Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
柳洞寺が建つ円蔵山。参道である長い階段の途中から林へと分け入り、獣道をしばらく進んだところにある洞窟。その最奥の開けたところ、『大空洞』と呼ばれるところに高校生くらいの少女がいた。
この冬木の地の
「---
凛は、大きく広げた羊皮紙に宝石をかざし、さらに呪を紡いでいく。
「……
最後にそう告げると共に、手にしていた宝石を羊皮紙の上に落とす。すると魔力が弾け、焦げ跡となって、羊皮紙に地脈を写し撮った。そして。
「これって、嘘でしょ…」
あることに気づき、愕然とする。
「まさか、終わってなかったっていうの…?」
あたしは今、工房で
あの亜空間内での戦いでも役に立ったので、あたしたち全員が所持した方が良いと思ったのだ。特に凛さんは、携帯電話の扱いも心許ないので必須だと思うし。
そして何より。
これはただの勘だけど、あたしたちの
---俺は、運命なんて信じちゃいねえ…
---もしも「これは運命で決められたことなんだ」なんて言われりゃあ、鼻で笑って抜け道を探す…
かつて、そんなことを言った彼を思い出す。あたしは軽く笑い、思う。
あたしは、運命を否定する気はない。だけど。運命に身を任せる気などこれっぽっちも無い。
もしも「これは運命で決められたことなんだ」なんて言われたなら、あたしは全力で撥ね返す。
今ならハッキリと言える。ルーク、これがあたしの答えだよ?
あたしは魔道技術で作り上げた硝子玉に、こちらの魔術に置き換えた術式を表す魔法陣を転写していた。
因みにこの遠話球は、こちらの術式に置き換えている関係で、魔術師にも同じ物を再現可能なハズだ。
ハズというのは、実際魔術師に作ってもらってないからなのだが、ルビーとサファイアが情報をインストールして使用できるのだから、この推測は正しいと見て間違いないだろう。
凛さんに聞いた話だと、魔術の世界にも特許というものがあるみたいなので、そのうち特許申請しとこうか?
そんなことを考えていると。
ズゴゥン…!
衝撃音と共に、天井部分が細かく振動する。……そう、天井部分が。
この工房が地下にあることを考えれば、地中での異変ではなく、地中への振動が伝わりにくい地上部で何かがあったって考えた方がいいってこと。
……なんだかイヤな予感がする。
あたしは階段を上ると、そっと扉を開け、物音を立てないように部屋から出る。そして大広間へ向かうと。
ドンッ!
ドガアァァッ!!
オーギュストさんが美形の男の人に殴り飛ばされ、壁に激突するところだった。
「オーギュスト!!」
男と対峙していたルヴィアさんが、振り返り叫ぶ。
ハッキリ言ってあたしも叫ぶところだったけど、ルヴィアさんのお陰で踏みとどまることができた。
しかしながら、あのただ者ではない雰囲気を身に纏ったオーギュストさんを、こうも容易く倒すとは、あの男…の人……は?
……もしかしてあの人、女の人?
男物のジャケットに身を包んでるけど、胸は筋肉とは違った膨らみ、腰の辺りはきゅっと括れてる。
実は美形男子ではなく、美人女子だった!?
あいや、ままよ! 今はそんなことに思考を割いてる場合じゃない。とにかくルヴィアさんに加勢をするべきか?
そこまで考え、ふと視線を移すとそこには。
謎の女性のその後ろ、外に面した壁の一部が崩れ落ち、そこから中を覗き見る凛さんの姿があった。
凛さんの方もあたしのことに気がつき、視線が合うと首を左右に振ってから、口許に人差し指を当てた。どうやら黙ってやり過ごせってことみたいだ。
あたしは右手の親指と人差し指でマルを作り、了解の意思を示す。
「しかし、些か拍子抜けですね」
その女性は言った。
「貴女にはゼルレッチ卿から特殊魔術礼装を渡されたと聞いたのですが。
使わないのですか? それとも、使えないのですか?」
この
「……フン! 『必要ない』が正解ですわ!」
その瞬間、ルヴィアさんの周囲に、魔力を纏った色とりどりの宝石が舞い上がる。
「なるほど、エーデルフェルト家の娘は誇り高い。
ですが私に言わせれば、それは…」
女性は両手に拳を作り、顔の前に持ってきて。
「ただの奢りです」
キッパリと言う。
次の瞬間、ルヴィアさんが一斉に宝石を射出、女性は迎え撃たんと右拳を振り上げ、凛さんが壁の穴から飛び出した!
「あれー? なんともないね…」
わたしはエーデルフェルト邸の、門戸の格子越しに中を見ながら言った。
わたしがここに来た理由。それは部屋で宿題をしながら、海で着る水着について話してたとき、ルヴィアさん
でも、実際に来てみると、お屋敷は何の異常もなかった。アレって、勘違いだったのかな?
「この家には認識阻害の結界が張られているから、外からじゃわからないわ。
中で何か起こっても、普通は外の人間に気づかれることはないの」
魔術に疎いわたしに、クロが説明してくれた。
「じゃあ、さっきのは…」
『想定以上の「何か」が起きた、ということでしょうか』
わたしの呟きに答えるルビー。わたしもクロも、返す言葉がない。
「……開けるよ」
意を決した表情で、クロが門の戸をゆっくりと押し開ける。
そして、わたしたちの視界に入ったのは。
倒壊したお屋敷からこちらへ歩いてくる人物の姿。
男物の黒っぽいジャケットを着た、赤紫色の短い髪の女の人。両手には黒い手袋をはめている。
「……侵入者の警告音が鳴りませんね。
見たところ子供のようですが、貴女たちも関係者のようだ」
素人のわたしでもわかるほどの鋭い殺気。この人は…。
「援軍だとしたら、一足遅い」
敵だ!
ダンッ!
女の人が地面を蹴って、こっちに襲いかかってくる!
クロが、いつもの黒と白の一対の剣を投影して、打ち出された拳を防いだ。
わたしも応戦しなくちゃ!
「ルビー、転身を!」
でも。
「……ルビー?」
ルビーは何の反応もしないで、わたしのすぐ横に浮いているだけ。……ううん、なんだか、動揺してる?
その間にも連続で繰り出されるパンチを、クロは剣の腹で止めたりいなしたりを繰り返してる。
「こいつ…!」
クロが僅かな隙を突いて剣を振るったけど、左手で刃の部分を鷲掴みに止め、右拳を突き出す。
クロはそれを足の裏で受けながら、その勢いを利用して後方へ飛び退く。
カカカカッ!
人の背丈よりも大きな剣を複数本、女の人の前に突き立てた。その剣を破壊したその時には、遠く離れたクロが弓に矢を番えていた。
「バイバイ」
そう言って放たれた矢は、女の人めがけて一直線に飛んでいく。だけど。
「その戦法は、
矢をつかみ取った!?
「返しましょう」
女の人はその矢を、クロめがけて
「
ドグオォン!
「クロ!!」
矢を爆発させて直撃は防いだけど、クロはその爆風に吹き飛ばされる。
「ルビー、どうしちゃったの!? 早く転身してクロを助けなきゃ!! ……ねえってば!?」
「
どうやらそれが、ゼルレッチ卿の特殊魔術礼装のようですね」
どきり
心臓の鼓動が跳ね上がる。
「なぜ貴女が持っているのかはわかりませんが、抵抗をしなければ身の安全を約束しましょう」
「あなたは、いったい…」
でも、わたしの疑問に答えたのは、女の人ではなくって。
『彼女の名前は、バゼット・フラガ・マクレミッツ。
私たちがやってきたカードの回収任務、その前任者です』
「前任者、…って?」
ルビーの説明に、わたしは聞き返した。
『不思議に思ったことはありませんか?
私たちが回収任務を始めた時、最初から手元に二枚のカードがあったでしょう? 「アーチャー」と「ランサー」…』
そういえば…、ってまさか!?
『それを仕留めたのが彼女です』
ルビーは、とんでもない爆弾を落とした。
「そう、カード回収の任務は私が請け負っていました。
ですが、二枚目を回収したところでゼルレッチ卿が介入、任を外されました」
特に問題もなく任務をこなしていたことを考えると、少々忌々しくも思う。
『任務は凛さんとルヴィアさんが正式に引き継いだはず。なぜ今になって、貴女が出てくるのですか?』
特殊魔術礼装の疑問ももっともだ。とはいえ、私にも詳しい理由までは分からない。ただ。
「上の方でパワーゲームがあったということです」
そう。私はただ、その任務を遂行するだけだ。
「……すでにこの屋敷から、四枚のカードを回収しました。しかし、足りません」
私は少女を見据える。
「残りのカード持っているのなら渡しなさい」
少女の瞳を見つめ。
「抵抗するならば強制的に回収を…!?」
私は振り向きながら、右拳を振り抜く。
ガギイィッ!
「貴女、無事だったのですね」
そこにいたのは、先程爆風で吹き飛ばされた少女。どうやらわざと爆風に乗り、ダメージを軽減させていたらしい。
「まったく、完全に意表を突いたはずなのに」
「ええ。あの少女の瞳に映る貴女に気づかなければ、対応が間に合わなかったでしょう」
そう。誰に促されるわけでもなく、自らの意思で闘いに参加しようとしたその少女。そうでなければ、わざわざ彼女の顔を見据えたり、あまつさえ目を合わせての会話などしなかっただろう。どうやら運も、こちらに味方してくれるようだ。
「どうしますか。運にも見放され、実力もこちらが上。
もう一度言います。残りのカード持っているのなら渡しなさい。抵抗をしなければ身の安全を約束しましょう」
「残念だけど、わたしのカードはあげたくてもあげられないのよ。それに…」
ぞくり
悪寒を感じ振り向くと、その先には。
「わたしには諦めの悪い妹がいるからね…!」
特殊魔術礼装によって転身した少女がそこにいた。
今回のサブタイトル
OVA「天地無用!魎皇鬼」サブタイトルから
イリヤはクロに促される前に、自発的に闘おうとしています。クロはやられていません。ふたりとも、原作よりも成長しています。それが徒になって、クロの奇襲は見破られましたが。
次回「少女戦記」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!