Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
異世界の魔道士物語
晴れ渡った暖かな陽気の中、あたしは一人、大きな森の中を通る街道を歩いていた。最初の目的地は、既に視界に入っている。
「……十年ぶり、かしらね」
その街を目にして、あたしは小さく呟いた。
この十年の間にも、色々と旅をして回ったりもしたが、不思議とこの街にはやってくる機会が無かった。
街の中に入るとあたしは、あるお店をめざして道を行く。そしてそこは、今も存在していた。
あたしはお店の扉を開け、中へと踏み入る。
「いらっしゃい…、ん? あなたはまさか…」
「久しぶりね、マクライルさん」
右手を軽く挙げ、挨拶をするあたし。
「ああ、やっぱりリナさんでしたか」
マクライルさんが、あたしの名を口にする。
そう。あたしはリナ。リナ=インバース。
……いや、正確には違うけど、
「本当に久しぶりですね。
それで、今日はどうしてこちらに?」
「うん、ちょっと尋ねたいことがあって来たんだけど…。
でもまずは、定食五人前ね!」
マクライルさんの疑問に答える前にあたしは、昼食を頼みながらウインクをして見せた。
「……それで、尋ねたいこととは?」
あたしが食事を済ませたのを見計らって、マクライルさんが口を開く。
口許をナプキンで拭き取ると、あたしは真剣な表情を向ける。
「マクライルさん。アライナがどこに住んでるか知ってる?」
「アライナさん、ですか?」
予想外の名前を聞いたからだろう。その表情に驚きの色を浮かべていた。
アライナは十年前、ここで起きた事件を解決へと導いた人物の一人だ。
……いや、訂正をしよう。彼女は人間ではなく、エルフだ。
「アライナに、ちょっと用事があってね」
そう告げると、マクライルさんは少し困った顔をして。
「生憎と、エルフたちがどこで暮らしてるのかは判りませんね」
やっぱり、マクライルさんにも話してないか。
「ですが数日前に、当のアライナさんがいらっしゃいまして」
をや?
「他のエルフの里にお遣いに行くついでに立ち寄った、と言ってましたよ」
他の、エルフの里!?
「それで、その里が何処にあるかは聞いたの!?」
「ええ。もちろん、おおまかな場所ですが」
「それでもいいから教えてっ!」
気がつけば。あたしはマクライルさんの胸ぐらを掴んで、前後に思いっきり揺さぶっていた。
あたしは再び街道を行く。マクライルさんから教えてもらった、エルフの里。そこには心当たりがあった。
もちろん、あたしにもそこの所在は判らないのだが、何とか出来る自信はある。
……が、しかし今は。
「おう。有り金全部置いていけ!」
複数の、ムサい男たちに囲まれてのこのセリフ。いやー、久しぶりだわー。
「……おい、聞いてんのか!」
感慨に耽っているあたしに、苛立たし気に怒鳴りつける男。おそらくコイツらの…、盗賊のお頭だろう。
「あ-、聞いてるわよ。あたしに吹っ飛ばされたくないから、有り金全部置いてってくれるって話よね?」
「オイコラ、てめぇ! どこをどうしたらそんな話に…」
「
ズドゴォ!
あたしの周囲を、盗賊たちを巻き込みながら土砂が盛大に噴き上げた。
「……て、てめぇ。いきなり、何しやがる!」
お? お頭(推定)の意識は刈り取れなかったか。いやしかし、盗賊が何ほざいてんだか。
「なんか、盗賊いぢめなんて久し振りだから、つい感極まっちゃって」
そんなことを答えると、お頭(推定)が顔色を変えた。
「ま、まさかお前は、[
おやまあ、その二つ名も久し振りね。
ハッキリ言って今でも、この手の二つ名は気に入らないのだが、あたしも成長したのだろう。このくらいは笑ってやり過ごせるようにはなっている。
「うん。他にも、[ドラまた]とか[魔王の食べ残し]とか、色々言われてるわねー」
「ひいっ、い、言われてみれば、聞いていたとおりの特徴…」
ぴくり
「……特徴?」
「チビで胸なし」
「なにをぉぉぉ!!
「のはあぁぁ!?」
あたしの攻撃を食らい、今度こそお頭(推定)の意識を刈り取った。
追記。身体的特徴(特に胸)は、今でも禁句である。
……ふん。昔よりは、ちょっとは成長したんだい。
そんなこんながありまして、やって来ましたガイリア・シティ。
途中の街で聞き込みはしたけど、アライナらしき人、じゃなくてエルフの目撃情報は殆どなかった。ということは、わざわざ街を迂回していったって事になるけど。
……あの子、どんだけ人見知りなのよ!?
とまあ、そんな些細なことは置いといて。あたしはこの先に進む前に、ある人物に会うことにした。
「これはまた、懐かしい顔だ」
「お久しぶりです。アルス将軍」
「元、だよ」
自嘲気味に言うこの人物は、アルス元将軍。
かつて。ディルス王国の先王にある者を引き合わせたがために、王宮内に高位魔族を引き入れ、国を混乱へと導く事件があった。そのある者と引き合わせたのが、当時赤騎士団の将軍だったこの人である。
とは言っても、悪い人じゃないのだ。王様と引き合わせたのだって、よかれと思ってやったこと。
ただ、その、何というか、人を見る目が無かったのだ。
「して、今日はどのような要件でここに参られたのかな?」
「実はこの先、カタート山脈の麓まで行きたいんだけど」
「カタート山脈の?」
アルス元将軍は驚きの眼差しを向ける。
まあ、そりゃそうだろう。カタート山脈と言えば、七つに裂かれた魔王の内の一体、通称[北の魔王]が封印されている地だ。
「まさか、[北の魔王]と対峙する気では…」
「それこそまさかよ。
そりゃ降りかかる火の粉は振り払うけど、わざわざ自分から危ない橋を渡ったりはしないわ。あたしは、正義の味方じゃないんだから」
あたしの返事を聞いた元将軍は、安堵のため息を吐き。
「ならよいが…。しかし、ならば何故、あの様なところに?」
ふむ。確かに、その疑問はもっともだ。なのであたしは、簡潔に説明をする。
「向こう側に、知り合いのエルフがいるのよ。その子に用事があってね」
「なるほど。エルフの里に向かうのか」
「そ。それで、ちょっとお願いがあって…」
言ってあたしは、それを口に出した。
カタート山脈の麓。ガイリア・シティからは大分離れた森の中まで来たあたし。そんな中でもここは、少し開けた場所となっている。
うん。ここなら申し分ないだろう。
確認を終えたあたしは、呪文を唱え。
「
上空に向けて竜破斬を放つ。
これでよし。あとは、しばらく待てば…。
バサッ!
少し休憩する程度ののち、大きな羽音とともに、待ち望んでいた者が姿を現した。
あたしは以前、
ただしそれだと、ディルスの兵たちも騒ぎ出すので、あらかじめアルス元将軍に言付けをしておいた、というわけだ。
……それにしても、まさか。
『やはりお主だったか』
そこに現れた黄金竜は、一般的な者よりも一回りは大きかった。
黄金竜が一声あげると、その身体は光に包まれ、人の姿へと変えていく。その姿は、金髪の美形中年男性。
「久しいな、人間の娘よ」
「お久しぶりです、ミルガズィアさん。でも、さすがにもう、娘って歳じゃないですよ」
彼はミルガズィアさん。
「それもそうか。……それで、人間よ。何の用があってここへ来た?」
真顔で尋ねるミルガズィアさん。一見取っつきにくそうだけど、冗談言うときもこの表情である。
「厚かましいお願いなのですが、エルフの里へと連れていってはもらえないでしょうか?」
「エルフの里、だと?」
「はい。実は…」
あたしはミルガズィアさんに、簡単な説明をする。
「なるほど」
「あの、駄目でしょうか?」
「いや、駄目ということはない。しかし…」
「しかし?」
「わざわざ里へ行くまでもないだろう」
ミルガズィアさんの言葉を聞き返す、迄もなく。
「見つけましたわ! 誰ですの、この様な場所であんな攻撃魔法を放つのは!
……って、あなたは! それに、ミルガズィアおじさま!?」
……あー、そうか。エルフの里も近いなら、とーぜんこんな展開になる可能性もあるわな。
「久し振りね、偏食エルフメフィ」
「ええ、久し振りって、さらっと悪口を言った!?」
いやー、相変わらずからかい甲斐のある子だわー。
彼女はメンフィス=ラインソード。ミルガズィアさん共々、私と一緒に高位魔族と戦ったこともあるエルフの
「まったく。それであなたは…」
『えっ、リナ…!?』
その声は、メフィの後ろから聞こえた。とは言っても、それは肉声ではなく、レグルス盤という遠話を可能とする
「ようやく会えたわね。アライナ」
とうとう彼女に追いついたのだ。
『魔力増幅の結界、ですか?』
そう。あたしがわざわざ、遠出してまでアライナに会いに来た理由。それは、彼女が創る魔力増幅の結界をこの目で見るため。
「けれど、人間である貴女がエルフの結界を見たところで、理解が出来るとは思えないのですけれども」
まあ、メフィの言うことも判る。アレは本来、人間には認識できない領域のモノだから。
「ま、その辺のことはちゃんと考えてあるから。
それで、アライナ。お願いできる?」
『構わないけど…』
未だ要領を得ていないアライナが、曖昧な返事を返す。
「異郷のエルフよ。この人間と共に戦ったことがあるのなら、この者が普通の人間の魔道士の枠に収まらないのは判るだろう。ならば…」
そこまで言ったところで、ミルガズィアさんの言葉が途切れた。何しろ、先程までそこにいたアライナの姿が、消え失せていたのだから。
「おじさま、あそこ」
メフィが指差すところを見れば、大きな木の後ろに隠れるアライナの姿が。
『……し、知らない
アライナ、相変わらずだね…。
「そう言えば、あの金髪の剣士の方は一緒じゃありませんの? 貴女が腰に下げているのは、あの剣のようですけど」
アライナが魔力増幅の陣を形成している中、メフィがあたしに尋ねてきた。
ホントのことを言えば、ガウリイと二人旅、なんてのも良かったんだけどねぇ。
「ガウリイは、子守りのためにお留守番。
「ああ、そうだったの…」
しばしの沈黙。そして。
「ええーっ!? 貴女、結婚して、その上子供まで!?」
『えぇぇぇ!?』
「な、なんと…!」
いや、アンタら。そこまで驚くことないじゃない。
アライナが陣を布いてる最中だから大目に見るけど、じゃなかったら
それでも気を取り直したアライナは、引き続き陣を布き始め、そして。
『リナ、完成しましたよ?』
「ありがと、アライナ」
お礼を言ってからあたしは、アライナが布いた陣を見る。うん。やっぱり人間には、これが結界には見えやしない。
「それで人間よ。これからどうするのだ」
「こう、するのよ!」
ミルガズィアさんの疑問に答え、あたしは呪文を唱え始める。
「む、この術式は…」
どーやら、あたしがなにをするつもりなのか、判ったようだ。
そしてあたしは、[力ある言葉]を口にする。
「
そこであたしは、目を覚ました。
あたしはリナ。稲葉リナ。
よし。どうやら頭は正常に働いてるようだ。
それにしても、随分と懐かしい夢を見た。前世の、あたしが魔力増幅の結界陣を憶えたときのものだ。
理由は判ってる。昨日、あの不思議な空間で、
脳への負担がかかるあの術、思い入れのある出来事と結びついた術でもあるので、当時の記憶が呼び起こされたんだろう。
PiPiPi、PiPiPi…
そこまで思考したところで、目覚まし時計のアラームが鳴り出した。
……よし、思考を切り替えよう。過去に思いを馳せるのはいい。でも、過去にとらわれてはダメだ。
あたしはカーテンを開けると、背筋をめいいっぱい伸ばし。
「今日も一日、がんばろー!」
気合いを入れて、ベッドから降りた。
冬木の街を歩く、一人の人物。男物の黒いジャケットとズボン、ネクタイに身を包んだ女性。左肩に背負う長い筒が異彩を放つ。
そんな彼女はふと立ち止まると、ズボンのポケットから紙切れを1枚取りだし、確認するかのように呟く。
「まずは代行者と接触して、意見を伺った方がいいですね」
そう言うと紙切れをポケットに仕舞い、女性は再び歩き出した。
今回のサブタイトル
アニメ「異世界の聖機師物語」から
というわけで、いつもとは少し、毛色の違う話でした。
因みにリナ(=インバース)たちはあの後、偶然現れた複数の高位魔族に対して、メフィがゼナファ・アーマーを発動、白い巨人に驚き浮き足立った所をリナが
そして、ついにあの人が登場です。戦闘シーンのことを考えると、既に気が滅入ってきます。
次回「執行者襲来」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!