Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
翌日の学校。来てみたものの、やはりクロの姿はなかった。けれどそれも仕方のないことだ。
きのうお風呂場でイリヤが言ったこと。
−−−元の生活に戻りたい
それはすなわち、日常から外れたクロに、消えろと言ってるようなもの。イリヤにそのつもりがなくても、そうとられても仕方がない言い方だったと思う。
イリヤが登校してきたらそう伝えようと思っていたけど、当のイリヤは登校早々、ひどい落ち込みようだった。
わたしは気になったけど、すぐにリナがやって来て少し会話をすると少し表情がおだやかになり、気持ちが持ち直したのだと伺い知ることができた。
「イリヤ…」
わたしはそのタイミングで声をかけたけど。
ごす!
「「美遊(ミユ)!?」」
横から飛んできたランドセルが、わたしの頭に直撃した。痛い。
「うみ゛ーーー!!」
ああ、この声は龍子。まったく、ろくなことをしない。
みんなが暴走した龍子を止めようとしているけど、はっきり言って儘ならない状況だ。するとリナが、
「あーもー、うるさいわねっ!
龍子、ハウス!!」
と言いながら、龍子の頭に段ボールの箱をかぶせた。途端、龍子は大人しくなる。どうやら龍子は猫系の動物に近いらしい。
「もう、なんなの、いったい?」
あまりものばか騒ぎのお陰か、いつもの調子に戻ったイリヤが尋ねた。
「前にみんなで海行こうって言ったろ?
夏休み初日って、確かイリヤの誕生日だったよな? だからその日にあわせて、誕生会も一緒にやろうぜって話でさ」
「え、ほんと?」
イリヤの誕生日か。あれ? 夏休みの初日って…。
「美遊ちゃんも来てくれるんだよね?」
「う、うん…」
突然横から、……誰だっけ? から声をかけられて思考を中断させた。
「わたし、龍子、那奈亀、美々。イリヤと美遊、それにリナ。あと、クロも入れて八人だな」
「あ…」
クロの名前が出たとたんに、イリヤの表情が再び曇る。
「ん? どうした、イリヤ。暗い顔して」
「えっ、あ、その、クロとケンカしちゃって…」
雀花の疑問に、しどろもどろになりながら答えるイリヤ。
「あー、そりゃ確かにバツが悪いよな。でも、ま、従妹なんだし、仲直りのきっかけとでも思って伝えといてよ」
「うん、そうだね…」
……イリヤにクロの話題は振らない方がいいのかも知れない。
放課後。シューズボックスのフタを開けると、中には一通の手紙が入っていた。差出人は、見なくてもわかる。
「美遊?」
「どうしたの?」
リナとイリヤが聞いてくる。
わたしは目立たないように、手紙を握り潰す。特にリナは目敏いので、なるべく自然に、だ。
「イリヤ、リナ。先に帰ってて。
今日は…、ちょっと寄るところがある」
「え…、そう、なんだ」
イリヤは腑に落ちない顔をしているし、リナはわたしを、ただじっと見つめている。
やっぱりリナは、わたしのことを怪しんでいるみたいだ。
わたしは逃げるようにこの場を立ち去った。
蝉時雨の中、わたしは指定された場所を目指して歩いていく。
先ほどの手紙には簡単な地図に説明書き、そして「ひとりで来て」とだけ書いてあった。
途中、案内図も確認しながら進んでいき林の中を抜けると。
ザザァ…
「……そっか。海、本当に近かったんだね。知らなかった」
『美遊さま…?』
疑問に思ったんだろう、サファイアが声をかけてきたけど。
「まるで初めて海を見たような反応ね、ミユ。
……こんにちは。ちゃんとひとりで来てくれたのね」
どこからともなく現れたクロは、海面から顔を出した近くの岩の上に降り立ち言った。
「わたしは呼び出しに応じただけ。用件は何?」
「まず、わたしの話を聞いてくれるだなんて。やっぱりミユはやさしいわ」
「なぜ、リナではなくわたしを呼び出したの…?」
「ま、座って話しましょ」
なっ!?
わたしは、
慌てて飛び退くと、倒れた椅子が、すうっと消えた。
「そんなに警戒しなくてもいいのに」
予備動作はなかった。
「用件ね。別にどうこうしようって…」
気づいたら後を取られていた。
「ただ、ミユと二人で話してみたいなーって」
それに、あの椅子はどこから…!?
……まさか。
「転移と、投影…?」
思わず、口から零れたわたしの言葉。
「……やっぱり一般人じゃないんだね、ミユは。ルヴィアたちと出会う前から
だったらきっと、わかりあえるわ。わたしとミユは敵対する理由もないでしょ?」
「……ひとつだけ答えて。
あなたはまだ、イリヤを殺そうとしているの? イリヤと共存はできないの?」
この答え次第で、わたしの次の行動は決まる。
「……それは無理なんじゃない?」
「そう」
わたしは、ステッキとなったサファイアを構え。
どおっ!
転身し、クロに向かって魔力弾を放った。
「確かに、わたしたちが戦う理由はないのかもしれない。
でも、あなたがイリヤの敵になるのなら、わたしはそれを排除する!」
「イリヤのために戦うっていうの? あいつにそんな価値なんてないのに」
価値? 何を言って…。
「かわいそうなミユ、気づいてないの?
ほら、思い出してみて。昨日イリヤが言った言葉、イリヤの望みを」
それは…。
「イリヤは言ったわ。『元の生活に戻りたい』。
それはつまり…」
クロを否定する言葉…。
「
……え?
「イリヤの生活が変わってしまったのは、リンやルビー、そしてミユたちと関わってしまったからよ。
…出会いがなければ、わたしが存在することもなかったでしょうね」
クロ…。
「魔術の世界は、狂気と妄執渦巻く血塗れの世界。イリヤも無意識に感じ取ってるのかもね。
『元の世界』。それは、魔術世界と関わりがなく、わたしもミユもいない生活のことよ」
…………。
「そんなイリヤのために、ミユが戦う理由がある?」
あなたは…。
「本当に、そう思ってるの?」
クロがぴくりと身体を振るわせる。
「あなたは今まで、イリヤの何を見てきたの?」
「ミユ…?」
反論されるとは思っていなかったんだろう、クロは狼狽えている。
「『与えられた日常を甘受してるだけ』……。あなたがイリヤにそう言ったとき、イリヤはなんて答えた?」
あの日クロが去ったあと、わたしとリナはイリヤから、クロとのやり取りについて相談をうけていた。わたしには気の利いた答えは返せなかったけど。
「イリヤは、あなたが屋敷から抜け出したことに憤慨していたけど、あなたが普通の生活をしたいと言ったときに何か文句を言っていた?」
あのときは、イリヤにも思うところがあったみたいだった。
「ドッジボールの時、頭に血がのぼったわたしの投球からあなたを庇ったイリヤに、あなたは何も感じなかったの?」
本当のことを言えば、あの時リナに諭されていなければ、わたしは今でもイリヤの思いに気づいていなかったかもしれない。
「イリヤは懸命に、あなたに歩み寄ろうとしていた。それを拒絶していたのはあなたの方じゃないの!?」
「そん、なの…!」
絞り出すように言葉を発するクロ。
「わたしはそんなイリヤを信じてる。あの言葉にはクロの言ったような意味などないって」
わたしはセイバーのカードを取り出す。
「もし、戦う理由がいるのなら、わたしにはそれだけで十分」
夢幻召喚したわたしは、聖剣に姿を変えたサファイアを構えた。
「そう…。嬉しいわ、ミユ」
そう言ったクロは、それこそ嬉しそうな、それでいて寂しそうな、そんな表情をしていた。
ずがぎぃん!
わたしの聖剣とクロの陰陽の双剣がぶつかり合う。
わたしが聖剣を振るえばクロが双剣でいなし、クロが切りつけてくれば、わたしはそれを掻い潜り剣を一閃させる。
「その力。その姿。英霊そのものだわ。カードを通してセイバーの英霊をその身に宿したのね。
わたしが以前やったように」
わたしが…?
やっぱりあの時のイリヤはクロだった…?
「わたしね、カンニングが得意なの」
……は?
「例えばね?
『手元に変なカードかあります』、『目の前に敵がいます』、『さて、どうしましょう?』。
そういう問題に対して即、『カードを夢幻召喚する』って答えを出せるのがわたしなの。
過程を省いて望んだ結果だけを得る。そういうふうに
過程を省いて結果だけ? それってまるで…。
それに造られたって…?
「だから、ほら…」
次の瞬間、後ろからの殺気。
「
クロの左右同時、交錯させた横薙ぎの攻撃を転がるように回避し、立ち上がる勢いをそのままに切りつける。
クロとわたしは一進一退の攻防を繰り返す。
そう、今のわたしはセイバーのカードによって、力、速度、反射。すべての能力が格段に上がっている。それはすなわち、クロと渡り合える…、ううん、凌駕しているっていうこと。
気合いを込めた一撃で、クロの双剣が砕ける。距離をとろうとするクロに、距離を詰めようとするわたし。
けれどクロは、名もない刀剣類を投影してばらまく。それらを剣で弾きながら進んでいたところを。
ぼひゅっ!
飛来した矢を剣で弾いたものの、矢は炸裂し、わたしはその爆風に吹き飛ばされる。
「無から剣を
[アーチャー]、文字通りの力よね」
クロは矢を連続で放ち、わたしはそれをかわしていく。でも、これ以上離されたら、勝ち目がなくなる。
ならば! 前へ!!
わたしはクロの射た矢を弾くことはせず、全てをギリギリでかわしきり、その間合いへと飛び込んだ。
そして、クロの胴へと横薙ぎの一閃…。
ガッ!
ギギィ……ン
気がつけば、大きく長い剣が立ち並び、盾となってわたしの剣撃を食い止めていた。
「残念」
言ってクロは刺又を投影し放つ。わたしは一緒に吹き飛ばされ、剣を握る両腕の交錯した手首を刺又のアーチ部分を利用して、両手を挙げた状態で木の幹に縫い止められてしまった。
「全然ダメよ、ミユ。
あ…、そうか。以前戦ったときにも感じた違和感。まるでこちらの思考を読まれているかのようだったけど。
「無理もないかな。ミユたちが戦ってきたのって、あんなのばっかだったしね」
本能のみで戦う「現象」に過ぎなかった黒化英霊とは違う。
そう。クロは思考する敵なんだ。
「リナはねー、わたしとアレとの違いには、すぐに気づいてたみたいだけど、あなたたちには内緒にしてた様ね。ほんとに中立を守ってる。
だから、ここには呼ばなかったんだけどね」
中立を守るリナは、どちらかに肩入れすることはない、ということか。
「さて、どうしよっか」
クロは投影した白い中華剣を、わたしの首もとに当てた。
「あなたがどうしても邪魔をするって言うなら、あなたを殺して、その後イリヤを殺すわ」
「そんなことをすればクロも…!」
「そうね。
三人仲良く死んでおしまい。リナが一緒じゃないのが残念だけど、こういうのもいいと思わない?」
ざんっ!
ガギィッ!
手首を捻り、後ろの木を切り裂き、クロへと振るった剣は、双剣を盾にして防がれた。けれどそれは、想定済みのこと。
「心中に付き合う気も、付き合わせる気もない。
……もう一度だけ聞く。共存する気はないの!?」
「言ったでしょ。無理なのよ、共存なんて」
わたしの再度の問いに、クロは至って平然と述べた。
「なら…」
わたしは覚悟を決める。
「ここで止める!!」
「残念だわ、ミユ!!」
互いに想いを込めて、わたしたちは剣を振るった。
今回のサブタイトル
アニメ「神のみぞ知るセカイ 女神編」EDから
ちなみに中の人つながりで、feat.鮎川天理のイメージです。
さて、今回の美遊の反論。リナが関わったことで、イリヤとのキズナもより強固なものになりました。原作ではクロエの言葉に、かなり心が揺れてましたからね。
しかし、今回書いてて思ったのは、リナの立ち位置ってゼロスみたいだなと(笑)。
次回「キズナノユクエ feat.イリヤ」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!