Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
クロエ襲撃の翌日。あたしたちは例によってルヴィアさんちに来ていた。イリヤは初めてらしく、屋敷の中をキョロキョロと見回している。
さて、あたしたちが何でここに集まったのかと言えば。
「というわけで、対策会議よ!」
メイド服姿の凛さんが、【黒イリヤについて】と書かれたホワイトボードをバン! と叩きながら言った。だがしかし。
「
「ありがとうございます」
うん、見事なくらい緊張感がない。凛さんが、
「ちゃんと聞けー!」
って騒いでるけど、気持ちはわかる。あたしもそうゆー意味では、旅の相棒に恵まれてなかったからなー。
もっともルヴィアさんの場合は。
「悠長に構えてられないわよ!
バレたらただじゃ済まないわ!」
これにはルヴィアさんもため息を一つ。そう、さっきのはある意味での、現実逃避だったってわけだ。
「で、さしあたっての問題だけど…」
「リンさん、ちょっと待って」
およ、イリヤ?
「なに? どうしたの?」
「ええと、昨日アレが逃げたあとなんだけど。リナ、あいつのこと追いかけてったよね?」
おおう、しっかり見られてたか。
「成る程ねえ。
リナ、なにか知ってるなら今のうちに吐いちゃいなさい」
うーん、別に隠す気もないんだけど…。
「わかったわ。たいした話じゃないけどね」
あたしはクロエを追いかけた顛末を話し始めた。
−−−あたしが黒イリヤを追いかけていると、少し行った先の屋根の上、そこで彼女は立ち止まり、くるりと振り返った。
あたしは一つ隣の屋根の上に降り、風の結界を解除する。うん、やっぱりか。
「アンタ、服が元通りじゃない?」
「なに? わたしがあのまま街中に出るとでも?」
「いやー、あたしはてっきりストリーキングか、羞恥心を快楽として楽しむドM女かと」
「あんたねぇ…」
青筋たてて怒る黒イリヤに、あたしは真面目な口調で尋ねた。
「ねえ、あなた。イリヤを殺すって言ってたけど、ほんとは少し迷ってんじゃないの?」
この言葉に、彼女は身体をぴくり、と反応させる。
「……何の根拠があって言ってるのかしら?」
「だって服は簡単に直せるし、本気で殺したいなら見逃す必要なんてないじゃない」
黒イリヤは呆気にとられた顔をしてる。そう、彼女は言ってることとやってることが、所々チグハグなのだ。
「そっか、気づかなかった。わたしにも迷いがあったんだ。
……でも! イリヤの命を狙うのは止めないわよ?」
まあ、そんな簡単にいくとは思っちゃいない。イリヤを殺したいってのも嘘ではないだろう。なので。
「アンタがイリヤの命を狙うんなら、あたしは全力で阻止させてもらうわ。……ただし」
「ただし…?」
「アンタらのどちらかが窮地に追い込まれるまでは、基本手出ししない中立の立場をとらせてもらうわ。例外もあるだろうけど」
黒イリヤが目を丸くしてる。彼女にとっては予想外だったんだろう。
「いいの?」
「ま、形はどうあれ、ぶつかり合うのは大事よ?」
「成る程、ね。
でも、リナが見てないところで事を済ませるかも知れないわよ?」
黒イリヤの眼光が鋭くなる。だけど。
「美遊の目を掻い潜って? 結構難しいと思うけど。
それにあたしだって考えてる事もあるしね」
「ハァ…、わかった。それでいいわよ」
黒イリヤは諦めたのか、降参とばかりに軽く両手を挙げて言った。
「ま、今日は約束だからこのまま引き下がるけど、明日以降は覚悟しとけって言っといて」
「ん、りょーかい」
「……ってな感じね」
あたしが話し終えると。
「わたし、その伝言聞いてないんだけどッ!?」
「やーねぇ、イリヤ。今言ったじゃない?」
「わたしの安否は話のついで!?」
いやまあ、確かに、元々会議の合間に挟み込むつもりだったし、ついでって言われたらその通りなんだけど。
「大丈夫、イリヤはわたしが守るから」
「うう、ミユが頼もしいよぅ」
……おや? なんだか昨日から、あたしの株が下がってない?
「ほら、あんたたち。話をもとに戻すわよ」
凛さんが手を叩いて話の軌道修正をする。
「黒イリヤの目的はリナの話の通りとして、問題はイリヤね。
この状況の中、何故か弱体化してる、と」
まあ、予想は出来てるんだけどね。ただ、どうしてそうなったのかがわからない。おそらくイリヤ自身の秘密と、アーチャーのカードが関わっているんだろうけど。
「作戦を決めましょう。……とは言っても、イリヤが狙われている以上やることは一つ。
黒イリヤを捕獲する!」
で! 所変わって柳洞寺傍の林の中。イリヤは魔術処理を施された帯でぐるぐる巻きにされ、うつ伏せの状態で木からぶら下げられていた。
「なんでーーー!?」
イリヤは叫ぶけど、助けに入る人は誰もいない。むしろ。
「ふっ、完璧ね!」
少し離れた茂みから覗き見ていた凛さんが、確信を持って言った。
「本当に効果あるんでしょうか…」
「餌で釣るのは単純かつ効率的なやり方よ」
美遊の疑問に凛さんは自信をもって答える。
「ヤツの狙いがイリヤなら、たとえ罠とわかってても無視できないはず。保険として料理も置いておいたし」
「フ…、貴女の案に乗るのは癪ですけど、完璧な作戦ですわ」
うわぁ、バカだ。バカが二人もいるよ。
……とは言うものの、クロエがこの状況を無視できないであろうことも事実で、そのうちどこかから…。
パキッ
ってもう来たーッ!?
現れたクロエは、イリヤを観察しながらぐるぐると歩き回って。
「なんかあからさまに罠すぎて、リアクションとりづらいわ…」
「「ちいぃっ、バレたか!」」
「「当然よ(です)!」」
ほぞを噛む魔術師二人につっこむ、あたしと美遊。むしろ、バレるの前提の罠だと思ってたんだけどっ!
「まぁ、いいか。いじらしく台本考えたんでしょ?
乗ってあげるわ!!」
「
クロエが斬りかかろうとしたその時、凛さんが手にした帯を思いきり引っ張った。するとイリヤを拘束していた帯はほどけ、中に潜んでいたルビーによって魔法少女に転身。一方のクロエは、帯にがんじがらめにされる、が。
すぱぱっ!
やはりというか、帯を切り裂きあっさりと脱け出した。しかしすかさず。
「
ルヴィアさんが魔術で動きを封じた。
「重力系の捕縛陣ね。
……でも、バーサーカーの時のに比べたら、随分と
ごぎゃがっ!!
なっ、発生させた魔力の塊を叩きつけて、展開してる魔法陣を地面ごと破壊だと!? あたしも結構強引な手を使ったりするけど、クロエも大概よね。
こうして拘束を断ち切ったクロエに。
「今全力の、散弾!!」
上空から、クロエを囲むように魔力の散弾を放つイリヤ。でも、そのやり方じゃクロエには通じない!
爆煙からクロエの背後に飛び出した美遊が歪な形の短剣を突き刺そうとするが、それを難なくかわしてその腕を掴み、動きを封じる。
「
さすがミユ。いきなりウィークポイント突いてくるね」
!! 初見で宝具の真名や特徴を見抜いた?
パキン!
キャスターのカードが排出され、サファイアは元のステッキに戻る。美遊は慌てて距離をとった。
「なんですの、この対応力は!?」
「まるで
予知? 冗談じゃない。あの子は
「すっごいキモい!」
……は?
イリヤ、今なんて…。
「キモいとはなんだーー!!」
クロエが怒って、イリヤに剣を投げた。
いや、なんかよーわからんうちに、イリヤがクロエを煽ってるし。
「やるしかないわね!」
「
凛さん、ルヴィアさんが茂みから飛び出して攻撃を仕掛けようとする。でもそれを阻止するため、クロエはさっきの帯を拾い上げ魔力を通し、二人に投げつけて拘束した。
「うそっ!? 拘束帯を逆利用されたっ!?」
「ああっ、なんか
既視感って、前にも似たようなことでもあったんだろうか?
いや、そんなことはどうでもいい。今はイリヤとクロエの戦いの行方だ。
「
イリヤを守るために美遊が魔力弾を連射するが、クロエはそれをかわしていく。
「
岩で出来た巨大な剣を作り出し、それを盾として美遊へと強引に詰め寄る。美遊は距離を取ろうと後退しながら砲撃を放つが、いつの間にかクロエがうしろに、って
ともかくクロエは、不意を突いて美遊からサファイアを奪い取ると、白い中華剣で遠くへと打ち飛ばした。
「カレイドの弱点そのいち。接近戦。
そしてそのに…」
「あ…」
普段着姿に戻ってしまう美遊。
「ステッキが手から離れて30秒経つか、もしくはマスターと50m以上離れると転身解除。
ちゃんと握ってなきゃダメじゃない、ミユ」
ほう、そんな弱点があったのか。まあ、あたしの場合はゲスト認証だったから、それほど気にする事じゃなかったけどね?
「おまたせ、イリヤ。ようやく相手してあげられるわ」
正面に向き直って告げると、イリヤはペタンと座り込んでしまった。
むぅ、これはさすがに…。
イリヤは地面に座り込み、身を震わせるだけで、なんの行動も起こさない。
「待ちなさい!」
リナが重い腰をあげ、わたしの前に出ようとしてる。でもここで邪魔されるわけにもいかないので。
「
しゅたたたたっ!
投影した複数の大きな剣を、リナを中心に取り囲むように突き立てた。
「リナ。しばらく大人しくしててね」
リナの動きを封じて、わたしはイリヤのもとへ歩みを進める。リナやリンが檄を飛ばすけど、立ち上がる素振りすら見せない。まあ、イリヤのことだから、打つ手なしで諦めたってとこ…。
……ずっぽん!
へ……?
「諦める。そう思ったでしょ?」
イリヤ!?
「よっしゃあああーッ!!!」
リンとルヴィアが絶叫しながら拘束帯を引き千切った。
『まさかこの最終トラップを、本当に使うことになるとは…』
これは、この間あの二人が嵌まった底無し沼!? 地面に擬態させてたのね!
「くっ、こんなもの…っ!」
剣を投影しようと魔力を集中させようとして…、発動しない?
「剣を出現させてたのは、やはり魔術の一種だったようね」
「何をしようと無駄ですわよ」
勝ち誇った顔で見下ろす二人。奥の方では、剣の檻を抜け出したリナが困った笑顔を浮かべている。
「五大元素全ての性質を、不活性状態で練り込んだ
[何物にも成らない]終末の泥の中では、あらゆる魔術は起動しない!!」
五大…、そうか。リンは
「間抜けなトラップだと思うでしょうけど…。
それに嵌まった時点で、貴女の負けは確定したのですわ」
そして、少しの間があって。
「オーーッホッホッホ!!
間抜け!! 間抜けですわー!」
「今時底無し沼にハマるなんて、こっちこそリアクションに困るわーーッ!!」
くうぅ、この二人には笑われたくないけど、罠に嵌まってしまったのは事実。言い返したくても言い返せないッ!! あ、何だか涙が滲んできた。
なんかリナに、
「その涙目、なかなかかわいーじゃない」
なんて言われてちょっと嬉しかったりもしたけど、同時にしっかりと心は折られて。
「うわあああ……ん」
わたしは思いきり泣いてしまった。
……その後、イリヤに手出ししないと約束させられて、ようやくわたしは沼から引っ張り出してもらえた。
冬木から遠く離れた異国の地。街灯りが望める夜の丘の上にたたずむ、一組の男女。
「どうした、アイリ」
煙草を燻らせつつ、ベンツェを挟んだ反対側に立つ女性、アイリスフィール・フォン・アインツベルンに男、衛宮切嗣が問いかける。
「んー、何となくだけど」
軽く前置きをして。
「海の向こうで、イリヤがまたややこしい事態に巻き込まれてる気がするわー」
「ああ?
二週間くらい前にもそんなこと言って日本へ帰ったな。キミとイリヤの感応は、距離では減衰しないのか?」
携帯灰皿に吸い殻を入れながら、再び尋ねた。
「そんな大したものじゃありません。
でも、そうね。距離は関係ないわ。これは−−−」
アイリはくるりと振り返り。
「
ひとつ、ウィンクをして言った。
今回のサブタイトル
エヴァンゲリオンの「人類補完計画」から
実は最後の切嗣・アイリのパートは入れなくても問題ないんですが、ただでさえ少ない切嗣の出番を削るのは忍びなかったので入れました。
次回「イリヤちゃんパニック!」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!