Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
……あれ? わたし…?
「−−−−を捨てることになる。
どういう意味かは君が一番…」
「わかっています。その上で天秤を傾けたの。
もう、決めたことだから」
ママ? おとーさん?
ここ、どこ? なんだか豪華な部屋…。
「私に選択肢を与えてくれたのは貴方。なら、イリヤにそれをあげるのは、きっと私の役目だわ」
わっ、ちっちゃい手!
「……八ヶ月の生命が千年の悲願に勝るとはな」
これ、わたしの手?
「おかしいかしら?」
「どうかな。けど、きっと間違いじゃ…ない」
なに? こんな記憶、わたしにはない!
「さぁ、イリヤ。おねむの時間よ」
これってもしかして…。
「次に目覚めたとき、あなたは生まれ変わるわ」
クロの………。
……。
ごぼっ!
…ん?
「んばーーっ!?」
ざっぱーんっ!
はーっ、はーっ、はーっ…
目を覚ましたわたしは立ち上がり、お湯から顔を出した。となりには、わたしとまったく同じ状態のクロがいる。
……ん? お湯?
「ここ、大浴場? なんで…」
えーと、わたしは確か…。
そうだ、わたしたちの前にママが現れて…。
「あら、まあ。イリヤちゃんったら、いつの間に双子になっちゃったのかしら?」
ママがすっとぼけたことを言ったけど、このときのわたしは現状にパニックして、ただ、ガタガタと震えていた。と、次の瞬間にクロは、ママに向かって斬りつけに来た。
一瞬で我にかえったわたしは、ママの前に飛び出し、ルビーを盾にしてクロの攻撃を防ぐ。
「逢いたかったわ、ママ。
十年前、わたしを『なかったこと』にした素敵なママ!」
「危なっ…!!」
十年前。何があったのかを考える間もなく、クロは剣を投げて攻撃を仕掛け、わたしはママに抱きつくみたいな感じで飛び退いた。
クロはさらに、出した弓矢をママに向かって構える。
「逃げて、イリヤ!! それは防げな…」
そう、ミユは言ったけど、ママと一緒じゃ間に合わない!
……それなら!!
「ルビー!!
物理保護…、
普通は星形の魔力の盾のところを、中心点を前方に引き伸ばした五角錐に展開した。
ガキャァ!!
物理保護のシールドは破壊されたけど、それより前に、矢はシールドの側面を滑るように軌道を変えて、後ろ上空に消えてった。
「どうしてママを攻撃するの!? こんなのめちゃくちゃだよ。
……自分が何してるか、わかってるの!?」
「−−−んない。わかんないよ。
そのときのクロの表情を見て、思い出した。
リナはクロに言ったらしい。
そう、今のクロは揺れてるんだ。わたしやママを憎む気持ちと愛しい気持ち、その狭間で。
「いいわ。おいで、
どうしてイリヤちゃんが二人に増えてるのかはわからないけど、あなたが哀しんでることはわかるわ。
抱きしめてあげる」
ダメ! 不安定な今のクロは、どう行動するかわからない!
だけど、そう思った次の瞬間。
「でもその前に」
ママが手にした細い針金の束が宙へと伸びていき、レース編みのような巨大なゲンコツを作りあげて。
ゴチン!!
「躾は必要よね」
上から降り下ろされた、というか落下した? 拳はクロを直撃、気絶させた。てか、地面窪んでるんだけど、大丈夫なの!?
「マ、ママママ、いいい今のなに!?」
まともに喋れないわたしを後目にママは。
「そうそう、こういう時は、両成敗よね」
そして降り下ろされたゲンコツに、わたしは意識を失って…。
さっきの夢のあと、今に至ってる。
「おはよう、二人のイリヤちゃん。お湯だけど、頭は冷えたかしらー?」
「何故お風呂に…」
「うーん、お約束ってやつじゃない?」
お気楽なママに続いて、疑問を投げ掛けるミユに諦めモードのリナ。三人は大きなバスタオルを巻いてる。
「なんだかママがいない間に、ずいぶんとヘンなことになってたみたいね。だいたいのことはリナちゃん、ミユちゃん、ステッキちゃんから聞いたわよー」
あうー、友バレに続いて親バレまで…。
「というわけで、『おしえて! アイリママ』のコーナー!
子供たちからの質問に、気分次第で何でも答えるわよー」
ママはわざわざ、【おしえて!! 愛理ママ☆】って書かれたホワイトボードを浴場まで持ってきて、差し棒で板面を指し示してる。
「そい」
ざばん!
入れた!?
リナ、ミユ、それとクロも、表情を見る限り同じことを思ったみたいだ。
あ、いや、今はそんなこと気にしてもしょうがない。それよりも。
「なら、聞くわ。
前みたいにごまかさないで、ちゃんと教えて。知りたいの。
わたしは、
「……まさか、母親が来るとはね。強引な人だったわ」
「あの方、魔術師?」
「……イリヤの家のこと、調べたわ。
おかしいとは思ってたのよ。先天性の例はあるけど、それにしたってイリヤの魔力容量は大きすぎる。
魔術の名門出でもない限り、考えにくいわ」
説明を聞き、疑問が浮かぶ。
「けど、アインツベルンだなんて名前は、聞いたこともありませんわ」
「調べるのに苦労したわ。
アインツベルン…。表向きはドイツの古い貴族。でもその本体は、どの協会にも属さず、他家との関わりの一切を絶った単一の魔術一族よ。
魔術体系も方式も、一切不明。その歴史は、千年を超えるらしいわ」
なるほど。徹底した情報の隠蔽ですわね。
「もっとも、十年くらい前からアインツベルンは、ほとんど活動してないみたいね。何でも、大規模な儀式を起こそうとしてたみたいだけど」
儀式…。内容が気になりますわね。そしてアインツベルンが日本へやって来た理由。
何故だか
湯船に浸かりながら、アインツベルンが魔術師の一族だと語ったアイリさん。これにはさすがに、イリヤと美遊も驚いたみたいだ。ま、あたしは知ってたけど。
そして十年前、大規模な魔術儀式が行われようとしていた、と話が進んでいき。
「つまりね…」
アイリさんが言葉を続ける。
「[聖杯戦争]…。
あなたはそう呼ばれる儀式の
聖杯…!?
あたしはガウリイの言葉を思い出す。聖杯を守りとおせ。彼は確かにそう言っていた。
アイリさんのその言葉に、美遊は驚愕し、イリヤは戸惑う。クロエは静かに目を閉じている。
「イリヤにはある程度の範囲で『望んだことを叶える』力があるわ」
……ん? あたしは僅かな違和感を覚えた。けれど思いを馳せる間もなく。
「そうよ。わたしはそのために生まれた。
生まれる前から調整され続け、生後数ヵ月で言葉を解し、あらゆる知識を埋めつけられたわ。
なのにあなたは、それを封印した。機能を封じ、知能を封じ、記憶を封じた」
それはクロエが、アイリさんを断罪する言葉。なにしろその行為は、ただ一人であった「イリヤ」という存在を否定した、ということだから。
「どうして、わたしのままじゃいけなかったの?」
クロエの言葉が重く響く。
「でも、誤算だったわね、ママ。封じられた記憶はイリヤの中で育って、わたしになったわ。そして肉体を得た。
イリヤに普通の生を歩ませるなら、それでいい。
けど、ならせめて。わたしには魔術師としての生をちょうだい…。
わたしを、アインツベルンに帰して!!」
クロエの切実な願いはだけど。
「アインツベルンは、もうないわ」
「え…?」
「もう、ないの。もう…、聖杯戦争は起こらないわ」
ただ、淡々と語られる、非情なまでの現実。
「なに、それ…。それじゃ、わたしの居場所はどこにあるのよ!!」
クロエは叫び、一気に魔力を放出させる。クロエの周りの湯もその煽りで吹き飛ばされた。
「全部奪われた! 全部失った! 何も、何も残ってない!」
クロエ…!
「なんて惨めで無意味なの? 誰からも必要とされてないなんて!」
っこの…!
「スカポンターンっ!!」
すっぱぁぁぁ……ん!
大浴場に、乾いた音が響き渡った。
「リ、ナ…?」
驚きの眼差しをあたしに向けて呟くクロエ。
「なんでスリッパ…」
「そっちかい!?」
思わず突っ込むあたし。いや、まさかほんとに使うことになるとは思わんかったけど。
「いや、それは置いといて、クロエ!
全部奪われた? 全部失った? 何も残ってない?
どの口が言ってんのよ! それじゃ、あたしたちとの絆まで否定するっての!?」
「絆…」
「イリヤは言っていたでしょ? 起きたことをなかったことにしないって。
あたしはクロエのこと、大事な親友だと思ってる。
クラスのみんなだってクロエのこと、友達認定してるわ。
それを勘定に入れてないアンタは大馬鹿モンよ!」
確かに、彼女が欲していた家族も生活も環境も、全て奪われ失ってる。だけど、クロエとして築いてきたものまで否定してほしくはない。
「わたし…」
クロエがなにかを言おうとしたとき、彼女の身体が大きく震えた。そしてその身体が、徐々に光の粒子となっていく。これってまさか…。
「そっか、使い過ぎちゃったか。
そう。今のクロエは、ガウリイたちが役目を終えて消えていったときとそっくりなんだ。
不味い! 早くなんとかし…、えっ!?
あたしとクロエの間に割って入ったピンクの影が、次の瞬間クロエと唇を重ねた。
「どう、して…」
魔力供給で持ち直したクロエが、魔法少女に転身したイリヤに尋ねる。
「勝手に出てきて、勝手に消えないでよ!」
言ったイリヤは、心配の色の濃い怒り顔。
「正直言うとね、ママの話を聞いてもわたし、あんまりショックを受けてないんだ。
自分が魔術の道具として生まれてきたなんて、世界観が変わっちゃうくらい大変なことなのに。
でも、わたしが平静でいられるのはきっと、クロが傷ついているから。わたしが負うはずだったものを、クロが代わりに負ってくれてたんだ。
ごめんね」
涙を流しながら言うイリヤ。
「でも、だからこそ、少しはわたしを頼ってよ。
……そりゃあ、わたしじゃ頼りないかもしんないけどさ」
サァァ…
なっ、またクロエの身体が…!?
「どうして!?」
『供給ではダメなんです。崩壊は止まりません!』
「もういいわ。消えるときに泣いてくれる人がいるなら、意味はあったわ」
この子はまたッ!!
「こんなときまで強がってんじゃないわよ! アンタの人生、意味、無意味で決められるもんじゃないでしょうが!!」
「そうだよ! クロにも欲しいものはあるんでしょう!?
だったら、願ってよ!
イリヤの想いにクロエは、静かに言葉を紡ぐ。
「わたしは…、
家族が欲しい。
普通の暮らしが欲しい。
でも。それより。
消えたくない…!
ただ、生きていたい…!」
大粒の涙を溢し、ただ、心からの思いを口にする。
その思いを乗せ、クロエの身体は輝き、安定した状態を取り戻していった。
エーデルフェルト邸の一室。凛が雑務をこなしていると。
ガチャリ
「お風呂ありがとう。とてもいいお湯だったわ」
アイリが美遊とともに部屋へと入ってきた。
「イリヤがいろいろとお世話になっていたみたいね。今度必ずお礼はするわ」
「いえ、お気遣いなく。イリヤたちを巻き込んだのはこっちの方ですし」
アイリの言葉に遠慮をする凛。実際凛としても、イリヤたちを巻き込んだことに関しては心苦しく思っていたのだ。
「それで、イリヤとクロ、それにリナは…」
「ああ、その事なんだけど、リナちゃんからみんなに話したいことがあるんですって。
それで、いつもの接客室に集まってほしいそうよ」
「……え?」
場所は変わってエーデルフェルト邸の接客室。
「みんな、お待たせー」
アイリが凛を連れて部屋へ入ってきた。
「ん、みんな揃ったみたいね」
リナはぐるりと見渡して言う。
「
ルヴィアの問いに、リナは真剣な顔で答えた。
「これからみんなに、あたしが秘密にしてきたことを聞いてもらいたいの」
リナは、決意の眼差しをみんなに向けて言うのだった。
今回のサブタイトル
Fateシリーズの最重要ワードから
改めまして、遅れてしまいすみませんでした。どうもここのところ、あまり執筆時間がとれないもので。仕事が忙しいわけでもないに、解せぬ。
さて、今回のラスト。ついにリナが、自分の秘密を打ち明けます。その理由は次回で、というわけで。
次回「スレイヤーズ!」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!