Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
バスで移動して更に徒歩でやってきた場所は、以前ミユとクロが戦ってた、海岸近くの林の中。ここなら、街の近くながらまず誰かがやってくることもないし、ちょっとした戦闘にも持って来いだからとクロがチョイスした。……いや、わたしとしては、出来れば穏便に済ませたいのだけど。
でも、移動中もあのフードのお姉さん?が、絶妙に近寄るなオーラを出しまくってたし、クロも意地になってるしで、如何ともし難い状態。間に立つわたしと眼鏡のお兄さんは、妙に気疲れしてしまったくらいだ。
「……さて、と。それじゃあ話を続けましょうか?」
そう言うクロはだけど、妙に挑発的なオーラを発散させてる。なんでわざわざ煽るような態度とるのよッ!
とにかく話し合うために、わたしは一端話の方向性を変えることにした。
「あっと! そういえばまだ、名前も名乗ってなかったよね!
わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルンっていいます。イリヤって呼んでください」
「ちょ、イリヤ!?」
クロが何か言おうとする。だけど、お兄さんが空気を読んでくれたみたいだ。
「ああ、そうだったね。
俺はカウレス・フォルヴェッジ。ロンドンから来たんだ」
ロンドン…。もしかして、リンさんやルヴィアさんがいたっていう[時計塔]の人かな?
わたしがチラリとクロを見ると、さすがに文句も言えなくなったようだ。
「……わたしはクロエ・フォン・アインツベルンよ」
ちょっと不貞腐れながら、クロは言う。すると今度はカウレスさんが、お姉さんに通訳しながら、多分自己紹介するように催促しているみたいだった。
「拙は、グレイ…」
お姉さんは渋々といった感じで短く何かを言ったけど、英語は理解できないので、どこが名前かわからない。
「……すみません。わたしには、なにを言ってるのかわかんないです」
「イリヤ、あんたねぇ…」
「いや、俺もなんかゴメン」
うう、なんかぐだぐだになっちゃったよぅ。
「ええと、彼女はグレイ。俺と同じ教室の、
「……そこはクラスメイトで通じます」
日本は、日本語と外国語と和製英語が飛び交う世界。英語はしゃべれなくても、英単語はある程度通じるもんだ。
「はいはい、イリヤ。自己紹介は済んだから、こちらの話を続けるわよ」
「ク、クロ! どうして今日はこう、好戦的な態度なのよ!?」
『まったくだ。それに自己紹介は済んじゃいねえぜ!』
「「!?」」
突然聞こえた男の人の声。それは外套で隠された、グレイさんの手元付近から聞こえてきた。
「アッド!」
外套から出した右手には小さな鳥かごの様なものが提げられていて、その中に顔がついた立方体のものが入っている。普通ならオモチャか何かと思うとこだけど、わたしは
「「……魔術礼装?」」
そう。見た目こそ違うけど、それはルビーやサファイアと、雰囲気がよく似てるのだ。
「……そうか。キミ達は、魔術師だったのか」
カウレスさんがそう言ったけど。
「ブー! 残念、ハズレ。わたしは根源なんて目指してないし、イリヤも魔術に関わってるだけで、魔術師なんかじゃないわ」
「うん。いちおー魔術の才能はあるみたいだけど、知り合いの魔術師見てるとなんか思ってたのと違うし、覚えなくてもいいかなーなんて」
それにおとーさんとママは、わたしに魔術の世界と関わらないようにしてたみたいだし、魔法少女以外は深く関わらないでいようと思う。実際、魔法少女だけでもお腹いっぱいの状態だし。
『……だとよ。これで魔術の秘匿は関係なくなったわけだな』
「うるさい、アッド!」
ぶんぶんっ!
『や、やめろっ! かごを振り回すんじゃねぇッ!』
……なんかわかんないけど、グレイさんが急に鳥かごを振り回した。もしかしたら、結構短気なのかもしんない。
……ん? クロ?
「……あなた、とんでもないもの持ってるわね」
とんでもないもの?
『何だ、俺の正体がわかるのか?』
「封印のせいで完全には解析できないけど、あんたが現存する宝具だって事くらいはね」
「宝具!?」
つまりあのアッドって呼ばれてる魔術礼装は、[
『そこまで見抜けりゃ充分だ。まったく、どっかの人形師といい、どうして俺を見抜けるかねぇ』
その人形師って人は知んないけどクロの場合、過程をすっとばして結果を導く能力と、アーチャーの能力のお陰だと思う。
クロとアッドの会話に驚きつつも、カウレスさんはグレイさんに今の話を通訳する。するともちろんグレイさんからも、驚きの気配が感じ取れた。
「……まったくはこっちの方よ」
「え、クロ?」
「そんなもの持った敵意のある相手に、何もせずに待っていられるほど大人しくはないのよ!!」
「ク、クロッ!」
クロはアーチャーの姿になっていつもの双剣を投影し、グレイさんに斬りかかっていった! なんか、いつもより短気なんですけどッ!?
ま、まずい! とにかくクロを止めないとっ!
「ルビー!」
…………。
「え? ルビー?
…………ええっ、ルビーがいない!?」
な、何故! どうしてッ!? ……ああっ、そういえば! 魔力供給の後も、魔力を回復してもらった覚えがないッ!!
カンッ! キィ……ン!
金属のぶつかり合う音に目を向ければ、いつの間にかグレイさんの手には大きな鎌、ゲームに出てくるデスサイズってやつだと思うけど、それが握られていた。
そしてグレイさんが大きく後ろに飛び退き、被っていたフードが捲れあがる。……え?
「……セイバー?」
そう。グレイさんの顔は、鏡面界で戦ったセイバーの黒化英霊と瓜二つだった。
わたしのつぶやきが聞こえたのか、グレイさんは慌ててフードを被り直す。よくわかんないけど、グレイさんは顔を見られたくないみたいだ。
……って、冷静にそんな事考えてる場合じゃないよ! 何とかしてあのふたりを止めないと!
「カウレスさん! ふたりを止められませんか!?」
「いや、ムリ! ゼッタイ、ムリ!!」
ですよねー。うう、どうしたら…。
---イリヤ。ルビーがいないときの為、念の為にこれを…。
あ。そういえば数日前!
わたしはリナから渡されたそれを、ポケットから取り出す。普段戦ってるときのイメージで、それに魔力を流し込むと。
『……もしもし?』
「あっ、リナ!」
それ、……
『どうしたの、イリヤ。随分慌ててるみたいだけど』
軽い口調で尋ねるリナ。多分わたしを落ち着かせるためだろうけど、落ち着いてる場合じゃない!
「ク、クロが、セイバーそっくりの女の人と、闘い始めちゃったの!」
『……はい?』
うん。さすがに意味わかんないよね? 時間が惜しい中、わたしは手短に状況を説明する。
『……なるほど。ちょっと待ってて』
そう言うと通信が一端切れる。その間に辺りを見渡すと、相変わらず一進一退の戦いを繰り広げてるクロとグレイさん。そして、ケータイでどこかと連絡を取ってるカウレスさんの姿。
すると間もなく、リナから通信が入る。
『イリヤ。これからそっちに向かうけど、ちょっとあるものを取ってこなくちゃなんないの。でも、ま、出来るだけ急ぐから』
「ホント、急いでよ!?」
それだけ言うと、通信は切れてしまった。
クロとグレイさんの戦いは続いてる。カウレスさんが言うには、グレイさんが振るう大鎌には対悪霊特効があるらしく、それを解析したんだろうクロも、いつもより大きく躱していた。
そしてクロは、少しずつ追い詰められ始める。クロはさっきから、双剣を砕かれては投影を繰り返してる。これじゃあいくら魔力供給を行ったばかりでも、さすがに魔力が心許なくなってくるはずだ。
「
グレイさんが何か呪文のようなものを唱える。なんか、嫌な感じがする。クロは、大丈夫なの?
「
グレイさんの殺気が膨れ上がる…ッ!
……と、そこへ!
「やめんかい! こンのスカタンがああああああッ!!」
すっぱああああああん!!
上空から急降下してきたリナが、グレイさんの頭にスリッパストラッシュを閃かした。まるでマジカル
「リナ!」
助けに入ったリナに驚きと、少しだけ嬉しそうに声をかけるクロ。だけどリナはクロを一端睨みつけてから、それはもう爽やかな笑顔で言った。
「クロエ。後でじっくりO・HA・NA・SHIしましょ♡」
クロは一瞬で恐怖に顔を引きつらせ、青ざめる。うん。リナってば昔っから、本気で怒ったときにわざと爽やかな笑顔を作って、威圧をかけることがあったなぁ。クロもわたしの記憶を受け継いでるみたいだし、あれはかなりの恐怖だと思う。
「……さてと。イリヤから連絡は受けてるわ。貴女がグレイね?」
「……拙の名前を知ってるのですか?」
「……あ。やっぱ日本語は通じないか。それじゃそこの魔術礼装。グレイに通訳してあげて」
リナは大鎌を指さして言う。
『ちっ、魔術礼装使いの荒い奴だぜ』
アッドはそんな愚痴を言いつつも、リナの言葉を通訳してる…んだと思う。英語で話してるし、意思を持った魔術礼装っていったらルビーのイメージがあるから、何となく信用できないんだけど。
『……グレイが、「なんでその生き霊を庇うん
だ」、だとよ』
……どうやら、ちゃんと通訳してるみたいで安心した。
アッドの通訳を聞いたリナは、呆れた、といった表情でため息を吐いた。
「クロエはあたしの親友だからよ! She is my friend! わかる!?」
うん、そうだよね。リナなら、そう言ってくれると思ってた。
「友達…」
グレイさんはリナの発言に、やっぱり驚いてるみたい。グレイさんにとって、本当にあり得ないことなのかな。
「……貴女のことは知ってるわ。墓守である貴女にとって、クロエの様な存在は許しがたいのはわかってる」
「……え? なんでリナがコイツのこと知ってるのよ? それにコイツ、魔術師じゃないの!?」
クロの疑問ももっともだ。ただ、リナって時々、わたし達が知らないこと知ってるからなぁ。
「まあね。情報源はまだ、秘密です♡
それからあんたが、天敵ともいえる彼女の資質を無意識に感じ取って、いつも以上に好戦的なのは理解できてるわ。だからと言って、O・HA・NA・SHIをなかったことにする気はないけど」
ゼロスさんのマネをした後。リナからの
「さて。魔術礼装…」
『アッドだ』
「アッドの通訳も済んでわかってるとは思うけど、あたしにはお互いが反目し合う理由は理解できる。でも、あたし達もクロエの事を知った上で、今の状況を受け入れてるの。それでも貴女はまだ、彼女と戦うっての?」
そんなリナの問いにグレイさんは。
「彼女は人の世を乱す存在。拙はそれを、見逃すことは出来ない」
『……だとよ』
僅かなタイムラグで、アッドが通訳をする。その答えを聞いたリナは、小さく溜め息をひとつする。
「予想はしてたけど、ホント
呆れた笑顔を浮かべるリナはちょっと、ワガママな子供を見ている母親みたいだ。まあ、前世では結婚だってしてたんだから、おかしくはないんだけど。
「……とはいえ、そんな
セイ、ソウ…。聖なる、槍? え、もしかして、宝具の正体も知ってるの!?
『お前、なんでそこまで…』
「秘密、って言ったでしょ? それよりこちらも、ちょっとばかり本気出させてもらうわよ」
そう言ってリナは、黒鍵とクラスカードを取り出した。……って、あのカードは!?
「クラスカード『セイバー』、
そして展開された宝具は光の剣…ではなく、あの騎士の英霊の聖剣だった。
今回のサブタイトル
植芝理一「ディスコミュニケーション」から
今回、いつも以上に妙に好戦的なクロ。ちゃんと理由はありました。
リナが情報通なのは、当然ロードに聞いたからです。ただし宝具については聞いてますが、グレイのあの姿に関する経緯については聞いてません。
後、補足として。イリヤは記憶に無いだけで、人形師とは面識があります(前話参照)。
次回「聖槍使い」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!