Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
「美遊さまを取り戻すだと? 笑えない冗談だな」
天の鎖に束縛されながらも鋭い眼差しを向け、リナに蔑むような口調で返すアンジェリカ。しかしリナは鼻で笑い。
「あったりまえじゃない。だってあたしは本気で言ってんだから! クロエ!」
「任せて!」
リナの合図に一歩前へ出たクロが、矢を番えた弓をアンジェリカに向けて構えた。
「撃たせん!」
アンジェリカは複数本の剣を放出する。しかし、クロに届く前にそのことごとくが金色の波紋に吸い込まれていく。
「学習しないね、君」
ハデスの隠れ兜を一旦脱ぎ、姿を現してギルは言う。アンジェリカは、先の戦闘で同じ過ちを犯していた。
「ギル、小銭集めなんかしてないで、次の仕事をこなしなさい!」
「はいはい。まったく、半神使いの荒い人達だ」
クロに促されたギルは再び姿を眩ませる。
「ならば防ぐまでだ!」
ギルガメッシュのカードを夢幻召喚している関係で拘束が甘かったのか、アンジェリカは天の鎖の束縛から抜け出し、複数の盾を展開する。だが、それとて戦略の想定内であった。クロは射線を上へとずらし。
しかしその背後に葛木が現れ。
がっ!
その襲いかかる手を、間に割り込んだリナが鞘に収まったままの剣で食い止める。信頼していたのだろう、クロは気を逸らす気配も見せずに。
「悪いわね、オバサン。アンタに構ってる暇なんてないのよ!」
そして射た! 矢は最も高い塔の上部を綺麗に破壊して。その部屋にいる美遊、ダリウス、そしてエリカの姿がさらされる。
「……やっぱり子供はいやだねぇ。どいつもこいつも、段取りをわきまえない!」
ダリウスは怒りを顕わにする。が、彼はまだ理解していない。確かに、塔への攻撃はクロが立案したものだが、例えそうでなくともリナなら同じ事をやりかねないと。
姿は子供でも精神的には130を超えた彼女。だが、やり方は前世と変わっていない。それを充分に理解している美遊は突っ込みたかったが、一応場の雰囲気を読んで口に出さなかっただけである。そういった意味では、美遊も少し成長したようだ。
「ミユ。待たせてごめんね」
そこへルビーに転身し直したイリヤが、上空から現れた。更に。
「
イリヤがセイバーのカードを夢幻召喚する。これこそが先程、クロがイリヤの身体を触りまくってた理由。隙を見てカードホルダーに、学校のベッドに残されていたクラスカードを差し込んでいたのだ。
イリヤはダリウスに向かって聖剣を振り下ろし。
「懲りもせず、馬鹿のひとつ覚えが!」
以前と同じように、その刀身が掴み取られる。しかしダリウスは知らなかった。肥大化したギルガメッシュに取り込まれていたために美遊が知るよしもない、以前に見せたイリヤの戦い方を。
イリヤは聖剣を手放すと、もう1枚のカードを取り出し。
「
「
キャスターの宝具をダリウスに突き立てた!
「ダリウスさま!」
アンジェリカがいち早く、次いでベアトリスが駆け出した。
「……で、あんたはやっぱり残るワケね。葛木…いいえ、
「……気づいていたか」
リナから距離を取りながら、彼は言う。
「まあ、ね」
「えっ? リナ、どういう事よ」
「こちらの世界のミスタ・クズキではないのですか」
二人のやり取りに、凛とルヴィアが疑問を口にする。
「ええ、使用者は確かに葛木宗一郎。殺人鬼のなれの果てよ。でも今の彼の意識は、カードの英霊ズーマ=セイグラムのもの。葛木の同意のもとか、強引に乗っ取ってるのかはわかんないけど」
そう説明をしてから、リナは葛木へと視線を向ける。
「……教えてやる義理はないが、一応言っておこう。この男とは同意の上だ」
「あら。余計なことは口にしないあんたにしては珍しいじゃない。どういう風の吹き回し?」
等と軽口を言っているが、頬に一筋の汗が流れ落ちる。
「俺も知りたいだけだ。……どうして
「まあ、色々と情報を統合した結果だけど。あんたはただの
リナの説明に、ただ黙って聞き耳を立てるズーマ。
「そして空間渡りを含めた、不意を突いた攻撃手段。あたしはある世界の葛木の戦い方を見たけど、意表を突く動きはしていたものの、どちらかといえば正面からぶつかるタイプだったわ。この辺は暗殺者と殺人鬼の違いかもしんないわね」
確かに今までの動きは、暗殺者としての行動が殆どである。
「あと、ギルって存在も大きかった。彼は他のカードの英霊と違い、自我が残っていた。なら、
そして一拍おき。
「最後に、あたしへの異常な執着。葛木があたしに執着する理由なんてないでしょ?」
リナの説明を聞き終えたズーマは。
「どうやら、色々とボロが出ていたようだ。俺自身の執着心だけでなく、他人の戦い方までは考えが及ばなかった」
そう答えると僅かな間黙り込み。
「……さて。本当なら戦いの続きといきたいが、先程からアンジェリカからの念話がうるさくて敵わん。この男の立場が悪くなると、貴様と戦う機会が奪われるかもしれないからな」
そう告げると「
「……あいつにしては最後の方、口数が多かったわね。……いや、逃げるなと釘を刺したかったのか」
実際、前世においては何度も横槍が入り、決着がつくまでには時間を要した。今回においてもカードの英霊であること、そしてエインズワースに組み込まれていることで、自由に戦う場がなかなか巡ってこないのが現状である。リナとしてはその心境などわかりたくもないが、それでもやっぱりわかってしまうのだ。
そういった、少し憂鬱になりそうな現状は一旦保留して、リナはイリヤ達の方の現状を確認しようとして。
「……って、何じゃこりゃあああ!?」
思わず声を上げた。城のあった場所には巨木を逆さまにしたような岩がそびえ立ち、美遊は転身してイリヤの横に
「エインズワースの置換が解けて、城が岩山に戻ったみたいね」
「なるほど。よーわからんけどわかったわ」
クロの説明に、リナは悩ましげな表情で答える。
「……まあいいわ。細かいことは後回し。あたしとクロエは二人の許へ向かうわ。宝石を持たない凛さんとルヴィアさんはここに残って。それでバゼットさんは…」
「わたしも残ります。もしもの時に、今のお二人は身を守る術を持っていません」
「く…」
「反論できませんわ」
バゼットの意見に、
「りょーかい。そんじゃ行くわよ、クロエ」
「O.K.よ、リナ!」
そう言うとリナはクロを抱え、
「信じられるよ。イリヤは友達だから」
イリヤの、
「エリカも美遊お姉ちゃんのともだちだよね?」
そう、尋ねる。美遊は少し逡巡して。
「あなたは、友達じゃない」
辛そうに、しかしハッキリと答えた。昏く沈むエリカ。その様子を静観していたアンジェリカが口を開く。
「お忘れですか、美遊さま。貴女の兄君の命は我々が握っていることを」
「やめてっ! お兄ちゃんは…!!」
『残念。クロエがギルに言ってたでしょ? 「次の仕事をこなしなさい」って』
突然、ルビーとサファイアから聞こえてきた声。それはもちろん。
「「リナ!」」
翔封界を纏い近づいてきたリナに、カレイドステッキ越しに声をかける二人。
『イリヤ、美遊、大丈夫?』
再び、ルビーとサファイアから声が流れる。
「う、うん。今のところは」
イリヤの返答に、リナが息を吐く音が聞こえてきた。
『それで美遊。あなたは今、遠話球は持ってるの?』
「ううん。わたしの持ち物はエインズワースに取り上げられたから」
『そっか、やっぱり。今まで遠話球で連絡取らなかったのは、正解だったみたいね』
そう。今まで安否確認のために遠話球を使わなかったのは、下手をすると敵に情報が筒抜けになってしまう可能性があったからだ。
『さて。それでアンジェリカの横にいる、ブランケットを頭から被って顔の見えない人物は誰なの? ダリウスではないみたいだけど』
「えっと、ダリウスにルルブレ突き刺したら外側が溶けて、中から現れたの」
『つまり、現状は謎の人物ってワケね』
リナがそう納得しかけたところで。
「……ジュリアン・エインズワース」
美遊が呟くように言う。
「『……え?』」
イリヤとリナは同時に聞き返す。
「彼はジュリアン・エインズワース。ダリウス・エインズワースの息子。ダリウスは既に死んでいて、彼はその死を偽装していたの」
ジュリアンという名を聞いて思考がぐるんぐるんしているイリヤを無視するリナは、その説明がまったく
『本当に
「え?」
『だってダリウスは、
「な…」
美遊がリナの解説に驚く中。
「クッ! くはははハハははは!
……なんて笑うのも疲れんだよな」
ジュリアンと呼ばれた男が突然笑い出したかと思えば、急に冷めた発言をする。
「笑えねぇ。笑えねぇんだよ。まったくもって、くだらねぇ」
そう言って右手を掲げる。するとその掌の先から黒いキューブが現れ、巨大化してすぐ真上に浮かび上がった。
「お前らに選択肢など無い。選択した気になってるだけだ。足掻こうと、抗おうと、結末はひとつに収束する。俺が創る神話の結論に」
ブランケットを剥ぎ取り、そう告げるジュリアン。リナは美遊の横へと移動し、その理由を即座に理解した美遊は、魔力で作った足場の範囲を広げる。それを確認して、リナは翔封界を解き、すうっと息を吸い込んでから叫ぶように言う。
「あら、残念ね! あたしは常に運命に抗って進んできたわ! だから今回も、逆境を跳ね返してみせる! それがたとえ神話だろうと、神や悪魔だろうとね!」
リナの啖呵に、イリヤと美遊は安堵の笑みを浮かべる。それでこそリナだと。
「……ほざいてんじゃねぇ」
ジュリアンがそう言葉を洩らし、次の瞬間、イリヤの真後ろに
「イリヤスフィール。リナ。俺はお前達を赦そう。
足下を地上と空間置換しているのか、宙に立ちながら言葉を連ねていくジュリアン。
「だが、覚えておけ。俺の神話を壊そうとするなら。俺が定めた結末を覆そうとするなら。
この手でお前らを消す!」
バキャンと、彼が手にした[キャスター]のカードが破壊された。
「気をつけて! ジュリアンはこの聖杯戦争のルールマスター。カードを創るのも消すのも自在に出来る!」
「なら…!」
突如、ジュリアンの真後ろに現れるクロ。合流前に近くの隆起した岩に下ろしてもらい、彼女は潜伏して隙を覗っていたのだ。その両手には干将と莫耶。それを振り下ろし…。
がきゃっ!
やはり突如現れた葛木によって受け止められる。
「……やっぱ、奇襲は読まれてたか」
転移を使って岩山に移動しつつ、クロは言った。そんな彼女の許にイリヤと美遊、そして再び翔封界を纏ったリナが降り立つ。
「クロ…」
「久しぶり、ミユ。思いっきりハグしてあげたいけど、それどころじゃないみたいね」
苦笑いを浮かべてクロは言った。
「さて、と。美遊。ジュリアンが出現させた、あの黒い巨大なキューブって何だかわかる?」
「詳しい事はわからない。ただ、エインズワースの聖杯戦争に必須な物で中身が重要らしい。ダリウスは[ピトス]って呼んでいたけど…」
「「ピトス!?」」
そのひと言に、思わず声を上げるリナとイリヤ。それはそうだろう。二人をこの世界に送り届けたゼロスから聞いたのだ。こちらの世界で暗躍している魔族は、ピトスを利用しようとしている、と。あくまであちらのゼロスの推測でしかないが、それでもようやく具体性が出てきたというわけだ。
「イリヤ? リナ?」
「二人共、どうしたのよ?」
当然、その事を知らない美遊とクロは聞き返した。
「……まあ、ちょっと込み入ったとこもあるから、後で説明するわ。それよりも…」
そう言ってリナは、視線を岩山の中央、ジュリアンの許へ向ける。それに合わせてみんなもそちらへと視線を向けた。
「お兄ちゃん。美遊お姉ちゃんが、わたしはともだちじゃない…って。……なんで?」
「はン! ったりめーだろ! エリカは美遊の話し相手役だ。所詮は役なんだよ! 美遊からすりゃ、あたしら全員敵役だろうが!」
エリカの疑問に、しかし答えたのはベアトリス。すると背後からジュリアンの手が伸び、置換魔術でベアトリスの胸に入り込んだ。
「誰が発言を許可した」
「あハ…。心臓鷲掴み…ってヤツ?」
通常なら周りが引くくらい屈折した愛情表現を洩らすが、幸か不幸かエインズワース周りにはそういった人物はいない。ジュリアンは手を引き抜くと、エリカに向かって言った。
「エリカ。お前の味方は、家族は、兄であり父である俺ひとりだ。他にはもう、何もねぇんだよ。
だからこそ、俺が必ず救ってみせる。エインズワースの悲願は、俺とお前で成し遂げる。いいな?」
ジュリアンの説明に、エリカは涙を拭い。
「……エリカ、ぜんっぜんかなしくないよ! エリカにはお兄ちゃんがいるもんね。エリカ、がんばるよ。お兄ちゃんをしんじる」
その瞬間、上空のキューブの下方頂点から溢れ出した真っ黒な泥に、エリカは飲み込まれた。泥はなおも溢れ出し、岩山を伝い落ち大地を覆いだす。
「神話を一節進める。逃げるのなら好きにしろ。夢より儚い希望を抱いてな。だが、
そのセリフに触発されたかのように、大地に広がる泥が複数、人の形を取り始め。
「まさかっ! これ、ひとつひとつが英霊なのっ!?」
クロは叫ぶように言った。
バゼットが拳を振るい、クロは双剣で攻撃をいなし、イリヤが全方位の
『セイ…ハイ…』
『セイハイ』『セイハイ』『セイハイ』…
英霊達のそれぞれの口から、その名が紡がれていく。その声に動揺する美遊の後ろに、ジュリアンは現れて言う。
「この泥の英霊共は、聖杯を得られなかった亡者だ。ただ聖杯を求める、意思だけの
そうして差し出される手。泥の英霊と戦う仲間達の姿に、美遊の決断が迫られる。美遊はゆっくりと手を上げ。
『いけません、美遊さま! ここで戻ってしまえば、全てが水泡に…!』
サファイアが説得するも、それでもジュリアンに手を伸ばしてゆき。
その手を、別の手が包み込む感覚。
「そんな手を握っちゃ駄目」
「イリヤスフィール!」
そう、いつの間にか美遊の所までイリヤがやって来ていたのだ。
「ミユは言ったよね? 『わたしは諦めない』って」
それは肥大化したギルガメシュに取り込まれそうになったときに、イリヤに向かって言った、美遊の言葉。
「だったら、こんな事で運命に囚われちゃ駄目だよ」
何とも男前なイリヤだった。そして、それを肯定する声がひとつ。
「そうだ、美遊。お前はもう、その男に縛られなくていい。
状況は金髪の少年から聞いたよ。ありがとう。妹のためにこんなになるまで戦ってくれて」
そう言いながら、ゆっくりと歩み続ける赤銅色の髪の少年。
「嘘…。どうして貴方が…」
凛が。
「妹…? どういう…まさか…!」
ルヴィアが驚愕し。
「……やっぱり、そうだったか」
リナは自身の推察が正しかったことに、複雑な笑みを浮かべた。
「後は俺が始末をつける。それが、兄としての務めだ。
少年が使う投影魔術。押し寄せる英霊を薙ぎ払ったその右手には、
「ジュリアン。やっぱりお前を倒さない限り、美遊は幸せになれないみたいだ。
お前が全のために一を殺すというなら、俺は何度でも悪を為そう。覚悟はいいか。正義の味方!」
少年はジュリアンに向かって言い。
「衛宮士郎…!!!」
ジュリアンは、少年…士郎に向かって言葉を返すのだった。
今回のサブタイトル
TVアニメ「この素晴らしい世界に爆焔を!」OPタイトルから
意味としては「自由でいて」「囚われないで」「束縛されないで」等。
今回はリナの介入の影響で、会話の流れが前後してますね。しかも、美遊の口から早々に「ピトス」の名前が出たという。なお、今回はおしゃべりなルビーがひと言も発してないという事実。サファイアですらセリフがあったのに。
次回「衛宮士郎」
見てくんないと、暴れちゃうぞっ!