Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ   作:猿野ただすみ

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今回の話の前に番外編【カードキャプターさくら】クロスが入ります。


観布子

≪リナside≫

さくらちゃん達を元の世界へ送り返した翌々日。あたしは今、電車に揺られて他市…観布子(みふね)へと向かっている。

その理由は昨日、アイリさんからお使いを頼まれたからだ。その内容を聞いたあたしは驚きと共に、確かにあたしが出向かなければならないと思い引き受けることにしたのだった。

 

 

 

 

 

指定された駅へと着き、列車を降りる。駅の改札を出たあたしは、目的の場所の近くを通る路線バスへと乗り込んだ。

席に座り出発を待つ間、あたしは一枚のメモを取り出し、何度も確認した内容を読み返してため息を吐く。メモには目的地までの経路が記されているのだが、問題は最後の項目なのだ。

 

---目的地には人除けの結界が張られてるから、自力で探してね♡

 

……うん。途中までは丁寧に書かれていて筆跡も違うのが見てとれるので、おそらくセラさんが、切嗣さんか舞弥さんから伝えられたことをメモに書き起こしていたんだと思う。だが最後は、明らかにアイリさんの手によって書かれたものだろう。そもそも、以前とは居住地が違うとはいえここまでの範囲に絞れたのだから、魔術師なら所在を特定できてもおかしくないだろうに。

……と、心の中で何度目かの愚痴を吐いてから、不意に気がついた。

そういえばこれから会いに行く人物、今は解除されてるとはいえ元々は…。なるほど。だからなるべく情報が漏れないように配慮したのか。そしてあたしなら、自力で見つけられるだろうとも。

いつの間にか走り出したバスの窓から外の風景を眺め、諦めと共にまたひとつ、深いため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

バスを降りたあたしは、辺りをぐるりと見渡した。ぱっと見、特に怪しいものはない。だがそんな事を言ったら、イリヤの家などは極々普通の一軒家だ。つまり、必ずしも怪しい建物であるとは限らないのである。同じくごく普通の建物か、あるいは普通でなくても違和感のない建物か…。

例えばそう。ここから見える、少し離れたところに建っている、廃墟になったと思わしきビルとか。

アイリさん…いや、切嗣さんが、人除けの結界以外の情報を与えずに、ただこの場所を指定したとは考えにくい。なら、あのビルは充分に怪しいと言えるだろう。

あたしはそのビルを、取りあえずの目標に据えて歩き出した。

そしてしばらくの後。気がつけば、目標にしていたはずのビルから遠ざかっていることに気がついた。そもそもいつの間にか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

……どうやら一発で当たりを引き当てたみたいだ。だが、凛さん達が張るような簡易な人除けとは違い、かなり強力なものであるらしい。

しかし、()()()()()()()素人なあたしに、これに対抗する術が思い当たらない。結界破りが出来るような術もあたしの場合、その境界を見極められなければ効果が発揮できないものばかり。精霊映視呪(マナ・スキャニング)が使えればその境界も見極められるだろうけど、先日の[風]のカード回収の際に使ったばかりなので、さすがにまだ使うのは躊躇われる。

……ええい、面倒くさい! こうなったら!

あたしは路地裏へと入り込み、人の気配がないことを確認した上で呪文を唱える。

 

翔封界(レイ・ウィング)!」

 

[力あることば]と共に風の結界を纏い、上空へと舞い上がる。充分な高度をとったあたしは、廃ビルの屋上へと急降下した。

この手の結界は対象を弾くものではなく、対象の認識や思考など、意識下に作用するものである。なら目標を見失う前に、効果の内側まで強行突破を試みるまでだ。

事実、ある瞬間に意識の揺らぎはあったものの、それは一瞬で過ぎ去り、あたしは廃ビルの屋上に辿り着く。

風の結界を解き、屋上に足をついたその時。屋上の扉が開き、眼鏡をかけた、赤みがかった濃い茶髪の女性と、対丈の着物に革ジャンというミスマッチな着こなしの、黒髪の女性が現れた。

 

「ふむ。中々に面白い方法で結界を超えたものだな。それに、触媒も無しに飛行を実現させるとは」

 

眼鏡の女性がそう声をかけてきた。おそらく彼女がアイリさんから聞いた、そして切嗣さんが話していた、始まらなかった聖杯戦争でアイリさん達を預かっていたという人物だろう。

 

「初めまして。あたしはアイリスフィール・フォン・アインツベルンの名代として参りました、稲葉リナといいます。貴女が(くだん)の人形師ですね?」

「ああ、話は聞いているよ。推察のとおり、わたしが人形師の蒼崎橙子だ」

 

人形師…蒼崎橙子さんの話を聞き、次にあたしは隣に立つ女性へと視線を移した。

 

「……オレは式だ」

 

ぶっきらぼうに言う彼女。どうやら人付き合いは、あまり得意ではないらしい。……まあ、あたしとしては、彼女が関心を示してくれないのは非常に有難いのだが。何しろ彼女、抑えてはいるようだが、殺気を辺り一帯に振りまいているのだ。まるで前世でガウリイと戦った、某人斬りマニアを彷彿とさせて、出来ればお近づきになりたくないのである。

 

「……どうやら彼女の資質に気がついたみたいだね」

「ええ、まあ…」

 

言葉を濁し、あたしは頷いた。式さんは鼻を鳴らしそっぽを向く。

 

「まあ、本質はウサギだが」

「誰がウサギだ!」

 

橙子さんのセリフに、いきり立つ式さん。何だかんだで仲が良さそうだ。

 

「まあ、こんな所で立ち話もなんだ。ついてきなさい」

「おい、無視するな!」

 

……なるほど。構ってくれないとそれはそれで嫌なのか。確かに俗説で言うウサギっぽいかも。

 

 

 

 

 

橙子さんに通されたオフィスは。……まあ、オフィスではある。内装も廃墟のビルのままではあるが。

ともかくもあたしは腰を落ち着ける。

 

「さて、わたしの事は聞いているかな?」

「はい」

 

彼女の質問を肯定して、話を続ける。

 

「蒼崎橙子。[冠位]の称号を持つ魔術師で、本物の肉体と遜色のない…いや、それ以上の人形を造れる人形師。それ故に封印指定を受けたものの、数年前にそれも解除された。……あたしは魔術協会のゴタゴタなんて知らないし、知ろうとも思わないけど。

まあそんな訳で、ここにデザイン事務所という名目の[伽藍の堂]を開いている。……で、いいんですよね?」

「ああ、そのとおり」

 

橙子さんは軽く頷く。

 

「それで橙子さんは、あたしのことをどれだけご存知なんでしょうか?」

「そうだな…」

 

あたしが尋ねると、彼女は考える素振り…おそらくはただのポーズだろう…をして答えた。

 

「異世界からの転生者で、我々魔術師とは系統の違う魔術を扱う魔道士…と説明を受けたな」

「異世界の転生者?」

 

橙子さんの説明に式さんも目を丸くする。まあ、突拍子もないことを言ってるのだから、当然っちゃ当然だが。しかし。

 

「アイリさん、転生の事まで説明したんですか?」

 

あたしとしては、そこのところが驚きである。

 

「……まあ、依頼主の秘密は守らせてもらうよ」

「厳密にはあたしが依頼主って訳じゃないけど。でも、ま、そう願います」

 

さすがにこんなこと協会側に知れ渡ったら、封印指定を受けかねない。ハッキリ言って宝石翁とⅡ世が公にしないでいてくれるのは、マジで助かってるのだ。

 

「……ではそろそろ、商談といこうか」

「はい」

 

橙子さんの言葉に、あたしは気持ちを切り替える。

 

「依頼は、わたしに人形の素体を造ってもらいたい、ということだったな?」

「はい。その人物用に調整された、最上級の物を、ということです」

「ふむ。基本データは10年前の、イリヤスフィールのものを元に、ということだが…」

「そうです。アイリさんからは対象の毛髪と、写真を預かってます」

 

そう言ってバックパックから、ジッパー付きの小さなビニール袋に入ったクロエの髪の毛と、切嗣さん以外の家族で写った写真のクロエに印をしたものを橙子さんに手渡した。

 

「ふうん…。それで。わたしへの報酬も聞いているんだろう?」

「はい。あたしの扱う、異世界の魔術の知識ですね?」

 

そう。故にあたしが出向く必要があったのだ。

 

「とはいえ」

「……ん?」

「向こうの精霊魔術だと、こちらの魔術に落とし込むのも簡単であまり真新しいものじゃないと思います。かといって魔族…こちらの悪魔に似た存在の力を借りた黒魔術は、こちらの魔術師には使えないと思うし…」

「なるほど」

 

橙子さんには、あたしの言いたいことが伝わったようだ。要するに、あたしが教えられるものは対価としては弱いということに。

 

「それで、どうするんだ?」

 

橙子さんの問いかけに、あたしはニコリと笑う。

 

「なので、こういうものを用意しました」

 

そう言って、バックパックに仕舞っていたあるものを取り出し、テーブルの上に乗せた。

 

「……スクロール?」

「はい。開いて確認してください」

 

あたしが促すと、怖れた様子もなくスクロールを開いた。

 

「…………なっ、これは!?」

 

スクロールに書かれた内容を読み進め、驚愕する橙子さん。それはそうだろう。何しろ内容は。

 

「あたしがいた世界に伝わる[金色の魔王(ロード・オブ・ナイトメア)]についての、あたしが知りうる限り最も正確な知識です。その内容に目を通した橙子さんになら、これが何を意味するかおわかりですよね?」

「ああ。これはこちらの世界における、[根源の渦]について書かれたものだ。もちろんこちらの[根源]と全く同じものだとは限らないが、それでも[根源]に至る足掛かりにはなり得る」

 

そう。並行世界の凛さんとルヴィアさんが[写本の写本]の知識で、不完全とはいえ世界の創成に成功しているのだ。[世界黙示録(オリジナル)]から直接得た知識で修正されたそれは、現段階で最も[混沌の海]を正しく捉えているはず。ならばより[根源]へと近づくための足掛かりとなるはずである。

……とはいえ、[冥王(ヘルマスター)]ですら認識に齟齬があったのだ。これが全て正しいとは、さすがに言えやしない。だからこそ、「あたしが知りうる限り最も正確な知識」なのだが。

 

「……これなら確かに、報酬として申し分ないな」

「それは良かった。……ですが、いくつか条件をつけさせてください」

「条件?」

 

聞き返す橙子さんに、あたしは頷き答える。

 

「その知識をしっかりと頭に叩き込んだ後は、そのスクロールを完全に消し去ること。

そしてその内容は誰にも伝えず、自分ひとりの研究に利用すること。

そして最後に、攻撃用の魔術への利用をしないこと。これに関しては、暴走させたら世界そのものが消滅してしまうので」

 

前世のあたしが扱った最強の…もしくは最凶の攻撃呪文、[重破斬(ギガ・スレイブ)]。アレの制御に失敗した場合、術者を核として[金色の魔王(ロード・オブ・ナイトメア)]を召喚するハイリスクなものだ。しかも、あたしがスクロールに書き起こしたものはかなり正確な知識である。ハッキリ言って渡す直前まで、内心では葛藤していたくらいだ。

 

「……もしわたしが断ったら?」

「その時はそのスクロールを燃やして、商談そのものを破棄します」

「だがそうなると、この少女は躰を得られないことになるが」

「舐めないでいただけます?」

 

言って彼女を見据える。

 

()()()の技術を使えば、イリヤと同等の肉体を再現出せることも可能よ。あたしがその技術を再現させるには、時間と手間、そして費用がかかるわ。だから手っ取り早く、アイリさんの話に乗って貴女のところへ来たのよ」

 

そう。こちらで言うクローン技術と酷似した魔法技術、コピー・ホムンクルス。あたしは専門外だったけど、それでも何度か、その技術に触れる機会はあった。だからこそ、時間はかかってもその技術を再現させる自身はある。いや、この話が無かったことになれば、クロエのためにも必ず再現してみせる!

 

「……ふっ。いや、質の悪い質問だったな。わかったよ。その条件を飲もう。……いや、飲まざるを得ないか。確かに、これを公開するにはリスクが高すぎる。

攻撃呪文についても、魔術師の目的は根源を呼び出す事ではなく、根源へ至ることだからな。至る前に世界が消滅しては意味がない」

 

……アレに乗っ取られるって事は、ある意味根源に至ってるわけだけど…。うん。黙っとこ。

それはともかく。

 

「条件を飲んでもらえるのなら、こちらもお渡しします」

 

そう言ってあたしは、一冊のメモ帳を取り出して、橙子さんに手渡した。

 

「これは?」

「向こうの世界の、魔術の基礎知識を簡単にまとめたものです。こちらで言う魔術協会に当たる、魔道士協会で教わることを記しました。元々の対価が、異世界の魔術の知識ですから」

「そういう事か。しかしそれだと、対価がかなり飽和してるが」

 

ふむ。さすがに[金色の魔王(ロード・オブ・ナイトメア)]の知識に、それを制御する近道とも言える向こうの世界の知識、特に[混沌の言語(カオスワーズ)]についても触れた内容のそれを渡したのだ。確かに超過気味かもしんない。

 

「……がめついお前にしては、随分と素直だな?」

「否定はしないが、さすがに超過が過ぎる。等価交換の範囲を大きく逸脱しているから、さすがにな」

 

……自分が思ってたよりも、魔術的価値があったみたいだ。

 

「ええと、それならその分は貸しということにしといてください。いつかあたしが別の依頼に来たときに、対価として釣り合うなら受けてもらう、ということで」

「……まあ、いいだろう」

 

橙子さんは少しだけ考え込んでから頷いた。

 

 

 

 

 

「それではお願いします」

 

来たときとは違い、出入り口から外に出たあたしは振り返り、橙子さんにお辞儀をする。

 

「ああ。極上のものを用意しよう」

 

橙子さんは煙草を燻らせながら答えた。

 

「しかし慌ただしいな。1時間も待たずに蜻蛉返りか」

「まあ、冬木と観布子は、少し遠いですから」

 

式さんに答えて、あたしは軽くため息を吐く。費用は向こう(アインツベルン)持ちとはいえ、億劫であるのには変わりがない。大事な友人のためだから、文句こそ言わないけど。

 

「それでは失礼します」

 

それに、文句を言ってもいられない。今朝、出かける前にエーデルフェルト邸へ寄ったときに言われたのだ。例の工事は終わり、安全の確認が出来次第、最終会議を開くと。

そう。最後のカード回収(戦い)は目前に迫っているのだ。結果的にとは言え今回の件は、あたしが決意を固めるのに一役買ってくれた。必ず、ひとりも欠けずに、この日常に戻って来るって。

そして、もうひとつ誓う。絶対にフラグになんかさせないからね! ……と。




今回のサブタイトル
TYPEーMOON「空の境界」舞台となる土地から

因みに最初は「伽藍の堂」としようかと思いましたが、これだと型月ファンにはさすがにバレバレなので、こちらにしました。

補足
人斬りマニア……【スレイヤーズ】2巻(アトラスの魔道士)に登場したロッドのこと。さすがに今のリナは、名前までは覚えてなかった模様。

次回「明日への勇気」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!
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