Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ   作:猿野ただすみ

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桜の黒いところ、書きにくい。


すぺしゃる3・ねーちゃんと リナが慕う() その出逢い

≪リナside≫

「クラスカード『ランサー』、限定展開(インクルード)!」

 

あたしは手にした黒鍵にランサーのカードを当てる。すると黒鍵はメリケンサックへと変貌する。

 

「平和主義者クラーッシュ!」

 

真名開放と共に拳は輝き、振り抜いた拳は大きな岩を粉砕していた。

 

接続解除(アンインクルード)

 

その言葉と同時にカードが排出される。

…うん、どうやら新しく取り付けた宝石の呪符(ジュエルズ・タリスマン)は、傷一つついてないみたいだ。

あたしは今、柳洞寺そばの林の中、秘密の訓練場所に来てる。

ここのところ、DVDを見たり護符を造ったりで訓練出来てなかったので、久々の訓練&新生強化黒鍵の性能確認をしに来たのだ。

 

「これなら繰り返し使っても大丈夫みたいね」

 

とはいえ問題点もある。一度限定展開すると、呪符が魔力を溜め込むのに約一日かかるのだ。

こりゃあ残りの黒鍵も改造しなくちゃなんないわね。

あたしは次にやるべきことを確認し、今日の訓練を切り上げることにした。

 

 

 

 

 

あたしが公園の脇に差し掛かったとき、ベンチに腰かける、高校の制服を着た女の人が目に映った。

 

「桜()()()()()!」

「あ、リナちゃん」

 

あたしの呼びかけに、桜ねーちゃん、…間桐(まとう)(さくら)さんは軽く微笑んで返事を返してきた。

 

「桜ねーちゃん、部活帰り?」

「ええ、そう。今日は午前の稽古が長引いちゃって。先生の機嫌も悪かったし」

「タイガ、…藤村先生が?」

 

そう。担任の藤村先生は、同じ学園の高等部の弓道部顧問をしている。そして弓道部には、桜ねーちゃんの他にも…。

 

「もしかして、士郎さんがらみ?」

「やっぱり、わかる?」

「そりゃあ、ね?」

 

苦笑いをして聞き返してくる桜ねーちゃんに、あたしはうなずき返す。

 

「なんだか先輩、急に用事が出来たとかで部活を休んだんだけど、藤村先生、先輩のお弁当を目当てにしていたみたいで」

「ごはんくんないと、暴れちゃうぞ! みたいな?」

 

なんだか、あたしと一脈通じるものがあるよーな。

 

「さすがに暴れたりはしなかったけど、おおむねそんな感じかな?」

「それで身心共に疲れ果てて、ベンチに腰かけてたと」

「正解」

 

全くタイガは。そこまでにしとけよ、藤村!

…そーいや士郎さんと先生、昔からの知り合いみたいだけど、一体どういう間柄なんだろ? こんど聞いてみよ。

 

「それにしても今日、ここで、リナちゃんに会えるとは思ってなかったな」

「うん?」

 

それってどういう…?

すると桜ねーちゃんはクスリ、と笑って言った。

 

「ちょうど一年前に、ここでリナちゃんと出会ったんだよ」

 

あ…。そうか、ちょうどあれから一年か。

 

 

 

 

≪桜side≫

一年前。中学三年生だったわたしは、その心の在り方が定まっていなかった。

全てを諦めた。それが本来の、わたしのあり方だった。その筈だった。

けれども小学六年生のある日、一人の男子生徒によって別の思いを抱くようになっていった。

家の用事で中等部の兄のもとへ赴いたとき、初めて彼を知った。

彼は放課後のグラウンドで一人、走り高跳びをしていた。バーの位置は、飛び越えるのはまず無理だろうという高さにセットされている。

それでも彼は、何度も、何度も飛び越えようとチャレンジをする。

校舎内の窓越しからそんな姿を見たわたしは、

 

−−−やめろ。

−−−−あきらめてしまえ。

 

そう、心のなかで繰り返していた。

それでも彼は、何度も何度も、何度も何度も何度でも、挑戦し続ける。

 

−−−彼は、なぜ諦めないの?

 

わたしのなかに、疑問が生まれる。この人はどうして諦めないのか。このまま続けていても跳べる見込みなんてほとんど無いというのに。

諦めない彼のその姿をわたしはずうっと見続け、そしてある瞬間、気がついてしまった。

 

−−−がんばれ!

 

いつの間にか、彼を応援していたことに。

それは、驚異であると同時に脅威でもあった。わたしの心の内に生まれた感情に対する驚きと、既に確立していたわたしの在り方が瓦解しかねない恐怖。

そんな自分に愕然としていたとき。

 

ガシャン!

 

さっきまでよりも大きな音に、意識が現実に引き戻される。

向けた視線の先には、マットの上で足をおさえている彼の姿。

このときわたしは、彼のもとへ駆けつけようとした。

けれども、校舎の外れの方から駆けつける女子生徒の姿が見えた。

 

−−−あのひとは!?

 

その女子生徒はわたしの知る人物だった。

ただ、その光景はとても信じられないもの。あのひとは、こんな些末なことに首を突っ込むようなひとではないからだ。

そして理解する。あのひとも諦めずに挑戦する彼を見て、疑問に思ってしまったのだろう。彼は何故、無駄な努力をするのかを。

そう結論付けたわたしは、踵を返してその場から立ち去った。

 

 

 

それ以降わたしは、ことある毎に中等部の前を通り、彼の姿を見かけると目で追うようになっていた。

そうしてわかったのは、それが公序良俗に反するようなことでもない限り、彼はどんな頼み事も断らないということ。そして、わたしの一つ上の先輩で、兄の親友だということ。

中等部に入学してからは、親友の妹ということもあって親しくもしてもらった。

けれども二人が高等部へ進学してからは、ポッカリと穴が開いてしまったかのように、心が淋しさに支配されてしまう。

そして。

進学すれば、また先輩と学校で会える、という気持ちと。

今のうちに、もとの自分に戻ろう、という気持ち。

この二つの気持ちが自分の中でせめぎあうようになっていった。

さらにこの頃、兄の様子が変わってきた。わたしに対して乱暴な態度をとるようになってきたのだ。

恐らくわたしが、先輩のことを尋ねていたのが面白くなかったのだろう。わたしみたいな可愛い妹が、自分の親友のことばかり聞いてくるのだ。気持ちもわからなくはないけれど。

そして。とうとうこの日、兄が爆発した。

放課後、偶々兄と一緒になったわたしは、学校での色々なことをお互いに話し合っていた。

公園に差し掛かったあたりで、先輩が兄と同じ弓道部に入ったという話を聞き。

 

「わたしも弓道、やってみようかな…」

 

そう呟いた私を、兄が力強く突き飛ばした。バランスを崩したわたしは、そのまま地面に倒れ込む。

 

「兄さん!?」

「おい、桜。それってアイツが弓道を始めたから言ってんのか?」

 

兄がわたしを見下しながら言った。兄は、わたしが慕う先輩に嫉妬していたのだ。

 

「ごめんなさい、先輩。わたしのせいで、先輩に迷惑をかけてしまったみたいです」

「桜、貴様っ!!」

 

わたしの贖罪の言葉に逆上し拳を振り上げる。

 

「ちょっとアンタ、何やってんのよ!?」

 

突如かけられた言葉に、わたしたちは振り向いた。

そこには、小等部の制服を着た鮮やかな赤毛の、10才前後の少女がいた。そう、これがわたしとリナちゃんとの邂逅。

 

「なんだ、チビ。これは僕たち兄妹の問題だ。口出ししてんじゃねーよ!」

「兄妹だからって、暴力ふるっていいってことにはなんないでしょーが! このワカメ頭!!」

 

リナちゃんは兄の独特な髪型を見てそう言ったのだろう。これ以降わたしも、心の中で毒づくときはワカメと呼ぶようにしている。

 

「てめぇ、痛い目をみたいのか!?」

「あら、やろーっての?」

 

リナちゃんはポケットに手を突っ込み、あるものを取り出す。

ホイッスル。

この地域の小学校では防犯対策として、生徒にホイッスルを配布している。

それを口許まで持ってきて、リナちゃんは言った。

 

「いま、これをここで吹いたら、素行の悪いお兄さんはどーなるのかしらねー」

「な…」

 

このとき、どちらが悪役かわからない、と思ったわたしは悪くないはずだ。

 

「アンタ、いいお兄ちゃんでいたいなら、うちに帰ってどーゆー対応をすればいいのかをじっくり考えることね」

「くぅっ、覚えてろよー!」

 

そう言って兄は走り去っていった。

 

「兄さん、雑魚キャラの捨て台詞みたい」

「お姉さん、セリフが黒いって!」

「あ…、声に出てましたか?」

「お姉さんも、けっこー大概な性格してるみたいね」

 

リナちゃんは一つタメ息を吐く。

 

「あっ、助けてくれてありがとうございます。ええと…」

「あたしはリナ。稲葉リナよ。お姉さんは?」

「わたしは間桐桜。穂群原学園中等部の三年生です」

「そう。それじゃあ桜さん。そんな地べたに座り込んだままじゃなくて、向こうのベンチに移動しない?」

「あ…」

 

わたしは顔を赤くして立ち上がった。

ベンチに腰かけたわたしたちの間に、長い沈黙が訪れる。だけど。

 

「っだあぁ! 空気が重苦しいわっ!!」

 

リナちゃんがいきなり大声をあげた。

 

「桜さん、何か話しなさいよ! 下らないことでもなんでもいーから!!」

「え、わたしがですか?」

「そーよ! あなたの、黒いのにオドオドしたその性格、心ん中に色々鬱積させてんのが原因と見た!」

「そんな、出会ってまだ間もないのに…」

「あたしの鋭い推理よ!」

 

このとき、この子は何を言ってるんだろう、そう思った。

だけど同時に、事実を言い当てていることに驚きもした。

そしてわたしはリナちゃんに促されるまま、ぽつり、ぽつりと語りだした。

最初は、それこそ他愛もないことを。けれども少しずつ、自分や家族についての悩みを打ち明けていく。

わたしは養子であること。

虐待といって差し支えのない方法で教育を受けていたこと。

それが元で全てを諦める生き方をしていたこと。

数年前に先輩と知り合ったことで考え方に変化が現れたこと。

前の考えと今の考えがせめぎあっていること。

そして、先輩を慕うことで兄との関係がギクシャクしていること。

どうしてこんな小さな子にこんな話をしているのか、自分でもどうかしてると思ったけど、話をやめる気にはどうしてもなれなかった。

それはきっとリナちゃんが、ただじっと、真剣に、わたしの話に耳を傾けていてくれたからだろう。

 

「何て言うかさ…」

 

話を終えたわたしにリナちゃんが語り始めた。

 

「桜さんはもう、昔の桜さんには戻れないんじゃないかな?」

「え?」

「だってさ。もう桜さん、諦めてないじゃない。

諦めてたら、助けたあたしにお礼を言う必要なんてなかったはずよ?

それに…」

 

リナちゃんは優しい笑顔を浮かべて。

 

「諦めた人は、こんな言葉で涙を流したりなんかしないわ」

「あ…」

 

わたしは頬に手をあて、初めて自分が涙を流していることに気がついた。

リナちゃんがわたしの頭を優しく撫でる。相手は年下なのに、それはとても心地よいものだった。

 

「んー、でも、桜さんの性格は、多少の矯正が必要な気がするわね。じゃないといずれ、ヤンデレ化しそう」

「ヤンデレ、ですか」

 

もちろん、この頃のわたしもヤンデレのことは知っていた。そして、自分の心の黒いところもわかっていたので、リナちゃんの言葉はすんなりと受け入れられた。

 

「それで、矯正ってどういった事をするんですか?」

 

わたしが恐る恐る尋ねると。

 

「あたしと友達になりましょ」

「…はい?」

「友達になって、時間が合えばいろんなトコに遊びにいく。

ようは当たり前のことを当たり前にする。今の桜さんにはそれが一番いい方法だと思う」

「そう、なんですか?」

「そうよ。桜さんは依存が強いと思うんだけど、友達と遊ぶってのは相手に任せっきりじゃ成り立たないのよ。

どこへ行きたい、何がしたいってのを話し合ったりするのも、コミュニケーションとして重要なことなの」

 

リナちゃんに言われて、わたしは自分からコミュニケーションをとることがほとんどないことに気がついた。

 

「でも、わたしなんかが友達でいいんですか?」

「違うでしょ。

あたしは桜さんと友達になりたいの!」

 

わたしの胸に、喜びが込み上げてきた。

 

「リナさん…」

「『ちゃん』でいいわよ。桜さんのほうが年上なんだから」

「…リナちゃん。友達になってくれて、ありがとう」

 

わたしはリナちゃんの手を取り、心からのお礼を口にした。

 

 

 

 

≪リナside≫

「あー、そんなこともあったわねぇ」

 

桜ねーちゃんとの思い出ばなしに、あたしは頬をポリポリと掻きながら、明後日のほうを向いて言った。

うん、自分でも顔が火照ってるのがわかる。

いやー、我ながらなかなか恥ずかしいことを言ったもんだ。

 

「でもあの頃はまだ『桜さん』って呼んでたんだよね」

「…そうだったわね」

 

桜ねーちゃんも、あたしに対して敬語だったけどね。

 

「確か『わくわくざぶーん』に遊びに行ったときだったよね。リナちゃん、うっかり『桜ねーちゃん』って」

 

うう、桜ねーちゃん、絶対あたしのことからかってる。

ちなみに「わくわくざぶーん」は、レジャー型の大型室内プールだ。

 

「桜ねーちゃんだって調子にのって、これからはそう呼ぶように言ってきたじゃない」

「だって嬉しかったんだもの」

 

だめだ。この話において、桜ねーちゃんに勝てる見込みがまるでない。なら、話を変えて…。

 

「そーいや、桜ねーちゃんが言ってた『先輩』が、まさか士郎さんだとは思わなかったわ。

それで士郎さんとの仲は、少しは進展したの?」

 

すると桜ねーちゃんの瞳からハイライトが消え。

 

「先輩は相変わらずフラグを建てまくってます」

 

いや、そこで敬語は怖いから。

 

「あ、ごめんね。べつにリナちゃんにあたってた訳じゃないから」

「うん、それはマジで勘弁だわ。

…でも、ま、桜ねーちゃんがいい意味で感情を表に出せるようになってよかったわ。まだ時々黒いけど」

「それは、リナちゃんのお陰だよ」

 

桜ねーちゃんがあたしの手を握る。

 

「ありがとう、リナちゃん」

「いいよ、別に。

友達じゃない!」

 

あたしはかつて、イリヤに言われた言葉を桜ねーちゃんに言った。

 

 

 

 

 

「それじゃあまたね」

 

桜ねーちゃんはそう言って帰っていった。あたしももう、家に帰らないと。

あたしはふと、先程の桜ねーちゃんのことを思い出す。

 

−−−そうだね!

 

あたしの言葉に、笑顔でそう答えてくれた桜ねーちゃん。

気がつくと、あたしの心はとても軽くなっていた。




リナのお陰で桜の黒さは大分ましに。
そして、リナにとってイリヤの「友達じゃない!」は、かなり心に響いていた模様。

次回、すぺしゃる4「ドラまた☆リナ おむにばす」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!
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