Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
「38度2分…、少し熱がありますね」
銀髪で赤い瞳の女性が体温計を見て言う。
彼女の名前はセラ。イリヤの家で働くメイドの一人だ。
普通の家でメイドというのもすごい話だが、これには理由がある。
イリヤの両親がアインツベルン本家を出奔した際についてきてくれたのがこのセラと、もう一人リーゼリットだったのだ。
それ以来、仕事で世界中を飛び回っている両親に代わり家事をしてくれている。というか、母に家事をさせてはいけない。特に料理は。
閑話休題。
「大事をとって、今日はお休みしましょう」
「えー、セラ過保護すぎー」
イリヤがぶーたれる。
「過保護で結構です。万が一があっては
そう言って部屋を出ると、セラはひとつ息を吐く。
一階に降りたセラは、食器をすでにかたし終えていた士郎に、
「わたしの仕事を奪わないでください!」
とか叫んだために士郎はそそくさと登校していった。
いつものやり取り。ただし今回は人払いという別の意味合いもあった。
「で、どうだったの?」
もう一人のメイド、リーゼリット、愛称リズがいつも通りの低いテンションで聴いてくる。
「ほぼ間違いなく[力]の影響でしょう」
セラが語りだした。
「イリヤさんの封印が一時的に解けた形跡があったわ。10年間蓄積されてきた魔力の一部が解放されたとみて間違いない。…問題は封印が解けてしまった原因ね」
右手を額に当てるセラ。
「あの封印は、死の瀬戸際とかにならない限り外れることはないのに! もしかしたら厄介な事件に巻き込まれているのでは…!」
「考えすぎだってー」
リズは至って能天気に返すが、生真面目なセラはそうはいかない。
「…あの少女のこともあります」
「リナのこと?」
「彼女はなんの目的をもってイリヤさんに近づいたのか。魔術師が接触するなんて、あってはならない事なのに!」
「んー? リナ、良い子じゃん」
「貴女はなに懐柔されてるんですか!?」
相変わらず能天気なことを言うリズに、さすがにキレるセラ。
「封印だって事故に遭いそうになったとか、そんなんじゃないの?」
「それはそれで問題です!! ……というか最近のイリヤさん、わたしに隠し事してるような気がするんですけどっ!!」
ここまでくると、年頃の娘をもった
年頃の娘なんてそんなものとリズは言うが、いい加減すぎるとセラが返し、メイドの本分をわすれて…、と説教モードへと移行していく。これをもって二人の会話は日常のものに戻ったことを意味していた。
あたしは今、とんでもないものを目撃している。パンツ一枚のイリヤが、メイド服姿の美遊に後ろから抱きついていたのだ!
いきなりなにを言ってるんだと思われるかもしれないが、これは紛れもない事実である。その証拠に、あたしと一緒に現場を目撃した雀花、那奈亀、龍子、美々の四人もあまりにもの事に硬直しているくらいだ。
とりあえず、状況を少し整理しよう。
とは言ってもたいしたことはない。学校を休んだイリヤのお見舞いに来たのだ。
あたしには休んだ理由も予想がついてるけど、雀花達は風邪かなにかだと思ってるに違いない。那奈亀なんかワザワザお見舞い用にプリンを購入してる。
そう、基本的には良い子達なんだ。一癖二癖あるけど、そんなの向こうの世界じゃゴロゴロしてたし。てか、ゼフィーリアのゼフィールシティじゃ普通にいたわ。今考えるととんでもないトコね、あそこ。
話が逸れたけど、そんな訳でイリヤん家に来たあたし達はリズさんから、イリヤは目を覚ましてて体調も快復してると聞いて、それなら気兼ねないと突貫したら前述のようなことになってたのだ。
「ハダカ!? てかメイド服!?」
「美遊さん!? どうしてここに…」
「プレイか! プレイなのか!」
「写メ撮らせてもらうねー」
硬直が解けると雀花、美々、龍子、那奈亀が色々と尋ねていく。イリヤはその状況に四苦八苦だ。
それを生暖かい目で見てたあたしはふっ、と笑みをこぼす。
「リナ?」
「イリヤ。あんたはノーマルだと思ってたけどそっちの方が趣味だったのね…」
「やっ、違うからっ!
うんまあ、そんなとこだとは思ってた。ヘンなスイッチは想定外だけど。
じゃあにーちゃんLOVEはノーマルなのかって話だけど、血は繋がってないから問題はないだろう。
「! リナ、もしかしてからかってたの!?」
あたしがニヤニヤしながら見ているのに気づいて、イリヤもようやくからかわれている事が分かったようだ。
「いやー、わたわたしてるイリヤを見てたら
「〜〜〜リナのばかっ!」
イリヤは顔を赤くしてむくれてる。うん、やっぱりイリヤはからかい甲斐があるなぁ。
「本日はお忙しい中、お見舞いを賜りましてありがとうございました」
みんなが帰ろうと一階に降りると、セラさんが白いヘンな服を着てご挨拶をしていた。
たしかあれ、アインツベルンの正統なメイド服だったっけ? イリヤと知り合った頃に一回見たことがあるけど、何でまた。
まさか美遊のメイド服に対抗して?
「…それで、何故あなたはここに残っているのですか?」
みんなを玄関から送り出したあと、あたしに言葉を投げかけるセラさん。相変わらずあたしにはきつく当たってくるなあ。
「セラさん、リズさんの二人とちょっとばかし話したい事があって」
あれ、そういやリズさんは? なんて思ってると洗面所の方からひょっこり顔を出した。
「お、なに? ヘンな服」
「わたしたちの制服です!!」
うあ、駄メイドだ、駄メイドがいるっ!
「ただいまーって、うおっ!? セラが懐かしい格好してる!」
な、士郎さん!?
まずい! これは場がカオスになる展開だ! てなわけでここは…。
「さーイリヤ、あんたは部屋に戻んなさい」
「え、ちょっ、リナ!?」
「セラさんは士郎さんをお願い」
あたしはそれだけ言うと二階へ行き、イリヤを部屋の中へ押し込める。
さらにだめ押しで。
「
昔、何となく覚えた施錠の術をかけておく。これで外には出られない。…帰る前に術を解いとかないといけないけど。
ばたん!
士郎さんがあわてて自分の部屋に入っていく。セラさんの口撃から逃げてきたみたい。
よし、こっちもついでに。
「
ばたっ!
ぐーぐー…。
これで邪魔は入らないだろう。
再び一階のリビングまで来ると、セラさんとリズさんが煎茶と羊羮を準備して待っていた。なかなか渋いチョイスである。
「…それで、わたし達になんの用ですか?」
だから、いちいち突っかかんないでっての。
「ぶっちゃけて聞くけど、アインツベルンって魔術師の家系でしょ?」
「「!!」」
「ああ、別にそれでどうこうしようとは思ってないから」
一気に膨れ上がる殺気に一応の予防線を張っておく。しかし、あのリズさんがあんな殺気を放つとは思わなかった。
「それではあなたは、なんの目的をもってお嬢様に近づいたのですか?」
「あー、やっぱ勘違いしてるか」
あたしは頭をポリポリと掻き、言葉を続ける。
「あたしがイリヤと知り合った5年くらい前は、まだ魔術の世界に踏み込んでなかったから」
「え…?」
「どゆこと?」
「あたしの両親は正真正銘の一般人よ。あたしがこっそり魔術を始めたのも2年前くらいからだし」
そう、お父さん、お母さん共に魔術とは全く縁がない。この身体の元の持ち主であるリナちゃんは、生まれつき高い魔力を持ってたみたいだけど。
ん? 魔力…、イリヤの熱…。
「それではお嬢様と知り合ったのは…」
「ん、ああ、ただの偶然。そもそもこの考えに至ったのだって、昨日の魔力の放出を目の当たりにしたからだし」
あたしは考えを中断して答えた。
「ご覧になってたのですか!? では一体どういった状況で…!」
「ごめん。イリヤが内緒にしてんのに、あたしの口からは言えないわ。それにイリヤはその時のこと覚えてないみたいだし」
家族を心配するセラさん達の気持ちもわかるんだけどね。
「ひとつ聞くけど、リナはイリヤのこと、どう思ってる?」
リズさんがいつになく真剣な声で尋ねてきた。でもそんなの、答えは決まってる。
「イリヤはあたしの親友よ」
あたしにとってイリヤがなんなのかなんて関係ない。イリヤはイリヤ。それがどっちの方でもね。
「なら、わたしからもひとつ。イリヤさんは魔術と関わっているのですか?」
はあ…、こればっかりは答えないとまずいわよね。
「…ええ、魔術関連の事件に巻き込まれてる。ただ巻き込んだ魔術師はイリヤの力の事は気づいてないし、教える気もないわ」
「そう、ですか…」
そう呟いてセラさんは考え込む。
−−−あ、メールっぽい…あ、メールっぽい…
おっ、メールだ。…って凛さんから?
「ごめんなさい。例の魔術師から呼び出しがかかったから、話はここまでってことで。あ、呼ばれたのはあたしだけだから安心して」
ホントはイリヤの力についても聞きたかったんだけど、どのみち今のセラさんじゃ答えてくんないでしょうね。
とゆー訳でルヴィアさんの屋敷に、ってあぶないアブナイ。封錠の術を解いてかないと。
さて、ルヴィアさんトコの正面入り口までやって来たけど、改めて見ても大きなお屋敷ね。これをたった半日で建てたって、なんつー経済力してんのよ、エーデルフェルト。
それはともかく、備え付けられた呼鈴を鳴らすと程なくして扉が開き、美遊と執事服に身を包んだ老人が現れた。
「いらっしゃいませ。稲葉リナ様でございますね。お嬢様と遠坂様が奥でお待ちになっております」
「ああ、どうも。ええと…」
「申し遅れました。私エーデルフェルト家の執事をさせていただいております、オーギュストと申します」
オーギュストと名乗った老執事が恭しくお辞儀をした。
「リナ、中へ」
美遊に促され一歩、屋敷の中へと足を踏み入れる。
大広間を通り抜けていくあたし。ここはあくまで日本での拠点でしかないのだろうに作りはしっかりとしてる。調度品も値打ちものばかりだ。ここまでお金持ちアピールをされるといっそ清々しい。
「そーいえば美遊のそのカッコは?」
あたしは美遊のメイド服姿が気になり尋ねてみた。
「わたしはルヴィアさんの
「ふむ、訳ありってやつね」
「それは…」
「ああ、言いたくなきゃ言わなくていーわよ」
口ごもる美遊に、あえて軽い口調で言う。
「まあ、気が向いたときでいいからいつか話してほしいな。友達として」
「え…」
「あれ、友達っての、あたしの思い込み!?」
「そうじゃなくて!
なるほど。確かに二人の、お互いの呼び方が変わってるもんね。
「そんじゃああたし達も、これから友達ってことで」
「うん」
あたしが差し出した右手を、美遊はそっと握り返した。
「…友情を育むのはいいんだけど、ヒトを待たせるのはどうなのかしら?」
凛さんが一枚の扉の前で、片手を腰に当てて立っていた。うん、ここは一先ず。
「「ごめんなさい」」
あたし達は謝った。
部屋の中ではルヴィアさんが待っていた。
「来ましたわね。早速本題に入らせてもらいますけど、新たに三枚のクラスカードの存在が確認されました」
なんと、また面倒な…。
「それで、そのカードの回収を貴女にやってもらいたいのですわ」
ふーん、そうかー。あたしに…、って。
「ええ! あたしが!?」
思わず大声で聞き返す。
一体、なに考えとんのじゃ、このアマ!
心の中で悪態を吐くあたしだった。
魔術師は機械が苦手。凛さんはリナにメールを送るのに10分以上かかった模様。
リナは「スレイヤーズ」二部終了後にいくつかの術を覚えたり開発したりしている設定。
次回「異形なる者、
見てくんないと、暴れちゃうぞ!