Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
イリヤの身体からとてつもない量のエネルギーが放出される。それはさながら嵐のようだ。
「何が起きてるの」
「イリヤ!」
リナが名前を呼んでも返答はない。
「なんでイリヤからこんな膨大な魔力が」
そう。イリヤから溢れ出すエネルギーの正体は魔力。それは人間が内包できる量を遥かに越えている。
ざっ…ざっ…
足音が聞こえる。敵が近づいてくる音だ。
鎧はすべて砕け散りぼろぼろの姿だが、その殺気と魔力はいささかも衰えていない。
「
「「え?」」
リナと美遊が聞き返すがそれに反応はしない。
「
「ちょっとイリヤ!?」
「
今のイリヤには周りの声は聞こえていない。ただ、目の前の敵を
「どうやって? …手段? …方法? …力?」
イリヤは思い出したかのようにスカートのポケットに手を突っ込む。
「力ならここにあった」
手にしていたのはアーチャーのクラスカード。飛行訓練の時に凛から預かったまま返しそびれていたもの。
手をのせた状態でカードを地面に置く。するとそこを中心にして魔法陣が展開される。
「
イリヤが一言唱えると、魔法陣から光が立ち昇りイリヤへと集束されていく。
そして。光が治まったときそこに居たのは、黒のボディアーマーの上に上下に別れた赤い衣装を纏ったイリヤだった。手には限定展開したときに現れた黒い洋弓が握られている。
「嘘、どうして…」
美遊が小さく呟いた。
ダンッ!
イリヤが大きく跳躍する。右手にはいつの間にか三本の矢が握られており、それを弓につがえる。
がっ! がっ! ギィン!
敵は放たれた三本のうち二本の矢をかわし、かわしきれない一本を剣で弾いた。
剣を振り抜いた敵の元へ飛びかかるイリヤ。両手にいつの間にか、黒と白、一対の中華風の剣が握られている。
イリヤはそれを同時に上から切りつける。敵の肩口を見事に切り裂くものの、向こうも剣を横凪ぎに切りつけてくる。
イリヤはバック転をして攻撃をかわし、宙へ跳び跳ね剣を捨てる。再び弓と矢を出現させると敵めがけて矢を射た。
敵は上半身を捻り矢をかわすが、空間をネジ切りながら飛来するそれは敵の頬を浅く抉りバイザーの一部を砕いていった。
その時。
「
リナの力あることばと共に敵を黒い何かが包み込んだ。
あのイリヤが黒騎士、いや、アーサー王と対峙してる。はっきり言って信じられない光景だけど、現実にいま起きていることなのだ。ならばあたしがやることは決まってる。
「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
「え? リナ!?」
「親友が戦ってるのに見てるだけって訳にゃイカンでしょ?」
そう言ってあたしは呪文を唱えながら駆け出した。
イリヤはアーサー王の横凪ぎの攻撃をかわし、造り出した矢を射る。
アーサー王はかわしたものの、頬を浅く抉った。
よし、今だ!
「
アーサー王が黒い何かに包まれる!
「■■■■!」
声ではない声をあげ、アーサー王は黒い何かを弾きとばした。おそらく一気に魔力を放出したんだろうけど、それにしたってなんちゅー耐魔力だ。そこそこ強い黒魔術だぞ、あれ。
とはいえさすがに片膝をついている。
しゅたっ!
跳躍したイリヤがあたしの横に降り立つ。あたしを見るその瞳には敵意と同時に戸惑いの色が浮かんでいた。ふむ、それなら少しでも敵意を解いておくか。
「イリヤ。あんたがあたしの知ってるイリヤじゃないのは気づいてるわ。でも、あんたもイリヤだってこともわかってる。だから、あたしにも一緒に戦わせて」
するとイリヤがぷいっ、と顔を背ける。しかしその耳は仄かに(辺りが薄暗いので)赤黒くなっていた。
おや? もしかしてツンデレてるのか? なんだ、結構可愛いやつじゃない。
なんてやってる間にアーサー王は再び立ち上がり剣を構え直した。敵が立ち直るのを待つなんて愚策以外のなにものでもないけど、しかしあたしとイリヤにとっては必要な時間だった。
ともかくあたしは前へ出て呪文を放つ。
「
一方のイリヤは再び一対の中華剣を出現させアーサー王に投擲するが、それはあっさりと弾かれる。が、イリヤの両手にはまたもや中華剣が握られていた。
なるほど、アーチャーの能力は武器の製造といったとこか。
イリヤは手にした剣を再び投擲するけど、それもやはり弾かれてしまう。そしてさらに同じ剣を造り出す。
はて、イリヤは一体何をしたいのだろうか。
ふと、視界の隅に四つの影が映る。あ、そういうこと。
理屈はわかんないけど、弾かれた剣が再びアーサー王に向かって飛来する。
イリヤはアーサー王を切りつけるためにまたもや跳躍した。各方向からの同時攻撃。初見でそのすべてに対応するのは無理だろう。
しかしそこは騎士の王と誉れ高いだけはある。攻撃を受けることよりも、確実にイリヤを仕留めることに狙いを定め、剣を突き出す。
……ことは出来なかった。
突然アーサー王の身体が縫い止められたかのように硬直する。そこへイリヤが放ったすべての攻撃がヒットした。
イリヤは反撃に備えて直ぐ様距離をとる。
「■■■■■!!」
苦痛か、はたまた怒りか。アーサー王が雄叫びをあげる中。
「
イリヤとの距離を測りつつ放った術が、彼女の身体を爆炎に包む。
よし、思いの外上手くいったっ!
イリヤが攻撃に入る直前、あたしは隠し持っていた
そう、さっきの
「「!!」」
爆炎の治まる中、アーサー王は今だ立っていた。傷口からは血が流れ、服のあちこちが焼け焦げている。
それでもその闘志は些かも衰えていない。欠けたバイザーから覗く金の瞳があたし達を睨み付ける。
再び。エクスカリバーから暗き光が溢れ出す。
やばっ、宝具の二撃目か!?
「逃げて! イリヤスフィール、リナ! さすがにあの聖剣には勝てない…!」
離れたところから美遊が叫ぶ。
うん、あたしも同意見だ…、って美遊のとなりにサファイアが。ということは、凛さん達は無事ってことか。
「
「え!?」
イリヤが発した言葉にそちらを見ると、彼女の右掌に魔力の光が現れ剣を形造る。それは、アーサー王が手にするそれと同じもの。ただし一点、曇りひとつない輝かんばかりの刀身だという違いはあるけれど。
そうか、あたしは勘違いをしてた。
アーチャーの能力は武器の製造じゃなくて、武器の複製。分かりやすく言えば、贋作、模造品を造る能力だったんだ。
ただし、あの中華剣や捻れた矢を見る限り、武器が持つ能力もしっかりコピーしてるみたいだ。
ならば、今イリヤが持つ聖剣にもその能力が宿っているんだろう。どの程度の再現率かまではわからないけど。
「…見せてよ」
え、イリヤ?
「見せてよ、あの術」
!! そうか。
「ライダーと戦った時に不発だったあの術を使えっての?」
一瞬だけあたしを見るそれは、肯定を意味するものだったんだろう。
よーし、それならやってやろうじゃないの!
黄昏よりも昏きもの
血の流れより紅きもの
時の流れに埋れし
偉大な汝の名において
我ここに 闇に誓わん
竜破斬の詠唱を始めるあたし。しかし。
「
やはり、向こうの宝具発動の方が早い。でもあたしは慌てない。だって、
「
イリヤがいるんだから。
我等が前に立ち塞がりし
すべての愚かなるものに
「「
解放された二振りの聖剣の力がぶつかり合う。
方や深淵暗き反転せし黒光。
方やすべてを照らす曇りなき極光。
お互いの力は一歩も譲らずにせめぎあっていた。
我と汝が力もて
等しく滅びを与えんことを!
そんな中、あたしの術が完成する。見てなさい、イリヤ! これがあたしの…!
「
魔力の赤い光がアーサー王へと集束する!
ズドゴオォン!!
宝具が発動中だった為に身を守る術をもたなかった彼女は、竜破斬の直撃を食らった。
爆煙の晴れてゆく中、アーサー王の姿はなく。ただ、一枚のカードが残されているだけだった。
どさりっ
あたしの目の前でイリヤが倒れた。それと同時に身体からアーチャーのクラスカードが強制排出される。
「イリヤスフィール!」
美遊が名前を言いながら駆けてくる。
あたしはイリヤのそばでしゃがみ、様子を確認。
「リナ、イリヤスフィールの様子は!?」
「大丈夫。魔力を大量に消費したショックで気を失っただけよ」
駆け寄った美遊に説明するとホッと胸を撫で下ろす。をや? もしかしてデレ始めた?
まあ、それはいいとして。
「美遊、それとサファイア。イリヤについてなんだけど」
「?」
『何でしょうか』
「おそらくだけど、目が覚めたらこの出来事を覚えてないと思うの」
戦ってたのは別のイリヤだからね。
「どうして、そう思うの?」
『理由を伺えますか?』
「うーん、あたしもちゃんと把握してる訳じゃないから…、今はまだナイショってことで」
別のイリヤの事なんか言えるわけないし、実際分からないこともある。
「そんなわけだからイリヤにはこの事は伏せといてね。あと…」
『ルヴィアさま、凛さまにもイリヤさまのことは内密に、ですね』
「そーいうこと」
なかなか聡いステッキで助かるわ。いや、サファイアも同じ結論に至ってたのかも。
「さてと、二人はイリヤのこと見てて。あたしはカードの回収してくるから」
そう言ってあたしはカードの元へ歩き出す。今回はあたしがとどめをさしたんだから、あたしに回収の権利がある。
あたしはカードを手にし、そのクラスを見る。
[
カードにはそう書かれていた。
こうして今夜の、完全想定外のカード回収は修了した。
大きな謎を残したまま…。
原作では「
リナに竜破斬を促したという事実。
リナとの間に何やらフラグが立った模様(笑)。
次回「束の間の休息と新たな脅威」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!