Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
「この様な場所で、奇偶ですね」
口火を切ったのはバゼットさん。
「バゼット!」
「なんですの、その格好はというかシェロ!」
凛さんは身構え、ルヴィアさんは士郎さんにも気が行っている。
「なんだなんだ?」
「知り合いか?」
士郎さんと一成さんは当然、状況が飲み込めておらず。
「バゼット、さん?」
「確か封印し…ゲフン!」
思案顔の桜ねーちゃんに、ワ…慎二さんが余計なことを言いそうになって咳払いをする。というか、慎二さんは封印指定執行者の事、知ってたんだ。
「ホント、突然現れるヤツね! どうする? こっちはまだ準備が…」
「落ち着きなさい。こんな大衆の面前で事を始めるほど、愚かではないでしょう。というか、シェロの面前で! というかシェロ!!」
「シェロシェロうるさいわよッ!」
全くその通りである。状況が状況じゃなかったら、あたしがスリッパで引っ叩いてたところだ。
と、ここで一成さんが、某落とし神の様な仕草で眼鏡の位置を直しながら、凛さん達に問いかける。
「お前達はここで何をしているのだ。まさかとは思うが、その怪しげな工事に関与しているのか?」
うむっ、なかなかに鋭い。ルヴィアさんがオホホ…と笑いながら否定をするものの、一成さんはバリケードへと近づき。
「では、施工主がエーデルフェルトになっているのは何故だろうな」
工事内容を記した看板を軽く叩きながら、問い詰めていく。
……どうでもいいけど、一成さんの話の組み立て方が、ちょっとばかしゼルに似てるわね。
「これ、八枚目の、……リナのも含めて十一枚目のカードを回収するための、トンネルを掘る工事」
みんなが言い合っている間に、美遊があたし達に説明を始めた。
「カードは地中深くにあるから、座標位置まで掘り進めてから鏡面界に
なるほど。この世界を反映した世界だからこそ使える手、ってわけね。
「あー、いたいたイリヤズ」
「これ、なんの工事なん?」
「おおー! でっけえはたらくくるまだな!!」
なんてやってる間に、
「みんなー、なんでもないよー」
「ここは危ないから、向こうで遊びましょうねー」
これ以上厄介事を増やしたくないのだろうイリクロが、みんなをこの場から遠ざけようとする。が!
「あッ! 金ドリルとツインテールッ!!」
那奈亀が、凛さんとルヴィアさんを指さし叫んだ。……那奈亀と凛さん、ルヴィアさん。なんかこの組み合わせ、イヤな予感がする。
「なんだ、知り合いか?」
雀花が尋ねると、那奈亀はわなわなと震えながら言った。
「こいつらはあたしの姉ちゃん、森山奈菜巳の恋路をぶっ壊した悪魔だーーーッ!!」
『なんですとーーーッ!?』
みんなが驚く中、あたしは頭を抱えていた。そっか。やっぱ奈菜巳さん絡みかー。
「森山奈菜巳…」
「あの、あざとい子ですわね」
「姉ちゃんをあざといとか言うなー!」
いや、あたしもあざといと思う。
「大体、カエル袋投げつけるようなヤツらに言われたくないわーッ!!」
「カエル袋ってナニ!?」
あたしも気になる。
「聞いたことあるぞ。ある女生徒が解剖用のカエルが入った袋を投げつけて、大惨事になったとか!」
雀花、よく知ってたな。
「あれ以来姉ちゃんは、カエル恐怖症になっちゃったんだ! 名前に『
それはご愁傷さま。
凛さんとルヴィアさんは、士郎さんと一成さんに窘められ、それに反論している。とはいえ、状況的に十中八九、凛さん達が悪いと思う。
「……大体! 元はといえば、あの子がわざとらしく衛宮くんにちょっかいをかけるから…」
「姉ちゃんの悪口言うなーッ!」
凛さんの言い様に、文句を言う那奈亀。
「『衛宮くんに』…? なあ。ナナミさんが好きな人ってもしかして、イリヤの兄貴じゃね?」
あ、雀花が正解引き当てた。途端に那奈亀が、「お義姉さまーッ!」とか言いながらイリヤに抱きついてるし。
しかし、この状況って…。あたしは恐る恐る桜ねーちゃんへ視線を移し。
「……」
うをっ!? 無言のまま、死んだ魚のよーな目で士郎さんを見つめる桜ねーちゃんの背後に、ドス黒いオーラが滲み出ている。怖い! 怖いからッ! しかも凛さん達や那奈亀でなく、士郎さんに感情を向けてる辺りが桜ねーちゃんらしいって言うか、なんというか…。
「卑劣な! 妹を使って、イリヤから落としにかかる戦略ですわね!」
いや。良くも悪くも、奈菜巳さんにそんな才能は無いだろう。まあ、天然でやってのけるそれも、才能ではあるが。
「ですが無駄なこと! イリヤスフィールとは既に、
「交わしてないよッ!?」
イリヤがツッコむ。というか、スールってどこのお嬢様学校だ。
「わ、わたしはイリヤと、主従契約を結んだこともあるんだからッ!」
「凛さん! どうしてそう、誤解を招きそうな言葉選びをーッ!?」
ちなみに主従契約って、カード回収の時の関係よね?
「あたしなんか、イリヤの恥ずかしー所にホクロがあるの知ってるもんねー!」
「どうして知ってるのーッ!?」
実はあたしも知ってたりする。
「みんな、破廉恥ですよ!? こうなったらわたしが先輩をお世話します!」
「こっちにもフラグ立ってたのーッ!?」
って、桜ねーちゃん!?
「いいや、女どもは信用ならん! ここは男だけの柳洞寺で面倒を見よう!」
「それはそれで別の不安がーッ!」
イリヤに激しく同意ッ!!
「アイスキャンディーいかがっすかぁ!」
「「まだいたのッ!?」」
最後の最後で、イリヤと共にツッコむあたし。
「さあ、一体どうするんですの!?」
「イリヤは誰の味方なんだ!?」
ルヴィアさんと那奈亀が、無理難題をイリヤに押しつける。ハッキリ言ってあたしがイリヤの立場でも、こんなの答えようがない。
「イリヤ!!」
「イリヤ!!」
「イリヤ!!」
「アイス!!」
なんか最後だけ違う気がする。ともかくも、追い詰められたイリヤはニコリと笑い。
脱兎の如く走り出した。
逃げ出したイリヤをみんなが追いかける。心配する士郎以外は、私利もしくは私欲の為だが。
(みんな好き勝手、言いたいこと言って! 収拾つけられるわけないじゃない!
そもそも、お兄ちゃんはわたしの…!!)
内心で文句を言うイリヤ。するとそこに。
『イーリーヤー…』
上空から聞こえてきた声が徐々に大きくなり。
『さんッ!!』
イリヤの頭に直撃したそれは、ここしばらく姿を見せなかったルビーだった。
「ルビー!? 今までどこに…って、今はそれどころじゃなくって!」
『できましたよ、イリヤさん! イリヤさんに依頼されてから三十三の夜を越え、熟成に熟成を重ねてついに完成したんです!
ルビーちゃん謹製! 惚れ薬ーーー!!』
それを聞いて、イリヤは思い出した。
---契約する前、言ってたよね。こ、「恋の魔法」がどうたらって…
---た、ためしにひとつ!
そう。確かにそんな事を言っていた。
「でも、だからって、なんでこのタイミングでーーーッ!?」
『イリヤさんの誕生日に間に合わせるべく、ここ数回、出番を削ってまで最後の仕上げをしてましたー』
メタっぽい発言を抜きにすれば、意外とまともな理由だった。しかしイリヤは、イヤな予感が止まらない。
「悪いけど、その話は無かったことに…」
『という訳で、えい!』
「って、ああッ!?」
イリヤの制止も聞かず、ルビーは追いかけてきた士郎に注射器をブッ射した! 士郎は顔面からぶっ倒れ、一緒に追いかけて来たみんながざわめく。
『さあ、早く! 効果は
「人の気持ちをオモチャにしてーーーッ!」
とはいえ、誘惑に負けて頼んだイリヤも悪い。そしてルビーに流されるまま、士郎に近づこうとしたが。
「シェロ! 大丈夫ですの!?」
何とルヴィアが先に介抱し始める。
「ル…ヴィア…」
「シェロ!」
「ルヴィアは、おっぱいが大っきいなぁ」
『……は?』
みんなの目が点になる。
「あれは質量の暴力だ。見まいと思っても、圧倒的な存在感を持つそれに自然と目が行ってしまう。たまに無防備に当てられるそれの感触は、忘れようと思っても…」
「なななナニを言ってるんですのおおおッ!?」
テンパったルヴィアは士郎を突き飛ばし、凛にぶち当たる。
「遠…坂は…」
「え゛…」
「足を出しすぎだ。スカートの短さは胸の自信のなさから来るものだろうか。だが、あの丈で完全なガード等望むべくもなく、しばしば下着が顕わになる。大腿から臀部にかけてのラインは…」
「ななな何言ってんのよコイツーーーッ!!」
あまりにもの羞恥に、何度も士郎を踏みつける凛。
「ちょっと? どうしちゃったの、お兄ちゃん!?」
「ま、まさか士郎さんが、そんな事を考えてるなんて…」
クロエと美遊も混乱気味だ。
「ル、ルビー!? どういうことなのーッ!?」
『いやー。間違えて、いつも持ち歩いてる自白剤を打ってしまったみたいです』
「ルビーッ!?」
イリヤが問い詰めてる間にも、更に事態は悪化していく。
「先輩!」
桜が駆け寄り、士郎を抱き起こすと。
「桜…は、上目遣いで話しかけるのは卑怯だ。あの眼差しとその先にある大きな胸は、男の拒否権を奪い取る。更に、甘えて腕に抱きつかれたときに芽生える劣情を抑えるのに、どれほどの…」
「せ、先輩いいいいいッ!?」
あまりのことに突然立ち上がり、士郎を地面に落としてしまうが、桜はそれどころでは無かった。
「一成は時々目つきが怖い」
「何だと!?」
「慎二はツンデレが過ぎる。あと、髪がワカメ」
「ツン…ていうか、ワカメって言うな!」
「最近の小学生は発育が…」
「ぎゃーーーッ! ウチらにまで矛先がーーーッ!!」
もう、ルビーの為にしっちゃかめっちゃかである。
「もうイヤーッ! 誰か、何とかしてーーーッ!!」
『しましょう』
イリヤの望みを叶えるべく、ルビーがみんなの頭上に注射器を落とす。注射を打たれたみんなは様子が変わり、急に静かになる。
「ちょっと、ルビー!? 何したのーッ!?」
『超強力な鎮静剤を打ちました。しばらくは
「静かすぎでしょーーーッ!?」
イリヤが突っ込みを入れるが、ルビーにとってはまさに絶好のチャンス。士郎の首筋に注射を打つ。そう。今度こそ正真正銘の惚れ薬である。
『周りは岩場、人の目はありません。さあ、イリヤさん。ロマンティックなひとときを!』
涅槃状態のみんなを背景に、目が虚ろな士郎がゆらゆらと近づいてくるその絵面に、ロマンがあればの話だが。
「お兄ちゃん、待って! 正気に戻って!!」
そんなイリヤの言葉も虚しく、士郎が手を伸ばし、驚いたイリヤが岩を背にして尻餅をつく。そのまま士郎は左手を岩に付けて、壁ドン状態である。
右手をイリヤの顎に当てて、くいっと引き寄せる。
(やだ、やだよ。こんな形でお兄ちゃんと…)
近づいてくる士郎の顔に、拒絶しつつも抗えないイリヤ。あわや、というその時、そのすぐ真横で成り行きを見ている美々の姿があった。
『あ。影が薄かったので、鎮静剤を打つの忘れてましたー』
ルビーのあまりにもな発言。まあ、美々の特性なので仕方がないが。
「イ、イリヤちゃん! クロちゃんとだけじゃなく、お兄さんとまでーーーッ!?」
「イ、イヤアアアアアッ!!」
ごっ!!
テンパったイリヤが士郎を突き飛ばし、岩に顔面から突き当たって気を失うという大惨事に。と、その時。
「
力ある言葉と共に、イリヤと美々は眠りについたのだった。
「さぁて。どういうことか説明して貰いましょうか、ルビー!!」
あたしは腕を組み、ルビーを睨みつける。
『あ、あれー? そういえばリナさんの姿が見えませんでしたねー?』
「イヤな予感がしたから、後から遅れてきたのよ。で、これはどういうことなのかしら?」
しかし、あたしのその疑問に答えたのはルビーではなく。
『姉さんが士郎さまに、惚れ薬を投与しました』
『サ、サファイヤちゃん!?』
あたしはそれを聞いて無性に腹が立った。それは、薬剤による強制的な恋愛感情が理由…だけではない。士郎さんがイリヤに迫る様を見て気づいてしまったのだ。その瞬間、イリヤにヤキモチを妬いていたことに。そう。あたしは士郎さんが、好きなんだ。
以前ルビーが言っていた、士郎さんに惚れている最後のひとりはなんて事ない、あたし自身だったというわけだ。
だが、あたしはそんな感情を押し込めて、努めて冷静に話を続ける。
「それで、このあとどうする?」
ルビーではなく、サファイヤに尋ねる。
『それでは、わたしが姉さんのお仕置きを含めて何とかしましょう』
そう言うと、サファイヤの周りに電波の拡張器が現れる。あれは確か、なのは達の記憶を消すのに使った…。
『そ、それは洗脳電波デバイス…!』
あたしは慌ててサファイヤの後ろに回り込む。その瞬間、洗脳電波が放出され、みんなを巻き込むのだった。
そして時は経ち、バス停へと向かうあたし達。
「あー、疲れた」
「ホント。一時はどうなるかと…、ん? 何がどうなったんだっけ?」
クロエが自分の発言にキョトンとしている。
「何を言ってるの?」
「今日は一日、徹頭徹尾、愉快で楽しい日でしたよ?」
「ホントにねー」
美遊、雀花、美々が言葉を連ねる。ちょっと雀花の言い回しがいつもと違うところが、気になると言えば気になるけど。
「なんか一部、記憶があやふやなんだけど?」
「遊びすぎて記憶が飛んでしまったのだろう」
勘の良いイリヤの発言に、もっともらしくもあり馬鹿馬鹿しくもある理由を述べる一成さん。
「ねえ、リナちゃん。何だかわたし、不快な気分を味わった気がするんだけど」
「んー? あたしら女の子が多かったから、あれこれ世話を焼く士郎さん見てそう思ったんじゃない?」
「そう、かな」
桜ねーちゃんは訝しんではいるものの、それ以上深くは追求しない。
うみゅ。どうやらみんな、サファイヤの洗脳電波がきちんと効いているようだ。詳しくは見てないけど、かなりカオスと化していたようだから、本当にサファイヤ様々である。
そうだ。せっかくの三人の誕生日、イヤな出来事など無いに越したことはない。
イリヤ、クロエ、美遊。改めて、ハッピーバースデー!
今回のサブタイトル
映画「天地無用!」主題歌「ALCHEMY OF LOVE~愛の錬金術~」から
というわけで、予定調和で海編終了です。リナだけ洗脳電波デバイスを受けなかったのは、唯一冷静でいたからこそです。
次回「過去への扉」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!