Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
「さて、それじゃあ尋問を始めましょうか」
ルヴィア邸の地下倉庫の一つ。十字形の拘束具に磔にされたクロエの前で、凛さんが言い放った。
「この扱いはあんまりじゃない?」
異議を申し立てるクロエ。
「抗魔布の拘束帯まで持ち出して…。ここまでしなくても危害を加えたりしないわよ。……イリヤ以外には」
「それが問題なんでしょーッ!?」
イリヤは至極当然なツッコミを入れ、あたしたち外野人もあきれた目で見る。まあ、こんな事でぶれるような子じゃないのは、この数日でわかってはいるけど。
そんな中、凛さんが尋問を開始する。
「まずはそうね。貴女の名前を教えてもらおうかしら?」
「イリヤだけど。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
「貴女の目的はなんなの?」
「イリヤを殺すことかなー」
「なら、自分の首でも絞めればいいでしょ」
「わたしじゃなくって、あっちのイリヤだってば」
見事なまでの水掛け論である。ま、凛さんたちがイリヤの肩を持っている段階で、こうなるのは目に見えていたことだ。
「ああもう、どっちもイリヤじゃややこしい!
えーと黒…、クロ! 黒いイリヤだから、クロでいいわ!」
うわ、ホントにクロって付けやがった。クロエも「猫か!」とか言ってるし。さすがにここは。
「ちょっと凛さん、いくらなんでもクロは酷いって。せめてクロエとかにしない? それで愛称がクロ」
すると凛さんがジト目でこちらを見て。
「あんた、実はこっそり名前つけてたでしょ?」
なっ、バレただとッ!?
「認めたくはないけど、あんたってわたしと似てるところがあるからね」
あー、やっぱ向こうもそう思ってたか。
「……話が逸れたわね。
それで、イリヤを殺そうとする理由はなに? まさかオリジナルを消して、わたしが本物になるー、とか?」
「あれ、よくわかったわね。まあ、おおむねそんな感じ?」
ふみゅ。嘘は言ってなさそうだけど、鵜呑みに出来るような回答でもないわね。なんというか、ホントの理由の延長線上に今の答えがあるみたいな?
「……貴女は何者なの?」
それは…。
あたしは、彼女もイリヤであると確信してる。でも同時に、イリヤとは別の存在であるとも思ってる。そういった意味では、確かに気にはなるけど…。
「核心部分? ネタバレはまだ早いんじゃないかなぁ」
ま、そうなるよね。
「……でもリナになら、話してもいいかな?」
「……は? こないだもそんなこと言ってたけど、どうしてあたしだけ…」
するとクロエは、いとおし気にあたしを見つめ。
「リナが好きだからに決まってるじゃない」
…………はい?
「少なくとも、わたしを理解してくれてるのはリナだけだもの」
「えーっと、それってリナのことがLIKEってことよね?」
「LOVEよ」
戸惑いながら尋ねる凛さんに、クロエはしれっと答えた。っていうか、ちょっと、LOVEって一体!?
イリヤを見ると、顔を赤くしながらパニック状態になってるし、美遊はやや期待した眼差しを向けている。
「ク、クロエ? アンタ、そっちの趣味が…!?」
「やーねえ、本来のわたしはノーマルよ。リナは特別」
あたしの問いにきっぱりと答えるけど、そんな特別なら要らないやい。
「まあ、あんたの趣味はこの際どうでもいいわ」
いや、よくないからッ!
「他のことはまたいずれ聞くとして、今はイリヤに関する抑止力を作っておきましょうか」
凛さんの宣言を合図に、ルヴィアさんがイリヤを羽交い締めにする。そして身動きのとれないイリヤに、注射器を構えた凛さんが近づいて行き。
「いあーーーーーッッ!!?」
うん、ご愁傷さま。あと凛さん、注射器の扱いは医療行為だよ?
そんな心の声には当然気づきもせず、凛さんは血をシャーレに取り出し、呪文を唱えながらクロエのおなかに紋章を描く。そしてルヴィアさんがイリヤの腕を取り、その掌を紋章部分に押し当てる。するとクロエを中心とした魔法陣が輝き…。
これって、血液を触媒にした呪術よね。クロエも同様の疑問を投げかける。
「イリヤ」
凛さんの呼びかけにイリヤが近づくと。
ごすっ!
「「あだっ!?」」
頭にゲンコツをくらったイリヤだけでなく、クロエも同時に痛がった。さらにほっぺたをつねられたり、腕の関節をきめられたりする度に、クロエも悶絶している。つまりこれって…。
「痛覚共有。ただし、一方的な、ね!」
「やってくれたわね…」
「
「そう。つまりこれで、貴女はイリヤスフィールの肉奴隷ということですわ!!」
いや、それは違うから。
しかしなるほど。確かにこれは、立派な抑止力だ。もっとも、『死』はおそらくブラフだろうけど。この儀式レベルでは、死まで伝えられるほど強力な呪いは与えられないだろう。
ともかくこれで、イリヤが殺される危険は減ったはずだ。
状況は一応の安定をみせ、イリヤはルヴィア邸を後にする。そしてあたしは。
「
ルヴィアさんに問い詰められていた。まあ、クロエのあの態度を見たら、そんな疑念が出てくるのも当然だろう。
「少し前に、ちょっとした切っ掛けでね。でも、まともに会話したのは分離した後よ?」
詳しい経緯は伏せたまま、当たり障りのないことを告げる。
「そう、ですか…」
あたしにこれ以上、説明の意思がないのがわかったのだろう。ルヴィアさんは黙って考え込む。と、そこへ。
「ルヴィアさん! クロの姿が消えました!!」
美遊が血相を変えてそう告げる。
しかし、凛さんとルヴィアさんの封印結界には齟齬はみられなかったってのに、こうもあっさりと脱け出すとは。
ともかくあたしたちは、凛さんも引き連れて、クロエが向かったであろうイリヤの家へ乗り込む。と、玄関を上がった所で、イリヤが足先を押さえ横たわり、身体を丸めてピクピクと震えている。
「……何してるの?」
「……角に、小指をッ」
凛さんの問いに答えるイリヤ。どうやらクロエがここに来たのは、間違いないようだ。
二人の魔術師はルビーに促されてリビングへと突入する。
「えっ、と、遠坂? ルヴィアも」
「衛宮くん…?」
「シェロ…」
え、士郎さんと二人は知り合いなの?
「ごめんね、衛宮くん! ちょっとイリヤ借りていくわ!!」
「ごめんあそばせー!」
「な、なんだよ、そりゃあ!?」
凛さんがクロエを担いで、ルヴィアさんと共に戸を潜り抜ける。あたしたちが慌てて扉を閉めた所へ士郎さんが顔を出した。
「あれ、イリヤ? それにリナちゃん?」
ふぅ、ギリギリセーフね。
「遠坂とルヴィアはどこ行ったんだ?
いや、その前に、二人は知り合いだったのか?」
「あははー! いやぁ、ちょっと…」
イリヤが一所懸命誤魔化してると、士郎さんが美遊へと視線を移して。
「ん? 君は?」
そうか。士郎さんと美遊は初顔合わせか。……ん? 美遊?
「お兄ちゃん…?」
「「は…?」」
あたしとイリヤは、思わず間の抜けた声をあげてしまった。
「え? ああ、うん。イリヤの兄です、けど?
君は、イリヤの友達?」
いや、明らかに「お兄ちゃん」のニュアンスが違うでしょうが。相変わらず、変なとこで鈍感ですね!?
一方の美遊は表情が固まっている。というか、感情を圧し殺してるように見える。
「はい。クラスメイトの美遊といいます」
んー、やっぱり、美遊の態度がおかしいわね。何ていうか、出会った頃の、他人と壁を作ってた頃を
「はじめまして。俺は衛宮士郎。苗字は違うけど、イリヤの兄だよ」
「失礼しました。わたしの兄に…、似ていたもので…」
「そっか、君にもお兄さんが…」
……ホントに、そうなんだろうか。次の瞬間には、その疑惑に拍車をかけることになる。美遊が士郎さんの胸に飛び込んだのだ。
わずか数秒の後、そっと身体を離し。
「失礼します」
そう言い残して、イリヤの家を後にした。
ごりゅッ!
あたしが士郎さんの右、イリヤが左の脇腹に拳を入れる。
「おぼッ!? ……なんでさ?」
……何でだろ?
翌日、いつもの通り走って校門の前まで来ると、大きなリムジンから降りてくるイリヤと美遊の姿が見えた。どうやらイリヤも、ルヴィアさんに送ってもらったらしい。
あたしたちは、三人揃って教室へ向かったんだけど。
「「「イリヤアアアッ!!」」」
穂群原小の四神(三人)が本気で怒りながら、イリヤに詰め寄る。そしてイリヤに怒りのたけをぶち撒けてきた。
「なに、なんの話!?
わたし、なんかしたっけ!?」
「「「なんか、だと?
人に無理やりチューしといて、すっとぼけてんじゃねぇーーーッ!!」」」
「はーーーっ!!?」
三人にチューだって? それってまさか…。
「ちゅー…? 無理やり…?
3…、4マタ…?」
「ミユ、誤解しな…、なんで3から4に増えたの!?」
ダメだ、美遊は思考がピンク色になって使い物にならない。
「だいたいわたし、今来たばっかで…」
とすっ!
後ずさるイリヤにぶつかったのは。
「……イリヤちゃん?」
「あ、せんせ…」
「わたし、ファーストキスだったの…。責任とってくれる…?」
タイガもかぁぁぁッ!?
くっ、仕方がない。これ以上被害が増える前に、犯人を確保しないとッ!
わたしは逃げた。身に覚えのないことに責め立てられての逃亡だった。ミユがみんなを食い止めるために残ってくれたのには、感謝をしてもしきれない。
そしてわたしは屋上へと身を躍らせる。
「ねぇ、ルビー…。この、ちゅー騒ぎって、もしかして…」
息を整えながらルビーに疑問をぶつけてみる。
『昨日の今日ですし、ありえますね』
だよね。やっぱりこれって…。
「イ、イリヤちゃん…?」
はえっ!?
「イリヤちゃん、どうしたの? なんか怖いよ…」
「ふふ…、でも逃げないのね、ミミは」
やっぱりコイツかーーーッ!!
またこのパターン!? 一体何が目的なのよ、アイツはーーッ!!
『なんか着々と、イリヤさんの生活が壊されてきてますねー』
そうだよ! 昨日だってお兄ちゃんに、あんなに迫ってたりして! このうえ、兄妹の仲だけじゃなくて友達との関係まで破壊するつもりなの、アイツはッ!
なんて考えてるうちに、ミミに迫っていたアレは彼女の唇を奪い、濃厚なキスをして見せた。
「ふう…、やっぱり一般人じゃ、何人吸ってもあんまり溜まらないなぁ…」
「この、名誉毀損変態女ーッ!!」
どぐぅぉっ!!
わたしはあらんかぎりの力を込めて、アイツを思いきり蹴り飛ばす!
そして倒れてるミミの様子をみてみると、完全に気を失っていた。
「……そんなにすごいちゅーなの!?」
「急激な魔力低下によるショック症状よ。すぐ治るわ」
わたしの疑問にアイツが答える。
「魔力低下…?」
『なるほど。単なるキス魔かと思ってましたが、魔力を吸い取ってたんですねー』
「そういうこと。
昨日の戦闘でちょっと使いすぎちゃったからねー」
魔力の吸収…。でもどうして?
「魔力を溜めて何するつもり?
−−−ルビー!」
わたしは魔法少女に転身して彼女に言い放つ。
「いい加減にして! あなたが現れてからロクなことがないわ。お兄ちゃんも、友達も、ミユも…。
これ以上、わたしの日常を壊さないで!!」
「……与えられた日常を甘受してるだけのくせに。
悪いことは全部わたしのせい。わかりやすくていいわね」
胸の奥がズキリとした。うん、そうなのかもしれない。わたしはみんなのお陰で、平穏な日常を過ごしている。
あの日、リナから助言をもらってなかったら。ただ、逃げた気持ちのままだったら。
わたしは彼女の言葉の意味を、考えようともしなかったかもしれない。
「確かに、
わたしが名前で呼んだことに驚いたんだろう。ぴくりと身体を震わせた。
「でも、まだわたしには、どうしてクロがそんなこと言うのかがわからないの。
だからお願い、今はルヴィアさんのところに戻って」
「……ほんと、アナタがすんなり認めたことには驚いたわ。でも、だからって、はいそうですかっていくと思う?」
「クロッ!」
うぅ、どうしてわかってくれないの!?
「
実はリンさんからランサーのカードを預かってるんだけど、これって加減ができないんだよね? そんなの使ったら、クロが…。
がごん!
「ダスト・チップ!」
重い扉が開く音、そして突然のかけ声と共に、キラキラした無数の粒が現れて、クロに向かって襲いかかった。
「あだだだっ…!?」
よっぽど痛かったんだろう、クロが悲鳴をあげる。わたしは声のした方、すぐ右を見た。
「リナ」
「ちょっとリナ、ギリギリまで手出ししないんじゃなかったの!?」
「あのねぇ、ここは学校よ? それにもう…」
わたしに近づきながらクロに向かって話していると。
ダダダ……
ずでどしゃっ!
階段を駆け上がる音と、出入り口で倒れこむ音がして…ッ!?
「イリ…ヤ…?」
なあああ…ッ! み、みんな!?
「なんだ、そのかっこー!?」
「学校でコスプレ!? そんな素敵な趣味が…!」
「え、て言うか、イリヤが二人…?」
アアアアッッッ! ど、どーすれバインダー!!!?
こほん!
突然の咳払いのあとにクロは言った。
「皆さん、お騒がせしてごめんなさい。
わたしはクロエ・フォン・アインツベルン。イリヤの従妹です」
なん、だと?
「来週から転校してくる予定なのでその下見に、と思ったんですが、日本じゃ挨拶がちょっと過激だったみたい」
コイツ、言うに事欠いて、転校だとォッ!? こら、リナ! クロエって名乗ったのが嬉しいからって、ニコニコしてんじゃなーい!!
……くうぅッ、とりあえず今は、一度逃げてから考えよう!!
「あっ、イリヤが脱兎のごとく…!」
ごめん、みんな。どうか今は、一人にさせてください。
今回のサブタイトル
竹本泉「あおいちゃんパニック!」から
というわけで、拗らせたのはクロでした。ちなみに原作通り、士郎LOVEでもあります。
そしてこの回で、イリヤの意識の変化が出てきました。とは言っても、原作よりも考えることをする、というものですが。
次回「リナのアトリエ」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!