Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
リナ、驚愕の憑依転生
あたしは漂っていた。昏く深い、混沌の海の中を…。そして、あたしは消えてゆくのだろう。そう、既にあたしの生は終わりを迎えているのだから。
あたしは、自宅のベッドの上に横たわり、子や孫、曾孫に囲まれた中で安らかに息を引き取った。享年130歳。魔道による延命を行わなかったにしては、なかなかの長命だったと思う。思い残すことはなかった、と言えばそれは嘘になるが、概ね満足のいく人生だった。
そんなあたしも、混沌へと還る日が来たのだ。…その時のあたしはそう思っていた。しかしどうやら、死んだ後でも運命は気まぐれであったらしい。
あ、いや、気まぐれなのは混沌の海、
それは突然のことだった。
ここ、混沌の海は恒にたゆたい続けている。普段は細波のように、そして時折大波のように。
しかしあたしが見つめるその先で、急激に大きなうねりが現れ始めたのだ。あたしはさらに、そのうねりへと意識を集中させてみる。
「なに、これ…」
あたしは思わず呟いた。うねりは渦へと変わり、その中心からは光が柱となって溢れ出したからだ。…って、まさかこれ、世界との隔たりに穴が開いたとか?
光はさらに強まり、その中に人影らしきものが見えた。
うーみゅ、どうしようか。光に近づくかどうか悩んだけど、やっぱり好奇心には勝てなかった。
あたしは光へと近づいて行く。渦の方はいつの間にか収まっていて、あたしの行く手を阻むものはない。まるで、あたしのために収まってくれたみたいだわ。
…ふと思ったけどあたし、段々若い頃の性格に戻ってきてない?
まあ、そんな疑問は置いといて、あたしは光の柱へと手を触れてみる。するとその奥にあった人影がはっきりと浮かびあがってきて、光の柱から飛び出した。
あたしはその姿を見て息をのむ。
年の頃は4、5歳だろうか。赤みがかった茶髪の、とても可愛らしい女の子がそこにいた。
そこ、笑うな!
…いや、今パツキン魔王に笑われた気がしたんだけど。 って、そうじゃなくって、あたしが驚いた理由。それはその子が、まんまあたしを幼くした見た目だったってこと。これって一体…。
「ねえ、大丈夫?」
あたしが声を掛けると、その子はうっすらと目を開いた。
「お姉ちゃん、だれ?」
「あたしはリナ=インバース。あなたのお名前は?」
尋ねてきたその子にあたしはすかさず答えた。すると一瞬驚いた顔をして、こう言った。
「わたし、稲葉リナ」
「えっ!?」
まさかの、見た目だけでなく名前まで一緒?
もしかして、他の世界にも自分と同じ存在が居るの?
「お姉ちゃん?」
「ああ、ごめんな…お姉ちゃん?」
あたしは思わず聞き返した。そう言えばさっきもお姉ちゃんって…。思わず自分の手を見る。その手は皺の一つもない綺麗なものだった。
そうか。魂だけの存在である今のあたしは、思考が若い頃に戻っていくことでその姿も若返っていったんだろう。
ま、今はそんな事どうでもいいか。それよりも。
「えーと、リナちゃん?」
「?」
疑問の表情を浮かべる彼女にこう切り出した。
「あなた、どうしてここに来たのか判る?」
敢えて曖昧な聞き方をするあたし。こうすればこの子、リナちゃんの理解している範囲で答えてくれるんじゃないかなー、何て思ったんだけど。
「わたし、たぶん、死んじゃったんだ」
なっ!?
あたしは思わず絶句してしまった。いや、死の可能性も十分考えてはいたけど、まさかこんな幼い子が『死』というものを認識しているとは思わなかったのだ。
「あ、えーと」
「おうちでかってたワンちゃんが病気で死んじゃったの」
「…」
「とっても苦しそうにしてたんだ」
それは…。
「わたしも病気になって、とっても苦しくって、お医者さんがもうダメかもしれないって…」
「もういい、もういいの!」
あたしはリナちゃんの事を強く抱き締めた。腕のなかで、リナちゃんの身体が小刻みに震えているのが判る。
「死ぬの、怖かったの?」
「うん。でも、こわいのより、お父さんとお母さんが悲しむほうがイヤなの」
ああ、リナちゃんはご両親から、たくさんの愛情を受けて生きてきたんだ。そんなリナちゃんもご両親の事が大好きで。
「リナちゃん、あなたはまだ、こんな所に来ちゃダメ! 今ならまだ…」
そこまで言って、あたしは気がついた。リナちゃんの身体が徐々に透けてきていることに。
「お父さん、お母さん…」
リナちゃんが呟く。しかしその表情は寂しさではなく、心配から来るもの。
「お姉ちゃんが、わたしのかわりをしてくれたら、いいのになぁ…」
「リナちゃん!」
全く、どうしてこんなことに気づかなかったんだろう。
ここは混沌の海。総てが還るべき場所。
ある程度意志が強く金色の魔王に乗っ取られたことのあるあたしの魂は、他よりも混沌へと還るのが遅いみたいだ。
けれどリナちゃんは、普通の幼い子供。おそらく光の柱から現れたばかりだったのと、あたしが傍に居たから、少しの間その魂を留めることが出来たんだろう。もしかしたら、金色の魔王も何か力を貸していたのかも知れない。
けれどそれももう時間切れ、ということなのか。
「リナ、ちゃん」
リナちゃんはにっこりと微笑み、光の粒となって…。
あたしの中に入ってきた!
「なっ、うぐっ!?」
急激に他人の、リナちゃんの記憶が流れ込んでくる。永くて短いその苦痛に意識を手放しそうになるが、すぐにそれは治まった。
わずか数年分の記憶、それが不幸中の幸いだった。もう少し長引けば、あたしは『リナ=インバース』ではないベツモノになっていただろう。
そう思うと、無性に腹が立ってきた。勿論それはリナちゃんにではない。
「ちょっと、一体どういうつもりなの!? 応えなさいよ!」
あたしは声をあらんばかりに叫んだが、なんの返答もない。ただそれは、あたしの動向を見守るような静けさ。
思わず口に出そうになる次の言葉を飲み込みながら、一つ息を吐く。
「…あたしに、何をさせたいのよ。
そう、あんな芸当リナちゃんには無理、とまでは言わないけど可能性としては無いに等しいだろう。
あたしがやった訳じゃないから、残るは一人(?)だけだ。
「…やっぱり応えないか」
半ば予想したとおり、答えは返ってこない。きっと、すでに答えにたどり着いてる事に気づいてるんだ。
ふと、横を向く。そこには今だ光の柱がある。つまりはそういう事なのだろう。
「あたしに、リナちゃんの代わりをしろってゆーのね」
金色の魔王は相変わらずの無反応だが、何故か肯定してるような気がした。
「分かったわよ、やってやろーじゃない! リナちゃんの為にも!!」
はっきり言って、金色の魔王がなんのためにこんな事をしたのかは分かんない。単なる気紛れでなのか、はたまた何か思惑があるのか。
ただ、はっきりと言えることが一つだけある。それは、リナちゃんの最後の願いは叶えてあげたいってこと。
だからこそあたしは、光の中へと飛び込む。そしてそこで、あたしは意識を手放した。
気がつくとそこには白い天井があった。そう、おそらく、病室の。左腕には点滴のチューブが刺さっている。
リナちゃんの記憶のお蔭で周りの状況を理解することが出来た。
あたしの横には、椅子に座った20代半ばの綺麗な女性が、疲れを覗かせる寝顔を見せている。
あたしは彼女に声をかけた。
「…お母さん」
その声に反応した彼女は薄く目を開き、そしてその目は、すぐに大きく見開かれた。
「リナ!」
涙を浮かべ震える声で、しかしはっきりと、あたしの名前を呼んだ。
「ただいま、お母さん」
そう応えるあたし。そして最後に、心のなかでこう付け加えた。
これから宜しくお願いします、と。
結構重い始まりになってしまいました。リナがはっちゃけてないからなー。
あと、リナの死因ですが、タカヒロオーさんのパクリじゃありません。強引な理由付けで死なせたくなかったのでこうなってしまっただけです。
まあ、見苦しい言い訳はこれくらいにしておきます。
次回「今日(いま)の日常、明日(みらい)の非日常」
見てくんないと、あばれちゃうぞ!