Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
クロエとグレイのいざこざに、ひとまずの落着がついた後。あたし達は徒歩で、ある場所に向かっている。因みにアイリさんの運転する自動車への同乗は、全員同意でご辞退した。
いやまあ、あんな運転見せられた後に同乗する気はおきんわな。イリヤとクロエが気絶してた時には、仕方なく同乗したけど。でもって、帰りの運転はちゃんとしてたけど。それはそれ、これはこれである。
そして到着したのはエーデルフェルト邸。遅ればせながら、冬木の
ついでに言うと向かいのイリヤの家では、セラさんが何やらわめいている声が聞こえるが、ここは聞かなかった事にしとこう。イリヤとクロエも、既にそう決めこんでるよーだし。
そんな、どーでもいいような事を考えながら、オーギュストさんと先に帰宅していた美遊に部屋へ通してもらい、そして。
「「な、ロード!?」」
凛さんとルヴィアさん、ふたりが口を揃えてその敬称を呼ぶ。
「『な』とは、随分な物の言い様だな」
「!! し、失礼しました!」
「あまりにも突然の来訪だったもので、つい取り乱してしまいました」
凛さんとルヴィアさんが謝り、取り繕っている。
「そ、それに…」
そう言ってこちらを見る凛さん。
「あたしはロードと密談してたから」
「密談て…」
「そういう事は普通、内密にするものではなくって?」
うん。ふつーはその通りである。だがしかし。
「この状況で気の利いた言い訳なんて、考えるだけ無駄でしょ? どうせ調べられたら密談のことはバレるだろうし、どのみち内容は話す気なんてないし。
だったら、言っても構わないことは先に言っちゃった方が気も楽ってもんよ」
ついでに、先にこう言っておけば下手に詮索される可能性も減り、切嗣さんの事まで気づかれる可能性は更に減る、というのもある。
「まったく、らしいっちゃらしいけど」
「まあ、それはそれとして。イリヤスフィールとクロエは、なぜ一緒に?」
ルヴィアさんはイリヤ達に視線を移し尋ねる。
「えっと、ミユからも聞いてると思うけど、クロが狙われてて。その相手が実は、エルメロイさんの弟子のグレイさんだったの」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げ、ロードの傍らに立つグレイを見る凛さん。
「……レディ、済まないがⅡ世を付けてくれないか?」
「あ、はい…」
……どうやらロード、先代ロード・エルメロイに思うところがあるようだ。まあ、先代曰く、
さて。という訳で、オーギュストさんの給仕が済んだ所で始まった説明会。
あたしとロードの事は、先程も言ったとおりの完全黙秘。ただし状況によっては開示すると言ってはおいた。
そして一方のイリヤ達。
途中、何故かルビーがいなかったことをイリヤが言ったら、凛さんとルヴィアさんは激しく慌ててたが。そしてロードは、報告には無かったとふたりを一瞥したりもしてたが、あたしの見立てではロードも宝石翁も既に、カレイドステッキがイリヤと美遊の手に渡っていると把握してるのではないかと思っている。というか宝石翁が気づいてて、その流れでロードも知ってるけど、状況を楽しんでいる宝石翁に口止めされてた、といった辺りだろう。ルビーの性格から判断してだが。
「……なるほど、ね」
「そういう事でしたの」
イリヤが語り終え、ふたりは納得した様だ。因みに魔術礼装としてのアッドの事は話してあるが、それが現存する宝具である事は話していない。道すがらでロードに口止めされたためだ。……なんだかルヴィアさんは、アッドの事を以前から知ってたみたいだけど。
「そういえば、どうしてお二人はあそこにいたんですか? エルメロイⅡ世さんが密談してるからなのはわかるけど、グレイさんは人混みが苦手だって話してたし…」
イリヤが思い出した様に尋ねる。ふむ。確かにそれは気になるわね。
「ああ、それは先生から買い物を頼まれて…」
「……まさかそれ、[大戦略]?」
……ん? それってもしかして、家庭用ゲームの[アドミラブル大戦略]の事? そーいやこないだ、十年ぶりの新作の発売だって、何かで見たよーな?
何やら気まずい顔で咳払いをするロード。どうやら凛さんの推察は的を射ていた様だ。ロードって、実はゲーマー?
「でもそんなの、わざわざ頼まなくたって、後からでも手に入るんじゃない? 中古だったら価格だって安いし」
そんな事をクロエが言うと。
「そこはそれ。初回ゲンテイ版がどうしても欲しかったらしいんだ。発売日から数日経ってたから望みは薄かったけど、運良くひとつだけ残ってたよ」
いわゆるコレクターズアイテムってやつね。あたしも限定って言葉には弱いとこあるし、わからんではない。
あと、中古で出回る量が少なく、且つ需要が多ければ、逆に値が釣り上がる場合もある。そこを理解していないとは、クロエもまだまだね。
「まさか先生、公費の私的利用を…!?」
凛さんのツッコミに、ロードの眉間の皺が深くなる。
「君は何を言っているのかね。確かにカウレスへの頼み事は私的なものだが、あくまで私財を投じての事だ。
それにその様なことをしたら、法政科が絡んできて鬱陶しいからな」
法政科? 時計塔の部門みたいだけど…。
「法政科って、神秘の秘匿に絡んでもいませんよ?」
「……事ある毎に、私にやたらと絡む者がいるんだよ」
「ああ、あの方ですわね」
疲れた口調のロードに、納得顔のルヴィアさん。どうやら彼女も、ロードが言う人物に心当たりがあるようだ。
「……すまない。少し醜態を晒してしまった様だ」
「いえ、こちらこそ、先生を疑ってしまってすみませんでした」
お互いが謝罪をし、どうやらこの場は収まったみたいだ。
「……さて、これで
「
「私もありません」
ルヴィアさんと凛さんの答えに、ロードは軽く頷く。
「わかった。それでは用事も残っているので、そろそろ失礼させてもらおう」
「大したおもてなしも出来ず、すみませんでした」
ルヴィアさんが軽く謝罪をすると。
「なに…、大ゲンカの果てに時計塔の講堂を破壊し、地下七階・八階を吹き抜けにしたお前達が何か仕出かしてないか、確認の意味もあったからな」
「「ぐはぁっ!?」」
ロードの、嫌味混じりのセリフが飛び、凛さんとルヴィアさんは呻き声を上げた。というか、そんな事件があったのか。……もしかして二人の任務って、その懲罰的な理由だったのでは? だとしたらそれは、自業自得というやつだろう。
……むゆぅ、しかしあたしも、自称ライバルとはそんな感じだったし、将来的にそんな相手が現れないとも限らない。こんな事にならないよう、心に留めておくとしよう。
ロード一行と共に、あたしとイリクロもエーデルフェルト邸を後にする。向かいの家に入っていく二人にさよならした後、我が家へと向かっているのだが、何故かロード達もついて来ていた。
「……あの、何か御用ですか?」
さすがに沈黙が堪らなくなって、尋ねるあたし。
「君との話が途中だったのを思い出してな」
……話?
「ええっと、なんの話でしたっけ?」
「クラスカードの英霊の話だよ」
あ。そういえばロードが、何か話そうとしたタイミングで、イリヤから連絡が入ったんだった。
「クラスカードの英霊はセイバーとアサシン以外は、ロードが経験した戦いに召喚された英霊とは違っていた。それでロードは、おそらく第四次聖杯戦争と直接は関係ないと答えつつ、間接的には関係してるかも知れないって言ったんですよね?」
旧衛宮邸でのやり取りを思い出しながら、あたしは尋ねる。
「ああ。あの時にも言った通り、突拍子も無い話ではあるが」
そう前置きをして、ロードは話を続けた。
「宝石翁が回収を命じたクラスカード。そしてカードと繋がった英霊。彼らは、また別の聖杯戦争に関わっていたのだと思う」
「別…って、ロードが仰っていた[亜種聖杯戦争]の事ですか?」
この話が出たときの、切嗣さんとロードの苦り切った顔は記憶に新しい。しかしロードが言わんとすることは、また違っていた。
「いや、そうではない。……そもそも、[亜種聖杯戦争]が思い浮かんだときに、違和感は感じていたのだ」
「違和感…ですか?」
「うむ。[亜種聖杯戦争]はあくまでも、冬木の聖杯戦争の模倣でしかない。その様な儀式で、
「あ…」
確かに、その通りだ。システムそのものを移動させたか、あるいはそのシステムを全く同じレベルで再構築させたのならともかく、模倣、即ち真似ただけで、そんな事は無理な話である。
「[亜種聖杯戦争]においての英霊召喚は、精々が三騎といったところだ。だがクラスカードの場合、カードを介しているとはいえ七騎全てが出揃っている」
「はい。つまり絶対とは言わないものの、[亜種聖杯戦争]に使われたアイテムである可能性は無い、と?」
「そういう事だ」
ううううみゅぅぅぅ。なんだか振り出しどころか、後退してしまった様な。……いや、待てよ? 確かあの時。
「そういえばロード、『実在している限り可能性はある』とか言ってましたね? あれってどういう意味なんですか?」
そう。「突拍子も無い」考えであるものの、何かが「実在している」ために、その「突拍子も無い」考えもあり得るという事か。
「そのカードは、全く別の術式による聖杯戦争に使われたものだと思う」
「別の術式の!?」
思わず声を荒げてしまう。しかし同時に、すんなりと受け容れられる推測でもある。
「しかしそういった情報どころか痕跡すら、魔術協会…いや、おそらく聖堂教会も掴んでいないだろう。これはこれでおかしな話ではあるが、あるピースをはめ込むと、僅かな可能性ながらある仮説が成り立つのだ」
ピース?
「レディ、クラスカードが存在していたのはどこか、憶えているか?」
「え? えっと、高校の校庭に…、ってそうじゃなくて、まさか鏡面界の事!?」
「その通り」
鏡面界。凛さん曰く、鏡合わせの世界。正しくは鏡合わせのように連なる世界の、その鏡像。即ちそれは…。
「鏡面界とは、隣り合わせた世界の狭間に存在する虚像の世界。そこに存在したクラスカードとはおそらく、
「並行世界…!」
そうか。第二魔法が存在している限り、並行世界の存在もまた確実。そもそもあたし達も、おそらく遠い並行世界の存在にあたる、なのは達に会っているのだ。ならば、クラスカードが並行世界のアイテムであっても、何らおかしいことはない。
「あくまでも予想・推測、もしくは虚構の類いでしかないが。魔術世界では
「いえ、充分ですよ。たとえ予想だろうが、可能性のひとつが浮かびあがったんですから。その為の備えを考えるきっかけにはなります」
とはいえ、まだ何をすればいいのかなんて、思い浮かびもしないのだが。それに…いや、今はまだいい。
「……あ、そういえば第四次との、直接ではない関わりってなんですか?」
「うむ。これもまた推測になるが、七騎の英霊を扱った聖杯システムならば、別の術式とはいえ同じ形には収束するだろう。つまり冬木の聖杯戦争と同じく、七騎を戦わせ、残ったひとりが聖杯の恩恵に与れるというもの、ということだ」
「なるほど。という事は相手を倒し、カードを集める事自体が小聖杯と同じ役割をしてるって事ですね。そして大聖杯にあたる何かにカードをくべて、根源へと接続させる」
「あくまで推測に過ぎないが」
推測と言うがこれが本当なら、冬木の聖杯システムに劣らぬトンデモ魔術式である。しかも推測ではあるものの、上手くやれば誰も犠牲が出ないというのが素晴らしい。
……なんてやっている間に、自宅へと辿り着いてしまった。
「ロード。今日はありがとうございました」
「いや、構わんよ。もう少し先だが、こちらの方に知人の家があるのでな。もののついでという訳だ」
ふみゅ。なんというか、変則的なツンデレみたいな反応だわ。まあ、嘘ついてるわけでもないんだろうけど。
何となくそこん所をからかいたい気分だが、弟子や生徒が見てる手前、止めといたげよう。
「それじゃあ、いつまで居るのかわかんないけど、良い旅を」
「ああ。君にもいい日が続く様、祈っているよ」
こうして挨拶を交わし、あたし達は別れるのだった。
そして数日が経ち。
「盛夏の候、皆様、いかがお過ごしでしょうか…」
藤村先生が何やら、真っ当なことを言っておられる。いや、カッコつけたいだけだろうけど。
「今、皆さんはどんな気持ちでしょうか? わたしは少し寂しくもあり、1ヶ月後が楽しみでもあります。
この夏に皆さんがどんな経験をし、何を見、何を知り、何を成すのか。
二学期、また皆さんと会えるのを楽しみにしています」
とはいえ、言ってることは中々立派ではある。まあ、ああ見えて、いい先生なのは確かだしね。
「それでは皆さん…。
夏休み開始だ、オラーーーッ!!!」
最後まで
待ちに待った夏休みの開始である。
今回のサブタイトル
城平京「虚構推理」から
法政科の事ある毎に絡んでくる者とは当然、
という訳で(どんな訳だ)、ついに、ようやく、夏休み編突入であります。
次回「夏のお嬢さん達」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!