Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ   作:猿野ただすみ

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2話目以来の完全なオリジナル回。イリヤの出番は一切ナシ。本編の主人公なのに扱いがひどい、と自分でも思う今日この頃。


異形なる者、合成獣(キメラ)の魔道戦士

≪美遊side≫

わたしとリナは今、柳洞寺にある林の中にいる。リナが言うには剣と魔術の訓練をしている場所らしい。

ここに新たに現れた三枚のクラスカードの内の一枚がある、とルヴィアさん達は言っていた。

正直、()()()()()()()カードが存在しているなんて信じられない事だけど。

 

「…確かに、瘴気に似た気配を感じるわね。でも、いつの間に…」

 

リナが呟くように言う。なら、カードの存在は確かなことなんだろう。でも、何故…。

 

 

 

 

 

数時間前のこと。

 

「ちょっと、どうしてあたしなの!?」

 

リナがカードの回収を指示したルヴィアさんに詰め寄る。そこに凛さんが口を挟んできた。

 

「リナ。あんた[キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ]って人物知ってる?」

「キシュア…? 誰よ、それ」

 

リナの疑問には答えずに、ルヴィアさんと凛さんは頷き合う。

 

稲葉リナ(イナバリナ)、貴女にこれをお渡ししますわ」

 

そう言って、おそらく礼装なのだろう、刃の無い柄の部分のみの剣を五本、テーブルの上に置いた。

 

「うん、ありがと。それでゼルレッチって誰なの?」

「これはわたしがルビーでやったように、魔力を通して刃を編む事が出来るわ」

 

あの、凛さん…。

 

「へー、そうなんだ。んで、シュバインオーグって何者?」

「それで、カードのある場所ですけれど…」

 

ああ、ルヴィアさん。それ以上は…。

 

「はぐらかすのも大概にせーい!!」

 

すぱぱぁん!!

 

軽快な音と共に二人の頭が叩かれる。リナの両手にはスリッパが。

スリッパ、一足揃ってたんだ。

 

「「一体、なんのことかしら?」」

 

それでも二人ははぐらかし続けるけれど。

 

黄昏よりも昏きもの

血の流れより紅きもの…

 

「リナ、ダメっ! こんな所で[ドラグ・スレイブ]なんて!!」

 

わたしは後ろから羽交い締めにしてリナを止めた。

結局、今のは本気で撃とうとしていたわけではなく、わたしが止める事を見越しての行動だったらしい。

それを見た二人は、リナがとてつもない術を唱えていたのを理解したみたいだ。

 

「…シュバインオーグは魔術協会の研究機関のひとつ、[時計塔]に所属する魔法使いよ」

「そして(わたくし)達の大師父でもありますわ」

 

魔法使い…。そんな人が一体…?

 

「大師父から手紙と荷物が届いたの。その手紙には新たなカードの出現と、その回収をリナにやらせるよう書いてあったわ」

「そして荷物にはその概念礼装の黒鍵が入っていて、貴女に渡すよう記されていたのですわ」

「ちょっと、なんであたしのこと知ってんのよ?」

「わたしもそれが気になったから、あんたに聞いてみたのよ」

 

なるほど。ルヴィアさんや凛さんも理由がわからないんだ。

 

『深く考えるだけ無駄でしょう。なにしろ、私達カレイドステッキを創った方ですので』

「「「「あー…」」」」

 

サファイアの言葉にわたし達は思わず納得してしまった。特にルビーをイメージして。多分みんなもそう。

 

「大師父の行動理念を読み解こうなど烏滸がましいことですわね」

「それよりもカード回収の話を進めるべきね」

 

二人は思考を切り替えると、再びカード回収についての説明を始めた。

 

 

 

 

 

そしてわたし達はこの場所へやって来た。ここを選んだ理由は、リナにとって思い入れがある場所だから。

 

「じゃあ美遊、お願いね」

 

そしてわたしが一緒なのは、鏡面界へ移動するため。イリヤを選ばなかったのは、今回は突飛な発想より戦闘知識を取っただけ。

 

『…鏡界回廊一部反転。

接界(ジャンプ)

 

わたし達は鏡面界へと跳んだ。

 

 

 

 

≪リナside≫

鏡面界へ来てすぐに、英霊の姿を見つけることができた。さて、今回の敵は。

え…?

あたしは、あまりにもの事に声もでなかった。

()の格好は、()()貫頭衣にフード付きの()()マント、腰にはブロードソードを提げている。

顔は目深に被ったフードでわからないが、おそらくその肌は…。

 

「リナ、どうしたの?」

 

身体を硬直させたまま動かなかったあたしに、心配そうに美遊が声をかけた。

 

「美遊」

 

あたしは振り向き、美遊の肩に手をかける。

 

「リナ?」

眠り(スリーピング)

「え…、リ…」

 

どさり

 

魔法障壁の内側から発動した眠りの呪文で美遊を眠らせる。

 

『リナさま! 一体なにを…』

「ごめんね、美遊。ただ、あたしも()()()なんだ」

 

あたしはサファイアの疑問には答えず、ただ美遊に謝った。

 

「…サファイア、美遊にこんなことしといて何だけど、あたしに力を貸してくんない?」

『リナさま?』

「理由は、後で説明するから」

 

あたしはサファイアに向かってウィンクをする。

 

『…仕方ありません。今はそれが最善と判断します』

「ありがと」

 

サファイアはすぐさまあたしの手元へやって来る。あたしはサファイアの柄を握った。

 

『! これは!?』

「どうしたの、サファイア?」

『…いえ、なんでも』

 

なんか、気になる言い回しね。でも今は、彼の相手をしないと。

多分テリトリーの外なんだろう、彼は未だ動かずにいた。あたしは彼に向かってダッシュをかける。

ぴくり、と反応したそのタイミングで、空いた方の手で一本だけ持ってきた黒鍵に魔力を通して投げつけた。しかし彼はそれを避けようともせずにこっちに向かってくる。

 

がぎぃっ!

 

固い音を響かせて黒鍵は弾かれる。

抜かれた剣があたしめがけて降り下ろされるが、咄嗟に左へ跳んで攻撃をかわした。あたしはそのまま距離をとる。

でも、今の攻撃は…。

 

『今のは物理保護、でしょうか』

「ううん、違う。身体が剣を通さないのよ。…まあ、見てなさい」

 

そう言ってあたしは、間合いに入らないよう距離をとりなから呪文を唱える。

 

風魔咆裂弾(ボム・ディ・ウイン)!!」

 

放った術が、あたしを中心に爆風を発生させ、それに巻き込まれた彼も吹き飛ばされる。

しかし、何事もなかったかのように立ち上がる彼の、顔を隠していたフードがめくれあがっていた。

 

『岩の、肌…?』

 

サファイアは彼の肌を見て驚きの色を浮かべる。

けれどあたしは、わかっていた事とはいえ、彼の顔を見てやるせない思いを感じていた。

 

「ゼルガディス…」

 

思わず、彼の名前を口にする。

と、彼、ゼルはあたしを障害認定したのだろう、テリトリーの外に居ながらもあたしに向かって駆け寄ってくる。

身構えるあたしにゼルは再び上段から切り下ろしてきた。こちらも再び左へと跳んで避ける。

かわされたと見るや、横凪ぎに剣を繰り出そうとこちらを向く。

 

明りよ(ライティング)!」

「■■■■!?」

 

持続時間ゼロの閃光がゼルの目を灼く。

…やっぱり。もがく彼を見てあたしは確信した。

ゼルガディスは今までの英霊達よりも劣化が激しいみたいだ。顕在化したばかりってのもあるだろうけど、それじゃ説明のつかないことも多い。

まず、攻撃が単調すぎる。ハッキリ言ってゼルの剣技は、全盛期のあたしよりも遥かに上だ。

それが二度にわたる上段からの切り下ろし。それを、あたしは同じ方へかわしている。

なのにあの程度の追撃で、さらに明り(ライティング)で目眩ましをもろに食らう体たらくだ。

もう一つ根拠をあげれば、その戦闘スタイル。彼は剣撃に魔法を織り混ぜて戦う、ある意味あたしと似た戦い方をする。

それが、ただ剣を振り回すだけの戦い方なんて…。

ふと、ある考えが浮かんだ。

クラスカード。先の七枚を基準に考えた場合、クラスはおそらく7クラス。うち不明なのが未回収の2クラス。

もし、不明の内の一つが、ゼルの二つ名の一部を冠するものだとしたら?

そしてその予想が当たっていたとしたら、その特性はおそらく…。

 

『リナさま、どうかしましたか?』

 

あたしが考え込んでたのはほんの数秒程度だったけど、今はまだ戦闘の最中。サファイアに心配をかけてしまったみたいだ。

 

「なんでもない。それよりアイツを倒すわよ!」

 

あたしはゼルへ向き直る。彼はまだ、視力が回復していない。なら、今のうちに畳みかけるのみ!

 

烈閃槍(エルメキア・ランス)!」

 

避ける術がない彼にあたしが放った術が直撃、片膝をついた。

 

「サファイア!」

『はい』

速射(シュート)!!」

 

カレイドステッキから放たれた複数の魔力弾がゼルの周囲に着弾、爆煙をあげる。あたしはそこへ突っ込む!

 

「クラスカード[セイバー]、限定展開(インクルード)

 

サファイアは当てたカードを読み取り、その姿を聖剣へと変える。

 

「ハアァァァッ!!」

「■■■!?」

 

ずむっ!!

 

聖剣が、岩の肌をものともせずに彼の胸を貫く。あたしは剣を引き抜き、すぐさま彼から離れた。

ゼルはあたしに一撃加えようと剣を掲げるが、すぐに脱力し腕が下がる。

やがてその身体は霧散し、そこには一枚のカードが残された。

あたしはカードを手に取り、そのクラスを確認する。

Berserker(バーサーカー)

ああ、やっぱり。裏の世界で「赤法師(レゾ)狂戦士(バーサーカー)」と呼ばれた彼に与えられたのはこのクラスだったか。

このクラスはおそらく、名前のとおり狂化が付与されるんだろう。あの戦い方もこれで納得できる。

 

パアァァ…

 

「え…?」

 

カードが突然輝きだし、思わず手を離す。直視出来ないほどの光が収まったそこには。

 

「久しぶりだな、リナ」

「ゼルガディス!?」

 

本来の白い衣装に身を包んだゼルが、明確な意思をもってそこに居た。

 

『リナさま、この英霊をご存知なのですか?』

 

あぁ、約束の事もあるし、答えてあげないとね。

 

「…彼はゼルガディス=グレイワーズ。異世界の魔法戦士よ」

『異世界!?』

「そ。そしてあたしは、…その世界から転生したのよ。憑依ってカタチでね」

『…』

 

さすがに予想外だったんだろう、サファイアは黙ってしまった。

 

「この事は、ルビー以外には黙ってて。まだ、イリヤや美遊に明かすだけの勇気がもてないから」

『…わかりました』

 

サファイアはあたしの気持ちを汲んでくれたらしい。ルビーもああいう性格だけど、口は固そうだし心配はいらないだろう。

 

「ありがと、サファイア。…さて」

 

あたしはゼルガディスへ視線を移す。

 

「ゼル、これは一体どーいう事なの?」

「まあ簡潔に言えば、リナがあのカードを手にしたら、おれが現れるよう仕掛けがしてあったってことだ」

「あたしがって、誰よ、そんなことしたのは!」

 

あたしがカードを手にするの前提ってのがまず気にかかる。この出来事を予測していたとしか思えない。

 

「残念だがおれにも言えることとそうでないことがある。今言えるのは、おれ達と繋がったカードは、本来のカードの失敗作をくすねて改竄したものだってことだ」

 

うあ、結構無茶なことしてない、それ?

 

「さて、ここからが本題だ。そのための仕掛けだからな。

おれが伝えるのは、本来のものを含めたカードの使い方だ」

「それって限定展開(インクルード)夢幻召喚(インストール)のこと?」

「なんだ、知ってるのか?」

「少しだけね」

 

あたしはそう言い、サファイアをひょいと掲げて見せて。

 

「このステッキを使えば限定展開出来ることくらいなら。夢幻召喚はそれが本来の使い方らしいって事くらいね」

「なるほどな。なら、それを踏まえて説明しよう」

言って彼は、クラスカードについての説明を始めた。

 

 

 

 

 

「まあ、ざっとこんなところだ」

 

ゼルが一通りの説明を終える。するとそれに合わせるかのように、彼の身体が光の粒子へと変わってゆく。

 

「時間のようだな。…まあ、なんだ。また会えて嬉しかったよ」

「ゼル…」

 

まったく、相変わらずね、ゼルは。ぶっきらぼうだけど人がいい。

 

「じゃあな」

 

そう言って消えたその場所にはカードが一枚残された。それと同時に鏡面界の崩壊が始まる。

 

「サファイア、美遊を連れてトンズラするわよ!」

『何処の悪役ですか』

 

サファイアの冷静なツッコミが心地よい。感傷に浸っている暇はないのだ。

なにしろ、戦うべき相手はあと二人もいるのだから。




本筋のカード回収は、魔法少女が揃わないため休止という設定。
リナは衣装がえナシの転身をしてます。ただし、リナに配慮してではありません。その説明は、…出せるかなぁ。

次回「白き巫女、正義の(こぶし)!」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!

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