Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
「なんなのよ、あれ!」
「一体、何がどうなってますの!?」
林を抜けた辺りで、凛とルヴィアは異形の怪物を目の当たりにする。そして少し離れた
怪物は半ばから折れた剣を振りかぶり、イリヤは魔力砲…いや、魔力槍で応戦する。だがその出力は、クロエと
「クロ! バゼット!」
凛の呼びかけにクロエとバゼットが振り返る。
「何が起きているんですの!? ミユは!?」
「リナの姿もないし。何よりあれは、イリヤなの!?」
「そうよ。2つのステッキがひとつになって、真の力発揮ってとこじゃない?」
クロエの説明にまさかという表情になるが、同時に
「しかし、力の規模が大きすぎる。個人であんな魔力の行使が可能なのか!?」
バゼットの疑問はもっともである。今のイリヤは言ってしまえば、水道の蛇口から洪水が起きてるようなものだ。それだけ異常な現象なのである。
(そう。あれほどの大出力、原理的にイリヤには不可能なはず…。何らかのインチキをしている。しかも、明らかに代償がいる様なインチキを!!)
イリヤがツヴァイフォームになってから感じる身体中の痛みの中、クロエはそう感じていた。
そして事実、イリヤの力は代償のいるものであった。このフォームでは筋系・血管系・リンパ系・神経系の全てを、擬似的な魔術回路と強制的に誤認識させている。それらは魔術を使うほどに、摩耗させていくのだ。
しかし、それらのことをルビーから説明されても、イリヤは止まりはしない。
「大丈夫だよ、ルビー! こんなもの、すぐに壊してあげるから!!」
美遊を救うために。
イリヤが放った巨大な魔力の槍は、展開された宝具の盾をも突き破り、英霊の子…ギルガメッシュの胴に突き刺さった。
「……そうか。神々の盾すら貫くか」
ギルガメッシュは、刺さった魔力の槍を鷲掴みにし霧散させる。
「これなら、あるいは成るかも知れない。君は、君こそは! 僕の全力に相応しい!!」
そして、現れた剣を握る。それと共に吹き荒れる爆風。
「銘は無い。僕はただ、『エア』と呼んでいる。かつて天と地を分けた…、文字通り、世界を切り裂き創造した最古の剣さ。
ギルガメッシュの話を聞き、イリヤは静かに言った。
「ルビー。まだ、全力じゃなかったよね?」
『!? しかしイリヤさん!』
「どっちにしろ、ここで負けたらおんなじだよ。だからお願い。筋肉も、血管も、リンパ腺も、神経も。……わたしの全部を使って!!」
そして。
「
「
双方の最強の攻撃がぶつかり合った。……そのとき。
「美遊! 今よっ!!」
攻撃の死角となるギルガメッシュの後ろに、いつの間にか立っていたリナが叫ぶ。その手には、
「何だ、せっかくの勝負に水を差す気かい? それなら容赦はしないよ?」
そう言ってギルガメッシュは蔵の門を開こうとする。が。
「何!?」
何故か門は開かない。
(……ギルガメッシュ。あなた自身が言った事よ。「名残程度とはいえ神性を持つ」って。つまり、美遊にはほんの僅かとはいえ、「聖杯」としての機能が残ってるって事!)
リナは[
(美遊自身の願いで出来たこの隙、おそらくほんの数秒程度だけど…、それで充分!!)
ギルガメッシュの真横に来たその時、その足元に複数の波紋が広がった。しかし、既にリナは下から掬い上げるように剣を振り、ギルガメッシュの剣[エア]を打ち上げていた。
「
今まで保留していた術を発動させ、限界までスピードを上げて離脱した直後、イリヤの[
暗い、昏い、闇の中。そう。それこそが、わたしが本来いた場所。全てを叶える力と引き換えに、わたしは全てを失った。望んでそう生まれたわけじゃないけど、聖杯として生まれてしまった以上、わたしの意思は関係なかった。
光を与える役割の器であるわたしに、光など必要なかったんだ。
そんなわたしに、光をくれた人達がいた。居場所をくれた人達がいた。こんなわたしでも、ちょっとだけ人間らしくなれる世界があった。そして。諦めるな、最後まで抗えと言ってくれる人がいた。
だからわたしは、もう諦めない。
---美遊がもう、苦しまなくていい世界になりますように
ふと、お兄ちゃんの言葉が思い浮かんだ。……この世界に来ても、わたしの苦悩は続いていた。でも…。
---優しい人達に出会って…
そう。優しい人達に出会えて。
---笑いあえる友達を作って…
笑いあえるだけじゃない。一緒に喜んだり、怒ったり…。時には叱ってくれたりもする、掛け替えのない友達。
---暖かでささやかな幸せを掴めますように
そんな人達が、わたしに新たな幸せを与えてくれた。たったひとつの憂いを除けば、お兄ちゃんの願いは叶えられたんだ。
……気がつけば。わたしの周りに纏わり付いていた、何かの感触は無くなっていて。身体を起こして前を向けば、ちょうど大地に降り立つ、イリヤとリナの姿が。
「……泣いてるとこ、初めて見た」
「あたしも」
……え? わたしは自分の頬に触れてみる。すると、指先に濡れた感触があった。
「……でも、悲しくて泣いてるわけじゃないみたいだけど、ね?」
「そうだね」
二人の、言うとおりだ。わたしは、嬉しくて泣いていたのだから。
「ミユ!」
「三人とも、大丈夫!?」
クレーターを下ってルヴィアさん達も集まってきた。
『美遊さま!』
イリヤが持つステッキからサファイアが分離して、わたしの許へ一目散に飛んでくる。同時にイリヤの衣装が、いつもの魔法少女のものに戻った。
「はう…」
イリヤがよろけたところを、凛さんが支える。イリヤはかなり辛そうだ。
「……クロ、ごめんね」
……ああ、そうか。痛覚共有…。
そしてイリヤはわたしの方を向き。
「ミユ。わたし、わかってたんだ」
「……え?」
「ミユが何か大きな秘密を抱えてるって。でも、わかってても踏み込めなかった。その秘密に触れたら、もう元の関係に戻れない気がして。
……けど、もう逃げないよ。ミユはわたしの友達だから。友達が苦しんでるなら、もうほっとかない!」
イリ、ヤ…!
わたしは喜びのあまり、更に涙が溢れてくる。
「イリヤ」
隣に立っていたリナが、優しい笑顔を浮かべてイリヤの頭の上に左手を置き、さっきわたしにした様に、髪を軽く掻きむしった。イリヤは困ったという表情を浮かべてはいるものの、少し照れ臭そうだ。
「さて、と。美遊、さっきはありがと」
掻きむしる手を止め、わたしに向き直ってお礼を言うリナ。これは、わたしが聖杯の力の最後の
わたしが怪物に取り込まれてから少しして、
もちろんわたしはYESの合図を送って、じっと待ち。リナの合図でわたしは願った。上手くいくかはわからなかったけど、それは杞憂で終わったみたいだ。それに。
「リナが、諦めずに抗えって言ってくれたからだよ。その言葉が後押ししてくれたから、わたしはわたし自身の力に賭けることが出来たんだ」
わたしがそう言うと、リナは恥ずかしそうにそっぽを向き、指で頬を掻く仕草をした。こういう時のリナは、少し可愛いと思う。イリヤもそんなリナにクスリと笑い。
「さあ、帰ろうミユ。わたし達の家に」
そう言って手を差し出す。わたしはその手を掴もうとして…。
突然空が光を放った。
突然、空が光る。って、まさか!? あたしは慌てて呪文を唱え。
「
あたしが術を発動させたのはほぼ同時だった。
ずがががががあああん!!!
「ぐがあっ!?」
くうっ! 光線型の攻撃を跳ね返すこの術だが、雷ではやはり、半減させるので精一杯だったか。あたしを含めた全員が地に伏す。
そして。天空の
「
ギルガメッシュを夢幻召喚した。
その隣には、あたしと年が近い赤毛ショートを両サイドアップにした少女が、大きな槌だろうか。それを担いで立っている。やはり何かの英霊を夢幻召喚しているのだろう。
そして二人の後ろには、細身で背の高い、眼鏡をかけた男が背広姿で立っている。ハッキリ言って物凄く浮いているのだが、得も言えぬ恐怖を感じもする。
「え…、
凛さんが呟くように言う。……って、葛木先生? 前に聞いたような…。あ! 凛さん達の、担任教師!?
しかし、葛木先生と呼ばれた男は、特になんの反応も示さない。
……いや、そんな事、今はいい。それよりも。
「はんっ! ようやく見つかったと思ったら、オマケがウジャウジャいるんですけどー」
「捨ておけ。今は最優先対象を回収する」
赤毛サイドに金髪ツインテは言いながら歩を進め。
「お迎えに上がりました、美遊さま」
美遊の前で立ち止まり、そう声をかける。……やはり、そうか。彼女達は、美遊の世界からやって来たんだ!
「い…、嫌ッ。戻りたく、ない…ッ!」
「その様な口が利けるようになるとは。しかし、バカンスはもうお終いです」
突きつけるように言う金髪ツインテ。更に赤毛サイドが。
ズガァッ!
美遊を思いきり踏みつけたッ!
「ミユッ!」
イリヤが叫び。
「クラスカード[ランサー]、
あたし自身は水片鏡でダメージの何割かを反射したおかげで既に回復し、夢幻召喚して赤毛サイドに向かって駆け出した。
「
拳に魔力を纏わせて殴りつけようとした、その時。
「……[アサシン]
眼鏡の男…葛木が、血のように真っ赤なカードを夢幻召喚する。……え? その姿は、まさか!?
「……
ひと言呟くと共に姿が消え、あたしの背後に殺気が奔るッ!? あたしは咄嗟に身を屈め。そのすぐ上を、黒い手が通り過ぎるッ!
あたしはそのまま転がる様にその場を離れ…。
どぐぁっ!
「がはぁっ!」
葛木から蹴りを叩き込まれて吹っ飛ばされた。ダメージはそこそこあるものの、それでもなんとか立ち上がる。
……しかし、よりにもよってあんな奴のカードだなんて。
「……
そう。前世において、あたしを何度も窮地に追いやった男。しかも今の空間渡りの技は、魔族の力。つまりは。下級魔族[無貌のセイグラム]と同化した、人魔としての彼である。
「リ…ナ…」
美遊が絞り出すようにあたしの名を呼ぶ。
「大丈夫よ、美遊」
安心させるようにそう返すあたし。すると突然、葛木の様子が…?
「……リ、ナ! ……リナ=インバァァァァス!!!」
なっ、前世の名前を!? ……まさか、
「取り乱すな。それに、もう時間がない」
金髪ツインテが葛木を諌める。というか、時間がない?
「ホラ、
赤毛サイドが言うのと同じくして、一帯の空間が歪み、光に覆われる。
「イリ、ヤ、……リナ…」
「「
あたしとイリヤの声が被る。しかし白い光が溢れる中、誰がどこにいるのかもわからない状態だ。
「ミユ! どこにいるのッ!?」
「美遊っ!」
「ミユーーーッ!!」
その叫び声を最後に、白い光とは裏腹にあたしの意識は暗転した。
今回のサブタイトル
アニメ「スレイヤーズEVOLUTION‐R」最終話EDから
※日本語の意味は「始まったばかり」
今回登場した例の二人に、もうひとりドールズを足しました。まあ、[アサシン]のカード含めて、当初からの予定通りではありますが。しかも、カードも使用者も暗殺者。我ながらひどい話です。
ところで。【スレイヤーズ】読者の中には、ズーマの能力に疑問を持った方もいるかもしれません。もちろんそれにも理由(というかでっち上げの設定)があります。因みにリナは、自身の思い違い(もしくは記憶違い)で、まだその事に気づいていません。
さて。次回から3回(予定)は幕間の話になります。とはいえ、今回の話から地続きの内容ですが。そしてそのあとに次の章、第三部が始まります。
次回「リナが
見てくんないと、暴れちゃうぞっ!