Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
ようやくナーガを処ぶ…送り返す事に成功した。そう思った、その時だった。
『いやー、ようやく見つけましたよー』
こんな声が聞こえてきたのは。この声としゃべり口調はよく知っているものだったが、その主は今、イリヤの手に納まっている。
まさかと思いつつも、あたしは声がした方へと視線を移し。
「ええっ!? ル、ルビー!?」
イリヤが驚くのも無理はない。何しろ、今その手にあるルビーとそっくりなステッキが、宙に浮いてそこにいるのだから。
「アンタ、何者!?」
あたしは警戒しながら、そのステッキに尋ねる。
『嫌ですねー。本当はもう既に、気がついてるんじゃないですかー?』
茶化すように答えるステッキ。確かに、ここにいる全員が、既にその正体に気づいているだろう。特に、カレイドステッキの二人(?)は。
「あんた、並行世界のルビーなの?」
代表して凛さんが尋ねると、このステッキは大仰に頷いた。
『はい、そのとおりです。さすが仮契約だったとはいえ、わたしの元オモ…マスター』
「今、オモチャって言おうとしたわねッ!?」
ううみゅ。どうやら性格も、こちらのルビーと変わらないみたいだ。
『ちょっと、そこのしたり顔をした貴女! ひょっとして、そちらのわたしと性格変わらないとか思いませんでしたか?』
ちっ、読まれたか。
『その表情、どうやら図星のようですねー。いいですか。わたしとそちらのわたし、明らかに違うところがあります。それは』
「それは?」
あたしが聞き返すと、もう一本のルビーは胸を張るようなポーズをとり。
『魔法少女は、ローティーンである必要がないことです』
…………は?
『おや、そちらのわたしは、ロリッ子ドゥフフじゃないんですか』
『いえいえ、もちろん最良はロリッ子ですが、凛さんみたいなちょっとばかり成長した方も許容範囲ですよ。むしろリアルロリババァでも、見た目が完全ロリなら
『なるほど。つまり見た目が魔法少女なら、万事O.K.と』
『そういう事です。さすがわたし、理解が早い!』
「「『理解が早い』じゃないわあああっ!!」」
すぱぱあああああん!!
あたしとクロエが同時に叫び、あたしは浮いてる方、クロエはイリヤが持ってる方のルビーをスリッパでぶっ叩いた。
「ちょっと、こいつらきっと人類悪よ!」
「覚醒する前に処分するべきですわね!」
凛さんとルヴィアさんも、よくは分からないが敵認定してるし。
「ま、まあまあ、リンさん、ルヴィアさん。取りあえず話を聞こ。このままじゃ進まないし」
イリヤがここで執りなさなければ、きっとまだ脱線したままだっただろう。
『それではお尋ねしますが』
「何故サファイアが仕切る?」
クロエが疑問を口にするが、何処からも答えは返ってこない。
『貴女は、見た目こそ姉さんにそっくりですが、我々とは些か異なる様に見受けられます。特にその内包する能力は、わたしと姉さんが力を合わせたそれに匹敵するのでは?』
……おい待て。ルビーやサファイア単体でも結構凄いのに、あれ一本で二人分だと?
『いやー、さすがわたしの妹というifの存在。わたしと貴女方との違いを見抜きましたか。
そう。わたしはクソジジイ…もとい創造主であるキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグによって創られた、あの世界における唯一のカレイドステッキです』
「唯一、ですって!?」
もう一本のルビーの説明に、驚きを隠せない凛さん。隣のルヴィアさんも驚愕している。
「確か、その大きな能力を制御出来るように、カレイドステッキは二本に分けられたって聞いたんだけど」
「ええ。故にカレイドの魔法少女は二人で一人だとも…」
能力を制御出来るように分けたって、原作版【カードキャプターさくら】の藤隆さんとエリオルくんか?
『なるほど。つまり貴女は、原典により近いわたしというわけですね?』
「……原典? どういうこと?」
美遊のその疑問に答えたのは、もう一本の…、この表現面倒くさいわね。よく見ると片側3枚づつ計6枚と思っていた羽根が、2枚が綺麗に重なって1枚に見えるので、計12枚。羽根の枚数がこちらのルビーより多いから、羽根ルビーとしておこう。
ともかく、羽根ルビーが美遊に答えた。
『わたしという存在が誕生した世界線、その中でも主幹となる世界線では、カレイドステッキはわたしという存在一本だけだったと思われます。つまり、ルビーというオリジナルが存在して、サファイアという妹が存在する世界が派生した、ということですね』
なるほど。並行世界も奥が深い。
「けどそれなら、二本のカレイドステッキが一本に収束した可能性もあるんじゃない?」
そう。逆もまた真なり。クロエが言ったことにも一理あるのだ。
『まあ、それも否定できませんが…。クソジジイは宝石剣製作の片手間にわたしを創った様なので、わざわざ二本創った世界線の方が派生世界と思われます。しかし片手間だなんて、まったく失礼な話ですよねー』
いや、片手間でこんなの創るなよ。
『それはそれは。しかし、サファイアちゃんがいなくて、寂しくはないんですか?』
『いやまあ、元々ひとりなのでそういうのはありませんねー。それに自分のコピー創ったり、アバターでマジカルアンバーちゃん創ったり、凛さんを操ってカレイドルビーとして暴れたりと、色々と愉しんでましたから』
「ちょっと、並行世界のわたしを操ったって…!」
羽根ルビーのあまりにもな発言に、凛さんが目くじらを立てる。
『いやー、だってわたし、【タイころ】及び【タイころアッパー】の黒幕でしたから』
「いや、言ってる意味がわかんないんだけど?」
あたしが言うと、やれやれといったジェスチャーで呆れられた。なんかむかつく。
『まあ、メタ発言はこれくらいにして、そろそろ本題に入りませんか? そちらのわたし』
『ああ、そうでしたー。つい、皆さんを揶揄うのに夢中になってしまいましたよ』
そんなのに夢中になるんぢゃない。あと、メタ発言って何だ、メタ発言て。
『では本題に入りますが、そちらの黒いイリヤさんが持っている
「虎聖杯…って、この魔法瓶の事?」
クロエは答えて、虎聖杯と呼ばれた魔法瓶をしげしげと見る。
『はい。それは本来、この世界には在らざる物。わたしが時空の旅をするにあたり(くすねて)使用していた物なのです。私単体では、魔力砲ひとつ撃てないただのステッキなので。……まあ、移動中にうっかり手放して、出現時間に大幅な誤差が出てしまいましたが』
ふみゅ。つまりそれで虎聖杯が、十数年も前の藤村邸の蔵の中に出現したってワケね。……ってそれよりも。
「……おい。今心の声が漏れてたぞ?」
あたしが突っ込むと、ルビーが『アハー』とか笑いながら、説明、というか補足を入れた。
『わたしはクソジジイから、本音を隠せないような機能を後付けされてるんですよー。それでもわたしは、軽い隠し事くらいは出来ますが、あちらのわたしは、基礎能力が高い上にサファイアちゃんという抑止力がない分、基本的に隠し事が出来ないように設定されてるみたいですねー』
ああ、だからルビーは普段から、あえて本音を隠さぬ言動をしてるのか。
「フッ。どんな理由があろうと、くすねた物を自分の物とのたまうなど、言語道断ですわ!」
「いや、あんたも集めたクラスカード、掠め取ってたじゃないの」
ルヴィアさんのツッコみに、凛さんが更にツッコむ。
『うーん。でも、わたしに持たせていた方が、わたしが愉しむために、ちょっと愉快でハチャメチャな騒動が起きる程度で済みますよ?』
「いや、それだけで充分迷惑なんですけどーーーッ!?」
イリヤが心の底から叫ぶ。いや、まあ、ルビーの一番の被害者だから仕方ないけど。
『えー。でも、わたしが黒幕やってた世界では、冬木の虎が「みんなの願いが叶いますように」なんて願ったせいで、危うく世界が崩壊するところだったんですよー? しかも殆どのルートで虎聖杯、破壊されてしまって、剪定事象となる世界線でようやくゲットしたんです』
「「「「藤村先生ーーーッ!?」」」」
「いや、その願いでどうして崩壊しかけたのかが気になるんだけど」
あたし達が叫ぶ中、凛さんが冷静にツッコミを入れる。もちろんあたしも気になるが、[稲葉リナちゃん]や今回のナーガ召喚の例があるから、一概に切って捨てられないのだ。
『ちょっとばかし融通の利かない願望器なので、願いのかけ方に注意が必要ですねー。
まあ、そんなわけなので、まだわたしが管理した方がマシだと思いますよー?』
ぐぬう。否定したいが、まだマシな気がするのがひじょーにムカつく。
「うーん、いっそのこと、魔術協会か聖堂教会に引き取ってもらうとか?」
「いや、クロエの言いたいことも分かるけど、それって新たに
そう注意を促すと、クロエだけでなくイリヤと美遊も難しい顔になる。
「それじゃあいっそ、壊してなかったことにするとか?」
「でもイリヤ。あっちのルビーが残ると、途轍もなく面倒なことになると思う」
『美遊さまが仰るとおりです。姉さんが二人がかりでイリヤさまを揶揄っているのを想像されれば、よくわかるかと』
『サファイアちゃん!? ひ、ヒドい!』
ぬうう…。一番良いのは魔法瓶改め虎聖杯を使い、羽根ルビーをこの世界から追っ払った後に処分することだが、[聖杯]と名が付くものを処分するのを、魔術師二人が黙って見過ごすとは到底思えない。
「……仕方がない。こちらからの条件も突きつけた上で、向こうの条件を呑もう」
「条件…? うーん、何言うかわかんないけど、リナに全部任せるよ」
そう言ってイリヤが、クロエ、美遊と視線を移すと、二人も黙って頷いた。
密談を終えたあたしは羽根ルビーに向き直る。
「わかったわ。虎聖杯はアンタに渡したげる」
「な!? ちょっとリナ!」
「何を仰っているの!?」
「シャーラップッ!!」
予想通り魔術師二人が喚くが、強い口調で制止する。
「こんなの、利己主義者だらけの魔術師の手に渡ったら、どんないさかいが起きるかわかったもんじゃないわ。聖堂教会だって、今一信用できないし」
その理由の大半は、切嗣さんから聞いた第四次聖杯戦争のせいだけど。
「「う…」」
魔術師二人は言い返す言葉もなく、口を噤んでしまう。
「てなわけでアンタに返すけど、こちらからも幾つか条件を出させてもらうわ」
『条件…。伺いましょう』
彼女なりに真面目な口調で返答する。
「まず、虎聖杯を受け取ったら即座にこの世界から撤退すること。さすがにこれ以上、アンタとは関わり合いたくないから」
『いいでしょう。面白愉快なことは、次の世界に持ち越すことにします』
うむ。中々物分かりが良い。
「次、アンタの趣味に、虎聖杯の力は使わないこと。誰かに使わせることも含めて、ね」
『うーん。それはちょっと残念ですが、確かに壊されでもしたら大変ですので、その条件も飲みましょう』
よし、いい心がけだ。
「最後に。相手によっては加減しなさいよ? 精神崩壊レベルの弄りは、冗談じゃ済まなくなるから」
これは先日の海での教訓である。海から帰った後、サファイアから詳しく聞いたけど、ハッキリ言ってシャレんなんなかった。
『……何だか思うところがあるようですね。わかりました。心に留めておきましょう。ま、普段は自重する気はありませんけどねー』
「……そこは諦めてる」
まあ、素直に条件を飲んでくれただけでも御の字だろう。
「それじゃあクロエ、羽根ルビーに虎聖杯を」
「羽根ルビーって…。あ、枚数が多いからか」
どうやらすぐに理解してくれた様で、あたしは嬉しいわよ!
「ちょ、ちょっと待ってよリナ! もしそっちのルビーが口先だけだったら…」
『大丈夫ですよ、イリヤさん。さっきも言いましたが、向こうのわたしは本音を隠せない…言い換えれば、嘘が吐けないということですから』
「あ」
ルビーに言われて、イリヤも納得したみたいだ。
「そーいうワケだから、改めてクロエ」
「ハァ、しょうがないわね」
そう愚痴りながらも虎聖杯を差し出すクロエ。
『いやー、ありがとうございます。それでは契約に従い失礼させていただきます。じゃあ虎聖杯さん。次の世界へ、レッツラゴーですよ!』
レッツラゴーって…。そんな想いを抱かせながら、羽根ルビーは虎聖杯と共に消えていった。
「はぁ、勿体ないわね」
「あれほどの神秘、そうそうありませんのに」
魔術師二人の愚痴に目を逸らす、イリクロと美遊だった。
あたし達が校門を出たところで。
「それにしても、リナはせっかくの誕生日に災難だったね?」
イリヤがそんな事を言った。しかし。
「いや、そうでもないわよ」
あたしはそう返す。
「?」
イリヤは…ううん、クロエと美遊も思案顔になっている。
……あたしは嬉しかったのだ。三人が、ナーガに向かって見得を切って、あたしを庇ってくれた事が。人を殺したことがあると知って、それでもあたしを受け入れてくれた事が。
「リナ、勿体ぶってないで教えなさいよ」
「それは、秘密です!」
クロエにはふざけた感じで答えたけど。……こんな事、恥ずかしくて言えるかっ!
「ほらっ、そんな事より帰った帰った!」
「ん? リナは?」
「あたしはちょっと、人に会う用事を思い出したから」
イリヤの疑問にはそう言って煙に巻く。とは言え、人に会うのは本当だが。
……なんか三人とも、疑いの眼差しを向けてくるのだが。あたしってそんなに信用が無いのだろうか。
「……なんか隠してるっぽいけど、まあいいや」
「リナの秘密主義は今に始まったわけじゃないしね」
イリクロの言に、美遊も頷いてる。まあ、あたし自身、否定する気は無いけど。
「……じゃあまたね、リナ」
「うん。またね」
……こうして三人と別れ、姿が見えなくなってから校内に引き返す。校舎に入り、目的の場所まで来て扉を開く。
「失礼します」
そしてそこには、やはりというか、目的の人物が緑茶を啜りながら待ち構えていた。……あれがおそらく、クロエが言ってたリンディ茶だろう。
「あら。夏休み中の保健室に何の用?」
保健の養護教諭、折手死亜華憐先生が言った。
「いえ。夏休み中とはいえ、
ニコリと笑い、あたしは言い返した。そう。あんなドンパチをしたのに、校内からは人の気配が一切しなかったのだ。校門は開いていたので、誰かがきっといるはずなのに。
「……ありがとうございました」
「……何の事?」
「さあ、何でしょうね」
それだけ言うと、あたしはクルリと踵を返し。
「失礼しました」
保健室を後にしたのだった。
わたし達がリナと別れてすぐのこと。道の正面から、わたしと同じくらいの年で、わたしと同じ様な長い銀髪の女の子が歩いてきた。
その子はわたし達の近くまで来たとき、急に歩みを止め。
「……すみませんが、貴女方は小学校から出て来られたのですか?」
突然声をかけてきた。この歳にしては、随分と大人っぽい口調だ。
「う、うん。そうだけど…?」
わたしが答えると、少し思案して。
「それでは校内で、何かおかしな事は起きませんでしたか?」
ドキリ!と心臓の鼓動が跳ね上がる。
「うぇえええっ!? べ、別に何も、なかった…デスヨ?」
自分でも、かなり挙動不審だってわかってる。でも、これを平然と返せるくらいなら、リナ達からあんなに揶揄われたりしないだろう。
「……」
女の子が不審な目でわたしを見てる。落ち着け、イリヤ。ポーカーフェイスよ!
「……そうですか。すみませんでした。突然お呼び止めして」
「い、いいえ」
そう言って女の子は、
「……あの子、何だったんだろ」
「さあ…。一般人、には思えないけど」
「でも、魔術師って感じでもないのよねー」
ミユとクロにもわからないんだ。
---少し後。あの子と深く関わる事になるけど、それは
今回のサブタイトル
神坂一「スレイヤーズすまっしゅ。」から
ようやく虎聖杯の事件は解決しました。
登場したもう一本のルビー(羽根ルビー)は、本人が言ってたとおり【タイころ】シリーズに出てた黒幕のルビー、そのゲームにならなかったルートで虎聖杯をゲットした可能性のルビーです。因みに、それぞれのルートの記憶は共有している設定です。
そして最後の方でイリヤ達と接触したのは、外伝シリーズの異界の天使の彼女です。虎聖杯で起きた時空の歪みを、調査しに来ました。
次回「ラットゥンガール」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!