ。侵入者はお前だったか」

 

鋭い視線をこちらに向け、アンジェリカは言った。彼女の目の前の石畳は大きく抉れている。

 

「これは…」

「何、イリヤスフィールに少しばかり説明をしていたのだ。この世界の行く末を」

「……なるほど? 地軸はズレて、魔力は枯渇し、生物にとって有害な謎の物質が溢れ出してる。だから美遊を聖杯として利用する、ってヤツね。ここに来る前にギルから聞いてるわ」

 

そう。そしてこうも言っていた。エインズワースはそれらの脅威から人類を救う、正義の味方だと。

 

「さすがにギルも知らなかったみたいだから聞いとくけど、人類を救うために、聖杯にどう願うつもりなのかしら?」

「単純な話だ。人類を、新世界でも生きられる生物に置き換える。ただそれだけだ」

 

なるほど。大源(マナ)を増やすとか、無いものを引っ張ってこようとするよりも確かに現実味はある。

 

「それで貴様はどうする。我らに与するか、反抗するか。……イリヤスフィールは答えが出せず、わたしの攻撃を躱してからはずっと息を潜めているが、お前はそこまで愚鈍ではあるまい」

「まあ、ね。向こうで出した答えに変更はないわ。とは言え、今はまだ答えらんないけど」

 

あたしのセリフを訝しむアンジェリカ。

 

「だって、今ここで答えたら、イリヤの意見が左右されちゃうじゃない。……それに、確かにあたし達に比べれば、イリヤは答えを出すのに時間がかかるわ。でも、それは決して愚鈍だからじゃない。より良い選択肢を選ぶために必要な時間よ」

「だが、限られた時間でそれは、最悪な結果を導くことにも繋がりかねんぞ」

 

それは確かにそのとおりだ。だが。

 

「残された時間が少ないとはいえ、世界の崩壊が数分後ってわけじゃないでしょ? それだったら、イリヤが考えをまとめるだけの猶予があったっていーじゃない」

 

それに、これはわざわざ言う気もないが、いざという時のイリヤは異様に判断が早い。逆にこの問題に関しては、イリヤの基準でそこまで判断のスピードは求められていないのだろう。

 

「とはいえ、そろそろ考えはまとまってんじゃないの、イリヤ?」

 

あたしが何処へともなく語りかけると、急に気配が現れて、植え込みからイリヤが姿を現した。……って。

 

「あらイリヤ、可愛らしい衣装じゃないの」

 

イリヤの今の衣装は、袖無し裾無しフード付きのつなぎになったもの。被ったフードの左側にはドクロっぽいお面が付いてるので、おそらく[アサシン]を夢幻召喚した姿なんだろう。

 

「もう、揶揄わないでよ」

 

イリヤが恥ずかしそうに言ってるが、少しは緊張が解れただろう。

 

「……二度は聞かぬつもりだったが、貴様の答えを聞こう」

 

アンジェリカの問いに、イリヤは面と向かってハッキリと答えた。

 

「わたしは、ミユと世界、どっちも救う!」

「……何?」

 

アンジェリカにとっては、あまりにも突拍子のない答えだったんだろう。だがそれは、至って当然である。その言を信じるなら、エインズワースは長きに渡り、世界を救おうとしていた一族だ。ならば当然最初のうちは、人類全てを救う道を目指していた事だろう。

けれどやがては気づくことになる。どれほど頑張ろうとも、必ず取りこぼしが生まれる。ならば、その僅かを切り捨ててでも、その他多くを救えればいい、と。そう。それはかつて、切嗣さんが目指した正義。まさにそれである。

だからこそ、イリヤの答えはあまりにも稚拙に思えたことだろう。……でも。

 

「イリヤ、よく言った」

 

そう言ってあたしは、イリヤの頭の上に手を乗せる。フードを被ってるせいで、いつものようなクシャクシャには出来ないけど。

 

「……世迷い言を。それは現実を知らない、あるいは現実が見えていない、子供の戯れ言に過ぎん」

「ええそうよ。だってあたし達、子供だし」

 

ま、あたしの場合、中身は130過ぎなんだけどね。

 

「この場に立つ者ならば、子供として扱いはしない。その様な理由は免罪符にはならんぞ」

 

いやまあ、そりゃそーだろうけど、全く揶揄い甲斐のないヤツである。

あたしはひとつ息を吐き、口を開く。

 

「なら言わせてもらうけど。あたしは、不要なものをすぐに切り捨てようとするその根性(こんじょー)が気に入らないのよ。確かにその全てを救うなんて無理かもしんない。でも、例え可能性が1%しかなくても、最初から諦めていたらその可能性も0になるわ。だからあたしは、可能性がある限り諦めたりはしない!」

 

普段は戦いに赴く姿勢として言っているが、そもそもこれは、あたしの行動理念そのものである。

するとイリヤが、あたしの思ってもみないことを言った。

 

「絶対に大丈夫だよ」

 

って。

 

「……何?」

「これは、わたしの()()が教えてくれた魔法の言葉。自分が信じたことを突き進んでいくための、そして相手の背中を押すための勇気の言葉だよ!」

 

……ああ、そっか。あたしがあの作品の中で、特に好きなセリフ。それって、あたしの行動理念に似てたからだったんだ。

 

「話にならんな。その様な段階はとうに過ぎている。悠久の時をかけて向き合ってきた、エインズワースが導き出した答えだぞ」

「それって悠久って言うだけあって、随分昔に出した結論でしょ? その頃には美遊も、美遊のにーちゃんも、イリヤも、そしてこのあたしもいなかった。つまり、あたし達っていう新しいファクターが現れる前のデータって事じゃない。そんなアップデートもされない古いデータで、よくまあ言いきれるもんだわ」

 

そう言い返すと、今度はアンジェリカがひとつ息を吐いた。

 

「……よくわかった。貴様らといくら議論を重ねようとも、平行線にしかならんことがな!」

 

そう告げ、上空に[王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)]発動の金色の波紋が広がり、現れたのは。

 

千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)

 

あの戦いで黒ギルが見せた、あの巨大な剣!

 

「この剣を斬ったのはイリヤスフィール、貴様だそうだな」

 

そう。その先端は、その時イリヤに切り落とされたままだ。

 

「賊には過ぎた墓標だが、潰れるがいい」

 

ってヤバ! このタイミングじゃ逃げ切れない!?

そう思った、その時。あたし達と剣との間に、4弁の光の盾が展開され、一瞬、その落下が治まる。その隙に、あたしとイリヤが落下範囲から辛うじて抜け出した瞬間。

 

ずがごおおおおん!!

 

剣先が大地にぶつかり、大きな衝撃と土煙が舞い上がる。

 

「……ありがと。助かったわ、クロエ」

「どういたしまして」

 

いつの間にかあたし達の横にはクロエが立っていた。イガリマを押さえ込んだのは、今までにも散々お世話になった熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)だ。

 

「まさか、もう1匹ネズミが潜り込んでいたとはな」

 

アンジェリカがそう言ったその時。

 

「ナルホド、身代わりの反応はそいつにも手伝ってもらってたってワケか」

 

そう言って、夢幻召喚を済ませたベアトリスが現れ。

 

「……」

 

無言のまま、葛木がアンジェリカの横に出現する。そして。

 

---ははハははは!

 

大きな笑い声が響き渡る。その声は。

 

---おっとすまない。どうも笑い方の加減が分からなくてね。

 

「……ダリウス」

 

イリヤは呟くように、その名前を口にする。

 

---いやしかし、見事な啖呵だったよ、イリヤスフィール。そしてリナ。傲慢で、感情的で、非論理的で、それでいて非常に胸を打つ。

 

「……ふぅん。まるで見ていたように言うわね。ひょっとしてそれも、置換魔術によるものかしら?」

 

---そのとおり。まさしく見ていたのだよ。美遊と一緒にね。ああ、だからなのだろうね。諦めきっていたはずのお姫様が、こちらに戻ってからは強い反抗の意志を見せるようになったのは。まったく、なんとも素晴らしい。君達はお姫様に希望の光を与える騎士(ナイト)というわけだ。

どうか精一杯戦ってくれ。私から美遊を奪って見せたまえ。希望こそが最悪の毒だ。

 

……まったく、言いたいこと言ってくれる。それなら、絶望こそ最低の毒じゃない。

まあいいわ。相手のタチの悪い皮肉に付き合う気もないし。

 

「何よ。わたしのことは完全に無視?」

「まあまあ、クロエ」

 

諌めるあたしにため息を吐くクロエ。そして気を取り直した彼女は。

 

「イリヤ。夢幻召喚(インストール)を解いて」

「え?」

「その英霊、弱いから。カード回収の時、力を解放したからとはいえ、一瞬だったでしょ?」

 

んー。その戦い、あたしは不参加だったのよね。とはいえ、イリヤにはそれで充分通じたようだ。イリヤは夢幻召喚を解い、て…。

 

「何よ、その格好! サファイアの方がルビーより、エッチな趣味してんじゃないのー?」

 

確かに、今のイリヤの格好はルビーの趣味よりもエッチい。というか、美遊のヴァージョンよりもエロい気がするぞ。サファイアが『心外です』とか言ってるけど、言い逃れは出来ないと思ふ。まあ、クロエがあちこち触ってるのは、趣味のためではないとだけ言っておく。

そんな、少しわちゃわちゃした状況を正すべく、あたしは声をかけた。

 

「……さて、サファイア。あたし達()()の意思共有のために、状況の整理をお願い」

『……! はい。現在、城の前庭にて交戦中。敵は置換魔術に特化。空間の繋がりを操るため、正面からやり合うのは危険です。

敵の布陣は正面にアンジェリカ、その隣りに葛木、左舷からはベアトリス。また、凛さまとルヴィアさまは意識を置換され擬似人格を入れられていますが、鳩尾付近の基印を叩けば元に戻ります』

 

サファイアの説明の間、相手は一切手を出さない。これもまた、エインズワースの舞台の一環ということなんだろう。だが、それこそが大きな油断である。

 

「ふみゅ。ならまずは、凛さん、ルヴィアさんの奪還が先決ね」

「だけど、基印を狙って砲撃しても、空間置換でこっちに返されちゃうよ」

「つまり、相手の意表を突く必要があるわね」

 

あたしとイリヤ、クロエで作戦会議をしていると。

 

「バカか、テメェら。ウチらに聞こえるように話してたら、意表も何もねェだろうが」

「いや待て。貴様ら…」

 

アンジェリカが感づいたようだが、もう遅い。

 

「レディ…」

「一体()()()()()()()!?」

「Go!!」

 

クロエのかけ声と共に瞬時に姿を現したのは、バゼットさんとギル。クロエが言った「意表を突く」を体現するため、アンジェリカの背後からすぐ近くまで迫っている。

 

「言ったはずよ。あたし達全員、ってね」

 

そう。あたしがひとり、結界を破り侵入したのは陽動を兼ねてのこと。無茶なことはしたけど、決して玉砕覚悟の行動ではないのだ。

あたしがおどけて言う間にも、バゼットさんが拳でルヴィアさんの、ギルは鎖でアンジェリカを捕縛しつつ凛さんの、それぞれの基印にダメージを与えた。

 

「その布は…」

「落とし物を拾ってくれてありがとう。でも、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)にしまっちゃダメだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この、ハデスの隠れ兜はね」

 

な、ハデスの隠れ兜って、神話に出てくる…! 身隠しの布って、その一形態に過ぎなかったって事か。

帽子に見えるその兜を被ったギルを、アンジェリカが剣の投擲で攻撃するもののそれを避け、ギルは姿を消してしまった。丁度そのタイミングで。

 

「はへっ…!? か、身体に戻っ…」

「キャアアアア!? なんですのーーーっ! このトップレス衣装はーーーっ!!」

 

凛さんとルヴィアさんの意識が身体に戻る。ええと、ルヴィアさんはご愁傷様。

 

『イリヤさーん!』

「ルビー!」

 

ルビーとイリヤも無事邂逅。というわけで。

 

「さぁて。後は美遊を取り戻すだけね!」

 

あたしはみんなを鼓舞するように言った。




今回のサブタイトル
暁なつめ「戦闘員、派遣します!」から

今まで表記していない、というか書き忘れてましたが、夢幻召喚中の葛木は眼鏡をしていません。実は書いてるときはズーマの姿が頭の中にあったため、勝手に眼鏡をしていないつもりになってました。今回の目潰しを書くに当たって、ようやく気づいた次第です。

【スレイヤーズすぺしゃる】に登場した[影の鏡(シャドウ・リフレクター)]が出てきましたが、実は[スィーフィード世界]の物ではありません。某運だけいい最弱職の男がいたり、水の女神と同じ名のアークプリーストがいたり、爆裂好きなアークウィザードがいたり、ドMのクルセイダーがいる世界で、特典もらった転生者が創った物です。というか、拙作【この素晴らしい世界にドラまたを!】にごく近いもののリナが転生しなかった世界から来た物です。ヒントとしてその前にバニル仮面(売り物用)を出してみました。
一応補足ですが、[影の鏡]は鏡に映しとった者の記憶や能力を100%引き継ぎつつ、性質が反転したコピーを作る魔法の品(マジックアイテム)で、使用者に完全服従します。つまり使用者にとっての敵をコピーすると、性質が反転して平和主義者が生まれるという、ひじょーに使えないアイテムです。それで誕生したリナの、そしてナーガのコピー。推して知るべしですね。

次回「STAY FREE」
見てくんないと、暴れちゃうぞっ!
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