Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
もう少し文章管理能力がほしい。
三枚目のカード回収の翌日。放課後にイリヤ、美遊と一緒に下校して、あたしはカード回収完了の報告のために、美遊と共にエーデルフェルト邸にやって来た。
初めて来たときと同じように、あたしは接客室に通される。
待つこと十数分、ルヴィアさんと凛さん、それとメイド服に着替えた美遊がやって来た。
美遊が紅茶とクッキーをあたしの前に置いて一歩さがる。
紅茶の良い香りに一口。あ、おいし。
茶葉のグレードもさることながら、紅茶を淹れるその技能にこそ称賛を称えたい。一瞬美遊が淹れたのかとも思ったけど、彼女が得意なのは日本料理だとこの間聞いたばかりだ。ということは、これを淹れたのはオーギュストさんか。
「紅茶は気に入っていただけまして?」
「ええ、オーギュストさんにありがとうって伝えといて」
あたしの言葉に二人の魔術師が、一瞬だけ驚きの表情を浮かべる。
「ルヴィアさん達のいたずら」
美遊の一言で合点がいった。要は美遊の淹れた紅茶と思わせたかったのだ。だからすでに淹れてある紅茶を出したのか。
正しいやり方なら道具を持ってきて、ここで淹れて出すはず。このいたずらのためにはそれが出来なかったのだ。
「ま、粗のあるいたずらはおいといて、カード回収の報告ね」
不発だったいたずらなどどうでもいい。あたしは昨日までの報告をする。
「サファイアからも聞いてると思うけど、カードは三枚とも回収出来たわ。うち一枚は、そっちのカードでは未回収のクラス[バーサーカー]。後は[ランサー]と[セイバー]ね」
あたしは回収したカードを広げて見せる。
「…このカードは貰っちゃていいのよね?」
「ええ、大師父が決めたことですもの。異論はありませんわ」
「そう、ならこのカードは返しとくわ」
そう言ってアーサー王のカードを差し出す。
「よろしいんですの?」
「どうせ全部回収したら返さなきゃなんないし、あたしはこの三枚があれば充分だから」
ほんとなら凛さんに渡すべきだけど、あたしを手伝ったのは美遊ってことになってるので仕方がない。
ふわあぁ…
いかん、あくびが出た。さっさと話しを続けよう。
「ところで今晩のカード回収だけど、相手がバーサーカーじゃなかった場合、もしか、した、ら…!?」
なんだ、やけに眠い…、まさか! 紅茶にスイミンヤクが…!?
くっ、はやく、げどく、の…じゅ……も…………。
……
…
「これでよろしいんですの、
ルヴィアさんの問いかけに、わたしは頷き答えた。
「リナは心身ともに無茶しすぎてるから」
「まあそうね。三日連続の一人での戦闘に加え、なにか秘密まで抱え込んでちゃね」
凛さんの言葉にわたしは驚いた。
「あら、
ルヴィアさんが不適な笑みを浮かべる。
「そもそもこの子が使ってる術を、わたし達が全く解明出来ないってのがおかしいのよ」
「
「しかも調べてみたら、両親は正真正銘の一般人。そんな子が未知の魔術を使っている」
「これで秘密を抱えていないなど、到底考えられないことですわ」
わたしは戦慄をおぼえた。下手をしたら、わたしも秘密を抱えていることに気づかれるかもしれない。ううん、もうすでに気づかれてるのかも…。
「
「あ、いえ、なんでもありません」
そうだ、不確定な現状を憂いてもしょうがない。今は目の前の確定事項をこなさなくちゃいけないんだ。
気持ちを切り替えたことを察したんだろう、凛さんが発言する。
「それじゃ確認。今夜のカード回収にリナは強制的に不参加。それ以外はいつもどおり、イリヤと美遊をメインに探索、戦闘及び回収を進める。これでいいのね?」
「はい。イリヤにもそう伝えています」
「それでは
こうして、初めてリナ抜きのカード回収が行われることとなった。
はっ!?
あれ、あたしは一体……!
「今何時!?」
『今は午前4時を少し回ったところです、リナさま』
「サファイア?」
暗闇にうっすらと浮かんだシルエットは、確かにかの魔術礼装のものだった。
「アンタ、どうやってこの部屋に…」
『リナさまが運び込まれたときに、窓の鍵をこっそり開けておきました』
オーギュストさんの仕業ね? もしもの時の対策なんだろうけど、乙女の部屋になんちゅうことを。
「それで、サファイアがここにいるってことは、カード回収で何かあったってことね?」
『はい。じつは…』
サファイアが語ったところによると。
正規のカードの六枚目を回収するため、郊外の森、イリヤの特訓をした場所の更に奥、その鏡面界を探索中に敵の不意討ちがあったそうだ。
攻撃を受けたイリヤは薄皮一枚の怪我ですんだらしいんだけど。
「ひょっとして、武器に毒が塗ってあったとか?」
『リナさま、なぜそれを?』
「うん、もし敵が未回収のクラスだったら[
『そうでしたか…』
エーデルフェルト邸ではそれを伝える前に眠らされてしまった。たぶんあたしを思っての行動だったんだろうけど、なんともまあ、間の悪い。
『…話を続けさせていただきます』
サファイアが再び語り始めた。
イリヤが攻撃を受けたあと、五十人前後の敵に囲まれたそうだ。おそらく宝具による分身、ということらしい。
凛さんは包囲を突破し態勢の立て直しを図ろうとしたけど、イリヤは毒によって体が動かなくなっていた。そこへ敵達がナイフを投擲して…。
『イリヤさまが辺り一帯を吹き飛ばしました』
「!!」
もしかして、また魔力の暴走!?
『魔力障壁を最大限に展開して難を逃れることが出来ましたが、今回はイリヤさまもしっかりと覚えてらしたようで、一人、いえ、姉さんと一緒に逃げてしまわれました』
「そう、ありがと。今日、学校でイリヤと話してみるわ」
『リナさま、よろしくお願いします』
サファイアは深々とお辞儀をして去っていった。
一夜明けての学校。
体育の授業中、わたしは木陰で昨日のことをルビーと話し合っていた。
『…だいたいあんな血生臭い泥仕事は魔法少女のやることじゃありません!』
ルビーが独特の価値観で力説してる。でも言ってることは正しいと思う。
「…どんなに言い繕っても結局は命のやりとりだったんだよね」
『それを怖いと感じるのは、まあ当然のことと言いますか…』
そう、確かに怖い。アサシンの英霊に殺されかけたことも、わたしのせいでみんなに怪我させたことも。でも…。
「どっちかって言うとわたしが怖いのは…」
「イリヤー!」
わたしの声を遮ってリナがこっちにやって来た。
「はぁー、やっと落ち着いて話が出来そうね」
「リナ、なんの…」
「イリヤ、サファイアから話は聞いたわよ」
! もうリナの耳に入ってたんだ…。
「リナ、怒ってる?」
「んん、なんであたしが怒らなきゃなんないの?」
「だ、だって…」
わたしは少し言い淀んで、言葉を続けた。
「前にリナが言ってた『死ぬかもしれない』ってこと、すっかり忘れてたんだよ。だからわたし、アサシンのナイフに…」
「ふむ、まあたしかに、イリヤって始めの方はいつも気が抜けてるわよねー」
うう、そうはっきり言わなくても…。
「でもそれは、注意しないで済ませてきた周りも悪いから。あたしも含めてね?」
あ…。少しだけ心が軽くなる。だけど。
「でも、イリヤが思い悩んでるのはそれじゃないでしょ?」
わたしは心が見透かされてる気がした。
「イリヤは困ったことが起きるとすぐに逃げるクセがあるから。
そっちの悩みも本当のことなんだろうけど、本命ではないわね」
リナは、わたしのことをよく見てる。
時々リナが年上のように感じることもある。わたしの方が早く生まれてるのに。
「イリヤ。話したくなければ、話さなくてもいいよ。ただ、これだけは言わせて」
リナは一旦言葉を区切って、そして。
「イリヤが何に悩んでるのかはわかんない。なにかに傷ついたのか、自分がイヤになったのか、あるいは他のなにかか。
でもね。そんな時は立ち止まって休んだって構わないんだよ」
「え…?」
リナは微笑んで。
「そうすればきっとまた、明日を見つめて歩きだせる筈だから」
『そうですね。どんなときでも前を向いていれば、大事なことを見落としてしまう、なんてこともないですしねー』
「ルビーもたまには、良いこと言うじゃない」
『ルビーちゃんはいつでも良いことしか言いませんよー』
ふふっ
わたしは思わず笑いだしていた。悩みが解決したわけじゃないけど、リナやルビーの言葉で、気持ちもずいぶん楽になった。
「二人とも、ありがとう。
とりあえず今の考えをリンさんにぶつけることにしたよ」
「そう。それは、…後で凛さんに聞くことにするわ」
そう言ってリナは授業に戻ろうとする。
「あ、ちょっと待って!」
そんなリナをわたしは呼び止めて。
「わたし、昨日のアレでセイバーと戦ったときのことを思い出したんだけど…。
リナ、わたしに何か言ったよね? あれ、なんて言ったの?
そこだけ記憶がぼやけてて…」
するとリナは、少しの間思案顔になって。
「ごめんイリヤ。これは機密事項なの。あたしが勝手に話していいことじゃないから」
リナは手を合わせて謝った。
もう、仕方がないなあ。本気で謝ったらこれ以上なにも聞けないじゃない。
「わかったよ。そのかわり、もし話してもいいってなったらちゃんと教えてよ?」
「りょーかい」
そう言ってリナは、今度こそ本当に授業に戻っていった。
放課後。今、わたしは公園でリンさんに会っている。その内容は。
「ふぅん、『休職願い』ね…」
リンさんはわたしが差し出した手紙を見て、そう呟く。
「あのー、ダメでしょうか?」
恐る恐る聞いてみると複雑な顔をして軽く、首を横に振る。
「駄目ってわけじゃないけど、あんたが少し、微妙な立ち位置にいるからね」
「微妙なの?」
『そうですね。魔術師ではないけど一般人とは言えませんからねー』
「原因を作ったあんたが言うなっ!」
リンさんがルビーの輪っかの部分を引っ張りながら怒鳴ってる。うん、わたしもその気持ちはわかる。
「…まあ、イリヤは巻き込まれただけだから、その希望には沿うつもりだけど。でも、今夜のカード回収が終われば、どのみち魔法少女になる必要はなくなるのよ?」
「でも、ただ逃げるのと、ちゃんと考えてやるか辞めるかを決めるのは、たぶん違うことだと思うから」
そう思うきっかけをくれたリナには感謝だね。
「そう、わかったわ。
…それにしても、わたしはてっきり辞めるって言うかと思ってたんだけどね」
「うん、最初はそのつもりだったよ。
…わたし、自分にあんな力があるってわかって、とっても怖いの。自分が自分じゃなくなる気がして。
でも、拒絶する前にまずは向き合ってみなくちゃいけないって思った、思わせてくれた。
そうしたら、辞めるって決めるのは早いんじゃないかなって気がしてきて」
「ふーん。…それってやっぱりリナが?」
「うん。それと一応ルビーも」
『わたしは一応ですかー?』
ルビーは不満の声をもらしてる。まあ、本当はわたしも感謝してるんだけどね? そんなこと言ったら絶対調子に乗るから言わないでおく。
「あんた、いい友達を持ってるのね」
「うん!」
「それじゃあもう一人の友達はどうなのかしら?」
そう言うリンさんの後ろにいたのは、ミユ!
「イリヤ…」
「ミユ、ごめんなさい!」
「え、イリヤ!?」
突然謝ったわたしに、面喰らうミユ。うん、そりゃそうだよね? でも、わたしは謝らなきゃいけないんだ。
「わたしが
「あ、あのときはイリヤも気が動転してたから…」
「ありがとう、ミユ。
でも、それとは別に、ミユ、リンさん、それにサファイア。危険な目に合わせてごめんなさい
あと、最後のカード回収、お手伝い出来なくてごめんなさい」
わたしは思いつく限りのことを謝った。
「…まったく、ここまで謝られたら、なにも言えなくなるじゃない」
「イリヤ、もういいよ」
『わたしはもとより、イリヤさまを責める気はありません』
リンさん、ミユ、サファイア…。
「みんな、ありがとう」
わたしは、泣きながら笑った。
「…そう、イリヤが」
あたしは凛さんとの電話の受け答えしている。
あたしは家を出てカードの回収場所へ向かう途中、凛さんのケータイに連絡をいれてイリヤの事を尋ねていた。
ちなみに両親には「友達が困っているから助けにいく、遅くなったら向こうに泊めてもらう」と言ってある。
『…あんたは、これからイリヤがどう結論づけるか予想できる?』
「いや、さすがに無理。周りの環境にもよるし、神のみぞ知るってやつね」
電話口からため息が聞こえる。
『この件に関しては、わたしたちは静観するしかないってことね』
「そーいうこと」
『わかった。
それじゃあリナ、9時に例のビルの屋上で。遅れたら置いていくからね』
「オッケー。それじゃ」
そう言ってあたしはケータイを切った。
ふむ、ここからならゆっくり行っても充分間に合うだろう。
そんなことを考えていると、前方からものすごい勢いで
ベンツェはそのままの勢いで通り過ぎたかと思うと、盛大なブレーキ音をたてて停車した(らしい)。そして。
「リナちゃんじゃない。お久し振りー」
後ろから声をかけられるあたし。
って、この声は!?
あたしはゆっくりと振り返り。
「…アイリさん!?」
ベンツェから降り立つその人は、イリヤのお母さんだった。
タイトル「脱落!?」のはてなマークはこういう意味でした。
原作では「辞表」だったのが「休職願い」にかわっていますし、公園での展開も随分変えてます。
体育の時にリナを介入させたら、イリヤ前向きになっちゃうじゃん! て感じでああなりました。まさにバタフライエフェクトってやつですね(開き直り)。
次回「
見てくんないと、暴れちゃうぞ!