Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
「ジュリアン。やっぱりお前を倒さない限り、美遊は幸せになれないみたいだ。
お前が全のために一を殺すというなら、俺は何度でも悪を為そう。覚悟はいいか。正義の味方!」
「衛宮士郎…!!!」
「エミヤ…」
「シロウ…?」
「お兄ちゃんっ!!」
ジュリアンが告げた名前に、イリヤが、クロが、美遊が。それぞれの思いで口にした。
だが、今は戦闘の真っ只中。弓兵の英霊達が士郎へ向けて一斉に矢を放つ。しかし。
「
士郎の前に
「
その様子を遠くから眺める者がいる。
「形だけのハリボテとはいえ、神造兵装まで造れるとはね。なんて無為で不毛で無価値なんだろう。偽物と贋作が争うなんて」
そう言ったギルは、やはりしたり顔であった。
士郎は投影したイガリマを駆け登っていく。
「お…」
途中、イリヤが声をかけようとして、すぐに口をつぐむ。イリヤは既に気づいていた。彼が
イリヤに見送られる形で美遊の前に辿り着いた士郎。
「美遊、守ってやれなくてごめんな。今度こそ、終わらせてくるから」
美遊の頭に手を置き語った士郎は、再び駆け登っていく。その先にいるのは、ジュリアン・エインズワース。
「どこまで出しゃばる気だ、衛宮士郎。俺の神話にてめぇの役なんざねぇんだよ!!」
彼は士郎を見下しながらそう告げた。
「泥の英霊達を一瞬で薙ぎ払い、更にあんな巨大な剣を…。彼はいったい何者なんですか!?」
あまりにもの出来事に、疑問を口にするバゼット。それに答えたのは。
「彼は衛宮士郎。
別世界の士郎を知るリナだった。その説明を聞いた魔術師三人は既視感を感じ、すぐにその理由に思い至る。
「ちょっと、それってクロの投影魔術と同じ能力じゃないの!」
「それに
「まさか、彼がアーチャーの英霊の、生前の姿だとでも言うのですか!?」
さすがにリナのあからさまな説明に、この結論へと帰結するのは容易かった。
「ええ。こちらの士郎さんがそうなるのかはわかんないけど、アーチャーの英霊は士郎さんが辿る未来の可能性のひとつよ」
それを聞いた三人は一瞬黙り込む。
「……リナ。あんた、どうしてそんなこと…」
「さすがに長くなるから、詳しい説明は後。それよりあたしは、士郎さんのサポートに行くわ。士郎さんが薙ぎ払ってくれたおかげで、しばらくはバゼットさんひとりでも持ちこたえられるでしょう?」
「……ええ。確かに彼が奮闘している今、この追い風に乗るのが得策でしょう。こちらはわたしが何とかしてみせます」
バゼットの返答を聞いたリナはひとつ頷くと、翔封界を纏い飛び立っていった。
丁度その頃、士郎の前にアンジェリカが立ち塞がったところだった。
「通さん。貴様だけは」
「奇しくも逆だな。あの時と…!」
「ほざくな、汚らわしい
「お互い様だろ、
アンジェリカは
「……相変わらず、高速投影による同種剣の相打ち狙いか。だがわかっているはず。それでは追いつかないと」
アンジェリカは告げる。しかしそれは、士郎への最後通告ではなく、何かの期待を込めてのもの。
---
士郎は更に撃ち合いながらも思考する。
(ああ、わかっているさ。誘っているんだろう?
そんな中、泥の英霊達の行動が変化する。
「泥の英霊どもが
「……それも、わかっているさ」
けれど、と心の中で思う。
(それでも、そんな俺を赦してくれた子がいた。だからこそ、こんな場所で足踏みなんかしていられない!)
「---
そして彼は詠唱を口にする。
「お兄ちゃん」
エリカが泥の中から声をかける。
「このドロドロ、たぶんずっと出てくるよ。これがちきゅういっぱいに広がっちゃったら、いま生きてる人たちはどうなるのかな」
「お前はそんな心配をしなくてもいい。
世界が絶望に満ちても、人は必ず生き残る。たとえ姿を変えても。……存在を変えてでも。だから余計なことは考えるな」
「……人って、そんなにつよいのかなぁ?」
「ぐっ…がぁ…っ」
士郎の魔術回路が、身体が悲鳴を上げる。皮膚の一部が浅黒く変色し、その赤銅色の髪も、一部白くなっている。
「もはや発動すら出来んか。ならばもう、見るべきものもない。
退場せよ。貴様の出番はもう終わっている。今度こそ存在ごと消してやろう」
アンジェリカの芝居がかったセリフに。
「……神話とか…出番とか、さ…。お前らのおままごとは、もううんざりだ。そこをどけ。三文役者!」
士郎は吐き捨てるように言い返した。
そしてアンジェリカは再び、刀剣類を放出する。士郎は前進しながら、投影した干将・莫耶で刀剣類を打ち払い…。突如、その背後から刀剣類が放たれる。アンジェリカの空間置換で、士郎の後ろの空間と繋げたのだ。
「愚直なだけでは
「
「間に合わんよ」
アンジェリカが仕掛ける、前後からの攻撃。既にチェックメイト寸前のその時。
バギャン!
赤い影が割り込み刀剣類を弾き。
「
直進性のある突風が、残りの刀剣類を吹き飛ばす。
「……君達は…!?」
「……ミユの事とか、その投影魔術の事とか、聞きたいことは山ほど。けど、とりあえず今は手を貸すわ。
クロは士郎に背を向けたまま言い。
「それと士郎さん。命がけだなんて考えてないでしょうね? あたしは言ったはずよ。『必ず生き抜いて、美遊と一緒に幸せになること』ってね」
振り向きウインクしながらリナは言う。
「……ああ、そうか。そうだったな」
牢に閉じ込められていたときに交わした会話を思い出し、士郎はやや嘆息気味に息を吐いた。
イガリマの、士郎達がいる場所よりやや降ったところでは、セイバーを夢幻召喚したイリヤが
「あなた達が何なのかはわかんないけど、今だけは邪魔をしないで」
士郎への想いは胸に秘めたまま、イリヤは剣を構え。
「ここから先は、通行止めだよ!」
更に地上では。
「軍勢の流れが変わりました。あなた達は今のうちに撤退を…」
そう指示を出すバゼット。が、しかし。
「何を寝ぼけたことをおっしゃってるの?」
「宝石は無いわ、意識は乗っ取られるわ、並行世界の
「ええ、本当に。ですけど、まだ子供達が戦ってますわ」
「それを見捨てて
「いきませんわ!!」
久しぶりに、二人の目的が噛み合った瞬間であった。
「……そうか。お前はもう、ひとりじゃなかったんだな」
周囲の人々の様子を見て、士郎は悟る。そんな中、美遊がイリヤの加勢をする姿が見え。
「ひとりじゃないし、守られるだけのお姫様でもなかったわね」
「今のあの子は誰かに頼ることも出来るし、あたし達も背中を預けられるほどあの子を頼っているわ」
クロとリナに言われ、やれやれとため息を吐く士郎。
「参ったな。兄の威厳が無くなりそうだ」
そう言った次の瞬間。
「いやしかし、あの破廉恥な格好はいったい…。兄として注意すべきだろうか」
「もしもーし、士郎さーん。気持ちはわかるけど、今はそれどころじゃないでしょ?」
「そうそう。まずは…」
リナとクロに言われ、気持ちを正す士郎。
「ああ、まずはこの雑魚を蹴散らさなきゃな」
新しく干将・莫耶を投影し言った。
「……おぞましいな」
アンジェリカは言う。
「
そう言いながら、空間置換によって上下を繋ぎ合わせて刀剣類を永続的に落下させるアンジェリカ。
「なに、あれ…」
「空間を上下に繋いでループさせ、宝具を加速させているのか!?」
士郎が考察を述べた次の瞬間、その内の一振りが置換の向きを変えて放出される。それはまるで、ライフルの如きスピードだ。同時に迎撃は不可能と悟り、士郎とクロが同時に
「馬鹿のひとつ覚えか」
アンジェリカは至って冷静である。
「極限まで研ぎ澄ませ」
士郎がクロに言い聞かせるように言う。
「一手一手が致命。一瞬一瞬が必死。俺達が今見るべきは、生と死の境界。読み切れ!」
と。このタイミングで。
「
今まで静観していたリナが光球を放つ。ただし、いつもとは違いアレンジされたそれは、リナによって軌道を操られ。
「ブレイク!」
アンジェリカの正面まで誘導された光球を、同じくアレンジによって破裂させた。巻き起こる爆炎はアンジェリカにダメージこそ与えなかったが、その視界を封じる。
「そして勝ち取れ! 五秒後の生存を!!」
士郎とクロが二対ずつ、四対の干将・莫耶を投擲し、自身は一対ずつ、バスタードソードサイズに鱗が着いたような姿…オーバーエッジに変形させた干将・莫耶を手にして駆け出した。
一方アンジェリカは、覆われた煙に浮かぶ投擲された剣の軌跡を軽く目で追う。
やがて目前に士郎が姿を現し剣を振るう。[鶴翼三連]…二対の飛来する双剣と、自身が振るう一対の双剣による斬撃の同時攻撃。更に二人の使い手によるその二重。……だが。
「無駄だ」
半球状に展開された空間置換によって、その全てが躱される。
「爆煙のおかげでむしろ軌道が読みやすかった」
リナに対して皮肉を言い、手にした剣を振り上げ。
「死ね」
そう言った直後に気がついた。
「だから、必ずお前は最も信頼する
士郎が吐き捨てるように言った瞬間、
(な…、空間置換の意識外…。そうか。こいつは転移魔術の使い手…!!)
(不思議。頭の中がかつてないほど澄み渡ってる。どうしてなの?
クロがその理由を知るのは、もうしばらく後のことだった。
「
クロからの攻撃によって意識が逸れたアンジェリカに、リナは精神にダメージを与える術を放ち、そして。
「お前の宝具も見飽きたよ。道を譲れ、英雄王!!」
駆け出した士郎がすれ違い様に、投影した剣を解き放つ。致命傷にこそならなかったものの、そのいくつかはアンジェリカに傷を負わせて。
パキイィィン!
遂に夢幻召喚を維持できなくなり、カードが排出され、アンジェリカは仰向けに倒れ込んだ。
「辿り着いたぞ、ジュリアン!!」
最頂部に辿り着いた士郎が叫ぶ。
「この屑カードがァ!!」
ベアトリスが割って入ろうとするが。
「
リナが爆風を放ち足留めをする。と、同時に、士郎の後押しにもなっていたりする。まさに天才魔道士たるところだ。
(もう言葉はいらない。お前の
その想いと共にジュリアンを斬りつけようとした、その時。
「駄目ですよ。先輩」
その声と共に莫耶が奪われ、士郎は腹部を斬りつけられた。
「う…そ…」
そう声を漏らしたのは、しかし士郎ではなく。
「どう、して? ……桜ねーちゃん?」
戦闘において、普段は最も冷静なはずのリナであった。
今回のサブタイトル
[Fate/stay night]主人公の名前から
今回、リナによって早期ネタバレ(アーチャーの正体)してます。まあ、イリヤ達は普通に過去編で知ることになりますが。
リナの火炎球、実はあまり役に立ってません(笑)。せいぜいが、クロの転移が原作よりも気取られにくくなったくらいです。
次回「ズーマ」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!