Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
では16話、ご鑑賞ください。
ドイツの高級車、ベンツェから降り立った女性は、アイリさんことアイリスフィール・フォン・アインツベルン。イリヤのお母さんである。
その見た目は、イリヤをそのまんま大人にしたらこうなるだろうってほどよく似てる。ただ、その大きな胸を見るたびに、将来のイリヤの可能性を突きつけられて少しだけ落ち込んでしまう。
それにしてもアイリさんは、いつみても若々しい。イリヤのお姉さんでも通用するよ、絶対に。
「リナちゃん、こんな時間にどこ行くのかなー?」
アイリさんは少しおどけた感じであたしに尋ねる。
「友達が困ってるから、ちょっと手助けに。
アイリさんこそどーしたんですか? いきなり帰国だなんて。
アイリさんは普段、海外で仕事をしている。
ちなみに切嗣さんはイリヤのお父さんで姓は
「仕事が一段落したからわたしだけ一時帰国、じゃダメかしら?」
「まあ、別にいいですけど」
きっと本当は、イリヤのために帰ってきたんだろう。どんなネットワークを使ったのかは知んないけど、イリヤの異変を察知したに違いない。
「ところでアイリさん。イリヤの事なんだけど、今、ちょっと悩み事があるみたいなの。
あたしも少しだけ助言させてもらったけど、後は家族にお願いするわね」
あたしはちょっと、手を貸してあげただけ。背中を押すのは家族の役目だろう。
「そう。ありがとう、リナちゃん。イリヤはほんとにいいお友達を持ったみたいね」
アイリさんのお礼に、あたしはむず痒さを覚える。普段の演技っぽさがまるで無かったからだ。
…そう、アイリさんの普段のキャラはおそらく演技。そういった面も確かにあるんだろうけど、アイリさん自身の本質を隠すために振る舞っている姿なんだろう。
まったく、イリヤの暴走があるまでは、なんでだろって思ってたけど、魔術師が一般人を装うためだったのね。
「さて、それじゃ早くお家に帰って、イリヤちゃんを愛でながらガールズトークに花を咲かせないとね!」
……たぶん。
集合場所に到着すると、すでにみんな集まっていた。
「ようやく到着ね。…って、どうしたのよ、随分疲れた顔してるけど」
凛さんがあたしの顔を見ていった。うん、そうか。やっぱり疲れた顔をしてるか。
「じつは来る途中、偶然イリヤのお母さんと会ったんだけどね。あのひとちょっと苦手なのよ。別に嫌いなわけじゃないんだけど」
アイリさんのテンションの振り幅にこっちがついていけないのだ。
今回はたいしたことはなかったけど、苦手意識による緊張感が精神的疲労をたかめて、まあ、とにかくつかれた…。
「なんだかよくわかりませんが、とにかく大変だったみたいですわね」
「…まあ、そんなとこね」
凛さんと張り合ってるときのアンタも似たようなもん、とは思ったけどさすがに口には出さない。
「リナ、カード回収には支障はないの?」
美遊が尋ねる。単なる状況確認かと思ったけど、この雰囲気からすると心配してくれてるみたい。
「じょぶじょぶ、だいじょぶ!
なるようになるだば、ならんだば!!」
あたしは自分が生まれる前に放送していた、お気に入りの魔法少女アニメのヒロインがよく言っていた言葉を真似してみた。
「ちょっとリナ、なによそれ」
「気が抜けますわね」
「いーのよべつに。余計な緊張を解くために言ったんだから」
とか言いつつ、実はちょっと恥ずかしかったりする。ま、実際なるようにしかならないんだから、気を張りすぎてもしょうがない。気を抜きすぎても駄目だけど。
「まあ、よろしいですわ。サファイア、頼みますわよ」
『はい。
限定次元反射炉形成
鏡界回廊一部反転
あたしたちの
わたしはただ今、入浴中です。
「やっぱりお風呂は人類史に於ける至高の文化よねー。日本人に生まれてよかったと思う瞬間だわ。あと、ジャパニメーション見てるときも」
『イリヤさんはハーフでしょう? それにその二つが同列というのもどうかと思いますけど』
なんて、くだらないこと言い合ったりしてるけど、気がつけば自然に無口になってしまう。
「みんな今頃カード回収してるんだよね」
『気になりますか?』
「当たり前じゃない」
休職願い出したとはいえ、わたしも魔法少女だ。今は立ち止まってるけど、まだ投げ出したりはしてない。
『ですが、そんな迷いを持ったまま戦いに赴けば、むしろ足を引っ張ることになりかねませんよ?』
「だよねー」
わかってるよ? わかってるけど、気になるものは仕方がないというか。
そんなこと考えてると、ドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきて。
「イリヤちゃん、おひさー! 元気にしてたー?」
「マ、ママ!?」
そこに現れたのは、わたしのママでした。
黒化英霊との戦闘は困難を窮めた。
まず、2メートルを越える巨体から繰り出される、拳による攻撃。ただ振り回すだけのものだが、カレイドステッキの物理保護をうけているわたしでも、直撃されれば相当の痛手を被るだろう。しかも動きが俊敏で、単純な攻撃しか仕掛けてこない今の現状に助けられている面もある。
次に厄介なのは、ある程度強力な攻撃ですらまったく通らないことだ。ルヴィアさんや凛さんの魔術はもちろん、わたしが放つ魔力弾やリナの魔術、確かフェルザレードっていう術も全く効果がなかった。おそらく物理保護や魔術障壁ではなく、常時発動型の宝具と思われる。
そして何より、フィールドが狭い。鏡面界のスペースがビルを囲う程度で、尚且つ屋上から鏡面界の天井部分までも10メートルに満たない。こんな場所では機動力を活かした戦いは難しいだろう。
だからわたしは。
「
魔力弾の高速連射で煙幕を張る。さらに。
「爆炎弾二連!」
「
凛さんとリナの援護が入った。わたしはその隙に[ランサー]を限定展開。
「
因果逆転の槍を真名開放する。
背後から突き出した槍は宝具による守りをものともせずに、相手の胸へ深々と突き刺さった。
やった! そう思った瞬間。
ゴッ!
振り払うように放った敵の拳がわたしに直撃した。
吹き飛ばされたわたしは屋上出入口の壁に叩きつけられる。身体中を襲う激しい痛みで、危うく意識を手離しそうになるが、辛うじて堪えることができた。
「
「確かに心臓を貫いたはずなのに!」
わたしに駆け寄ったルヴィアさんと凛さんが驚愕する中、敵の傷が塞がっていく。そこへ、
「
リナが放った術で、敵は再び動きを止めた。
「みんな! 敵はきっとまた蘇生するはずよ!」
「同感ですわ!」
「撤退よ! あんな相手じゃ勝ち目がない…!!」
リナの言葉に二人は賛同し、凛さんが壁に穴を開ける。
わたしはルヴィアさんに抱き抱えられビルの中を移動していく。
「ここでいいわ。
サファイア!」
『はい!
限定次元反射炉形成!
鏡界回廊一部反転!
その瞬間、わたしは次元移動の魔法陣から外へ出る。
ルヴィアさんの驚く声が聞こえたけど、それすらも乗せて魔法陣の中にいた人たちは実数域へと消えていった。
でも、想定外の事が一つ。
「美遊。一人で残ろうとするなんていい度胸してんじゃない!」
「リナ…!」
どうしよう。リナの目の前であれを使うのは…。
「なにしてんの。
「え…?」
「美遊の秘密がクラスカードに関係してんのくらいは予想できたからね。
まだ契約結んでないなら、チャッチャとやっちゃいなさい」
そう言うとリナはクラスカードを取り出し。
「
白い服に白いマントを纏った姿に変貌した。肌の一部は岩のようにも見える。
そこへ、天井を突き破り敵が追いついてきた。
「美遊! あたしが時間を稼いでるうちに…!!」
そうだ、気づかれているなら躊躇う必要はない。
わたしはセイバーのカードを取り出すと下に置く。するとカードを中心に魔法陣が形成される。わたしは意識を集中し言葉を紡ぐ。
「−−−告げる!
汝の身は我に!
汝の剣は我が手に!
聖杯のよるべに従い
この意 この
ざすっ!
おそらく魔術がかけられてるのだろう、リナの持つ剣が敵の胸に突き立てられる。
「誓いを此処に!
我は常世総ての善となる者!
我は常世総ての悪を敷くもの!」
リナはすぐに身を退くと、剣を構え直す。胸につけた傷は、やはりというべきか、瞬く間に塞がっていく。
「汝 三大の言霊を纏う七天!
抑止の輪より来たれ 天秤の守り手−−−!」
リナが再び敵の懐に入り、剣で胴を薙ぐ。が、なぜかその刃は弾かれてしまう。
敵はリナには目もくれず、わたしに向かって拳を振り下ろしてきた。
「
ガギィン!
夢幻召喚したわたしは、手にした聖剣を盾にして敵の拳を受け止める。
セイバーを夢幻召喚したことで上がった筋力で、敵を押し返し弾き飛ばした。
「美遊、撤退する?」
「撤退はしない」
「よね!」
そう。今日ここで、戦いを終わらせる!
夢幻召喚したあたしたちは敵と互角以上の戦いを繰り広げてる。美遊はアーサー王の俊敏さ、あたしはゼルの防御力によって敵の攻撃に対応していた。
けれどあたしの方は、あまり時間をかけられない。あたしには魔力の供給がないし、今使っているカードにはちょっとした、だけど重大な問題があるのだ。
あたしは、振り下ろしてきた敵の拳を剣で強引に弾きあげる。
……それにしても、やっぱり剣が通らなくなってる。念のためにもう一度、切れ味を増し、魔力を付与する術、[
などと思っているうちにも、美遊が敵の懐に入り、聖剣で腹を突く。さらに、腹を裂きながら剣を抜くと、敵は力なく、床に両膝を着いた。
よし、今のうちに。
「
あたしは夢幻召喚を解除した。
『美遊さま。まさか美遊さまも夢幻召喚出来たとは…』
聖剣姿のサファイアが驚きを口にする。まあサファイアも、美遊の秘密がクラスカードに関係してるのは薄々は感づいていただろうが、夢幻召喚に関しては美遊がここに残ろうとするまで、あたしにすら確信が持てなかったことだ。
「サファイア? その状態になってもしゃべれるんだね」
いや、そっちかよ!? あたしもちょっとは思ったけど!
そうこうするうちに、またもや敵は動きだした。
『四度目の蘇生…! 無限に生き返る相手に勝ち目など…』
「無限じゃない」
「そうね。たかが英霊に不死なんて、オーバースペックもいいとこよ!」
必ず回数制限があるはずと、美遊は聖剣を振るう、が。
ガギィン!
なんと聖剣の刃まで通らなくなっていた。まさか、致命傷を与えた攻撃に耐性をつけている!?
どうやら高度の防御力に自動蘇生、さらにうけた攻撃への耐性強化が一連の宝具の能力なんだろう。
そこまで思考したとき、ふと、嫌な考えが浮かんだ。これはかなり強引な発想だ。けど、アーサー王が女性だったんだ、あり得ない話ではないのかもしれない。
と、美遊が再び敵を斬りつけにいく。だめ、もうアイツには、その剣じゃとどかない!
「
あたしはランサーのカードを夢幻召喚し、駆け出していた。
「
敵の拳が美遊を襲う直前、あたしが拳をうち据え防いだ。
あたしは美遊と共に距離をとると、右拳を腰だめに構える。するとあたしの拳に魔力が集束していくのがわかる。
アメリア、あんたの力、借りるわよ。
「平和主義者…」
一足とびに相手の懐に入り、拳を突き出しながら最後の言葉を紡ぐ。
「クラーッシュ!!」
真名開放した拳が、相手の胸板を貫いた。
あたしはすぐに離れたけど、敵は仰向けに倒れたので反撃の心配はなかったみたいだ。
バキィン!
カードが強制排出されると、あたしは魔力消費のためにがくりと両膝を着いた。
「リナ!」
あたしは駆け寄る美遊の言葉を征し、先程の着想を伝える。
「美遊。もしかしたらアレは、ギリシャの大英雄かもしれない」
『ギリシャの…。まさか!?』
「ヘラクレス!?」
そう。ギリシャ神話の中でもかなりの有名人だと思う。
「あの蘇生はヘラクレスの逸話、『十二の試練』が『死を乗り越える』って形に昇華したんじゃないかと思うのよ」
『なるほど。そのために「死」を与えた攻撃は、「乗り越えた試練」としてダメージを与えられなくなっていたのですね』
「あくまで推測だけどね?」
アメリアの攻撃方法がメリケンサックに昇華したんだ。まだあり得る話だと思う。
ズズン…
どうやらあちらさんは再生を完了させたようだ。
すると美遊はあたしの前に立ち、聖剣を構え直した。
『美遊さま、ここは一度撤退するべきです!』
「撤退は、しない!」
美遊は宣言すると、聖剣の魔力を解放させる。
『美遊さま、どうしてそこまで…』
「そんなの、次はイリヤが呼ばれるからに決まってるじゃない」
そう。あたしと美遊は、イリヤが戦闘に駆り出されないように、ここで決着を着けようとしてるのだ。
「イリヤが初めてだったんだ。わたしを友達と言ってくれた人。だから…」
美遊は大きく振りかぶり。
「
剣から繰り出された極光がヘラクレス(仮)を呑み込んだ。
バキィン!
美遊も魔力消費によってカードが強制排出される。それと同時に倒れ込んだ美遊は、サファイアを遥か前方、崩れた床の近くまで弾き飛ばしてしまう。
「く、戻って、サファイア。早く魔力供給を…!」
けれども。
ドンッ!
崩れた場所から大きな腕が伸び、サファイアに覆い被さるようにして床に手を着いた。
這い上がってきた巨体を見て、あたしたちは戦慄する。
まずい! あたしたちはどちらもまともに動ける状態じゃない。
このままじゃ二人とも…!!
そう思った、その時。
屋上から、魔力の刃を煌めかせながら飛び降りる一人の影。
着地寸前に振り下ろされた刃は、かの者の胸板を縦に深く切り裂いた。
着地した彼女の後ろ姿に、あたしと美遊は同時に名前を呼んでいた。
「「イリヤ!?」」
と…。
今回の話は結構難産でした。よく間に合ったと思うくらいです。
次回「怒濤の攻撃! 友情パワーの大勝利!!」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!