Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ   作:猿野ただすみ

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今回は一部、感想に書かれていたことを踏まえた説明回です。


リナのアトリエ

≪third person≫

「どーゆーことっ!!」

 

ばんっ!!

 

イリヤが掌を、力強くテーブルに叩きつける。

 

「なんでちゃんと閉じ込めておかなかったの!?」

「な、なんですの?」

 

ここはルヴィア邸の客間。下校してきたルヴィアの姿が見えた瞬間、イリヤのこの発言である。

 

「今日、クロが学校に現れたんです。イリヤの従妹を名乗って、来週転校してくるとまで…」

「さらにあたしたちの友達や先生にまでキスしまくってねー」

 

美遊とリナが説明をする。ルヴィアは嘆息し応えた。

 

「地下倉庫の物理的・魔術的施錠は完全でしたわ」

「なら、どうして!」

(わたくし)が知りたいですわ。どれほど厳重に閉じ込めても、あの子はそれを容易く破る。一体どうやって…」

 

ルヴィアが疑問を口にすると。

 

「もともと、監禁なんてする必要ないんじゃない?」

「クロ!?」

 

いつの間にかクロがテーブルに着き、桃を食していた。

 

「わたしは呪いのせいでイリヤには手出しできないし、誰かに害意があるわけでもないわ。

わたしはただ、普通の生活がしてみたいだけ。10歳の女の子として普通に学校に通う…。そのくらいは、叶えてくれてもいいんじゃない?」

「むうぅ…」

 

先ほど学校でクロの言葉を肯定してしまった手前、イリヤは強く言い返せない。

 

「……いいでしょう。

許可なく屋敷を出ないこと。

他人に危害を加えないこと。

あくまでイリヤの従妹として振る舞うこと。

約束できるかしら?」

「もちろん。それで学校に行けるなら」

 

提示された条件を、クロは素直に受け入れた。

 

「〜〜〜〜〜〜!」

 

学園生活を荒らされたくはないが、クロの気持ちも否定できないイリヤは、モヤモヤした気持ちをどうしたらいいのかがわからなくなってしまう。と。

 

ポフッ

 

イリヤの頭の上に、リナが軽く掌を乗せる。

 

「イリヤ、よく文句とか言わなかったわね」

「……だって、クロは普通の生活に憧れてるんだなー、ってのは何となくわかるから」

 

自分と成り代わってまで手にしたかった日常。クロが言っていた甘受された日常を過ごす身では、おそらく理解が及ばないことだろう。

だからこそ、自分が許容できることなら、クロのワガママを聞いてあげてもいいんじゃないか。イリヤはそう思い始めていた。

そんな様子を優しい眼差しで見つめていたリナは。

 

ぐゎしぐゎし!

 

置いたままの手で、イリヤの髪をグシャグシャにする。

 

「わひゃあ! ちょっとリナ、何すんの!?」

「んー、何となく?」

「ちょっとぉ、何となくって…」

 

ルヴィアはしばらくの間そんな二人を暖かく見守っていたが、目を閉じると意識を切り替えてオーギュストを呼び、言った。

 

「(戸籍・身分証のでっち上げと転入手続きを。美遊(ミユ)の時と同じですわ)」

「(承知しました。14時間で終わらせましょう)」

「なんか犯罪臭のする会話がっ!?」

 

ボソボソと会話する二人にイリヤがツッコミをいれる。

しかし、その会話に疑問を持つ者もいた。

 

(美遊の時と…)

(……同じ?)

 

リナとクロだ。二人はルヴィアたちの会話を聞き逃したりはしなかった。

 

(ルヴィアさんが言ってることが本当なら、美遊は戸籍がなかったってこと?)

(ミユ、あなたは一体…)

 

二人は美遊に視線を移し、物思いに耽った。

 

 

 

 

≪リナside≫

「ええっと、じゃあわたし、そろそろ帰るね」

 

そう言ってイリヤは扉へ向かおうとする。

 

「あ、ちょっと待って。

ルビー、それとサファイア。あたしの研究について、ちょっとばかし相談したいことがあるの。一緒に魔術工房(アトリエ)に来てくんない?」

『わたしたちですか?』

『別に構いませんが…』

 

ルビーとサファイアがひょっこりと現れた。

 

「ありがと。じゃあイリヤに美遊、二人を借りるわね」

「「うん」」

 

二人一緒に頷いた。ほんと、仲がいいわね。

 

「あとクロエ。勝手に中に入ってきたら、嫌いになるからね?」

「! わかってるわよ!」

 

うん、いい子だ。もちろん「嫌いになる」は嘘だし、クロエだってわかってはいるだろうけど、彼女だって無駄にあたしの機嫌を損ねたくはないハズ。勝手に入り込むようなことはないだろう。

 

「そんなわけで、工房借りるわね」

 

ルヴィアさんに一言断りを入れてから、工房へと向かう。

入り口の扉を閉めたあと、一応念のために。

 

封錠(ロック)

 

さすがに今回は、込み入った話をするからね。

 

『それでリナさま、相談とはどういったことでしょうか?』

『研究について…、だけではないんでしょう?』

「話が早いわね」

 

ルビーが言うとおり、二人には聞きたいことがあったのだ。もちろん、研究についての相談も本当のことではあるが、それは話の最後で事足りることだ。

ということで、まずは…。

 

「…ねえ、魔術回路ってなに? 分離したクロエと初めて会ったときに、彼女が言ってたのよ。あたしには魔術回路が無いって」

 

そう。クロエに言われたこの言葉、ずっと気になってはいた。

もちろん凛さんやルヴィアさんに聞くことも出来たけど、内容があたしの秘密に関わっているので、やっぱり躊躇してしまったのだ。

 

『リナさま、それについてはわたしが説明いたします』

 

おや、無口なサファイアが説明を請け負ってくるとは珍しい。

 

『魔術回路。それは魔力の生成、伝達、発動を行うために不可欠な、擬似神経経路です。これは魂に刻まれ、その本数や太さによって魔力量や能力に影響します』

「てことは、あたしが異世界からの転生者だから魔術回路が無かったってことか」

『それは、考えられますが…』

『実は、それだけじゃないんですよねー』

 

それだけじゃない?

 

『イレギュラーのカードを回収する際に、リナさまはわたしの力を借りましたね?』

「うん、そーだったね」

『その際にリナさまの身体をリサーチしました』

「……まあ、魔術運用の関係上、仕方がないでしょ」

『その結果、確かに魔術回路は存在しませんでしたが、その痕跡は確認できました』

「へ?」

『リナさん、なにか心当たりはありませんかー?』

 

心当たりと言われても…。

もしかしたらあたしが知らないだけで、向こうの人たちにも魔術回路があったとか? いや、それならあたしの痕跡ってのが説明つかないか。

……おや、待てよ? もしかしたら…。

 

「あたし、転生する前に[混沌の海]でこの身体の本来の持ち主、『稲葉リナちゃん』と出会ってるんだけど、消失する寸前にあたしの中に入ってきてるのよ。

その時にリナちゃんの記憶が流れ込んできたんだけど、もしかしたらそれと同時に、リナちゃんの魔術回路があたしに取り込まれたんじゃ…?」

『なるほど。リナさんに取り込まれた魔術回路は、吸収されて痕跡のみを残していると?』

『ですが、開いてもいない未発達な魔術回路では、吸収されれば痕跡すら残さないと思われますが…』

 

開いていない、てのは使える状態になってないってとこか。

 

「実は、少し前から思ってることがあんだけど。

リナちゃんってもしかしたら、魔力の暴走が原因で亡くなったんじゃないのかなって…」

『!? リナさん、どういった経緯でそう思われたんですか?』

 

ルビーが尋ねてきたけど、多分思い当たることがあるんだろう。どちらかというと、その確認をしてるような気がする。

 

「セイバー戦の後の、イリヤの発熱よ」

 

みんなにはナイショだけど、セラさん、リズさんとイリヤのことについて話し合ったときに、ふと思いついた着想だ。

 

「[混沌の海]でリナちゃんは苦しかったって言ってたけど、流れ込んできた記憶による擬似体験だと苦しいだけじゃなく、身体中が痛くて高熱も出していたわ。

それで質問なんだけど、魔術の知識がない小さな子供が、何かの弾みで全ての魔術回路が開いたとしたら、その子はどうなる?」

 

あたしの質問に二人はわずかの間黙り、やがてルビーが答えた。

 

『魔術回路の量にもよりますが、おそらくリナさんが言った症状を起こし、最悪死に至るでしょう』

 

ルビーの言葉には、いつものおちゃらけた雰囲気はなく、いたってシリアスである。

 

「そう。じゃあやっぱり…」

『推測の域を出ませんが、おそらくそういうことなんでしょうね』

 

むみゅうぅ、「魔術回路について」から、少し重たい話になってしまった。

ええい、次、次!

 

「気をとりなおして次の質問行くけど、あたしがアンタら使ったとき衣装替え無しの転身してたけど、あれってなにか意図でもあったの?」

 

サファイアはまだしも、魔法少女について散々語りまくっているルビーが、なんの理由もなく衣装替え無しを選ぶとは考えにくい。

 

『あー、いえ、それは単純にして深い理由があるんですよー』

 

いつもの軽い口調に戻りルビーが答えた。

 

『簡潔に言えば、リナさんに対して時空レベルでの阻害がされてますね』

 

時空レベルって、また随分と壮大な…。

 

『おそらくリナさまと[混沌の海]との繋がりが、わたしたちカレイドステッキの機能の一部を阻害しているものと思われます』

『リナさんは云わば根源接続者のようなものですからね』

 

……根源接続者? またわからん単語が出てきたぞ?

 

「えーと、根源接続者ってなに?」

『ああ、すみません。リナさんはご存知ありませんよねー』

 

……なんかムカつく言い方なんだけど。

 

『根源とは、枝葉のように広がる世界の源。根源接続者は、生まれながらに根源に到っている者です』

「……ちょい待て、サファイア。『枝葉のように広がる世界の源』って、まさか…」

『リナさんがお気づきのとおりでしょうね。リナさんの前世の世界における[混沌の海]と、在り方としては類似、もしくは同種だと思われますねー。

ちなみに後天的に到った者は、根源到達者と言います』

 

なるほどね。あたしは憑依転生とはいえ、この世界に生を受けたときから[混沌の海]と繋がっていたから、根源接続者()()()()()()って訳か。

しかしそのおかげで、あんな自殺モノの格好をしなくて済んだんだから、世の中なにが幸いするかわからないものだ。

 

「おっけー、今のとこ確認しときたいのはこんなもんね。

てなわけで、ここからは本当に研究について相談したいことよ」

 

あたしは意識を切り替えて言った。ちなみにイリヤにクロエ、美遊の謎に関しては、いくら議論しても正解がわからないので、ここでは取り上げない。

 

『リナさま。わたしたちに相談とは、如何なることでしょうか?』

『ちなみにスリーサイズはヒ・ミ・ツ、ですよー?』

 

ずべしっ!

 

あたしの右チョップがルビーにきまった!

 

『っったいですねー!?』

「まずは見てもらいたいものがあんだけど」

『無視ですかーッ!?』

 

コイツ(ルビー)と言い合ってたら、時間がいくらあっても足んなくなる。彼女には悪いけど、関係ない話は無視することにする。

 

コトッ…

 

あたしは、二つの宝石の呪符(ジュエルズ・タリスマン)をテーブルの上に置いた。

 

『これは…?』

『なんだか複雑な魔法陣が組み込まれてますねー』

「ま、見てなさい」

 

言ってあたしは、宝玉に向かって小さく呪文を唱える。そして片方を口許まで持ってきて。

 

「もしもし、聞こえる?」

『もしもし、聞こえる?』

 

あたしが発した言葉が、もう片方の宝玉から聞こえた。

 

『これは、通話のための魔術礼装でしょうか?』

「ええ、そうよ。向こうの世界に『レグルス盤』っていう同じ効果のアイテムがあるんだけど、それを模して造ったものよ」

 

とはいっても、別にレグルス盤を解析したことがある訳じゃない。これは同じ効果を求めて造り上げた、あたしのオリジナルである。

 

『それで、わたしたちに相談ってなんですかー? 当然、その礼装に関わってるんでしょうけど』

「ええ。これ自体は、この工房が提供される以前に作成したものなんだけどね。

それで相談ってのは、この礼装と同じ効果のものを、こっちの魔術を応用して作成したいのよ」

『え…、あの、リナさま。その礼装はすでに、アイテムとして完成されてると思われるのですが』

 

サファイアが驚きの声をあげる。声には出さないけど、ルビーも驚いてるようだ。

確かに実際に使用してみても、別になんの問題もないんだけど。

 

「んー…、アンタたち。これの術式って、読み込んで使用すること出来る?」

『ええ、まあ、出来ますけど?』

「それじゃあ読み込んだ後、その術式で会話してくんない?」

『はあ、わかりました。……サファイアちゃん』

『はい、姉さん』

 

二人は宝玉から術式を読み取り、通話を試みるけど。

 

『『〈ざーーー…〉』』

「……やっぱり繋がんないみたいね」

 

どうやらあたしの立てた仮説は正しかったみたいだ。

何故あたしが向こうの術を使えるかアメリアから聞いて以来、可能性として考えていたことなのだが、あたしが作成した礼装はあたし同様、[混沌の海]を通してのバックアップがあるらしい。それは即ち、他の魔術師(誰か)があたしの作成アイテムを模倣しても、全く意味を成さないということ。

あたしはそれを二人に伝えた。

 

『なるほど、そういうことでしたか。ですが、その礼装自体に問題はないんですよね?』

「そーなんだけど、使うときに呪文を唱えなきゃなんないのよ、これ。それじゃあイリヤたちに持たせるには不便でしょ?」

『あー、そういうことでしたかー』

『確かに、リナさまとの魔術的通信手段は、確保しておいた方が懸命だと思われます』

 

そうなのだ。ただの通信ならケータイで充分だけど、例えば翔封界(レイ・ウイング)を使用中だとそういう訳にもいかない。戦闘中などもっての他だ。

 

「そんなわけで、協力頼めないかな?」

『そういうことでしたら、喜んで協力いたします』

『いやー、ここから始まる【リナのアトリエ〜冬木の錬金術士〜】ですか』

 

……なんじゃそりゃ? あたしは錬金術士じゃないし。

 

『これでサブタイトル回収ですよー!』

 

うみゅう、相変わらずよーわからんやつだ。

あたしは小さくため息をついた。




今回のサブタイトル
ゲーム「アトリエシリーズ」から

あとがき書き忘れてたのであらためて。
今回は伏線の一部を回収した説明回ですね。ようやくリナが衣装替えなしの転身をしてた理由を書けました。
ちなみにリナちゃんが死んだ理由は、リナとほぼ同じタイミング(セラ・リズとの会話のあたり)で気がつきました(笑)。

次回「彼女にボールを持たせるな!」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!

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