Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
わたしは今、ママと入浴中です。
帰国したママはお風呂場に乱入したかと思うと、「ひさびさに一緒に入りましょうか」とか言って服を脱ぎだし、わたしが入ってる浴槽に無理矢理割り込んできた。
しかも、「成長した?」とか言いながら胸を揉んだりと過剰なスキンシップをとってきたりする。
「ねぇ、留守の間変わったことあった?」
「え? ううん、別に…」
「またまたぁ、あったでしょ? すっごく変わったことが!」
ええっ、まさか!? わたしが魔法少女になったことに気づいて…!!
「家の目の前に建った豪邸!」
あ、そっちか。そういえばわたしも、あのお屋敷が建ったのを目の当たりにしたときに、ものすごく驚いたっけ。
「セラから聞いたけど、イリヤのクラスメイトが住んでるんですってね。
なんていう子なの?」
「ミユっていうの。わたしの新しいお友達!」
わたしが力強く言うと、ママがクスリと笑った。
「もう、随分と仲良くなったみたいね。
どんな子?」
どんな子、かぁ。
「なんて言うか、静かな子。必要なことしかしゃべらない、ううん、多分しゃべることに慣れてないんだと思う。でもきっと、心の中ではものすごくいろんな事を考えてる気がする」
ミユが転校してきた日。ミユからあびせられた言葉がまさにそれだったんだろう。
「それから、運動や勉強も凄いの。一気に一番になっちゃった。誰もミユには…、あ! リナは家庭科の料理実習で、ミユに勝ってた。
でもそれ以外じゃ、みんなミユには勝てないんだ」
「なんでもできる子なのね」
わたしの胸の中に、なにかモヤッとしたものが広がる。
「うん、ミユはなんでもひとりでやろうとするんだ。
わたしとリナとの三人でやろうって決めたことから、わたしが逃げても全然責めなかった」
むしろ、謝るわたしを許してくれた。ぶっきらぼうな態度からわかりにくいけど、ほんとはとっても優しい子。
「最初からそうだった。最初からミユはわたしのことなんてアテにしてなかった。
それに今はリナだっている。
二人はすごいよ。二人ならきっと大丈夫…」
「ほんとうにそう思う?」
え…、それってどういう?
「だってあなた、さっきまであんなに楽しそうに話してたのに、今は辛そうな顔してるじゃない」
わたし、そんな顔してたんだ。
「ほんとは心配でしょうがないんでしょ? それなら手伝ってあげればいいじゃない。どうしてそうしないの?
−−−そんなに、自分の力が怖い?」
……え?
「鍵が二度、開いてるわね。十年間も溜めてた魔力がほとんど空だわ。
こんなに早く解けるとは思ってなかった」
「なにを言ってるの、ママ?」
「きっと驚いたわよね。今までの
なに、どういうこと? どうしてわたしの思いを…!?
「ママ、わたしの力のこと知ってるの?
だったら教えて! あの力は何なの!?」
「さぁ?」
なぁっ!!
「あからさまにすっとぼけないでよ!」
「えーと、ほら、あれよ。
『それは自分で気づかなければ意味がないのだ』とか、『今はまだその時ではない』みたいなっ!」
「なによ、それっ!?」
「あーもー、反論禁止っ!!」
ずべしっ!
DV!? 頭にチョップはひどくない!?
「とにかく、私が言えることは一つ。
[力]を恐れているのなら、それは間違いよ。
力そのものに良いも悪いもないの。重要なのは使う人、あなたの意思。
あなたにどんな力があろうと、恐れる必要はないわ。それは紛れもなく、あなたの一部なんだから」
あ…、そうか。
みんなを傷つけたのもわたしの力なら、セイバーからみんなを守ったのもわたしの力。まあ、止めをさしたのはリナだったけど。
確かに、自分にこんな力があるのは恐怖ではあるけど、使い道や使い方さえ間違えなければ、みんなを守るための力になるんだ。
「ありがとう、ママ!」
わたしは立ち上がり、浴槽から出る。
「行くのね、イリヤ?」
「うん。今でもこの力は怖いけど、もう、前に進むって決めたから」
「そう」
ママはにっこりと笑い、思い出したかのように言葉を付け加えた。
「あ、リナちゃんにもお礼を忘れないでね。アドバイス、もらったんでしょ?」
ママ、知ってたんだ。もしかして、家に帰る途中で会ったのかな?
「うん。わかった!」
わたしは大きくうなずいた。
わたしは服を着て、乾かす時間すら惜しいので髪の毛を拭いただけで表に飛び出した。
玄関先でセラに止められそうになったけど、ママの一声で渋々だけどOKが出た。ママ、ありがと。
家から少し離れたところで人気がないのを確認すると、わたしは転身して空を飛んでいく。目的地はルビーが把握してくれてた。
しばらくして目的のビルが見えたけど、どういうこと? 屋上には、リンさんとルヴィアさんの姿しか見えないんだけど。
わたしが二人に近づくと。
「イリヤ!?」
「イリヤスフィール! どうしてここに…!?」
とても驚いた顔をしていた。
そりゃそうだよね。休職願い出したばかりなのに、ここにやって来たんだもの。
とりあえずわたしたちは簡単な情報交換をすることにした。
わたしは、帰ってきたママに魔術のことは伏せて事情を話したら、一歩を踏み出すための背中を押してくれたことを。
リンさんたちは、生き返る英霊に分が悪いから脱出しようとしたら、離界直前にリナとミユが飛び出して向こうに残ってしまったことを。
「それってもしかして、わたしのため?」
「多分そうでしょうね」
『お二人とも、無茶をしますねー』
「ああ、さすがは
……あれ? なんだかルヴィアさんだけポイントが違うような?
まあ、とにかく状況は把握できた。
「ともかく、イリヤが来てくれたんだからあの子達を助けに行かないと」
うん。と、その前にわたしは、ルヴィアさんの方へ視線を移した。
「? なんですの、イリヤスフィール」
「ルヴィアさん、ごめんなさい」
「え…?」
ルヴィアさんは面食らった顔をしてる。
「公園にはルヴィアさん、いなかったから」
ミユかリンさんから事情を聞いてたのか、わたしの言葉にルヴィアさんは納得顔をした。
「イリヤスフィール。
確かに
…いくら魔術師が利己的とはいえ、それを赦さないほど自分が狭量だとは思っておりませんわ」
「ええと?」
「あんたは! 小学生に何、もって回った言い方してんの! もっと解りやすく、『ちゃんと謝ったから許してあげる』でいいでしょ!」
「それでは名門エーデルフェルト家の矜持に関わりますわ! まったく、これだから極東の山猿は…」
「なんですって!?」
「ストーーーップ!!」
一触即発の雰囲気の中、わたしは間に割って入った。はっきり言って、めっちゃ怖いけど。
「原因を作ったわたしが言うのもなんだけど、今はそれどころじゃないよ!」
『そうですよ。美遊さん、リナさんのお二人を助けなくてはならないのでしょう?』
「ぐっ…!」
「
『失礼な方たちですねー』
いや、わたしも思ったよ?
「仕方ない。今は二人の救出が優先ね」
『そうですよ。文字数的には、すでに折り返しの辺りですから』
ん?
「文字数ってなに?」
『いえ、お気になさらずに』
ルビーは時々、訳のわかんないこと言うなぁ?
『それでは行きますよ?
限定次元反射炉形成!
鏡界回廊一部反転!
わたしたちが鏡面界へ現れた瞬間。
カァッ!!
ズゴゴォォォ…!!
崩れた屋上の床から眩い閃光が溢れだし、その直後に激しい振動が伝わってきた。これってもしかして、
わたしたちが下を覗きこむと、ミユが俯せに倒れ、リナも片膝をついている。
ズズン…
まずい。軽い振動を響かせながら、筋骨隆々の巨人がさらに下から這い上がってきた。
「二人を助けないと!」
「イリヤ! これを!!」
リンさんが、取り出した宝石をルビーの輪っかの天辺に触れさせる。するとそこから魔力が放出されて、光の刃が出来上がる。
「攻撃が通ったら合図なさい。
「さあ行きなさい、イリヤ!」
「うん!!」
わたしは頷いてから、敵めがけて飛び降りた。
敵の意識は二人にしか向いてないのか、わたしには気づきもしない。
ザシャア!
光の刃が敵の胸を深く切り裂いた。
「「イリヤ!?」」
二人がわたしの名前を呼ぶけど、今は返事をしてる暇がない。
「リンさん、効いたよ!!」
宝石の効果が切れたのと同じタイミングでリンさんたちが飛び降りて、
「
「
「「
見事に敵を拘束した。リンさんが「赤字だわよ!」とか騒いでるけど、気にしない方向でいこう。
パシィッ!
ミユの手にサファイアが戻る。
「イリヤ、どうしてここに…」
ミユの問いにわたしは答えた。
「決めたから」
「え…?」
「わたしはこの力で、大事な人たちを守るって決めたの」
「…イリヤ、いい顔してんじゃない」
リナがよろよろと立ち上がりながら言った。
「あなたのお陰だよ、リナ。わたしが前向きになれたのは。だから、ありがとう!」
「! …この間の借りを返しただけよ」
リナは頬を赤らめながら言った。
うーん、明らかに照れてるんだけど、ここでプイッとそっぽ向いてくれるた方がもっとかわいいのに。ツンデレっぽくて。
「イリヤ、いいの? それは、戦い続けるっていうのと同じことなんだよ?」
ミユが心配して尋ねてきた。でも、わたしの答えはもう決まってるんだ。
「ミユ。一度関わったことは、無かったことには出来ないんだよ? だから、関わった人を、大事な友達を見捨てて、前になんか進めないよ!」
わたしの言葉に呼応して、ルビーとサファイアが共鳴し始めた。ああ、今のわたしにはわかる。きっと、わたしたちになら出来るって。
どうやら、落ち着くとこへ落ち着いたみたいね。
まったく、
だけど、あの前向きな考え方は、挫折を乗り越えたってだけではないわね。やっぱりリナのアドバイスが大きく影響したのかしら。
それにしても「関わった人を見捨てて、前には進めない」か。
利己主義の塊である魔術師としては、それはくだらない戯れ言でしかない。だけど、わたし個人としてはその考え方は嫌いじゃない。ってこんなの、心の贅肉ってやつかしらね。
……ん? ふと視線をずらすと、リナがちょっと複雑な表情を浮かべている。一瞬なんだろうと思ったけど、魔力切れで一緒に戦えないのが悔しいんだと気がついた。
ふむ、わたしはあの子の勝ち気なところは嫌いじゃない。仕方がない。ちょっと力を貸してやるか。
「リナ、これを」
そう言って放り投げたそれを、リナは慌ててキャッチする。
「え、
「それを飲み込めば、ある程度の魔力は回復するわ」
そう言ってウィンクをして見せる。
「あ…。サンキュー、凛さん!」
イリヤと美遊はセイバーのクラスカードを、二本のカレイドステッキで同時に限定展開する。
「「
それと同時に聖剣を一本づつ大上段にかまえ、さらに切っ先を中心にして円を描くように、七本の聖剣が現れた。燦爛と耀くそれは、まるで
…というか、あれって
一方のリナは、硝子製の護符を取り付け改造した黒鍵を取り出し、同じくセイバーのクラスカードを当てる。ってまさか!?
「クラスカード[セイバー]、
掛け声と共に、黒鍵は一振りのロングソードに姿を変えた。
あの子、護符を使って限定展開の媒体に見合うまで黒鍵の能力を引き上げたっていうの? なんなのよ、あの子の魔術、ううん、魔道っていうのは!?
ところがリナは、その刀身をはずしてしまった。いったい何を…?
「光よ!」
なっ!? リナの発した一言で、剣には光の刃が生み出されていた。それは、先程のルビーに施したものなど歯牙にもかけないほど強力だというのがわかる。
「黄昏よりも昏きもの…」
リナが以前、ブラフで唱えた呪文の詠唱を始める。
イリヤたちは聖剣の力を発動せずにリナを待っている。
そしてこちらは。
「もう、結界がもちませんわっ!!」
「ええい、もうっ!!」
わたしとルヴィアは、さらに3つづつ宝石を使って結界を補強する。付け焼き刃だけど呪文の詠唱が終わるまではもたせられるはず!
「…等しく滅びを与えんことを!
リナが呪文を完成させ発動させると、剣の刃が真っ赤に染まる。
「みんな、待たせたわね!」
三人が見つめ、頷きあう。
それは結界が破られるのとほぼ同時だった。
「「
「くらえ、
聖剣の九つの閃光と、リナが打ち出した赤光が一気に敵を消し飛ばした。
そして後には、
ところ変わってイリヤの家。
「良かったのですか? イリヤさんを行かせてしまって」
窓の外を眺めていたアイリに、セラが声をかけた。
「心配性ね、あなたは」
「イリヤさんが何をしているのかは知りませんが、封印が解けるなんてよほどのことです。
イリヤさんには普通の女の子として生きてほしい。奥様もそう考えたからアインツベルンを出て…!」
「そうね。でも…。
逃げ出すことで守れるものなんてないわ」
そう、イリヤは自分の意思で進んだのだ。
「さてと、そろそろ行くわね」
「もう発たれるのですか?」
「向こうで
ベンツェに乗り発車させたアイリは、車内で一人呟いた。
「今度帰ってこられるのは、二ヶ月後かな? その時にはきっと、イリヤは笑顔でいてくれるわ」
とりあえず次で、無印本編が終わります。あと、短編を少し書いてから第二部ですね。
次回「リナとイリヤ、友情と一抹の不安?」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!