Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ   作:猿野ただすみ

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don't be discouraged

≪リナside≫

「何? 何の音!?」

「これは一体…!?」

 

凛さんとルヴィアさんの言葉に、あたしは出来るだけ冷静に答える。

 

「そんなの、あの英霊が空間の隔たりを破ろうとしてるに決まってんじゃない」

『そんな、まさか…』

 

サファイアがあり得ないとばかりに言うが。

 

「それじゃあアンタらがやってることは何?」

『……!? そ、それは…』

 

言葉を詰まらせるサファイア。そう。彼女達はこの世界と向こうの世界、実数域と虚数域を行き来しているのだ。

 

「それに条件付きとはいえ、あたしだって前世では似た事が出来たし」

 

実数域と虚数域の境界面が物理的に作用していればだけど、と心の中で付け足す。あたしの方法はあくまで、境界面が神滅斬(ラグナ・ブレード)で切り裂ける状態ならなのだ。

 

「えっと、それってつまり…?」

 

イリヤが尋ねるが、答えがわからないってより、そうであってほしくないのが大きいだろう。あたしだって、出来れば間違っててほしいが、それはあまりにも希望的観測に過ぎる。

 

()()が追いかけてきたって事」

 

実際ひび割れる音は更に増え、大きくもなっている。

 

『ええええええっ!?』

 

あたし以外の全員が声を上げた。バゼットさんがここまで慌てるのも珍しいが、それだけのことなのだ。

 

「ちょっと、のんきに構えてる場合じゃないわよ!」

「急いで撤退を…!」

 

凛さんとルヴィアさんが言うも、時既に遅く。

 

バギャアアアアアン

 

空間の隔たりははぜ飛び、吹き荒ぶ風と共に、かの英霊が姿を現した。あまりの出来事にみんな身動きがとれない中、次の行動に移せたのは。

 

霊縛符(ラファス・シード)!!」

 

行動封じの術を発動したあたしと。

 

Zeichen(サイン)---」

 

時をほぼ同じくして、壁に仕掛けられた術を解放したルヴィアさんだ。途端に地下空間が崩落し始める。

 

「逃げますわよ! 生き埋めになるのは(アイツ)ひとりで充分ですわ!!」

「美遊!」

 

ルヴィアさんが促す中、あたしはサファイアを美遊に返し、二重夢幻召喚(デュアル・インストール)も解く。

あたしは翔封界(レイウイング)で、イリヤと転身した美遊はそれぞれに凛さんとルヴィアさんを連れて()び立ち、クロエとバゼットさんは徒歩である。……うん。なんかごめん。

……しかし。イリヤ達が何か会話してるみたいなんだけど、翔封界の風の結界と風を切る音が重なって、何を言ってるかまるでわからない。くそっ、こんな事なら遠話球(テレフォン・オーブ)、発動しとけばよかった。

そんな事を思っていると。

 

どごおおおおおお…!!!

 

結界を纏っていてもなお聞こえるほどの爆音を響かせて、ステルス戦闘機に飾りをゴテゴテと付けた様な姿の、大きな飛行物体が飛び上がっていた。ってか、いつの間にかSF展開!?

慌ててあたしは、限界まで飛行速度を上げる。もちろんイリヤ達も同様だ。

あたし達が縦穴から飛び出した直後、謎の飛行物体も物凄い勢いで飛び出してくる。なんだか、【ルパン VS(たい) 複製人間(クローン)】でロケットから逃げるルパンを思い出したじゃない!

 

「……なんて事。敵が市街地(そと)に出てしまった…!」

 

……って、そうだ。くだらないツッコミしてる場合じゃない。凛さんが言うとおり、敵が野に放たれたんだ。このままだと街にも被害が…。

 

「市街地からなるべく遠ざけたいところですが、空中にいる限り、こちらからは手出しが出来ない」

「わたしとイリヤなら飛べます」

『美遊さま、ですが…!』

「危険すぎるわ! 近付いても勝算は無いのよ!」

「宝具の投射を誘発するだけでしょうね」

「なら、海上におびき寄せるか、地面に叩き落として…」

「仮にそれが出来たとして、その後はどうするのよ。こっちの全力が一切効かなかったってのに!」

「で、でも、このまま放っといたら…」

 

うん。見事なくらいまとまらない。一通りみんなの意見を聞いて考えをまとめようと思ったけど、結局は相手とのスペックの差がネックになってしまう。さて、どうしたものか…。

 

「豚が鳴いているわ」

 

突然、そんな声がかけられた。

 

「名家の魔術師二人と執行者が、雁首揃えてピイピイと…。不様なものね」

「あ、性格破綻者」

「「って、リナ!?」」

 

あたしの呟きに突っ込むイリヤと美遊。

 

「でも、否定は出来ないんじゃない?」

「「そうだけどっ!」」

 

肯定するクロエに、二人は更に突っ込みを入れた。というか、イリヤと美遊もやっぱそう思ってんじゃない。

 

「で、何なの? この無礼な女は」

「彼女は穂群原小(ホムショー)の養護教諭…って事になってるけど、多分バゼットさんの呪いを解いた人だと思う」

「えっ?」

 

凛さんの疑問に答えると、イリヤが驚き声を上げ、その視線をバゼットさんに移す。

 

「ええ。彼女はカレン・オルテンシア。聖堂教会の所属で、此度のカード回収作業のバックアップ兼監視者です」

「監視者!? 聖堂教会が絡んでるなんて聞いてませんわ!?」

「保健の先生ってのは嘘だったの!?」

 

ルヴィアさんが喚く中、イリヤが純粋な…悪く言えばピントのずれた事を聞く。

 

「嘘というか、……趣味? 怪我をした子供を間近で見るのが楽しくって」

「……ホントにいい性格してるわ」

「何を今更」

 

華憐先生、もといカレンさんの答えにクロエが小さく呟き、あたしが突っ込む。

 

「それからルヴィアさん。バゼットさんが『シスターに祓ってもらった』って言った段階で、聖堂教会が関わってる可能性は視野に入れるべきじゃないかしら?」

「う、それは、確かに…」

 

あたしの意見に、ルヴィアさんは口篭もる。

 

「……で? 監視役がわざわざ表に出てきたって事は、何かアドバイスでもしてくれるの? 聖職者だからって『神に祈りなさい』とか言い出さないわよね?」

 

そう問いかけると、カレンさんは小さく溜息を吐き口を開いた。

 

「そうね。迷える子豚があまりにも無様だったから」

「なにおうっ!」

 

凛さんがいきり立つが、ここは当然無視。

 

(こたえ)を見つけるプロセスなんて決まっています。『観察』し、『思考』し、『行動』なさい。貴女方に出来る事なんて、それくらいでしょう?」

 

……確かに、そのとおりである。あたしもそのつもりではいたけど、どうやらあまりにもの事態に、自分が思っている以上に動転していたようだ。

 

「……街に、灯りがありません」

「あ、言われてみれば。いくら深夜過ぎだからって、街灯以外の街の灯りが見えないのはおかしいわね」

 

美遊に言われて、遅まきながらあたしも意見を述べる。

 

「正解。1キロ四方に人除けと誘眠の結界を張っているわ」

「なるほど。そーいやナーガを校庭に誘導したときも、なんか対処してたもんね」

「えっ、そうだったの!?」

 

どうやらイリヤは、ようやくあの時の状況を知ったようだ。

 

「さあ、これで人目を気にする必要はなくなりました。では、次に見るべきは? はい、そこの日焼け少女」

 

急に先生っぽいことを言って、クロエを指名するカレンさん。

 

「日焼けじゃないわよ!

ったく、あからさまな誘導が癪に障るわね。決まってるでしょ。アイツをどうするかよ」

「でも浮いてるだけで、何もしてこないよね?」

 

うむっ。確かに。

 

「少なくとも、無差別攻撃をする気はない、と?」

 

ルヴィアさんの推測にも一理あるわね。……をや?

 

「それって、あの英霊には明確な意思があるって事?」

 

あたしの疑問に、みんながハッとする。そう。今までの黒化英霊には僅かな意思の残渣が伴うことはあったが、明確な思考と呼ぶべき程の意思は感じられなかったからだ。……一番強く感じられたのがガウリイだったのは、皮肉と言えるけど。

 

「何か、相手の意思を推定できる情報は?」

 

相手の、意思を。……それってやっぱり。

 

「セイハイ…と発声していました」

 

あたしが言いあぐねている間にバゼットさんが、その単語を口にした。

 

「なんだ。ほとんど答えは出ているじゃありませんか」

 

そのセリフが切っ掛けという訳ではないだろうが、上空の船?が、狙いを定めたかのように移動を始める。

 

「一体何処へ…」

「[セイハイ]と言ったのでしょう? ならば決まっているじゃありませんか。[聖杯]の眠る地。円蔵山のはらわた、地下大空洞です」

 

地下、大空洞!? それってイリヤ達が地脈の正常化をしたり、その際にクロエが分離したっていう…。

そうか。イリヤの魔力とクラスカード、それに逆流した地脈のエネルギーだけじゃなかったんだ。切嗣さんが言ってたじゃない、聖杯降臨の候補地だったって。そんな場所だったから、イリヤの小聖杯の力に反応して、クロエの願いがあんな形で叶えられたんだ。

しかし、そんな物が眠っているって事は…。それに…。

 

「……ったく。また戦争でも引き起こす気?」

 

思わずあたしは呟いた。

 

「……このままじゃ敵を見失う! 追います!!」

「あ…」

 

どんっ!

 

あたしが引き止める間もなく、美遊は勢いよく跳び上がっていく。

 

「わたしも!」

「イリヤ!? ……く、追いかけるだけよ! わたし達が追い着くまで交戦はしない事!」

 

飛び立つイリヤに凛さんが注意を促す。が、イリヤの事だから、状況によっては自己判断で手を出しそうだ。まあ、基本的に言いつけは守る子だから、むしろその時はイリヤの判断を信じるけど。

 

「……あ、華憐先生。色々聞きたいことがあるけど」

 

むゆ?

 

「ちょっと、時間がないのよ!」

「わかってる! だからひとつだけ…!」

 

凛さんの叱咤に、イリヤはそれでも尋ねた。

 

「スカート、掃き忘れてませんか!?」

 

って、そんな事かああああいっ!? いや、気になってたけどっ!

 

「これは、ファッションです」

 

言い切ったッ!? でも、ちょっと照れてるっ!

 

「そんな事言ってる場合かああああッ!!」

 

ブチ切れた凛さんがガンドを連発して、イリヤを追い立てる。ま、こればっかりは仕方あるまい。

 

「……で? リナは追いかけないの?」

「そうですわね。貴女の事だから、一緒に追いかけると思ったのだけれど?」

 

……凛さんとルヴィアさんがそんな事を言う。……いや、確かに二人が言うとおり、本当なら追いかけて行きたいところなのだが。

 

「……[聖杯]の話題も出てきたし、さすがにもう黙ってるわけにもいかなくなったからね。[聖杯戦争]と、推測だけどその先のことを話してあげるわ」

 

 

 

 

 

円蔵山に向かうリムジンの中、あたしはアイリさん、そして切嗣さんとロードが語ってくれた話を、なるべく手短に話す。イリヤの小聖杯としての能力は名前を伏せ、アイリさんがみんなに語ったのと同じく、『ある程度の願いを叶える力』程度に留め、魔力タンクの副産物程度の認識になるように思考誘導した。まあ、この二人にどれほど通用するかはわからないけど、一応は納得した様だ。

あ、それと時臣さんや雁夜さんについては、関係者程度に留め、詳しい話は省いている。これに関しては、詳しい話は切嗣さんとロードがいずれ語ると言っていたので、そのための配慮である。

 

「まさか、その様なことが行われていたとは」

「……ねえ、リナ。お父様はそれが原因で亡くなったの?」

 

凛さんが尋ねる。もちろんあたしに教える気はないが。

 

「さあ、ね。それはあたしが答えるべき事じゃないわ。いずれ、イリヤのお父さんやロードが話してくれるでしょ。……それに、今は関係ない話だし」

「……そのとおりね。ごめん、心の贅肉だったわ」

 

浮かべていた憂いの色は消し飛び、凛さんは表情を引き締めた。

 

「それで? 聖杯戦争についてはわたしも知識としてはあるけど、ママの話だとクラスカードは無関係だったわ」

 

クロエの質問にあたしは頷く。

 

「ええ。イリヤのお父さんやロードが最初に疑ったのは、冬木の聖杯戦争を模倣した亜種聖杯戦争だったわ。けど、召喚形態が違うとはいえ、模倣程度で七騎の英霊を召喚できるとは思えない。そこでロードはこう考えたの。カードは鏡面界の、その先から来たのではないかと」

「その先…って、まさか!?」

「それは既に、魔法の域でしてよ!」

 

凛さんとルヴィアさんが驚愕する。それはそうだろう。暗に、カードが並行世界から来たと言っているのだから。

 

「……でも、それなら色々と納得は出来るわね。そう。色々と」

 

クロエが愁いを帯びた表情をしているのは、おそらく彼女を思ってのことだろう。

その直後だった。円蔵山の中腹辺りから閃光が放たれたのは。

 

 

 

 

 

リムジンが柳洞寺へ続く長い階段の近くで停車する。あたしは慌てて飛び出し。

 

「ごめん、先に行かせてもらうわ!」

 

そう断ってから風を纏い、大空洞へと向かって飛び立った。

しばらく進んでいくと…って、なんじゃこりゃあああ!

なんかよーわからん、黒い泥の巨大な渦…いや、ドームが形成されている。

と、視界の片隅に、魔力弾の軌跡が映り込んだ。よし、イリヤ達発見! そう思ってそちらに向かっていくと。……は、裸の男の子?

そこでイリヤと美遊がこちらに気づき、あたしと視線が合う。あたしは着地して風の結界を解き、二人に尋ねた。

 

「このストリーキングな男の子は誰?」

 

しかし、それに答えたのは二人のどちらかではなく。

 

「ストリーキングはひどいなぁ。丁度今から服を着るところだよ」

 

そう言って金髪男子が、何もない空間に手を突っ込んだ。

 

「……なるほど? 理由はわからんけど、コイツは2枚目のアーチャーの英霊って事ね?」

 

あの時、無数の宝具を取り出したのと同じことをこの男の子はしているのだと、あたしは判断したのだ。

 

「ふうん。中々の洞察力だね」

「そりゃどうも」

 

いつの間にか服を纏った男の子に、あたしは軽く応える。と、その時。

 

ボウッ

 

何かの力が起動したような感覚。そして。

 

「な、何? カードが脈打ってる!?」

 

()()()()()()()()が脈打ち始める。

 

「へえ。君、カード持ってたんだ。他のカードも集まってきてるみたいだし、やっぱり惹かれ合うものなのかな。ねえ、()()()()()?」

「!! 記憶が、あるの…?」

「そこらの英霊とは違うさ。僕の半身はどうしても聖杯が欲しいみたいだ。聖杯戦争の続きをするにも、君がいなくちゃ始まらない」

「……やめて」

「なにせ君は」

「これ以上口を---!?」

螺光衝霊弾(フェルザレード)!!」

 

今にも飛び出して行きそうな美遊の前に立ち、術を発動させる。しかしそれは、彼の前に張られた障壁によって防がれてしまう。

 

「驚いた。それは、()()()()()()()()世界の術だね?」

 

!? コイツ、あたしのいた世界を知ってる!?

 

「まあね。さすが目端が利くようね、()()()()()()

 

それでもあたしは冷静を装って返し、ついでに彼の正体を憶測九割で言ってみた。

世界中に、数多の財宝を集めた人物の伝承は複数あるが、有名所と言えばウルクの王ギルガメッシュに秦の始皇帝、それにシンドバッド王もこれに含まれるかも知れない。

しかし、取り出された宝具のどれもが、途轍もない神秘を纏っていた。ならば神秘の薄れた時代の可能性は、0とは言わないがかなり低いだろう。故に、ウルクの王と当たりをつけたのだが。

 

「……君、面白いね」

 

彼はニヤリと笑う。どうやら当たりを引いたみたいだ。

 

「でも、どうして君は僕の邪魔をするんだい?」

 

単純にして、奥の深い質問。

 

「そうね。人が人を助ける理由に論理的な思考は存在しないでしょう?」

「それ、工藤新一のセリフ…」

 

うるさいイリヤ。余計なツッコミはいらん。……ああ、場の空気がっ!

 

「……とまあ、冗談はさておき。あたしが持つセイバーのカードの英霊、ガウリイに言われたのよ。()()()()()()()()…ってね」

「リナ!?」

 

美遊が驚愕しあたしを見る。

 

「……でも、それは二番目の理由。あたしには、美遊が()()()()()()()()()()()()なんて関係ないわ。ただ、大切な親友だから守りたい。それだけの事よ」

「……親友、か。それなら少しはわかるかな。僕の友は守ってあげるほど弱くはなかったけど」

 

それは、伝承にあるエルキドゥの事か。

 

「だから、抵抗してくれて構わないよ。君達が何処まで抗えるかはわからないけどね」

 

尊大な態度で告げる彼…、ギルガメッシュ。とはいえ確かに、その態度に違わない強大な敵である。

 

「リナ。あなたは、……!?」

 

何か言おうとする美遊の頭に、あたしは右手を置く。

 

「美遊。あなたにはあたしやイリヤ、クロエがいる。もちろん、ルヴィアさんも。だからあなたも諦めずに、最後まで運命(Fate)に抗い続けなさい」

 

あたしが投げかけた言葉に、美遊の瞳に僅かに浮かんでいた怯えの色が消えていった。

 

「うん!」

 

力強く返した美遊の、その頭に添えた手で、かつて(ガウリイ)がそうしたように、あたしはニコリと笑い彼女の髪を軽く掻きむしるのだった。




今回のサブタイトル
アニメ「スレイヤーズTRY」EDから。
※日本語の意味は「諦めないで」

というわけで、今回はかなり飛ばし気味の展開でした。5巻の半分くらいまで消化してますからね。まあ、リナの行動で、イリヤ側をだいぶ端折ったのが効いてますが。そのかわり、イリヤの「触っちゃった」が無かったのが残念です(って自分のせい)。

次回「Front breaking」
見てくんないと、暴れちゃうぞっ!
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