Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
前回のイリヤが、気を失ってる間のお話です。
初夏の陽射しと爽やかなそよ風。校庭では、授業でサッカーを楽しむ生徒たちの姿が見える。
そんな日常の中、保健室のデスクで緑茶を飲み干し、ひとつ息を吐いた折手死亜華憐がつぶやいた。
「…………暇ね。
危篤状態の重病人でも、運ばれてこないかしら」
……相変わらずの性格破綻ぶりである。と、そこへ。
どどどどどっ!
ガラガラッ!!
「せんせー、助けてーッ!!」
「ボールぶち当たったイリヤが目を覚まさないんだー!!」
「あと、巻き添えくらったクロも!!」
勢いよく保健室に入ってきて、龍子、雀花、那奈亀が助けを求めた。
「つまらないわね。ただの軽い打撲。外傷らしい外傷もないわ」
治療を終わらせた華憐は、本当につまらなそうに言う。
「じゃあ、なんで気絶してるんだ?」
タツコが尋ねると。
「脳…卒中…、じゃなくて、
頭打ってどうこうなる系の、そんな感じのやつでしょう?」
「こいつ本当に保健の先生か!?」
あの龍子がなんと、ツッコミ役に回っている。
「大事はないと思うし、あったとしてもわたしには関係ないわ」
「いや、もう人としてダメだ!」
那奈亀の発言に、何を今さらという表情のリナと美遊。
「いいからもう出て行きなさい。健康で元気な人間を見てると、吐き気がする」
「学校はなんでこんなのを雇ったんだ!?」
龍子が叫ぶ中、華憐は自在ぼうきの先を押し付けながら、みんなを部屋から追い出した。
「全く、何なんだ? あの保健医は!?」
廊下を歩きながら、雀花は憤慨していた。
「折手死亜華憐。性格破綻者よ」
「おるて…? なんか変な名前だなー」
雀花の疑問にリナが答えると、華憐の苗字に那奈亀が突っ込んだ。
「ま、特に用事でもない限り、関わらないのがいいわね」
「リナの言うとおり。あの人は得体が知れない」
「ははは! 得体が知れないなら、俺たちで暴いていけばいいじゃねーか!」
「「「「うん、がんばって」」」」
龍子以外の全員が声をそろえて言った。触らぬ神に祟りなし。もっとも、神は神でも疫病神だが。
「え? え?」
まさか孤立無援となるとは思ってなかったのか、龍子は狼狽している。
「さて、いい加減授業に戻らないとな」
「あ、ごめん雀花。あたしやっぱり、イリヤが気になるから」
「わたしも」
雀花に断りを入れる、リナと美遊。
「よし、それなら俺…も……」
龍子が共に戻ろうとしたが、美遊の冷めた視線にトーンダウンする。
「ほら、オメーはジャマだってさ」
那奈亀は言うと、龍子の襟首を片手で掴み引っ張っていく。
「じゃあリナたちも、あの先生には深入りしないようにな。
……って、タッツンじゃねーんだから心配ないか」
言って雀花は小さく手を挙げる。
「りょーかい」
「うん。気をつける」
二人は返事を返すと方向転換して、再び保健室へと向かった。
少し時間を戻し、リナたちを追い出した直後の保健室。華憐は治療のための長椅子へと向き。
「さて、そっちの貴女はどうするの? 休みたいなら、ベッドは勝手に使っていいけど」
すでに意識を取り戻していたクロエに尋ねた。
「遠慮するわ。今はまだ、イリヤと二人きりでいる気はないもの」
「あら、意味深な言い回しね。見た目がよく似ているけど、双子かしら?
……不思議ね。傷の位置も形も全く一緒。双子というよりまるで、合わせ鏡の像みたい」
「……従妹よ」
華憐の鋭い指摘に、いつもの設定を口にする。
「授業に戻るわ。お邪魔しました」
クロエは立ち上がり、扉に向かって歩き出す。
「本当に休まなくていいの?
……健気なことね。そんな、
「!」
クロエは驚愕する。彼女は一体、どこまで自分のことを知っているのか。
「……あなた、どこの人間?」
クロエは華憐を睨み付ける。
「どこ? ここよ。穂群原学園初等部の養護教諭。
……前にも似たことを答えたわね。ああ、そう。あの赤毛の子に言ったのだったわ」
「リナのこと!?」
聞き返すがそれには答えず、すました顔で話を続ける。
「まぁ、貴女が大丈夫って言うならそれでいいわ」
言いながら華憐は、淹れた緑茶に角砂糖を入れていく。予想外のことにクロエの目が見開かれる。
「貴女の自由は侵さないわ。貴女がわたしの自由を侵さない限り、ね」
最終的に、入れた角砂糖の数は6個。それにはさすがに驚愕の表情を見せるクロエだが、一つ息を吐き意識を切り替えた。
「わかったわ。あなたは保健の先生。わたしはイリヤの従妹」
「そういうこと。それじゃあ、お大事に」
華憐の言葉を背に、クロエは保健室をあとにする。
カララ…
「「あ…」」
聞こえてきた声に視線を移すと、
クロエは一つ息を吐き。
「あの教諭にはあまり近づかない方がいいわよ。見透かされたくないことがあるなら」
そしてふと思い出したクロエは。
「そうそう、リナ。あの教諭、性格破綻だけじゃなくて味覚もぶっ壊れてるわよ? 緑茶に角砂糖を6個も入れてたし」
「リンディ艦長!?」
リナの謎のツッコミに一瞬「?」となる二人だが、すぐに「どうせまた魔法少女ネタだろう」と判断して、深くは尋ねないことにした。
「ま、長話もなんだから」
そう言ってクロエは立ち去ろうとする。
「クロ、まって!」
しかし美遊がそれをひき止めた。
「…なに?」
「あの…」
聞き返すクロエに対して美遊は少し言い淀み、それでも勇気を出して。
「ごめんなさい。さっきは言い過ぎた。わたし、クロの気持ちを少しも考えていなかった」
美遊の謝罪にクロエは目を丸くして、リナへと視線を移す。それに気づいたリナはクロエに言う。
「あたしはただ、クロエを目の敵にするのは止めるよう言っただけ。謝ったのは美遊の判断よ」
すると今度は美遊に向き直り、恥ずかしげな表情を浮かべて。
「……わたしの方こそ、悪かったわね」
一言謝り、踵を返し、今度こそこの場を去っていった。
クロエの退室から1分もたたずに、再び扉が開かれる。そこにいたのは当然、美遊とリナだった。
「どうも。イリヤの様子を見に来ました」
リナが目的を告げると。
「心配性ね。わたしが信用できない?」
「いえ、そうでは…」
「どっちかってーと、アンタの診察が信用できない」
空気を読んだ美遊に対して、なかなか辛辣に返すリナ。
と、そこへ。
「イリヤちゃん、目を覚ましてーーー!!
ほら、お兄ちゃんも連れてきたから! 頑張って、生き返って!!」
藤村先生が士郎を引っ張ってやって来た。
「藤村先生、あんたが先に落ち着…」
「保健室では静かに」
注意しようとした士郎はいつの間にか、赤い帯状の布で上半身をミイラのように絡めとられて吊るされていた。
「(ちょっと、華憐先生。神秘って秘匿しなきゃいけないんじゃないの!?)」
リナは華憐のすぐそばまで近寄って、小声で問い詰める、が。
「まあ、バレなければ大丈夫?」
(なんで疑問形!?)
やっぱりダメなひとだった。
イリヤスフィールの兄がやって来て、保健室がさらにうるさくなった。
「イリヤは大丈夫です。ボールが顔に当たっただけで…」
「そっか。大怪我とかじゃなくてよかった。この人が大袈裟に言うから…」
[マグダラの聖骸布]から助け出された少年は、少女からの説明に安堵する。しかし、批判された女教師は黙ってはいない。
「心配して、なにが悪いって言うの!? それでも兄か、この薄情者ーッ!!」
……やれやれ。ほんとに騒々しいこと。
それにしても。
[奇跡]
[偶然]
[必然]
[想定外]
無駄に面倒な子たちが揃ってるわね。
意味があるのか、ないのか。
何かが起きるのか、起きないのか…。
「イリヤちゃんの顔に傷が残ったら、わたしが責任をとって士郎のお嫁さんに…」
「大袈裟だっての…、ってドサクサで何言ってんだよ、藤ねぇ!?」
「発言の意味がわかりません。藤村先生」
「うっ! なんだか目が怖いわ、美遊ちゃん!?」
「で、士郎さんはタイガとどういうご関係で?」
「リ、リナちゃん!?」
………。
「まぁ、どうでもいいでしょう」
−−−定時報告
20××年7月4日
本日も異常なし。
「暇ね。半死半生の患者でも運び込まれないかしら」
今回のサブタイトル
荒木飛呂彦「岸辺露伴は動かない」から
……というか、これってプリヤ原作のサブタイのまんまなんですよねー。
[マグダラの聖骸布]…対男性拘束用礼装。故に対象が士郎のみに。
次回「恋はDISCOMMUNICATION」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!