Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
イリヤスフィールの分裂
柔らかな陽射しと、小鳥のさえずり。そんな、朝の微睡みのなか。
「イリヤ、起きろよ。遅刻するぞ」
お兄ちゃんがわたしのことを起こしに来てくれた。
「えへへー…」
わたしは大胆にも、両手をお兄ちゃんの首に回す。
「おいおい、寝ぼけてるのか?」
「おはようの、ちゅー」
わたしは思いっきり甘えた声で囁き、お兄ちゃんと唇を重ねた。
………って、あれ?
わたしの意識は急速に覚醒して。その目の前には、顔を真っ赤にして涙目のミユの顔が。
「ホびゃあああーーーッ!!!?」
わたしはあらんばかりの大声で叫んでしまった。
「ごご、ごめんミユ! お兄ちゃんと間違え…、ってそーじゃなくて! 夢で! ドリームで!!」
「お、落ち着いて、イリヤ! 大丈夫、大丈夫だから!」
よりショックを受けたはずのミユが、わたしをなだめてくれる。うう、やっぱりミユはしっかりしてるなぁ。
「ご、ごめんね、ミユ」
「ううん。いきなりでびっくりしただけ」
謝るわたしに、この心遣いが嬉しい。
「でも」
……うん?
「イリヤが求めるならできる限り努力するから、次する時はちゃんと…」
「ストーーップ!!
違うから! その方向性は違うからーッ!!」
最近ようやく落ち着いてきたのに、ここに来てなんというミス! というか、わたしまでそういう性癖って思われたんじゃあ…。
爽やかなはずの朝が、最悪の朝になりました。
「いってきまーす!」
わたしとミユは、勢いよく家を飛び出した。
実は今日、わたしとミユは日直の日だったのだ。ミユと一緒に登校する約束をしていたわたしはしかし、しっかりと朝寝坊をした揚げ句、起こしに来てくれたミユに先ほどのゴニョゴニョである。
しかもこのままじゃ、遅刻は必至だ。わたしのせいでミユまで遅刻させるわけにはいかないよね。というわけで、仕方がないからここは…。
「ルビー!!」
『はいはーい! いっちょいきますかー?』
わたしの髪から飛び出した、携帯モードのカレイドステッキ・ルビー。
『仕方がありません。美遊さま、わたしたちも…』
「周りに人は、いない。今のうちだね」
ミユの鞄から飛び出したルビーの妹、カレイドステッキ・サファイアの言葉にミユが応えてる。
そして。ルビーとサファイアがステッキに変形して、わたしたちはそれを握りしめる。
『『コンパクトフルオープン!
鏡界回廊最大展開!!』』
呪文と共に私たちの衣装は換わる。
そしてわたしたちは
『魔法少女プリズマイリヤ&ミユ!
二期バージョン推参!!』
ルビーが変な決めゼリフを吐く。ってゆーか。
「二期ってなに?」
『お気になさらずー』
まったくルビーは、いつもの事ながら…。あれ?
「服が変わってる」
『二期ですから。……と言うか、作者が魔法少女の衣装をちゃんと表記しなかったせいで、このシーンに感慨が湧きませんよ、まったく!!』
「いや、だから二期ってなに!? とゆーか、作者とか表記ってなんのことーーーッ!?」
ルビーが放つあまりにも謎な言葉に、わたしはたまらず絶叫した。
「んで、ギリギリなんとか間に合ったと」
「うん、面目ない」
あたしはイリヤから、今朝起きた一部始終を聞いていた。と言うか、二期って一体…。まったく、マンガやアニメじゃないんだから。
「海いこうぜ、うみー!!」
おわっ、龍子!? 一体なにごと…?
「夏休みの予定だよ。まだ6月だってのに…」
あ、雀花。なるほど、そーいうこと。
「海? 海に行って、何するの?」
「何って泳ぐに決まってんだろが!
あ、スク水は禁止な! 各自、最高にエロい水着持参で!
うっひゃあああ!!」
龍子は相変わらず、いちいちがうるさい。秘密にしてなきゃ
それにしても美遊のあの発言。あれってまるで…。
「ミユ…、もしかして海行ったことないとか?」
イリヤの問いかけに、美遊はコクリとうなずいた。あ、やっぱり。
「じゃあ一緒に行こうよ、美遊ちゃん!」
「あんたの事だから泳ぎも速いんだろ? せっかく海が近いんだし、行かなきゃ損だよ!」
美々と雀花が積極的に美遊を誘ってくる。
「イ、イリヤとリナが行くなら…」
美遊が決定権をあたしたちに丸投げした。
ただ、嫌がってる雰囲気はない、というか興味はあるけど、比重はあたしたちの方に傾いてるといったとこか。じゃなきゃ、振られてもいないのに美遊があんな疑問を口にするとは思えないし。
ま、返答は当然。
「あたしがこーいったイベント、断るとでも?」
「うん、みんなで行こうね」
あたしと共に快諾するイリヤ。まあ、イベント事が好きなのは普通の小学生なら当たり前、とは言わないけど
……普通か。実際はとても普通じゃない環境にいるんだけどね。
イリヤと美遊は闘う魔法少女だし、あたしはルヴィアさんとこの工房で魔術の研究と魔術礼装造りに勤しんでる。
そもそもが、凛さんとルヴィアさんがカレイドステッキに見限られたりしなけりゃ、あたしたちももっと平穏に暮らしていただろう。もっともそうなると、ルヴィアさんの庇護をうけてる美遊がどうなってたかわからないけど。
そしてその美遊も、相変わらず謎が多い。どうやらクラスカードに関わりがあるらしい、というのはわかったけど、それ以外のことがまったく見えてこない。犯人とは言わないが、一連のクラスカードの事件に絡んでいるとは思うんだけど。黒化英霊に怯まない態度も異常だったし。
……英霊。
−−−聖杯を守り通せってことだ
あのときのガウリイの、あの言葉。一体、どういう意味なんだろう。カード契約の詠唱にも出てきたけど、関係はあるのだろうか。そして美遊も、それに関わっているんだろうか。
どちらにせよ、事件は恐らくまだ解決していない。いずれまた、なにがしかの動きがあるはずだ。そのときにきっと、謎は解き明かされていくに違いない。
……そうだったら、いいなー。
放課後。柳洞寺の特訓場に行くまでの時間潰しに、校内で少しぶらついていると。
「誘拐だァーーーッ!!」
ピイィィィーッ!!
龍子の絶叫と、防犯用のホイッスルの音が聞こえてきた。昇降口の近くにいたあたしは、慌てて外へ飛び出す。すると校門の前には穂群原小の四神+αがいた。
「ちょっと、どうしたの!?」
あたしが声をかけると雀花が答えた。
「あ、リナ。イリヤと美遊が車で拉致られた」
「なっ!!」
ちょと! それって大事じゃない!!
そう思ったけど、那奈亀が。
「でも、あの黒いリムジンは、多分美遊んとこのだと思うけど」
は? エーデルフェルトの? それって一体…。
あたしはしばらく考えて。
あ、魔法少女の仕事か。
ようやくその答えに行き着いた。
そうか。あたしに声がかからなかったのは多分、魔法少女の能力が必要な案件だったのだろう。とはいえ、周りの誤解を招くようなやり方はいただけない。
「あー、あたし、心当たりがあるから確認してくるわ」
いちおー、心配かけないように、誤魔化しておこう。
「お、そうか? じゃあ悪いけどリナ、頼まれた!」
雀花はそう言うと、那奈亀と共にみんなを引き連れて下校していった。
それからしばらくして、あたしはいつもの訓練場に来ていた。
あれ、イリヤたちを探すんじゃないの? なんて思ったやつは甘い! あんなのはただの方便である。相手がルヴィアさん、それに凛さんならば、そしてあたしは必要ないって判断されたのなら、特に心配する必要はないってこと。
それなら、完成した礼装の実験をした方が有意義ってもんだ。というわけで実験開、始…?
ズゴォン!!
突然、地面が脈動する! 地震とは違うこの揺れって、もしかして地脈の異常!?
しばらくして揺れはおさまったけど、一体何がおきたっての?
あたしが原因を調べるかどうか考え込んでいると。
ザザッ!
枝葉を掻き分ける音が聞こえて。
「あら、リナじゃない」
そこに現れたのは、セイバー戦のときに
それになにより、イリヤの肌が小麦色だ。
「ん、リナ? 何黙りこんでるのよ」
……なんだろう。しゃべり方にも何か違和感が。
そして、近づいてくるイリヤを見てあたしは、少しだけ後退する。
「ちょっとリナ、なにを…!?」
「
術をアレンジして三本の矢を作り、イリヤに向けて発動する!
イリヤは二本の矢をかわし、残りの一本を
その隙をつき、跳躍したあたしが両手に持った黒鍵でイリヤの肩口を切り裂く!? ……寸前に、あたしは黒鍵の刃を消していた。
ふぅ…
あたしは息を吐き。
「アンタ、もう一人のイリヤね?」
「あら、もうばれちゃった?」
あたしの問いを、イリヤは悪びれもせずにあっさり肯定する。
「アンタ、どうして…。てか、もう一人の方はどうなってんのよ?」
セイバー戦のときは普段のイリヤと入れ替わってたけど、今回はなんだか違う気がする。なんというか、余計な枠が取っ払われたみたいな…。
「あー…。
イリヤはやって来た方を指差して言った。
ふむ、洞窟にいるってことは。
「アンタたち、分離したの?」
「そうみたいね」
やっぱり涼しい顔で言ってのける。
「理由は…、教えてくんないわね?」
確認するつもりで言ったんだけど。
「そうねー。……でも」
イリヤはあたしに近づいて、両手を首の後ろに回してくる。
「リナにだったら、教えてもいいわよ?」
イリヤは蠱惑的な笑みを浮かべ、そして。
チュッ
ンなあァァァッ!!!?
余りにものことに、一瞬思考が停止しそうになる。が、しかしこれは!
どぐぉっ!
「……ッ!!」
あたしの膝が腹に決まり、イリヤは身体を離す。その隙に、あたしは彼女との距離をとった。
「イリヤ。よくもあたしのファースト・キスを…!!」
「あら…。アッチと一緒の時を頭数に入れなければ、わたしだってファースト・キスよ」
やかましー。あたしには同性とチュッチュする趣味はないのよっ! ……と、心の中でツッコミを入れつつ、実際には別の言葉を紡ぐ。
「アンタ、それだけじゃなくって、あたしの魔力も奪ってったでしょうが」
そう。イリヤがしたのは、ドレインタッチならぬドレインキッス。あたしはすぐそれに気づき、イリヤに蹴りを入れたのだ。
「……ほーんと、リナって不思議よね。小学生とは思えない知識と技能、それに精神力まで備えてる。アナタと比べれば、美遊だって全然お子様よ?」
まあ、否定はできないわね。前世からも含めれば135歳な訳だし。
「しかも、
ん? なに? 魔術回路?
なんだかよくわからない単語が出てきたんだけど?
「色々気になるけど、そろそろイリヤたちも追い付きそうな頃合いだから」
「ちょっと待って!」
すぐにでも立ち去ろうとするイリヤを呼び止め、あたしは一つだけ質問をする。
「あなたはこれから、どうするつもりなの?」
その言葉に一瞬だけキョトンとした顔をし、次いで笑顔となりイリヤは答えた。
「そうね。まずはイリヤを殺すことかな?」
なっ!?
想定外の言葉に、あたしは絶句する。
「じゃ、またねー」
そう言ってイリヤは今度こそこの場を去っていった。
ああ、何て言うか、また一つ厄介ごとのタネが増えてしまったようだ。あたしは一つ、深いため息を吐くのだった。
イリヤの魔法少女の衣装に関しては、完全に自分のミスです。
プリズマ☆イリヤ未読で気になる方は、古本の立ち読みでいいので無印と
次回「ふたりのイリヤ」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!