Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
「はじめは百合だったんだ」
イリヤの部屋を訪ねた雀花が、そんな事を言い出した。当然、それを聞いたイリヤとクロエも訳がわからない。
「ノートにお前らをモデルにしたキャラで、ゆりんゆりんなSS書いてたらしいんだ」
「……はい?」
「だけど、しっくりいかなかったんだろうな。そこでキャラをTSさせたら、光の速さでソウルジェムが腐って堕天。以降は坂道を転げ落ちるように腐界にハマって、泥中首まで状態。
ああでも、今はまだ一般向けの比較的ソフトなやつだから、そこは安心して欲しいんだけど。
……ってBLのどこが一般向けだってーの! 自分で言っててウケるわ、デュハハハハ!!」
「ひとりで喋ってひとりで盛り上がらないでッ! 妖しい単語だらけで訳がわからないんですけどーーーッ!!」
雀花の謎のテンションにイリヤが突っ込んだ。
「なんなのよ、一体。誰の話?」
「美々だ」
クロエの問いに答える雀花。
「ミミ?」
「ミミがどうしたってのよ」
「腐女子になった」
二人の疑問に再び答える雀花。
「「婦女子?」」
「いや、腐ってる方の腐女子」
「「腐ってる方!?」」
「まあ、わたしも腐ってんだけどな」
「「!!?」」
雀花の言動に、二人の思考は混迷を極める。
「あーもう、口で言っても埒があかねぇ!現物を見せてやるからウチに来いッ!!」
こうして雀花の家に行くことになった二人。ルームウェアから外出着に着替え、家から出たその時。
「はえぇ? リナにミユ!?」
「あ。イリヤ、クロ。それに雀花…」
「何? なんか珍しい組み合わせね?」
美遊とリナに、家の前でバッタリと出くわした。
「何だ? そっちこそ珍しいカップリングじゃんか」
「ああ、いや。私用でルヴィアさんち使わせてもらってるから、たまに美遊の買い出しを手伝ってんのよ」
さすがに工房の事や、製作した魔術礼装の販売については口にしない。等価交換はしっかりと出来ているので、買い出しはちょっとしたお礼、ほんの気まぐれ程度でたまに、である。
「ふうん。……まあいいや。それよりお前達も、私の相談に乗りやがれ!」
そう言って雀花は、リナの手を掴み引っ張ろうとする。
「な、ちょ、どういうことかわかんないけど、荷物は置いていかせてっ!」
こうして、リナと美遊も巻き込まれるのだった。
というわけで、あたし達が強制的に連れて来られたのは雀花の家だった。その、雀花の部屋の中には。
「うわぁ、凄い数の本!」
「みんな、ウチに来るのは初めてだったよな。まあ、適当なとこに座ってよ」
そう。畳敷きのその部屋には、扉や押し入れ以外の全ての壁に本棚が設けられ、ぎっしりと本が並べられてるのだ。雀花が言うには八割は姉のもので、雀花の部屋を書庫代わりに使われてるそうだ。
雀花に差し出された座布団に各々が座ると、彼女はようやく説明を始めた。
「まあ、ぶっちゃけると、わたしは腐女子ってやつで…。いわゆるBL愛好家なんだ」
……あたしは以前から気づいていたけど、イリクロと美遊は知らなかった…というか、言葉の意味がわかってないみたいね。雀花も、「そこから説明しないと駄目か」とか言って説明用の、いわゆる[薄い本]を物色している。
と、その時。
ピンポーン♪
というチャイム音。
「まずい! 美々がもう来やがった!」
って、美々? なんかイリヤ達との受け答えからすると、美々も何か絡んでるっぽいけど。そんなこんなでよくわからないまま、あたし達は押し入れへと放り込まれてしまった。ううみゅ。四人だとさすがに狭い。
『お邪魔しまーす』
ふすま越しに聞こえる、美々の声。イリヤ達はふすまを少しだけ開き、そっと覗き見る。イリヤは「別に変わりないみたいだけど」と言っているが、先程の雀花の話の流れだと、まさか美々…。
あと、関係ないけど、美遊は「誰?」という眼差しを向けるのをやめたげて。というか、いい加減覚えてあげて。お願いぷりーず。
「あのね、貸してくれた本、凄くよかったよ!」
そう言って、美々がカバンから取り出した[薄い本]。どうやらあたしの予想は、悪い方向に当たってしまったようだ。
「最初は介悪朗さまが弱気で、これリバじゃないのって思ったけど、後半の
「お、おう。わかるわー…」
美々の圧に、あの雀花が引いている!? 因みに、言ってる意味は殆どわからん。
「何のこと?」
「多分BLってやつの事じゃない?」
「さっき渡された本を見れば、多分わかると思うけど」
イリクロと美遊がそんな会話をしている。んー、本当は止めた方がいいのかも知れないけど、理解させるにはそっちの方が手っ取り早いのも事実。まあ、雀花は初心者向けって言ってたし、美遊はわからんけどイリクロはマセてるから、多分大丈夫だろう。
クロエが転がってたライトで照らし、イリヤが本を開き、あたし達はそれを覗き込む。そこに描かれてたのは、男同士で組んず解れつしっぽりと、な場面であった。……というか、これのどこが初心者向けじゃああああッ!!
三人はしばし固まり、イリヤが本をパタンと閉じる。
「………………え?」
イリヤが訴えるような表情であたし達を見た。対してクロエは。
「これって平易な日本語で言うところの…。
ホモ漫画!?」
「正解よ」
クロエの肩に片手を置き、首を横に振ってあたしは答えた。
「そういえば聞いたことがあるわ。BL、ボーイズラブ。それは男同士の恋愛を描いた、美しくも儚い業の世界。美しいものを愛するが故、相対的に浮き彫りになる欲にまみれた醜い感情を、半ば諦めの境地で受け入れてるのか、BL愛好家は自らを『腐女子』と自虐的に名乗る。
なお、一般的には二次創作物を[やおい]と呼んで商業BLとは別物になるが、ここでは特に区別しないものとする」
クロエは何たらペディアみたいな説明を並べ立てた。
「クロッ!? 何でそんなに詳しいのよっ!!」
「ネットで見た」
「これだからネット世代はっ!」
やっぱりかい。というかイリヤ、アンタもネット世代でしょーが。……まあ、そんな事よりも。
「ちょっともの申すけど、[やおい]の本来の意味は『ヤマ無し、オチ無し、イミ無し』だかんね。BLにそういう二次創作が多かったから、いつしかBLの別名になっただけよ」
「って、何でリナまで詳しいのっ!?」
「ネットで【リリなの】調べて、二次創作物調べてたら色々と」
「リナまでネットの毒牙にッ!!」
毒牙だなんて、人聞きの悪い。
『ちょっと皆さん、声が少々大きくなってきてますよー?』
『これ以上声が大きくなると、美々さまに気づかれる可能性が高くなるかと思われます』
「あ。アンタらいたんだ」
イリヤ、美遊双方の髪の中から姿を覗かせるルビーとサファイアに、あたしは思わず呟いた。
『なんだか扱いがひどいですねー』
『わたしも姉さんも、理由が無い限りはマスターと共に行動してますので』
まあ、そりゃそうか。
『さあ、そんな事より観察を続けましょう』
そう言ったルビーは、イリヤの髪の中から飛び出して、ふすまの隙間から部屋を覗き見る。それに続いてあたし達も、美々の様子を覗った。
「……それでね! 介悪朗様の■■■が■■になったのは、■■■が■ったからで---」
「お、おう。わかるわー…」
……なんだろう。言葉の意味はよくわからんが、とにかく凄い圧だ。
「あの優等生だったミミが、教育的配慮が必要そうな単語をあんなに…」
「なんかもう、
イリヤが顔を真っ赤にしながら美々を憂い、クロエは半ば呆れてる。
……おや? そういえばさっきから、美遊が静かなんだけど?
気になって美遊を見ると、彼女は黙々と[薄い本]を読んでいた。うん。見なかったことにしよう。
「もう見てられない! ミミを止めなきゃ…!!」
「待ちなさい! 面白いからもうちょっとだけ…!!」
押し入れから飛び出そうとするイリヤと、押し留めようとするクロエ。それにあたしも巻き込まれ---。
どごぉっ!!
ふすまが外れ、美遊を除いたあたし達は部屋の中に転がり出る。あたしは俯せ、イリヤは仰向けに。クロエは丁度、あたし達を跨ぐ感じで馬乗り状態。
「……そ、その。そんなに汗まみれになって、押し入れの中で何…シてたの?」
「「「風評被害もいいとこだっ!!」」」
思考が完全にそっち方面の美々に、あたし達三人のツッコミが綺麗に被ったのだった。
「……てなわけで、常時バッドステータス状態な訳よ」
「ひどいよ、雀花ちゃん。イリヤちゃん達にバラすなんて…」
まあ、確かに非道いが、雀花の苦労もわからんではない。
その後の説明によると、BL小説を書く様になったのは最近のことらしい。だが雀花が[コミックマルシェ]、通称[コミマ]に出す同人誌に美々のBL小説をムリヤリ載せて、更にコスプレで売り子させたのが悪化させた原因らしい。取りあえず。
「ほぼ々々、お前のせいじゃあああああ!!」
すっぱああああああん!
「アパああ!」
雀花の頭を、スリッパで盛大に引っ叩いてやった。
「やめて! 雀花ちゃんをせめないで!」
おう!? 美々?
「小説は元々わたしの趣味だったの。雀花ちゃんはきっかけをくれただけ。ただ、わたしの魂がBLの形をしてただけなのよ」
うっわぁ。こいつァ重症だァ。
「男の人が二人でいるのとか見るだけで、ドキドキしちゃって…」
「……末期だわ」
「いやそれ、腐女子の基本スキル」
怖れるイリヤに突っ込む雀花。てかそれ、デフォなんかい。
「最近は士郎さんと一成さん、たまに慎二さんとの淫らな妄想が止まらなくてッ! もう、ノートが12冊分に!!」
「お兄ちゃんまで毒牙にーーーッ!?」
な、何たること!? まさかあの三人まで…って、海水浴の時の三人の会話を聞きゃ、仕方ないか。
「やってくれたわね。で、どっちが攻めなの?」
……をいこら、クロの字?
「士郎さんヘタレ攻めに一成さま押しかけ受け、慎二くんツンデレ受け以外に考えられないわ」
「何言ってるのミミ!?」
「なんだか既に、想像の埒外なんだけど」
イリヤは意味がわからず、あたしは考えるのに疲れてしまった。
「いい加減目を覚ましてー! 男の人同士でなんて---」
「おかしいからこその純愛なの! どうしてわかって---」
イリヤと美々が言い争っているが、今のあたしには止めるのも億劫である。……と。
「ッせぇんだよ! ガキ共があああ!!」
どがああああ!
入り口のふすまが蹴破られ登場したのは。
「おねぇ…」
「スズカの、お姉さん?」
そう。雀花の姉ちゃん。
栗原
いつぞやの海の家の様に、そんなテロップが見えた気がした。
ぞわり!
突如感じる悪寒。あたしは、この感覚を知っている…。
「何、この感じ…。底の無い
「この感じ、あたしの知ってる上位種に似てる…」
クロエとあたしのセリフに、雀花はニヤリと笑う。
「へぇ、クロやリナも感じ取れるのか、おねぇの腐のオーラを。おねぇはわたしとは違うステージに立つ、[貴腐人]と呼ばれる上位種だ!」
やっぱり! 存在としては雲泥の差があるけど、その立ち位置は
「ったくよぉ。BLドラマCDを部屋のスピーカーから流してクローゼットの中から聞く、擬似覗きプレイの邪魔しやがって!!」
なんかもう、想像どころか存在が埒外なんですけど!?
「おい美々」
「は、はい!?」
「友バレした気分はどうだ?」
うわ、それ聞いちゃうんだ?
「……す、凄く恥ずかしいです。……でも、BLが好きなのは、どうしようもなくって…」
美々…。
「ふーん? で、そっちのオトモダチはどうしたいの?」
「……やっぱり普通とは思えないし、やめてほしいっていうか…」
……イリヤ。
「なら簡単な話だ。お前ら、友達やめろ」
「「へ?」」
イリヤと美々が素っ頓狂な声を上げる。
「だってさぁ、趣味が理解できないからってやめさせるなんてさ。そんな友達、こっちから願い下げだろ?」
言われてイリヤが一瞬、表情を曇らせる。
「で、でも、どう考えたっておかしいし…」
「そんな事、わたし達だってわかってんだよ」
「え…」
火雀さん、……何で名前がわかるのかは謎だけど、彼女の予想外の発言に驚くイリヤ。火雀さんは更に話を続ける。
「確かにBLは恥ずかしい趣味だ。だから隠れてやってるんじゃん」
美々の場合、雀花がバラしたんだけどね。
「親にも友達にも言えない趣味だよ。でも、好きだって気持ちは止めようがないんだ。
隠し事も無く、全て理解し合うのが友達なのか? 秘め事にまで踏み入ってくるのが友情なのか?
ハッ! くだらねぇ! 友達ならそれくらい笑い飛ばせ! それが無理なら、せめて見て見ぬ振りくらいしろってんだ!!」
火雀さんの啖呵にみんなが一瞬沈黙し、次の瞬間には。
『あはははははっ!!』
当の火雀さんと美遊以外が大笑いをした。
「な、笑うとこじゃねーだろ!?」
「だって言ってること、滅茶苦茶じゃない」
「要は『そっとしといて』って事だろ?」
火雀さんが文句を言うと、クロエと雀花がそう切り返した。
「そ、それの何が悪いっ!」
恥ずかしがりながら言い返す火雀さん。そんな彼女にあたしは言った。
「別に悪くも何ともないですよ。言ってることは筋が通ってるし、あたしもイリヤの意見には思うところがあったから。……ま、最後に締まらなかったのはご愛嬌ですね」
「お、おう。ありがと…」
まさか肯定されるとは思ってなかったんだろう、火雀さんが照れながらお礼を言った。
「……ミミ、ごめんね。わたし、ミミの気持ちを無視して自分の意見を押しつけてた」
「イリヤちゃん…」
むみゅ。どうやらこっちも上手く収まったみたいね。
「まあ、そうは言っても隠したい趣味なんでしょ? だったらミミは、もう少し抑えた方がいいんじゃない?」
「そうそう。わたしら、まだ子供なんだからさ。美々にはもっとゆっくりBLと付き合ってほしいんだよ」
そこはクロエと雀花に同意かな。だからあたしも、魔法少女アニメ好きを極力抑えてるわけだし。いや、たまに暴走させるけど。
「わたし達はようやく下り始めたばかりだからな。この果てしなく遠い、BL坂をさ」
おいおい。どこの車田漫画だよ!
「あれ? そういえば男の人同士の恋愛が好きなら、BL趣味の人って彼氏いらないって思ったりするのかな?」
「おおう。ナイーブなとこ
あ。やっぱ繊細な部分なんだ、そこ。
「大丈夫だって。BLはあくまでファンタジー。現実の恋愛や結婚とは別モンだよ」
「喪女じゃなきゃね」
うむ。どうやらひと安心。さすがにBL女子の実状まではわからなかったから、そこら辺が聞けてよかったわ。
……余計なこと言った雀花が締め上げられてるけど、そこは見て見ぬフリだ。この手の暴力は、あたしもねーちゃんから受けてきた道だしね。
「よかった。それじゃあミミにもいつか、趣味を理解してくれる彼氏が…」
「そんな! わたし、彼氏さんなんていらないよぅ」
……ん? なんか嫌な予感が。
「……えーと、美々? まさかアンタ…」
「なんだよ。喪女一直線か?」
「その歳で独り身宣言? それって悲しすぎない?」
あたしのセリフに、火雀さんとクロエが割り込んできた。いや、この二人の言うとおりなら幾分マシなんだが…。しかし、あたしのその願いも虚しく。
「ううん。そうじゃなくてわたし…。
男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの」
爽やかな笑顔で美々は言った。……って、やっぱそっちかあああああいッ!!
あたし達は全員沈黙する。
「……あれ?」
美々が訝しがるなか、あたし達はアイコンタクトで意思疎通をし。
「ええっ! みんな、どうして逃げるのぉっ!?」
……あたし達が美々の趣味嗜好を受け入れるには、まだしばらく時間がかかりそうだ。
そんな中、[薄い本]を読み終えた美遊は、パタンと本を閉じ。
「大体理解した」
「「「
腐界に片足突っ込む美遊に、あたし達は叫ぶことしか出来なかった。
今回のサブタイトル
青山剛昌「名探偵コナン」サブタイトル「ラットゥンアップル」から
というわけで、原作+アニメ版の美々回とほぼ同じですね。
さて。前回の話と今回の話の間に、外伝【星を紡ぐ武器を求める者】の最終回(予定)が入ります。そして今回の話を挟んで番外編の【CCさくらクロス】に繋がります。
なので次回の話は、時間軸的には【さくらクロス】の後になります。
次回「観布子」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!