Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
わたしがルヴィアさんに頼まれた買い物を済ませ、帰路についていたその時。
『美遊、聞こえる?』
サファイアを通してリナの声が聞こえた。
「リナ?」
わたしが返事をすると、前置きを一切告げずに彼女は言った。
『エーデルフェルト邸が襲われたわ。ルヴィアさんとオーギュストさんは重傷、とくにルヴィアさんが酷いわ。凛さんは軽傷よ。
相手の名前はバゼット・フラガ・マクレミッツ。魔術協会の封印指定執行者で、クラスカードを狙ってる。
イリヤとクロエも危険よ。すぐにこっちへ来て!』
説明の途中から、わたしは走り出していた。エーデルフェルト邸までは、もうそれ程の距離はない。それでも本当は転身したかったくらいだ。
『あと、彼女には宝具や大技は使わないように。
凛さんが言うには、そういったものに対して最大限に効力を発揮する攻撃を持ってるらしいから』
宝具や大技に…。心に留めておこう。
「リナ、もうすぐ、エーデルフェルト邸に着く…」
『美遊。息を整えてから、気づかれないように入ってきて。正門入ってすぐの茂みで落ち合うわよ』
「わかった」
そう応えて、わたしは通話を切った。
正門前に辿り着いたわたしは、数回深呼吸をして息を整えた後、辺りを見渡してから転身をし、門をわずかに開けて身体を滑り込ませる。
左の方から戦闘をする音が聞こえる。しかし。
「美遊」
わたしを呼ぶ声に右の茂みの奥を見ると、恐らく隠し通路の出口と思われる穴から、ひょっこりと顔を出すリナの姿が。どうやらほぼ同じタイミングだったらしい。
穴から出てきたリナはわたしの傍までやってくる。
「茂みに隠れながら、イリヤたちのもとに近づくわよ」
「わかった」
返事をしてわたしは、リナと一緒に茂みに隠れながら、戦闘が行われていると思われる場所へ近づいていった。
その時。
ズガアァッ!
激しい音にそちらを見れば、男装の女性が地表を捲り上げ、その隙にイリヤのお腹に打撃を与えているところだった。
吹き飛ばされたイリヤを見て、思わず飛び出しそうになるわたしを、リナが袖を掴み引き止める。
文句を言おうとふり向き、リナが小さく呪文を唱えていることに気がついた。そして袖を掴む手に強い力が込められている事に気がつき、リナも飛び出していきたい気持ちを押し殺していることを理解した。
リナは袖から手を離すと、指で合図を送る。意味を理解したわたしは、茂みを移動して少し離れた場所にスタンバイした。
男装の女性、恐らくリナが言っていたバゼットという人物だろう彼女が、イリヤに近づき手を伸ばす。
「バム・ロッド!」
[力あることば]だったか。リナがそれを口にすると、手のひらから現れた炎が鞭のようになって、バゼットへと襲いかかる。
バゼットはそれを弾き、殴りつけ消滅させた。
それによって生まれた隙を突く形でわたしは飛び出し、サファイアでおもいきり殴りつけた。
リナがガサリと茂みから姿を現す。
「まったく、好き勝手やってくれたわね」
「イリヤは、わたしが護る」
わたしたちはイリヤを護るため、バゼットとの間に割って入った。
「まったく、次から次へと想定外な事が起きる」
バゼットが呟くように言う。
「特殊魔術礼装を使う一般人がもうひとり。そして、我々が認知しない魔術を使う、魔術師の少女。
何やら事態は、協会の認識以上に混沌としているようですね」
彼女が言うことが本当なら、私たち以外にリナを魔道士として認識してるのは、話に聞く宝石翁、そして恐らく、代理を務めているロード・エルメロイⅡ世だけなんだろう。
「なら、もうひとつ想定外な事を教えてあげるわ」
そう言ってポケットから、三枚のクラスカードを取り出すリナ。
「……!
色違いのクラスカード!? しかも三枚も!」
「あ。言っとくけど、このカードの所有権はあたしにあるから。カード回収の報酬として、正式に譲渡されたもんだからね」
そう言うと、パスケースから取り出した折りたたまれた紙をバゼットに見せる。……リナは一体?
「これ、宝石翁からの委任状よ。もちろんコピーしたもんだけど」
ひょい、と、それをバゼットに投げて渡す。キャッチした彼女は確認しようと、その紙を広げ…。
視線が逸れた瞬間、リナは一瞬だけイリヤを見る。
ああ、そうか。リナは怪我したイリヤが少しでも回復するための、時間を稼いでいるんだ。
バゼットは静かに、書面に目を通し始めた。
「……ここは?」
「目が覚めたようね」
「ここは、地下の緊急避難路です、お嬢様」
オーギュストの説明を聞きながら身を起こすルヴィア。その際、身体の痛みに顔をしかめる。
「まったく、無茶しすぎだわ。リナが治癒の術で応急手当をしてなければ、そんなもんじゃすまなかったわよ?」
「フ…、けど、いい目くらましにはなったでしょう?」
ルヴィアは不敵な笑みを浮かべた。
「やっぱり、私がいることを知っててやったのね」
凛も苦笑いを浮かべて応える。
「
「ええ。イリヤたちに危害が及ぶ前に、ってね。
……まったく、私が仕掛けた布石のこと聞く前に、さっさと行っちゃうんだもの」
「そう…」
ルヴィアは一旦、目を瞑り。
「……ならば、保護者である
そう言って立ち上がろうとして、ぐらりと身体が揺れる。
それを支えたのは、なんと凛であった。
「
「……そんなこと言われたら、同じ保護者として手を貸すしかないじゃない。
あの子たちを巻き込んだのは、私たちなんだから」
凛は憮然とした表情でいう。
「その通りですわ。この様な思考、貴女風に言えば『心の贅肉』というものなのでしょうけど、それでも…!」
「ええ、それでも!」
普段は犬猿の仲のふたりだが、その目的ががっちりと噛み合っている間
書面に目を通したバゼットが、あたしを見る。
「……確かに、ゼルレッチ卿のサインの入った正式なもののようですね。さらにロード・エルメロイⅡ世も共に署名をしている」
「そ。あたしからカードを奪った場合、このふたりを敵に回すことになる。
アンタは知らないけど、雇い主は困ったことになるでしょうねー」
エルメロイⅡ世がどの程度の地位にいるのかは判らないけど、ふたりの連名となると、さすがに無視は出来ないハズ。
「……いいでしょう。今、この場で、貴女のカードは奪いません。
……ですが、邪魔をするなら全力で対処させていただきます」
ちっ、もう少し悩んでくれるかと思ったんだけど、意外と結論が早い。これ以上の時間稼ぎは無理か。
「それじゃあ始めましょうか」
そう言って美遊を見ると、彼女もこくりと頷く。
「「
あたしは
「これは…!?」
「ふっ!」
一気にバゼットまでの距離を詰めた美遊が、裂帛の気合と共に剣を振り下ろす。
ガッ!!
バゼットは左拳で刀身の腹の部分を弾き、腰だめに構えていた右拳を打ち込もうとして…。
「
魔力を拳に纏い、ふたりの間に割り込みながらそれを振り抜く!
あたしの拳とバゼットの拳がぶつかり合う!
……まさか!?
あたしたちは同時に離れる。
「驚きました。クラスカードの英霊を、礼装ではなく自身に宿らせたこともそうですが…。
まさか、私の拳と打ち合える英霊がいるとは思いませんでした」
「そりゃあ、こっちのセリフよ。
霊王結魔弾を乗せたアメリアの拳で、相殺しか出来ないなんてね」
カード回収の前任者だというのも頷けるわ。
おそらくは彼女が手に嵌めたグローブ。それに強化…、いや、硬化の魔術がかけられているのだろう。とはいえ、戦闘の技能は彼女のもの。
一方あたしたちは、夢幻召喚する事で能力は底上げされるものの、それを振るうのはあくまで自分。ハッキリ言って分が悪い。
……けど、やるしかない!
あたしとバゼットが同時に前に出る。
最初に仕掛けたのはバゼット。彼女は左拳をあたしの顔面へと振り抜いてくる。あたしはそれを右へと躱しながら、右の拳で彼女の顔を殴りにいく。彼女がそれを、上半身を軽く反らして躱しながら、右手でその拳を掴んだ。
「
バヂィ!
「くぅ!?」
拳を伝う雷撃により、その身を硬直させるバゼット。その隙に後ろに飛び退くあたしと入れ替わるように、美遊が再び距離を詰める。しかし美遊が剣を振るう前に、バゼット自身も後ろへと飛び退いた。
……あたしは、ハッキリ言って驚いてる。雷撃の呪文を受けて、これだけ動けるとは思わなかったからだ。
だが、彼女の使う術には心当たりがあった。
[ルーン魔術]
ルーン文字を組み合わせて発動させる術だ。そしてルーン文字は、あたしがいた、スィーフィード世界にも存在した。
故に。グローブに薄らと浮かんだ模様を見て、あたしはルーン魔術へと行き着いたわけだけど。向こうじゃ、ルーン文字の組合せは魔術行使の補助的なものだったのよねー。
でもこっちじゃ、文字そのものに力を宿しているようだ。それを利用して、ダメージの軽減をしているのだろう。
……ふみゅ、
「
美遊は聖剣に風を纏わせ、バゼットに向かって放出する。それは
しかし単発で撃ち出されたそれは軌道を読みやすく、横への移動であっさりと躱された。
「
続け様に放ったあたしの術も、やはり容易く避ける。だが、それでいい。
あたしは彼女が移動して出来た空間へと滑り込む。
「……成る程、そういうことですか」
バゼットはあたしを、いや、あたしの後ろを見て得心したようだ。
あたしの後ろには、気を失ったままのクロエがいる。そう。あたしはクロエを、美遊はイリヤを背にしているのだ。
あたしと美遊が、同時に動く。右手側から詰め寄る美遊が切り下ろした剣を、バゼットは再び、左手の甲で剣の腹を弾き軌道を変え、左手側のあたしが打ち出した右拳を、同じく右拳を突き出し打ち合ってくる。
あたしたちは再び距離をとる。今度はあたしがイリヤを、美遊がクロエを守る形だ。
「リ…ナ……」
イリヤがあたしに声をかける。
「イリヤ。今は回復に専念なさい。いざという時に、少しでも動けるように」
「!! ……うん」
バゼットを見据えたまま言うあたしに、イリヤは素直に答えた。
あたしたちは再びバゼットに詰め寄る。僅かに先行する美遊の横薙ぎの一閃を、一歩後ろに下がり躱すバゼット。その右足が地面に着く瞬間。
「
ぼごん!
「!?」
踏みしめるはずの地面に穴が開き、足を取られるバゼット。そんな彼女の腹部めがけ、あたしは右拳を振るう。
「なっ!?」
バゼットは後ろに倒れ込むようにして、あたしの拳を躱した。その拳はバゼットのジャケットの一部を引き裂き、ポケットにしまわれていたクラスカードを撒き散らす。
ドゥゴォッ!
「カハッ…!」
バゼットの膝が、あたしのお腹に食い込む。彼女は倒れ込む身体を地に着けた左手で支えながら、穴にはまった右足を跳ね上げてきたのだ。
さらには、支えていた腕一本の力で身体を起こし、その左拳であたしを殴り飛ばす。
吹っ飛ばされたあたしは地面を転がり、クロエの近くで止まった。
まったく、ムチャクチャもいいとこだわ。身体中のあちこちが悲鳴を上げまくってる。アメリアの頑丈さがなきゃ危なかったわよ。
「……リ…ナ?」
無理矢理身体を起こしていると、あたしの名前を呼ぶ声がした。
「クロエ?」
どうやら意識を取り戻したようだ。
「今、どう…なって…」
「喋らなくていいわ。ここは、あたしたちが何とか…」
そう声をかけていたその時、閃光が放たれる。慌てて振り向けば、
……そうか。あの散らばったカードの一枚、おそらくライダーのカードを夢幻召喚したんだ。
美遊があの紫女のしていたような眼帯を上にずらし、バゼットを睨む。その瞬間に、バゼットの身体は硬直した。
……天馬に、動きを封じる魔眼? ってまさか、あの英霊の正体って!?
……!?
天馬が急速に魔力を高め始めた!? まさか!!
それと呼応するように、バゼットの手元に拳よりも一回りから二回り程大きい鉄球が飛来した。
やっぱり! あの子、あたしが注意したこと無視して宝具を発動させる気ねっ!
あたしは慌ててバゼットの気を逸らせようと動き出したものの、それよりも僅かに早く。
「
「
美遊の宝具とバゼットの攻撃。いや、アレはただの攻撃ではない。おそらく、現代に残る数少ない宝具。
そのふたつが、たった今解き放たれた。
今回のサブタイトル
TVアニメ「魔法少女プリティサミー」から
というわけで、長らくお待たせいたしました。
言い訳させてもらえれば、今回の戦闘シーンの展開で行き詰まっていました。何しろ美遊がライダーをインストール出来ないと、例のシーンに漕ぎ着けられないので。他のカードだと、死亡ルートしかない…。いや、バーサーカーならワンチャンあるけど、バゼットとは相性悪いし。
次回「デュアル!」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!