Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
朝。うーみゅ、見事なくらい目覚めが悪い。時計を見ると、いつもの起床時間から完全に寝過ごしてる。まあ、遅刻するような時間じゃないけど。
うん。原因はわかってるんだ、原因は。アレのせいでなかなか寝付けなかったからだ、間違いない。
おにょれイリヤ、許すまじ! あたしのファースト・キスを奪いおって!!
それにイリヤの命を狙うって…。一体なに考えてンのよ、イリヤはッ!
……って、なんだかイリヤ、イリヤ言ってるとワケわかんなくなりそーね。仕方ない、取り敢えず仮の名前でも付けとくか。
……黒いイリヤだからクロ! って、なんか凛さん辺りが付けそうでやだなあ。ペットじゃないんだし。でも、パッと浮かんじゃったからなー。
よし、それならチョイ足しして「クロエ」にしよう。クロエ・フォン・アインツベルン、愛称がクロ。うん、これなら外国人ぽいし可愛らしい。
はっ!? 怒ってたはずなのに、いつの間にか名前付けを楽しんでるしッ。
……魔道士は気持ちの切り替えが早い。うん、そういうことにしておこう。
いつもより遅めに家を出たあたしは、久しぶりに歩いて登校している。
むしろこういうときこそ走れよ! と、普通は思うだろう。あたしだってそう思う。
ただ、何となくだけど、今日は走っていかない方がいい。そんな気がしたのだ。
あたしは勘に従い歩いていく。そして、ある十字路に差し掛かったとき、左手の方から走ってくるイリヤの姿が見えた。
はて、イリヤは普段、こっちの道は通らなかったハズ。
そしてよく見ると、イリヤは大量の犬に追いかけられていた!
わたしは今、たくさんの犬に追いかけられています。
……なんて落ち着いてる場合じゃなーい! なに? なんで? どうしてこうなった!?
いや、こういうときだからこそ落ち着こう。なんだかさっきと言ってることが違う気がするけど、きっと考えたら敗けだわ。
ええと、事の発端は今朝、テレビでやっていた星占い。蟹座のわたしは最下位。家を出てから愚痴をこぼしてると、ルビーが簡易未来ほにゃらら…、占いモードになってわたしのことを占い始めたんだけど。
【頭上注意】…何もないとこから植木鉢が落ちてきた。
【飛び出し注意】…人の乗ってないダンプカーが突っ込んできた。そして。
【猛犬注意】…今現在です。
うん、やっぱり原因はわかりません。
うわーん! 解決策が思い付かないよぅ! なんて思ってると、わたしの進む先にリナの姿が。
『イリヤさん、次の予報がきましたよー』
へっ!?
『【火気注意】』
火の気って…。猛烈に嫌な予感がしてリナを見ると、なんか呪文を唱えてるっぽい!? ちょっと、こんなとこじゃ人目がって、そういえばさっきから人の気配がない!?
「バースト・ロンド!」
ちゅごどぉん!
「のひゃあああ!?」
キャイ〜ン…
「イリヤ、大丈夫?」
「大丈夫って、確かに犬たちは逃げてったけど! けっこー熱かったから、今の呪文!」
「いやー、助かったならそれでよし!」
「いや、よくないからね!?」
リナに冷静なツッコミを入れていると。
『さあ、次の予報ですよー』
えっ、まだ続いてたの!?
『【水濡れ注意】』
どっぱぁ!
水道管が破裂して大量の水が噴き出し。
『……からの【低温注意】』
「フリーズ・ブリッド!」
「さぶっ!」
水に濡れたわたしの身体を、リナの術の余波が襲う。
『【感電注意】』
電線が千切れてわたしの方へ。
『……に続いての【突風注意】』
「ディミルアーウィン!」
「わぴゃーッ!?」
電線と共にわたしは吹き飛ばされる。
「なんでさ」
わたしは思わず、お兄ちゃんの口癖を洩らしてしまった。
その後も災厄に見舞われ、ようやく校門の前にたどり着いたとき、目に写ったミユにわたしは、
「お、おはよう…、そして、ぐっばい」
これだけ言って倒れこんだ。
「たいした怪我はないわ。
……つまらないわね。次来るときは、半死半生の怪我をしてきなさい」
保健室に運び込まれたわたしは、保険の先生にこんなこと言われてしまいました。
ごめん、リナ。あのとき話し半分で聞いてたけど、この人ほんとに人間としてダメでした。
「まあ、気分が悪いのなら、しばらく横になるといいわ」
先生はそう言ってカーテンを閉める。
「あー、二人とも、ありがとね?」
ベッドに横たわったまま、わたしは二人にお礼を言った。
「なに言ってるの? 友達だから、あたりまえ」
……ミユ。
「いやー。イリヤのそれ、半分はあたしのせいだから…」
ああ、そうでしたね。
「イリヤ、身体は大丈夫なの?」
「平気ー、傷はどってことない」
尋ねてきたミユにそう返したけど。
「あ、そっちじゃなくて、昨日のこと」
あー、そうか。それもあったっけ。
昨日拉致られたわたしたちは、リンさんたちから地脈の正常化の指令をうけ、柳洞寺の林の奥、円蔵山の中腹にある洞窟へ向かった。
途中、リンさんとルヴィアさんが底無し沼に嵌まるっていうハプニングもありながら、たどり着いたそこで魔力を注ぐ儀式を開始。なんでも、大量の魔力を流し込んで地脈の流れを良くするってことだったらしい。
そして儀式は無事終了、と思った矢先、大きな地震が起きて天井が崩落。
そのとき、セイバー戦やアサシン戦のときと同じ感覚になって、リンさんが持ってたアーチャーのカードを
崩落が収まって気がついたら、わたしは二人になってた。
その後、逃げてったそれを追いかけたらリナと遭遇、事情を説明してその日はお開きになった。
「……心当たりはない? あの黒いイリヤの」
「ないない、あるわけないよー。……?」
なんだろう、わたしの返事にミユの反応がおかしい気がする。でもそれ以上に気になったのは、ミユの後ろにいるリナが心当たりありますって表情をしたってこと。ほんの一瞬だったから、気づけたのはほんとに偶然。
ルビーが、わたしの姿をしたコスプレ少女が野に解き放たれたって騒いでる。はっきり言って由々しき事態ではあるけど、今はリナの方が気になって。
「ねぇ、リナ。何か知って…」
リナに問い詰めようと身体を起こした瞬間。
ガシャン!
どぐぉっ!!
窓ガラスを突き破って、サッカーボールが高速回転をしたままベッドの枕、さっきまでわたしの顔があった位置に突き刺さっていた。そして。
パァァン!
破裂したボールの一部がわたしの顔にはりつく。
…………。
「
イリヤが早退することになり、あたしと美遊はそれに付き添う形で同行する。
「二人まで早退することないのに」
ってイリヤは言うけど美遊は。
「普通教育の義務なんかより、イリヤの方が大事」
「……たまにミユの気持ちが重いわ」
ほんとに、ねえ…。
ふい、とイリヤがあたしの方を見る。
「ああ、あたしは寝不足の上にイリヤの災難に巻き込まれて、けっこお辛いのよ」
ちなみにこれは本当のこと。寝不足の体に魔法の連発はさすがにきつい…!?
「避けて!!」
美遊が叫ぶのと。
「
あたしが術を完成させたのはほぼ同時だった。
でも、一瞬の間のあと、複数の矢がイリヤめがけて飛んできた。くっ、さすがに呪文が間に合わないッ!!
「いや〜〜〜ッッ!!?」
おお、相変わらず逃げ足が早い。そんなイリヤの目の前に。
「ほんと、逃げ足だけは速いわね、イリヤ!!」
あたしと同じ感想を述べる少女が降り立った。
「で、出たーーー!!」
『しゃべりましたよ、この黒いの!!』
いや、喋るでしょ。……って、そうか。クロエってば、みんなの前でなんにも言わずに逃げたわね? あたしも、「もう一人のイリヤに会った」としか言ってないし。
「ワタシナカマ、テキジャナイ!」
なんだかイリヤがコンタクトとろうとしてるみたいだけど、さすがにロリポップ・キャンディ差し出すのは相手なめすぎ。
すこーん!
「ひゃっ!?」
イリヤの頭めがけて投げられた白い中華剣が電柱に突き刺さるも、イリヤ自身は身体を落とすように避けて無事だった。
いやー、さすがに肝が冷えたわー。クロエの複製能力、ここまでとは思ってなかったから、つい油断した。ほんと、瞬間的に作り出せるのね。
「むう、また避けた。やっぱり直感と幸運ランク高いわねー。
なるべく自然にやっちゃおうと思ったんだけど…」
クロエの右手に黒の、左手には白の中華剣が出現する。
「しょうがないから直接殺すわね」
「おっと、そうはいかないわよ!」
あたしはイリヤとクロエの間に割って入る。
「……リナ、邪魔する気?」
「あたり前でしょうが! あたしはイリヤを、死なせもしないし殺させもしないから!!」
声を張って言うあたしに、クロエは嘲笑を浮かべた。
「なによ。イリヤなんて、別に助けるほどの、……ってイリヤが逃げたッ!?」
いつの間にか転身して上空を逃げていくイリヤと美遊。
そう。あたしはクロエの意識をこちらに向けて、二人が逃げるための時間を稼いだのだ。
「やってくれるわね、リナ!」
それだけ言うと大きく跳躍して、屋根の上を跳びはねながら追いかけていく。
さて、それじゃああたしも。
「
空へ舞い上がり、イリヤたちの後を追いかけた。
郊外の林の縁まで逃げたイリヤは、電柱の上に立つクロエに魔力弾を放つ。……え? なんか前より、ずいぶんと小さくない?
ぺし
案の定、素手でクロエにあっさりと弾かれた。しかし、これってまさか…。
取り敢えずあたしは近くの枯れ木の上に降り立って、様子を伺うことにした。
その間にも、イリヤはもう一度魔力弾を射出する。先程よりも威力は上がっているものの、素手から剣に変わった程度で、やはり軽く弾かれていた。
『なんかイリヤさんの出力が激減してます!! めっちゃ弱くなってますよー!!』
「そう、弱くなってるんだ。当然よね。
やっぱり、そういうことか。イリヤと分離した際に魔力の源となる部分の大半を、クロエが持っていったってことね。
クロエは二振りの中華剣を構えてイリヤに襲いかかる。美遊が前に出て攻撃を放つけど、クロエはそれをあっさりとかわして懐に入り込み、美遊の両腕をがっしりと掴んだ。そして。
チュッ
……ここで百合展開!? じゃなくって例のドレイン・キッスか!
しまった! こんな事になるなら恥ずかしがらずにキスのこと言っとくべきだったわ。
魔力を吸い尽くされた美遊は、脱力して横たわる。そのほっこりした姿は…、いや、止めておこう。今のあたしはお子様なんだ。
怒ったイリヤが魔力弾を飛ばすけど、あっさりプリティピッチャー返しbyプリティサミーを喰らってしまう。
クロエはすかさず切りつけに行くけど、イリヤはルビーでそれを受け止める。
ううみゅ。そろそろ割って入った方が…、って?
イリヤは魔力を放ち、クロエはそれをかわすために距離をとる。続いて放たれた魔力弾はいつもよりやや扁平気味で。
もしかしてイリヤ…。
その予想通り、次に放たれたのは薄く引き伸ばされた斬撃。それはかつて、イリヤ自身が放ったものやセイバーが放ったものとは比べもにならないほど薄く、そして鋭いものだった。
その魔力刃をかわせずにクロエに直撃って、さすがにアレは不味いっ!あたしは木から飛び降り…、え?
そこには。袖とマント、それにブーツを除いて服が破れ落ちたクロエが立っていた。傷は見当たらないけど、その、……上下の大事な部分が丸見えである。
「……これじゃちょっと戦えないわね。残念」
……をや?
「今日はあなたの頑張りに免じて見逃してあげるわ」
ふみゅ。これって…。
「でも、気を抜いちゃダメよ。油断したら殺しちゃうからね? お姉ちゃん」
皮肉を込めた言葉を残し、クロエはこの場を立ち去る。あたしは再び翔封界を発動してその後を追いかけた。
「油断したら殺しちゃうからね? お姉ちゃん」
わたしに似たアレはそう言うと、何処へともなく去っていく。
「っていうか、その顔で、裸で街に出るなーー!!」
『コスプレ少女からストリーキングに進化しましたねぇ』
いや、それ、進化って言わないからッ!?
わたしがツッコミを入れようとしたそのとき。視界の片隅に上空を高速移動する何かが映り込んだ。慌てて視線を移したわたしが見たのは。
……リナ?
あいつが逃げた方へ飛んでいく、リナらしき人影? だった。
「はぁ…。なんかもー、すんごい疲れた…」
ほんとにもう、あの黒いののせいで一日無駄にした気分だわ。その何割かはリナのせいだけど。
「あーあ、蟹座は運勢最悪って本当だったわー」
「え……、イリヤ蟹座なの?」
ほえっ?
「わたしも…、わたしも、蟹座」
あー、んー……。
「そっか…。ミユも最悪だったよね」
「ううん、意外と悪くは…」
「意外とッ!?」
あうう〜、ミユぅ。これ以上そっちの世界にはいかないで。お願いぷりーず。
わたしは心の底からそう思いました。
リナのクロエ呼び、口には出しません。あくまで区別するために、心の中で呼んでいるだけです。
次回「黒イリヤ捕獲計画」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!