Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
「キタキタ、キターッ!!」
道を走り抜けながら、雀花が叫ぶ。
「えっ、コレ本当にやるの!?」
「あったりめーだ! 何のためにこの間イメージトレーニングしたと思ってんだ!」
戸惑いながら尋ねるイリヤに、答える雀花。
「あたしその
冷静に突っ込むリナだが、水着購入時のやり取りなので致し方ない。
「う、海だーッ!!!」
「タ、タツコが決めゼリフ言っちゃったよ!?」
「台無しだ!」
「ええい、もう構わん! 予定通りいくぞッ!!」
腹を括った雀花が号令をかけ。
「海だ…」
イリヤが龍子と同じセリフを叫ぼうとした、その時。
きききいいいい!
ドン!
「ああッ! タッツンが車にッ!?」
跳ねられた。
「いやー、危なかった。イリヤ達の誕生日がタッツンの命日になるとこだったぜ」
「シャレんなってないからッ!!」
本当に、ギャグパートで洒落にならない展開は御免被りたい。
「受け身だけは天才的なタッツンで助かったよ」
那奈亀もそんな事を言っているが、そういう問題ではないだろう。
「ねぇねぇ…」
ここで、クロエにしては珍しく、戸惑った声で話しかけてきた。
「さっきの運転手、お詫びにって1万円置いてったんだけど」
「「1万円だと!?」」
雀花と那奈亀が聞き返す。
「世間じゃひと轢き1万円なのか…?」
「ウチら、タッツンでひと稼ぎ出来るんじゃ…」
彼女達のクズい発言。こうして人は落ちてゆくのかも知れない。
「アンタら、あたしとO・HA・NA・SHIしたいワケ?」
「那奈亀さん、龍子さんに怪我がなくて、本当によかったですわ」
「そうですわね、雀花さん。龍子さんにはこれからも健壮でいて貰いたいものですわね」
リナの脅しに、雀花と那奈亀は間違った淑女観の会話で誤魔化した。
「大体、世間的にもタツコ的にも、それってアウトだからねっ!」
龍子を守るように、後ろから抱きしめながらイリヤは言うのだった。
「全く、道路に飛び出すなんて危険なこと、もうやったらダメだぞ」
「怪我が無かったのは奇蹟的だな」
そう言ったのは、保護者として着いてきた士郎と柳洞一成。更に。
「これだからガキは嫌いなんだよ」
「兄さん、非道いこと言ったらダメですよ!」
ワカメ…もとい、間桐慎二と桜も一緒だ。
「イリヤイリヤ。赤毛の方がイリヤ兄なのは知ってるけど、眼鏡男子とワカメ頭、あと巨乳さんはどなた?」
「ワカメ頭!?」
那奈亀の疑問に過剰反応する慎二。まあ、貶されてるのだから当たり前だが。
「あとの二人はわたしも初めてだなー。眼鏡のお兄さんは…」
「無視すむぐぅ!?」
慎二は後ろから、桜に手で口を覆われた。何だか鼻も覆っている気がするが、きっと気のせいだろう。
「失礼、挨拶が遅れた。俺は柳洞一成だ」
片手で拝むポーズをとり挨拶をする一成。
「わたしは間桐桜、こちらは兄の間桐慎二です。兄さんと衛宮先輩、柳洞先輩は同級生で、わたしはひとつ下の後輩になります」
「ああ、そうなんだ。引率するなら人数が多い方がいいし、交替で休憩も取りやすいと思って応援を頼んだんだ」
士郎の説明に、なるほどと頷く那奈亀。
「因みに、士郎さんと桜ねーちゃんは弓道部でも先輩後輩で、あたしと桜ねーちゃんは友達同士だから」
「へー…って、友達!?」
流れで頷きそうになった那奈亀が思わず聞き返す。もちろん他の小学生組も驚いている。
「そうか。俺と一成は聞いてるけど、イリヤ達は初耳だったみたいだな」
「そうだよ。ねえリナ、どうしてわたしに教えてくれなかったの!?」
「いや、隠してたわけじゃないんだけど。言う機会もなかったし、結果忘れてたみたいな?」
イリヤの疑問にあっけらかんと答えるリナ。全く悪びれる様子はない。
と、ここで。
「ブッハアアアッ! ……く、苦しかった…じゃなくて! 僕だって桜とお前の事は知ってるんだからなっ!」
桜の手を振りほどいた慎二が、負けじと言い募る。
「なんですか、兄さん。自分が頭数に入ってなくて寂しかったんですか?」
「な!? そそそそんな訳ないだろっ!」
わかりやすい男ではある。
「全く、衛宮と間桐は仲が良いな。俺も些か妬けてくるぞ?」
「っそんなんじゃねーよ!」
「俺と慎二とは、長い付き合いだからな」
「衛宮も何言ってやがる!」
「どうだ、間桐。今度、衛宮と一緒に生徒会の仕事を手伝ってはくれないか? 素行に問題があると思っていたが、強ち悪い人物でもないようだ。何より、衛宮の親友なら俺も仲良くしたい」
「何気持ち悪いこと言ってんだよ! 第一、生徒会の仕事なんてわかんねーし!」
「なんだよ。俺との共同作業はイヤなのか?」
「何、案ずるな。俺達が手取り足取り教えてやろう」
「……ちっ、そんなに言うなら、しょうがないから手伝ってやるよ」
「全く、素直じゃないな。今度お弁当作ってきてやるからさ」
「……味噌汁も付けろ」
「うむ。衛宮の味噌汁は毎日飲んでも飽きないからな」
「なんだよ。二人揃って褒め殺しか? さすがに毎日は勘弁な」
何だか意味深なワードを織り交ぜながら会話する三人。つい深読みをしてしまう女子達はざわついている。
「まさか、先輩と兄さん達がそういう仲なんて事…。そんなはずない。そんなはずない。そんなはずない…」
「桜ねーちゃん! 黒いの出てる! 黒いの出てるからッ!!」
陰鬱なオーラを放つ桜に、リナが突っ込む。そして。
「ア…、アリガトウゴザイマシターーーッ!!」
雀花が、何に感謝しているのかわからない叫びを上げるのだった。
みんなの元からひとり離れ、岩場へと向かうリナ。水着の上にライフジャケットを羽織り、肩からロッドケースとクーラーボックスを掛けている。
「ふふん。やっぱ釣りは楽しいわよね。それに今回は…」
実はリナ、転生してからの秘かな趣味が釣りである。何も年がら年中魔法…魔術や魔法少女、食べ物のことばかり考えているわけではないのだ。
「……ん?」
岩場を少し行くと、ルアーフィッシングをしている赤毛の少年と金髪少女の姿が見えた。
「……ミリィ?」
「えっ、あ、リナ!?」
そう。そこにいたのはクラスメイトの星見ミリィだ。そしてリナ自身は直接見知っていたわけではないが、校内の噂から、もうひとりが
「何々? ひょっとして青川くんと、釣りデートの最中?」
「違うっ! 違うからっ!!」
揶揄うリナに慌てるミリィ。どうも調理実習の時よりも、過剰に反応しているように見受けられた。
(……もしかして、本当に意識し始めたとか?)
にんまりと笑うリナ。しかしミリィも手札を切ってきた。
「それよりリナは、イリヤのお兄さんと一緒じゃなくていいの?」
ちょっとしたきっかけで、リナが
「ちょ、士郎さんは関係ないでしょ!?」
「リナ、どうして慌ててるの?」
「えっ!?」
にっこり笑いながら返され、リナは戸惑う。
(……あれ? ホントに何慌ててんだろ?)
未だ士郎への想いに気づかないリナ。こういう所は前世から変わってない。
「おいお前ら、何じゃれ合ってんだ?」
「「じゃれ合ってないっ!」」
口を挟む慧に、二人は同時に突っ込んだ。
「まあ、いいけどよ。それで、お前が色々と有名な稲葉リナか?」
「……どう有名かは聞かないけど、おそらくその稲葉リナよ。そう言うアンタは、真偽は別としてミリィのカレシの青川慧ね?」
「ああ。ただの親戚だけどな」
お互い、自分に立てられた噂くらい理解している。もっとも、「ただの親戚」と言われたミリィは、物凄く複雑な表情を浮かべていたりするが。
「……ま、お互い余計なツッコミは無しって事で」
「だな」
二人は知らないが、どちらも喧嘩っ早い者同士。まさに正しい判断である。あるいは、無意識にそれを感じ取っているのかも知れない。
「で、話は変わるが、稲葉も釣りか?」
「ええ。あたしの趣味よ」
「ふぅん」
慧は軽く頷き。
「ミリィも釣り、特に磯釣りが趣味なんだ。今日は貴光のじいちゃんが行かれなくなって、代わりに俺が呼び出されたって訳だ」
等と聞いてもいないことを説明した。因みに貴光とは、ミリィの祖父で日本名を星見貴光、元の名をアルバート=ヴァン=スターゲイザーと言い、ゲイザーコンツェルンの会長である。
「へー、なんか意外ね」
「……リナこそ、イリヤとのアニオタ仲間か食欲魔人のイメージしかなかったけど」
「くはっ! ……うう、何だか言い返せない自分が悔しい!」
正確にはアニオタではなく魔法少女ものオタクだが、この場合は些細な違いである。
「ところでリナは餌釣り?」
「……いきなりねえ。今回は1時間前後しかやらないから、アグレッシブにルアーフィッシングだけど?」
「という事は、条件は同じってワケね」
「……はい?」
リナはミリィが何を言いたいのか、理解できない。
「リナ! 釣り勝負よっ!!」
「はああああ!?」
こうして、何故かいきなり釣り勝負をする羽目になるリナだった。
そして1時間後。
「びくとりぃっ!」
ピースサインを出しながら言うリナ。
「くううっ、負けたッ!」
両手、両膝を地面…というか岩に着け、項垂れ悔しがるミリィ。
釣果は、リナがキチヌ(キビレ)5匹に対し、ミリィが3匹。もちろんリナは、入れ食いの呪文(仮)を使わずに、だ。むしろ使っていたら、二桁は軽く超えていただろう。
「ま、あれね。最初にフラグ立てた段階で、勝負は着いてたって事ね」
「フラグ? ミリィのやつ、なんか言ったか?」
最近、フラグ立てと回収といった感じの出来事がやたら起きるため、何となく敏感になっている慧である。
「ほら、あたしに勝負挑んできたじゃない。悪役相手だと勝利フラグの事が多いけど、ライバル相手だと負けフラグである事が多いかんね」
「あー、なるほど…」
「納得してないで、少しは慰めてよッ!」
ミリィは悲痛な叫びを上げるのだった。
交替で休憩に入った士郎。ビーチパラソルの陰でしばらくボーッとしていると。
「やっほー、士郎さん!」
そう言って駆けてくるのはリナである。
「士郎さん、例のブツは手に入ったわよ」
「ブツ…って、なんか物騒だな」
少し引きながらもクーラーボックスを受け取り、フタを開けて中を確認する。
「お、凄いな。キチヌが5匹も。しかも結構いい型じゃないか。これなら申し分ないな」
「でしょでしょ?」
士郎に褒められ、リナは上機嫌だ。
「よし、それじゃあ早速調理場を借りて…」
「だったらあたしも…」
「いや」
振り向いた士郎の表情は、キリッと引き締まっている。
「ここは俺の、腕の見せ所だ。
「お、おーけー」
さすがのリナも、士郎の無駄に強い圧に
(……イリクロの言じゃないけど、無駄にカッコいいわね)
取りあえず、格好良さを出す場所を間違えているのは否めない。
「それじゃあ士郎さん、お願いします」
「ああ、任された」
これだけの会話を交わすと、士郎はクーラーボックスを持って立ち去っていく。リナは士郎と入れ替わるように、ビーチパラソルの陰で涼を取る。
それから数分ののち。
「あれ、リナちゃん? 先輩は…?」
「あ、桜ねーちゃん。士郎さんなら、あたしが釣った魚を捌いてる」
「え? えっと、それじゃあわたしもお手伝い…」
少しそわそわしながら、桜は立ち去ろうとする。
「残念だけど、誰の介入も許さないって意気込んでたから」
「そ、そう…」
見るからに落ち込む桜。リナは苦笑いだ。
そして、流れる沈黙。
「……ねえ、桜ねーちゃん。藪から棒なんだけど」
「何?」
聞き返す桜に、少し躊躇いながらも話を続ける。
「桜ねーちゃんは、凛さんの事、どう思ってる?」
「……え?」
「桜ねーちゃんと凛さんって、姉妹なんだよね?」
「!! リナちゃん、どうして…!?」
桜はこの上ないほどの動揺を見せる。
「桜ねーちゃんが養子なのは、出会ったときに聞いたよね? それでこの間、桜ねーちゃんと凛さんが鉢合わせした時に、二人とも様子がおかしかったから、凛さんにカマかけたのよ」
「そう、だったの」
リナの説明に納得する桜。どうやら遠坂家のうっかり体質は、彼女も知るところだったらしい。
「それでお節介ながらも相談に乗ろうとしたんだけど、凛さんって素直じゃないでしょ? やんわり断られちゃったの」
あたしも人のこと言えないけど、などと内心思いつつ、再び苦笑いを浮かべるリナ。
「でも、桜ねーちゃんは友達だし、凛さんはちょっとあたしと似てて、ほっとけないし。だから桜ねーちゃんに聞きたいの。凛さんと、お姉さんと仲良くしたい?」
尋ねるリナに、桜は顔を俯かせ。
「……
「凛さんは関係ないわ。あたしは友達の、桜ねーちゃんの望みを叶えてあげたいだけだもの」
「リナちゃん…! あり、がとう…」
桜は涙を浮かべてお礼を言った。
「……あ、そうだ。遠坂と間桐の双家に関わるんだから、あたしの秘密のひとつも、語らなきゃフェアじゃないわね」
「リナちゃんの、秘密?」
「うん」
そう言うとリナは小声で何やら呟き。
「
手のひらの上に明かりを創り出した。
「リナちゃん、それ…!」
「あたしは魔道士のリナ。凛さん達とは別体系の魔術使いよ」
リナはとても真剣な顔で言う。が、すぐに笑顔に変わり。
「とはいえ、桜ねーちゃんと知り合って仲良くなったのは、ただのぐーぜん。遠坂と間桐が魔術師の家系で、凛さんには既に知られてるから、桜ねーちゃんにも教えたワケだけど。……あたしにとって桜ねーちゃんは、友達以外の何ものでもないから」
「リナちゃん…。うん。いきなり魔術を使って驚いたけど、リナちゃんが魔術…魔道士だって事以前に、わたしにとっては大事なお友達だよ!」
桜も笑顔で返すのだった。
「……ところで『秘密のひとつ』って事は、リナちゃんには他にも秘密があるのかな?」
「う…。それについては、まだ心の準備が出来てないの。いつかちゃんと話すから…」
「うん。いつまでも待ってるから♡」
どうも今日のリナは、揶揄われる運命にあるようだ。
今回のサブタイトル
80年代アイドルソング「夏のお嬢さん」より
今回マンガ、アニメ、小説関係じゃないのは、ぱっとこれが思い浮かんでしまった事と、他にいいタイトルが思い浮かばなかったためです。
今回、久々に星見ミリィが、そして【ドラまた☆リナ】としては初めて青川慧が登場です。本当は、裏でこういう事があったと匂わせる程度のつもりだったのですが、リナが士郎への想いを自覚する切っ掛けを挟むことにしました。因みに番外編(カードキャプター編)で神名が託けを承けてた原因が、今回の勝負です。
補足説明。
キチヌ……タイ科クロダイ属の海水魚。クロダイ(チヌ)によく似ていて、ヒレに黄色味を差すことから黄色いヒレのチヌでキチヌ、別名がキヒレと呼ばれる。旬は初夏。
次回「夏色サプライズ」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!