Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ   作:猿野ただすみ

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長いことお待たせしました。


勝利はあたしたちのためにあるっ!

≪稲葉リナside≫

逢魔さんとクロエに、これからあたしがやろうとしていることを伝えると、二人とも興味を示してくれた。クロエなんか、

 

「まだこんな隠し球があったの」

 

なんて言ってきた。

あたしはクロエに遠話球(テレフォン・オーブ)と、[セイバー]のクラスカードを手渡す。

 

「あたしが合図を送ったら、みんなにここへ集まるように伝えて。なのはちゃんたちへは、逢魔さんに頼んであるから」

「ふぅん。……で、このカードは?」

 

クロエが人差し指と中指でカードを挟み、あたしにちらつかせる。

 

「限定展開すると、しばらくはそのカードが使えないでしょ? どちらかがカードを使ったあとなら渡したげて。

二人ともだったら、アンタに任せるわ」

「そーいうこと。OK、わかったわ」

 

そう言ってクロエは胸元にカードを差し込む。……って、なんかエロいぞ。何でこの子は、一事が万事こうなんだ?

いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないわね。

 

「それからクロエ、もうひとつ頼みたいことがあるんだけど…」

 

クロエにあることを頼んだあと、あたしは戦闘をふたりに任せて、これから行うことの準備を始める。

まずやるべき事は、呪文の詠唱。あたしが目的としていることに呪文は必要ないのだけど、そこに至るためには魔法の力が必要なのだ。何しろ、あたしにはエルフの眼は無いのだから。

だからあたしは、術によって一時的にエルフが見えるモノを見る(すべ)を手に入れた。

もちろんこれが本当に、エルフが見ているものなのかは分からないけれど。

 

全ての命を育みし

母なる無限のこの大地…

 

イリヤたちは…、美遊が魔力砲の一斉射撃か。セイバー戦の時にルヴィアさんがやってたヤツね。

 

空と大地を渡りしものよ

優しき流れ たゆとう水よ…

 

なのはちゃんたちは、……おお、ユーノが空間渡りをした魔族を、身体を独楽のように回転させて上手いこと斬ったわ。ディルスの城内でガウリイがやってたヤツみたいね。

 

夜の静寂(しじま)を照らすもの

輝き燃える 赤き炎よ…

 

クロエはいつもの双剣で切り込みながらディルギアを牽制し、クロエが離れた瞬間に逢魔さんが術を叩き込む。

さすがに逢魔さんは、あたしと闘い方の癖が似てるんだろう。クロエがしっかり合わせてるみたいだ。

 

空と大地を渡りしものよ

永久(とわ)を吹き過ぎ行く風よ…

 

魔族たちはディルギアを除き、あたしの行動を気にする様子もなかった。

ディルギアは、まあ、気にされるだろうと腹を括ってはいたし、仕方がないだろう。

 

全ての心の源に

汝ら全ての力を集え…

 

……この呪文は、地水火風に精神を加えた五つの属性の力を借りたもの。

とはいえ、4大精霊の力を精神へと集約させているので、制御自体はさほど難しいものでは無い。

 

我が力 我が身となりて

世界を映す力となれ!

 

しかしこの術は、大きなリスクも伴う。それは…。

 

精霊映視呪(マナ・スキャニング)

 

ズキィッ!

 

術の発動と同時に襲う、激しい頭痛。

術によって視覚のみならず、その他の感覚までもが拡張される。その膨大な情報量に、脳へ激しい負荷がかかっているのだ。

今の未成熟な身体で、後遺症を気にせずに使えるのは、精々10秒程度。しかも数日は、同じ術を使わないという条件付きで、だ。

まあ、とはいえ、今からすることはそれだけの時間があれば充分なのだけど。

あたしはクロエに頼み投影してもらった数本の小刀を投擲、地面へ突き刺していく。それにより、地や大気を流れる魔力の流れが変わり、ひとつの陣が形成される。

 

---前世で(かつて)。旅の途中で出会ったエルフがいた。

ゼフィーリア領にあるアテッサで知り合った彼女は、あたしたちと共にその街で起きた事件を解決したのだが、その折彼女が使って見せたのがアイテムの配置による魔法陣の作成。特に魔力増幅の陣は、あたしも強く興味をもった。

だけど、それを習得するには、いくつかの問題点があった。

まずは使用するアイテム。種類ではなく、性質の組合せってことらしいんだけど、それを人間の魔導師が見極めるのには、けっこぉな手間がかかる。

次に陣の形成。人間が図形によって陣を形成するのとは違い、アイテムの配置によって形成する陣は魔力の流れが見えないと機能しているのかが判らない。

詳しい説明は省くが、その問題をクリアしたのが、今回のやり方である。

あたしが作り上げた陣の中にいれば、魔力が増幅されて術の威力が跳ね上がるのだ。生憎と今回は、あまり大きな陣を敷けなかったけど、これでも充分な威力上昇が望めるはず!

 

「クロエ、チェンジ!」

 

かけ声と共にあたしは結界を飛び出し、入れ替わりでクロエが結界の中へ引っ込む。

 

「覇王氷河烈[ダイナスト・ブレス]!」

 

それに合わせて逢魔さんが術を放つが、ディルギアはバックステップでかわしながら、魔力を込めた剣でそれを叩き切る。

 

「ガッ!?」

 

ディルギアが短い悲鳴をあげた。あたしが魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)を纏わせた小刀を投げたのだ。

まさか魔王の腹心の術が囮だとは、思いもしなかったのだろう。さらに。

 

覇王雷撃陣(ダイナスト・ブラス)!」

 

あたしは唱えていた方の術を発動させた。

あらかじめ魔力を込めておける魔皇霊斬(この術)で時間を稼ぎ、本命の術を叩き込む!

 

「があぁぁぁぁぁっ!!」

 

気合いと共に魔力の雷は弾かれたものの、相殺しきれずにダメージは受けているようだ。

 

「っかはぁ! くっ、小賢しい、真似を…!」

「あたしたちが生き残るためだもの」

 

あたしはそう、ディルギアに切り返した。

 

 

 

 

≪third person≫

クロエからの通信を受けたイリヤたちは、踵を返して一斉に走り出す。

イリヤからの一撃を食らい冷静さを失っているルビーは、闇雲にその後を追う。

 

限定展開(インクルード)!」

 

走りながら美遊は、「セイバー」のカードを限定展開、[約束された勝利の剣]に魔力を乗せていく。

 

砲撃(フォイア)!」

「「ガンド!!」」

 

イリヤの砲撃に魔術師ふたりのガンドがルビーを襲うが、彼女はそれには目もくれずに魔力弾を放ってくる。

 

『何だか、アッサリと追いかけてきますねー』

「油断は禁物ですわ」

「そうよ。移動の目的を悟らせるわけにはいかないのよ。そのための牽制なんだから」

 

呆れた声で言うルビー(ステッキ)に、ルヴィアと凛が釘を刺す。

だが、そのステッキのマスターはそんなこと聞いてはいない。何故なら。

 

(うう、どうしよう。大技の準備って言っても、ランサーのカード使っちゃったし。あとは、斬擊をフルパワーで撃つくらいしか…)

 

火力不足で悩んでいたからだ。

下らないことと言うなかれ。火力不足による戦力低下は、イリヤ自身結構気にしてはいた。

それでも普段は、色々と機転を利かせて戦ってきたが、今回指示された火力頼みの攻撃となると、さすがにコンプレックスを感じざるを得ないのだ。

そんな、ややブルーになったイリヤに救いの手が。

 

「イリヤ! これ、リナからよ!」

 

クロエが、稲葉リナから渡されたカードを、イリヤに向かって投げたのだ。

イリヤは瞬時に結論を導いた。クロエが持つ、過程をすっとばして結果を導く、などという能力など無くても問題なかった。

リナが持つ3枚のカードの内、高火力が望めるものは1枚だけ。ましてやリナの親友であるイリヤには、彼女が何のカ-ドを託したのかなど考えるまでもないことだ。

 

「クラスカード[セイバー]、限定展開(インクルード)!」

 

イリヤは飛来するカードにステッキ(ルビー)を当て、その力の一端を解放した。

 

 

 

 

 

『みんな! 大技の準備しながらこっち来て!』

 

逢魔リナからの念話が届き、なのはたちは魔法で牽制しながら走り出す。

 

『今度は、遠慮はいらないよね?』

 

そう念話で語ったなのはは、装填していたカートリッジ6発全てを充填、「星光集束斬[スターライト・ブレイカー]」の詠唱を始める。

フェイトはといえば、ミッドチルダ式ではなくスィーフィード式の術、[カオスワーズ]を唱え始めた。

スィーフィード式に適性がないフェイトにとって、このタイプの術は魔力消費が激しく向いてはいないのだが…。

 

(リナさんに、わたしの大技を見てもらいたい。……少しくらいワガママを言っても、いいよね?)

 

フェイトにしては珍しいワガママだった。

 

(それにこの術は、なのはの[星光集束斬[スターライト・ブレイカー]]と同じ、わたしが、わたしたちの模擬戦のために編みだしたもの。わたしとなのはの、絆の術だから…!)

 

……取り敢えず、術開発のための知恵を授けてくれたナーガへの感謝が無いのは、ここだけの秘密である。

 

 

 

 

 

イリヤたち、なのはたちがリナたちと交戦するディルギアの後ろで交錯する。

 

「なに!?」

 

ディルギアが一瞬、後ろに気を取られ。

 

「なっ!」

「こりゃあ…」

 

怒りで冷静でなかったルビーとクランは、ここに来てようやく誘導されていたことに気づいた。が。

 

「「ガンド!!」」

「光よ、穿て!」

 

凛、ルヴィアのガンドがクランに、ユーノが射出した光刃がルビーに、予想外からの攻撃にふたりの魔族はダメージを喰らう。

その隙に稲葉リナが張った結界へと向かうが、ディルギアが魔力弾を、最後尾を行く凛、ルヴィアに向かって放つ。しかし。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」

 

クロエが4弁の花を思わせる光の盾を投影し、その攻撃を防いだ。

結界へ入ると、みんなの魔力が増幅される。特に光の刃を形成している光の剣及びゴルンノヴァは、非常に判りやすい。

 

「みんな、『せーの』でいくわよっ!」

「リナさん、それ、わたしのセリフなの!?」

 

リナのセリフになのはが突っ込むが、今は言い合ってる時間などない。なのははすぐに気持ちを切り替えた。

 

「いくよ! これがわたしの全力全開!!

星光[スターライト]…」

「覇王[ダイナスト]…」

「光よ…」

 

なのはたちが構えれば、当然イリヤたちも。

 

「[光の剣]、わたしのありったけの魔力、持ってって!」

約束された(エクス)…」

偽・偽・(カラド)…」

 

持てる力を全開に。

 

「せーのっ!」

 

稲葉リナのかけ声と共に。

 

「集束斬[ブレイカー]!!」

「雷光炮[ファランクス]!!」

「穿てぇっ!!」

「いっけえぇッ!!」

勝利の剣(カリバー)ッ!!」

螺旋剣(ボルグⅢ)!!」

 

どぐうぉぁあ……んん!!!

 

()()()絶叫が木霊し、集中砲火を受けたその場に、盛大な爆煙が上がる。

吹き荒れる爆風が治まり、煙が晴れた爆心地には魔族の姿もなく。

 

「……やったの?」

 

美遊が、ぽつりと呟く。と。

 

「ミユッ、それ、フラグだからッッ!」

 

イリヤが激しくツッコミを入れるが、しかしそのツッコミが入れられる事こそが、緊張が途切れたことを示している。

不意に、後ろから強烈な殺気が膨れ上がり。

 

「魔竜烈火咆[ガーヴ・フレア]!!」

「ぐおぉ!?」

 

逢魔リナが放った魔竜王(滅びた者)の術が、不意討ちを狙っていたディルギアを襲った。

そこへ間髪を入れずに、稲葉リナがディルギアの懐へと入り込み、唱えていた術を発動させる!

 

魔王剣(ルビーアイ・ブレード)ッ!!」

 

ざん!

 

生み出された赫き刃が、ディルギアの左肩から袈裟懸けに切り裂いた。

 

「な、ぜ…、魔竜王、様…の……」

 

それがディルギアの、最後の言葉。ディルギアは空に溶けるように消滅していった。




今回のサブタイトル
TVアニメ「スレイヤーズ」OP セリフ部分から

改めまして、大変長らくお待たせいたしました。
言い訳させてもらいますと、この話を執筆中に不意に「あ、惰性で書いてる」と思い、のままじゃ書けなくなるような気がしたので、しばらくクールダウンをしていました。とは言っても、他の作品は書いてましたが。

そしてもうひとつ謝罪が。前回のあとがきでリナ目線とか書きましたが、結果、三人称になりました。すみません。
いや、イリヤやフェイトの心の声も書きたかったもので。

さて。構成をミスらなければ、あと2話でこのコラボも終わりの予定です。取り敢えずあと2話、気を引き締めていきたいと思います。

次回「この素晴らしい出会いに祝福を!」
リリカル、マジカル
「ほら、頑張りなさい!」
「サボるようでしたら、ガンドをお見舞いしますわよッ!」
「は、はいッ!」
(by 凛 & ルヴィア & 作者)

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