Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
でも直さない。だって面倒臭いし、第一「お祖父ちゃん」の方が呼び方かわいいじゃん(開き直り)。
週も変わり、月曜日。
「クロエ・フォン・アインツベルンです。クロって呼んでね♪」
クロはわたしたちのクラスに転入してきた。おそらくルヴィアさんの指示で、そうなるように根回しをしたんだろう。監視の意味を含めて…。
「あ、席は一番うしろ。美遊ちゃんの隣ね」
「はーい」
藤村先生の指示に元気よく返事を返すクロ。
「今日からよろしくねー、ミユちゃん」
席についたクロがわたしに挨拶をする。
……ええと、この席順は流石に偶然だよね?
「よーう、クロちゃん。ちょーっと、ツラ貸してくれんかいのぅ?」
体育の着替え中、龍子がドスを聞かせた声でクロに声をかけた。すぐ後ろでは雀花と那奈亀も、怒りを込めた眼差しでクロをにらみつけている。
「え、なに。イジメ?」
「イジメじゃねー! 尊厳をかけた果たし合いだ!!」
クロは自分の仕出かしたことに、罪悪感を感じたりはしないんだろうか?
「先週、俺たちの唇を根こそぎ奪いやがって!
くっ…、いずれ時がきたら、兄貴に捧げる予定だったのに!!」
「うわっ。そうだったのか、タッツン!! イリヤと同じだな!!」
「なに言ってんの!? なに言ってんの!!?」
龍子の爆弾発言に、雀花のイリヤを絡めた突っ込み、それに対してテンパるイリヤ。こういうのを俗に、カオスになるって言うんだろう。
「初ちゅーの弔い合戦だ!!
ショーブしろ、コノヤロー!!」
龍子がクロを指差し宣戦布告をした。
グランドに出たわたしたちは、消石灰でラインを引いて作ったコートの中にいた。
「何かと思えば、ドッジボールか…」
それはそうだ。体育の授業で格闘技みたいなもの、するはずもない。
それよりも気になるのは…。
「なんでわたしまで…」
「ちょっと、あたしまで巻き込まないでほしいんだけど?」
イリヤ、リナ、そしてわたしがクロのチームにいることだ。
「クロ組 VS 初ちゅー奪われまし隊! 勝負は一回きりだよ!
負けた方は勝った方の舎弟になること!!
公序良俗に反しない限り、命令には絶対服従!!
アーユー オーケイ!?」
雀花が宣誓する。でも、勝手にクロのチームに組み込まれても…。
「うーん…。どっちかってぇと、あたしもそっちなんだけどねー」
……え? 今なんて!?
「え? え!? どーいうこと!?」
「いやー、クロエと林の中で遭遇したあの日に、不意を突かれてね…」
イリヤの疑問に、リナは疲れた笑顔を浮かべてそう答えた。
そうか。あの日、そんなことがあったのか。
わたしはユラリと歩き出し、コートのセンターラインを越えていく。
「ちょっと、ミユ!?」
クロが声をかけるけど、そんなものに答える気はない。
「美遊・エーデルフェルト、初ちゅー奪われまし隊に助太刀します」
「「「おおー!!」」」
わたしの言葉に三人は歓喜の声を上げる。
「美遊がこっちについてくれれば百人力だ!」
「打倒クロも夢じゃないな!」
「オウ、美遊吉! 俺の足を引っ張んなよ!!」
「……うるさい。あなたはどこか行っててくれる?」
わたしが龍子を睨み付けながら言うと、彼女は涙目になり、コートの一番うしろへと移動していった。
「……まあ、ミユがそっちにつくって言うんなら仕方ないけど。
それであなたたちは、何を命令するつもりなの?」
「……給食のプリン」
落ち込んでても主張する龍子は、ある意味すごいと思う。
「宿題写させて」
那奈亀、宿題は自分でやらなきゃ意味がないと思うけど?
「夏コミでファンネルになって」
なにそれ!? 雀花って何者!!?
「ま、いいんじゃない?
それでミユはどうなの?」
わたし? わたしの望みは、そう。
「わたしが勝ったら、イリヤとリナ、そしてわたしには一生関わらないで!」
辺りに、暫しの沈黙が訪れる。
「……いきなり重い展開がきたけど、ま、いいわ。
じゃあ、わたしが勝ったら全員、一日一回キスさせて」
なっ、魔力供給が目的!?
「クロエって、本来はノーマルとか言ってたけど…」
「ほんとにそっちの気があるんじゃない!?」
リナとイリヤがひそひそと会話してるけど、全然内緒話になっていない。
しかし、そっちの気…、性的趣向によるもの。リナのこともあるし、あながち否定も出来ない。
「くっ、公序良俗に反しまくってる気もするが…」
雀花がジャージを脱ぎ捨て。
「栗原雀花!!」
「嶽間沢龍子!!」
「森山那奈亀!!」
「「「
四神…、そうか。雀花が朱雀、龍子が青竜、那奈亀が玄武を…、あれ?
「白虎は?」
クロがわたしの疑問を代弁するかのように尋ねると三人は黙り込んでしまう。と、そこへ。
「虎を…、ご所望かい?
初ちゅー奪われまし隊隊員No.4!! 藤村大河、参戦するわよ! コンチクショー!!」
藤村先生が仲間に加わった。
「[冬木の虎]が参戦か。相手にとって不足なしね」
「[冬木の虎]って言うなー!」
「どうでもいいけど、人数比がひどくない?」
「このくらいちょうどいいハンデよ」
リナの発言を撤回するよう藤村先生は申し立て、イリヤの呟きに問題ないと言い退けるクロ。
……うん。
「あの、いい加減始めない?」
いつまでも始まらない試合に、わたしはいい加減突っ込んだ。
ミユの突っ込みで、いい加減勝負が始まることになった。
審判はミミ。
「それじゃあ試合開始! ボールは初ちゅー隊からです」
略した!?
ま、まあ、[初ちゅー奪われまし隊]じゃ長すぎるもんね?
「先手必勝ー!!」
タツコがわたしめがけてボールを投げる。けど、
ぱしっ
わたしは軽く、ボールをキャッチした。
「あ、あれ?」
こうもあっさり取られるなんて、思わなかったんだろう。タツコが驚いた表情を見せた。
ボールをタツコに投げ返す。これで一人、って思ったんだけど。
パシィッ!!
タツコの前に飛び出した先生が、ボールをしっかりとキャッチした。
「ふふん。小学生にしては、なかなかの球を放るわね。でも、手を抜いた球じゃ先生には通用しないわよ?」
ぐぬぬっ、なんか悔しい!
「そしてリナちゃん、隙あり!!」
先生は大人気もなく全力投球、リナはキャッチ出来る体勢じゃない。
でも、リナの戦いを見てきたわたしにはわかる。これって、わざと隙を見せたんだ。
その予想の通り、リナは身を屈めてボールをかわし、そのすぐ後ろにいたクロがキャッチ。それを流れるようなフォームで先生に投げ返し。
ずめりっ!
「タイガァー!?」
「先生アウトー。外野にまわってください」
先生の顔面に直撃して、仰向けに倒れた。意外と冷静なミミはおいといて。
「(ク、クロ! もう少し力、抑えてよ!)」
「(むー、めんどくさいなぁ)」
小声で注意すると、愚痴をこぼしながらも右手を軽くあげて、オーケイのサインを出してくれた。
「おのれ、タイガの仇ーッ!!」
タツコがクロに向かってボールを投げるけど、それもあっさりキャッチ。それをタツコに投げ返し。
ボヘン!
やっぱり顔面に直撃。いくら顔面セーフのルールが無いからって、結構エグいと思う。
ちなみにボールは、スズカがノーバンキャッチしたからタツコはセーフだ。
……こうして見てると、クロは普通に授業を楽しんでる。
わたしの命を狙ったり、友達や先生にキスして魔力集めたりと問題行動も多いけど、こういうとこは普通に子供なんだなーとも思う。
そんなことを考えてる間にも、わたしとリナでナナキとスズカを撃退した。と、そこで。
「……大体わかった」
今まで沈黙を守ってたミユが、ボールを拾い上げてずいっと前に出てきた。
「うーみゅ…。どうやらあたしたちの戦いかたを、ずっと観察してたみたいね」
なっ、だからさっきから避けてばかりだったんだ!?
「沈めーッ!!」
ミユにしては珍しい、激しい口調でボールを投げる。
ズドンッ!!
「なによ、これ!?」
ミユの普通じゃ考えられない速球を止めたクロが声を漏らす。
「卑怯とか言わないでね。あなた自信が反則みたいなものだから」
そう言ったミユの髪には蝶の髪飾り。つまりは衣装替えなしの転身をしてるってことで。
「いいわ。それならこっちも遠慮なく…!!」
クロはミユに向かって全力で投げ返した。それを止めたミユは、さらにクロへボールを投げ返す。
えーと、なんだかわたしたち、蚊帳の外なんですけど?
「貴女が現れてからイリヤとリナが迷惑を被ってばかり!」
「まあ、否定はできないわね!」
ミユとクロは互いに言い争いながら、交互にボールを投げ合っている。
「貴女さえいなければ、今ごろわたしたちは平穏に暮らしてたのに!」
「平穏、ねえ…。貴女にそれを言う資格はあるのかしらね!!」
え? それってどういう…!?
「うるさいっ! 貴女なんていなければ…ッ!!」
一瞬、クロが寂しそうな表情を浮かべて固まった。その瞬間、わたしは無意識にクロの前に躍り出て。
ずばごぉん!!
ミユが投げたボールを顔面にくらって、わたしの意識はそこで途切れた。
美遊が投げたボールを顔面にくらったイリヤは吹っ飛ばされ、後ろにいたクロエを巻き込んで倒れ込んだ。
「おい、イリヤ、クロ! 大丈夫か!?」
雀花たちが慌てて駆け寄る中、美遊は呆然と突っ立っている。そんな彼女のもとへ、リナが近づいていく。
「どうしたの、美遊?」
半ば答えはわかっているものの、あえて尋ねるリナ。
「リナ…。イリヤはどうしてクロを庇ったの? あんなにひどい目にあわされていたのに。それにリナだって…」
「まぁ、確かに? あたしのファーストキスを奪ったのは根に持ってるけど」
フッと微笑み。
「クロエのことは好きだから」
そしてすぐに、もちろん友達としてだから、と付け加える。
「……じゃあ、イリヤも?」
「イリヤは違うんじゃない? あの子は、クロエのことをただ否定するんじゃなくて、一生懸命理解しようとしてんだと思う」
(ちょっと前のイリヤだったら、クロエのことを全否定してそうだけどね)
リナは心の中で思うが、口には出さない。
「だから美遊も、仲良くしろとは言わないから、目の敵にするのは止めたげて。あなたに否定されてクロエ、寂しそうな顔してたわよ」
「え…」
さっきまで頭に血が上っていた美遊は、リナに言われて初めてその事を知った。
「イリヤも、あんな顔を見たから、思わず庇っちゃったんでしょうね」
そして倒れている二人をちらりと見たリナは。
「ま、結局は痛覚共有のせいで、ダブルノックダウンだけどね」
言って、軽くため息をつく。
「おい、リナ、美遊! 二人を保健室に連れてくから手伝ってくれ!」
「ん、わかったー」
リナは雀花に返事をして駆け寄っていった。
−−−ヤ
−−リヤ
遠くで誰かが、自分を呼んでいる。そう感じたイリヤは、うっすらと目を開いた。
「イリヤ、気がついたか」
「お兄ちゃん!?」
驚いたイリヤは、がばっと身を起こす。
「体育の授業中に倒れたって聞いてさ。びっくりしたよ」
(あ。クロをかばって気絶しちゃったのか)
何が起きたのかを思い出したイリヤ。
「でも、たいしたことはないみたいだな。うん、よかった」
「心配かけてごめんね?」
(そういえば、結局クロにもダメージいっちゃったんだよね? あとで謝らないと…)
痛覚共有のことを思い出したイリヤは、クロエを庇ったことが結果的にはなんの役にもたたなかったことを思い、少しだけ落ち込んだ。
「ん? どうかしたのか?」
「あ、ううん。なんでもない!」
沈んだ表情を見て尋ねる士郎に、慌ててかぶりを降るイリヤ。
「そうか?
ま、ともかく、顔は大切にしろよ。女の子なんだからさ」
「はーい」
心配してくれる兄に、返事を返す妹。
その様子を、仕切りのカーテン越しに聞いているのは美遊。
「どうする? セラに電話して迎えに来てもらうか?」
「いいって、そんな。過保護すぎー」
聞こえてくる会話に少しだけ寂しげな表情を浮かべ、美遊は部屋を出る。
すると、扉のすぐ横の壁に背中を預け、やはり寂しげな表情を浮かべるクロエの姿があった。
彼女は美遊に目を向けることもなく、踵を返し去っていく。美遊はその姿を、黙って見送ることしか出来なかった。
今回のサブタイトル
TV版プリティサミーのサブタイトルから
というわけで、クロと対立する相手を原作と変えました。本来の相手は、リナの心の声でわかりますね。
ちなみに今回の美遊は、拗らせ行動じゃありません。クロに対する鬱憤が、リナの疲れた笑顔で爆発したと捉えてください。
ルビーが何にも行動を起こさなかったのは、美遊が敵対して何も言わなくても面白い展開になりそうだったので静観した、と。相変わらず性格の悪い人工天然精霊です。
次回「華憐先生は動かない」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!