Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
キャナルとの戦闘から一夜が明けて。エーデルフェルト邸へやって来たあたしが見たのは、意気消沈しているふたりの魔術師の姿だった。
「ちょっと、ふたりとも。いつまで落ち込んでるのよ」
あたしが声をかけると、ふたりはジト目で睨み返してくる。
「あんたに、私の気持ちはわからないわよ」
「そうですわ。裏方に回って、残りのカードや
まあ、努力が無駄、というか無意味になったんだから、落ち込む気持ちもわからんではないけど。
「昨日からずっとこんな調子」
『魔術師なのに、優雅さの欠片もありません』
サファイアってば、ここぞとばかりに毒を吐くなぁ。やっぱルビーの妹なんだなー、なんて思ってみたり。
「さて、ふたりとも。いい大人なんだから、落ち込むのも大概にしときなさいよ?」
「年下から説教された!?」
「ま、まあ、前世も含めれば、130歳超えのご老人ですけど…」
フッ。その程度の嫌味じゃ、意趣返しにもなりゃしないわよ、ルヴィアさん?
「ともかく。あたし達は[わくわくざぶーん]行ってくるから、その間に気持ちを切り換えといてよ?」
「わかってるわよ」
「
そう言ってふたりは、あたし達を送り出してくれた。
昨日の勝負のあと。キャナルは、魔力を使いすぎたので送り返すのは一日待って欲しいと言ってきた。実際、目立った術こそ使ってなかったけど、さくらカードの使用だけでもかなり魔力を使っていたはずである。
魔力量はキャナル自身と神名、両方を合計したものが最大魔力容量となるらしい。以前は別々にしか使えなかったらしいので、それに比べりゃかなりマシだけど、所詮人間の容量の上乗せである。キャナルが言ったことは事実だろう。
……ただ、それよりも、眠りこけてた聖名さんが気になったことも、大きな理由の気もする。なんでも、父親と長兄はあと数日は帰ってこないらしいので、余計に気にしてるんだろうけど。暴走しなかっただろうな? 神名、ちゃんとストッパーになってりゃいいけど。
外に出ると、既に待機していたイリクロとさくらちゃん達。神名も来ることになってるけど、彼女は現地集合だ。
「それじゃあ行きましょーか」
あたしが声をかけると、黙って頷いたり短く返事を返したりと、バラバラの反応が返ってくる。それぞれの性格が出ていて、見ていて楽しい瞬間だ。
エーデルフェルト邸を出てバス停に向かって歩いていると。
「「あ」」
向かいから歩いてきた子とあたしの声が被る。相手は雀花だった。しかし、
そんな雀花があたし達に駆け寄って来て、開口一番。
「昨日、さくら、知世、雪兎って言ってたけど、それって【カードキャプターさくら】の登場人物と同じじゃねーか?」
いきなり核心を突いてきた。そーだよなー。雀花は腐女子だから、ある程度漫画に詳しいだろーからなー。
……ふみゅ、それなら。
「そうよ。彼女達は木之本桜ちゃん、大道寺知世ちゃん、月城雪兎さんよ」
「なっ!?」
雀花が驚きの表情に変わる。みんなも驚いているけど口には出さない。さくらちゃんは美遊が後ろから口を塞ぎ、イリクロが壁になって雀花から見えないようにしている。うみゅ、ナイス判断。
「……なーんて言ったら信じる?」
「え? あ…、なーんだ、冗談か。そりゃそうだよな。マンガのキャラが実際にいるなんてありえねーわ」
うん。見事に誘導成功。
「まあ少なくとも、さくらちゃんのお父さんが稀代の魔道士の分割した片割れって事はないから」
「ははは、そんな事あったら、それこそマンガだって!」
あたしは前世で、七つに分かたれた魔王の内、二体と戦ってるけどね?
「いや、スマンかったな。昨日、あとで気がついてからずうっとモヤモヤしてたもんで、つい」
「別にいいわよ。魔法少女アニメ好きのあたしとしては、気持ちもわからんではないし」
これは本当。まあいわゆる、オタク気質と言うやつである。
「じゃあ、あたし達は用事があるから」
「おう。じゃあな」
こうして雀花と別れたあたし達。しばらく歩いたところで。
「あの、先程雀花さんに仰っていたのは…」
「あー…、いわゆる原作漫画の設定。細かくは言わないけど、アニメとは若干設定が違ってるから」
「そういう事ですの」
知世ちゃんの疑問に、要点だけを簡単に説明した。ちなみにイリヤ達は、あたしが漫画版も読んでたことにびっくりしてる。いや、あたしだって漫画くらい読むし。あたしを何だと思っているのだろーか、と聞いたら、ワケのわからん二つ名を並べ立てられそうなのでやめておく。
「もしかして最初にカードの枚数聞いとったのも、その辺の兼ね合いっちゅう事か?」
「まあね。カードの枚数が19枚までなら原作寄り、52枚ならアニメのさくらカード編の途中、名前のないカードまであればアニメ版終了後、みたいな感じね」
ちなみに53枚目が[
「なるほど、よう考えとるなあ。まあ、そのお陰で今回も上手く丸め込んだわけやしな」
「……言っとくけど、今回も嘘は、ってバスが来てる! 急ぐわよ!」
バスに気づいたあたしが促して、みんな慌ててバスに乗り込むのだった。……言い訳できなかったけど、まあいいか。
そして到着した、[わくわくざぶーん]。全天候型のビーチ風レジャー施設である。結構スペースも広く、波のプールあり、ウォータースライダーあり、ビーチバレーやビーチフラッグが出来るスペースもあり、ちゃんと食事用スペースもある。
海水浴シーズン以外もやってるし、簡易的に遊ぶんならここで充分だ。まあ、海は海の良さがあるから、海水浴客も多いんだけどね。
で、ここの入り口で待ってたのが、白い袖無しのワンピースに白くて鐔の広い帽子を被った、長い黒髪の少女。彼女はこちらに気づき駆け寄ってくる。
「皆さん」
「ごめん。待たせちゃったみたいね、神名」
そう。神名である。しかしホント可愛いわよね。まるで日本人形みたい。美遊とは方向性が違うけど。
ふたりとも日本人形という表現がピッタリなのだけど、美遊はどちらかといえば、クールなイメージ。一方の神名は
「ううん、大丈夫だよ。さっきまで星見さんと話してたから」
「え? ミリィも来てるの?」
ミリィはクラスメイトで、最近こっちの世界に片足突っ込んでしまった一般人である。
「ううん。星見さんがおじいさんと夜釣りをした帰りに、わたしと偶然会ったんだ。それで、お話ししながら一緒に来たんだけど、もう眠いから帰るって」
ああ、そういう。そーいやあの子の趣味って釣り、特に磯釣りだったっけ。
「それで星見さんから稲葉さんに、託けを頼まれたんだけど。また今度、釣り勝負をしましょうって」
ほほう、なるほど。
「りょーかい。ま、また返り討ちにしたげるけどね!」
そう。この間たまたま出会って釣り勝負をし、見事にあたしが勝って見せたのだ。もちろん、[
「ええと、あのう…」
後ろから聞こえる、さくらちゃんの声。おっと、待たせたまんまだったわね。
「いや-、ごめんごめん。まずは紹介ね。彼女がキャナルの宿主の神名よ」
一瞬、神名の肩が小さくぴくりと動く。……まさかキャナル、本当に?
「ええと、そちらの方達は直接は初めまして。陰陽師…、まだ見習いの黒神神名です」
先程の反応が見間違いじゃないかと思うほど、ごく普通に自己紹介をする神名。
「あ、初めまして。木之本桜です」
「ケルベロスや」
「大道寺知世です」
「僕は月城雪兎。よろしくね」
さくらちゃん達も自己紹介を返す。うむ、今日もさくらちゃんは可愛いねえ。
『何だか今日のリナさん、表情がやべーですよ?』
「うを!? ルビー、いつの間にあたしの髪の中に移動を!?」
『フフフ、人目につかないようにこっそりと移動する、このスリル。たまりませんなー』
「うるさい黙れ」
お前は春日部の嵐を呼ぶ園児か。
とはいえルビーの言うとおり、油断すると顔に出てしまう様だ。むむう、母性本能くすぐる神名とホンモノの魔法少女がいると、メンタルがやばい。
「あっ、ルビー! 駄目じゃない!」
ルビーに気づいたイリヤが、慌てて鷲掴みにした。それをきっかけに、あたしの気持ちも切り替わる。
うん、ここは余り気にしてもしょーがない。それよりも大事なのは。
「さて、自己紹介も終わったし、今日は遊びまくりましょ!」
今日一日をエンジョイする事だ!
更衣室で水着に着替えたあたし達は、まず波のプールを楽しむことにした。
神名は、こういったレジャー施設に来ること自体が初めてだそうで、かなり楽しんでもらえてるようだ。
……なんて話をしてたら、どうやら美遊も初めてだったらしい。海の事といい、ホントに今までどんな生活してたんだろ?
さくらちゃん達も各々楽しんでるけど。
「ねえ、リナ。サクラの様子、ちょっとおかしくない?」
とクロエが言う。実はあたしもそんな気がしてたのだ。よく見りゃ、さくらちゃんを撮影してる知世ちゃんも心配顔だ。こりゃあ直接聞いた方がよさそうね。
「もしもし、さくらさん? 憂い顔で、一体どうされたのですかな?」
おどけて紳士風に尋ねるあたし。
「え? あ、別になんでもないよ?」
「やれやれ、さくらさんは嘘が苦手なようだ。嘘ですと顔に書いてありますよ?」
「えっ!?」
思わず顔に手を当てるさくらちゃん。それを見ていた雪兎さんはくすりと笑い、知世ちゃんは微笑ましく見つめている。
「リナ、ニヤけてるわよ?」
そんなんわかってらい。ただ、今日は開き直ってくことに決めたから。
「……リナってホントは女の子が」
「それに関しては、断じて無い!」
前世で人並みに、恋だの愛だのを経験してるのだ。さくらちゃんや神名に対する感情が恋愛のそれでないのは、あたし自身がきちんと把握している。
「ちぇっ、残念…」
……クロエにはもっと、健全に生きてもらいたい。
「っと、話が逸れたわね。まあ冗談はさておき、悩みがあるなら聞いたげるわよ? 大体の予想は出来てるけどね」
「え?」
「さしずめ、何日も家に帰らなかったこと、気にしてるんでしょ?」
「はうう~。……うん」
やっぱりか。ま、そりゃそうよね。家族に心配かけてるんだし、どう言い訳したらいいのかだってわからないだろう。さすがにこの状況で、「絶対大丈夫だよ」なんて言えやしない。なら。
「……そうね、さくらちゃんにはこの言葉を贈ったげる。『なるようになるダバ、ないダバさ!』」
「………………え?」
余りにも突拍子もない言葉に、さくらちゃんの思考は一瞬フリーズしたようだ。
「ふざけた言い回しだけど、実際なるようにしかなんないんだし、気にしたってしょうがないわよ。もうやるべき事は全てやったんだから、あとは流れに任せるしかないでしょ?」
こちらでどうこう出来るのは、あとは送り返すことだけ。それ以外は運任せなのだ。……そう、運。
「……それに、ひとつだけ朗報があるわよ?」
「朗報?」
「向こうの世界は、あたしの知ってる情報より前の展開が進行中でしょ? それってつまり…」
「もしかして、こちらより時間の流れが遅い、ということでしょうか」
知世ちゃんがあたしの言葉を引き継ぐ。
「そ。あくまで可能性の話だけど、少しは希望があるでしょう?」
実際、あくまで可能性の話で、全く当ての無いものだが、それでも希望が持てるのとそうで無いのとでは、雲泥の差がある。
「そうだね。希望があるなら、今はそれに縋ってみてもいいんじゃないかな? だめだったら、またその時に考えよう」
「雪兎さん…。うん、わかった」
うん。これで少しは、心も楽になるでしょ。せっかく遊びに来てるんだから、少しでも楽しんでもらいたいもんだ。
それに。さくらちゃんはおそらく、運のいい方だし、送り出す側のイリヤとあたしも、かなり運がいい方だと思う。だから本当に、なんとかなるんじゃないかなー、なんて気がするのよね。
次に来ました、ウォータースライダー。なお知世ちゃんは、滑り終えたみんなを撮影したいということで、下で待機している。さすが知世ちゃん、ブレないわ。
「「ひょおおおおお!!」」
イリヤとクロエがスライダー用の、ふたり用ビニール製フローターで滑っていく。悲鳴を上げてはいるけど、ジェットコースターと同じで楽しんではいるんだろう。
お次はさくらちゃんと雪兎さん。実はさっきから、またもやあたしの髪の中に移動していたルビーが、みんなの姿を撮影してるんだけど。
「(ってアンタ、さっきからなにしてんの?)」
『(いえ、知世さんに頼まれたんですよー。後ほど知世さんが撮影した、滑り終えたイリヤさん達の分と、データ交換することになってます)』
な、いつの間に!? 知世ちゃん、恐ろしい子…!!
「ほええええええ~~~!!」
さくらちゃんが悲鳴を上げながら滑り下りてゆく。てか、悲鳴だけで誰だかわかるって、ある意味凄いわね?
続いては美遊と神名の異色のコンビ。冷静な美遊と、明らかにこういうアトラクションに馴れてない神名の対比が楽しみである。
「「っっっっきゃあああああ!?」」
……と思ったら、美遊も一緒に悲鳴を上げてた。そーいや美遊も、こういったトコ初めてだったっけ。
まあ、めったに見られない美遊も見れたし、眼福眼福♡
さて、最後はあたしの番か。言っとくけど、あたしは敢えて最後の一人になったのだ。知世ちゃんが下に残ることが決まった段階で、必ずひとりあぶれてしまう。なのであたしが立候補したって訳だ。
あたしは躊躇うこともなく、スライダーを滑り下りていく。……前に来たときも思ったけど、これ滑ってると、前世での出来事思い出すわ。
どっぱあああああん!
そして勢いよく着水。あたしが水面から顔を出すと。
「リナちゃん、楽しそうだね?」
にっこりと微笑む、桜ねーちゃんの姿が。……え? なんで?
突如登場の間桐桜。彼女は一体、どうしてここに!?(深い意味はない)
次回はあとひとり合流します。桜とセットといったら、当然…。
あと、【カードキャプターさくら】側のキャラもひとり、登場予定(プリヤ時空とは言っていない)。
次回「さくらと
さくらと一緒に、レリーズ!