Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
冬木市。美山町の小高い丘の上に建つ、一軒の洋風建築。その一室で、魔術の実験をする少女がひとり。
年の頃なら16、7。長い赤毛をポニーテールにした、小柄でスレンダーなその少女、名前をミリーナ・サンダースという。
「むうぅ、やっぱダメか」
ミリーナは唸りながら、あぐらをかく。彼女が今やっていたのは、水属性の初級魔術。しかし手応えがあるものの、上手く発動してくれないのだ。
だが、彼女の能力が劣っているわけではない。いやむしろ、素質の塊である。魔術回路の総数は148で、その質も極めて良い。更に火の属性が強いものの、五つの元素全ての資質を有した[
……いや、正しくは。架空元素[虚数]と[無]をも兼ね備えた、バレれば封印指定まっしぐらなほどの希有な存在である。さしずめ[
そんな彼女が初歩の魔術に失敗する訳。それは単純に、魔術の訓練を始めてから日が浅いためである。それまでも少しは勉強してきたが、本格的に始めたのはここ半年だ。更に火の属性へと偏りがあるため、他の属性とのギャップで扱いに苦労している面もあった。
……あと、もうひとつ。彼女は痛みに対する耐性が低い。一般人と同等か、精々それよりは少し我慢できる程度である。なので多少馴れたとはいえ、魔術回路を開いている痛みが気になって術に集中できないことも、大きな要員となっているのだ。
(……あの力も、もうかなり衰退してる。出来ればその前に、もう少し魔術を使い熟せるようにしておきたいんだけど)
目を閉じ考え込んでいたミリーナは目を開けると、ショートパンツのポケットに手を突っ込み、一枚のカードを取り出した。その表面には、右手に本を抱え、左手にロッドを携えた、フードを被った老人の絵が描かれている。そしてその色調は、淡い
(キャスターのカードに反応は無し、か)
それを確認して再び仕舞おうとした、その時。カードから、ドクン!と脈打つような反応が表れた。
「これは…!」
ミリーナは驚きと共に、期待に満ちた表情を浮かべる。と、そこへ。シュッと人影が現れた。
その人物は黒い神官服を纏い、錫杖を携えた、おかっぱ頭の青年。
「ゼロス」
そう。彼は異界の魔王の腹心、[
「ミリーナさん。どうやら彼女達がやって来たようです」
「ええ、わかってるわ。キャスターのクラスカードも反応してたしね」
そう言って、ゼロスに向かってカードをチラつかせるミリーナ。
「敵からくすねた屑カードを触媒に、あたしが創り上げたこのクラスカード。それを集め使用する、並行世界の美少女魔道士。……アンタは一度、会ったことがあるんだったわね?」
「はい。僕の世界の同僚がやらかした事件の時に。まあお陰で、捜していた[写本]の回収も出来ましたし、リナさんの実力も見られましたから、有意義ではありましたね」
そう。この
「それで? ゼロスは相変わらず高みの見物?」
「まあ、そうなりますね。我々の計画の関係上、彼女達に直接手を貸すわけにも、邪魔をするわけにもいきませんから」
「……ほんと、どっち付かずのコウモリね」
ミリーナは呆れた口調で溜息を吐いた。
「そういうミリーナさんはどうなんですか?」
「あたしは座して待つ、よ。どうせそのうち、ここまでやって来るでしょうし」
「まあ、リナさんならそうかも知れませんけど、ミリーナさんも僕のこと言えないんじゃないんですか?」
コウモリに喩えたミリーナに、ゼロスは軽く言い返す。最もゼロスの場合は、自分からコウモリが好きと言っているくらいなので、ミリーナの言葉が気に障ったわけではないのだが。
「あたしの場合は、裏方しか出来ないだけよ。大きく力を殺がれた、今のあたしでは、ね。もちろん状況によっては表舞台にも出るけど、この舞台の主役はあたしでも、エインズワースでもないわ」
ミリーナはここには居ない誰かに対して、皮肉を込めて言った。
「主役はリナさんですか」
そう言ったゼロスに、ミリーナはかぶりを振る。
「それだけじゃないわ。
以前ゼロスから聞かされた名前を挙げるミリーナ。
「これはまた、随分と主役が多いですね」
「別に、主役がひとりである必要はないでしょ?」
ゼロスのツッコミを、ミリーナは軽くいなす。
「エインズワースも魔族絡みも、その四人が揃わなくちゃ解決できない。あたしはそう思ってるから」
「この世界の命運を彼女達に丸投げですか。あなたらしくありませんねぇ」
意外なものを見るように、ゼロスはミリーナを見つめる。しかし彼女とて、そんな気は毛頭ない。
「別に丸投げする気なんてないわよ。自分にだって運命に抗う力はあるって、あたしはそう思ってる。だからクラスカードだって創ったし、魔術の勉強だってしてる。でも、事件の中心にいるのはその子達。だから今回は、力を貸す側に回っただけよ」
そしてニヤリと笑い。
「ただし!
そう言って右手に拳を作り、ブンブンと振り回すミリーナ。その様子を見てゼロスは笑顔を作る。
「……前言を撤回します。やはりあなたは変わってませんね」
「当たり前よ!」
答えたミリーナは、ひとつウインクをした。
「……そういえば、相方の姿が見えませんね?」
「相方って、まあいいけど」
突然話を変えて尋ねるゼロスに、ミリーナはややあきれ顔になって答える。
「あの子なら情報収集をするって、ラーメン屋に行ったわよ」
「ラーメン屋、ですか?」
予想もしなかった答えに、さすがのゼロスも間抜けたことしか聞き返せなかった。
「そ。実はそこの店主、聖堂教会から派遣された神父なのよ。今でこそ趣味でラーメン屋開いてるけど、本業も最低限の仕事はしてるからね」
「なるほど」
納得したのか、ゼロスは神妙に頷いた。
「……とはいえ、だんまり決めこんでる奴らの情報なんて、たかが知れてるけど。それでも無いよりゃマシって出かけてったワケよ」
「ミリーナさん。僕の本業に文句があるんですか?」
「別に文句なんて無いわよ。もしそう聞こえたんなら、あなたがそう感じてるんじゃない?」
「……」
あっけらかんと答えるミリーナ。もちろん揶揄はしている。
因みにゼロスの本業は、[
望みの薄い情報収集へ行った、その行動と引っかけての発言で、それを感じ取ったゼロスが尋ねたというわけだ。
「……まあ、いいですけど」
溜息を吐き、やや拗ねたように言うゼロス。妙に人間臭いが、ただのポーズの可能性もある。
「さて、それじゃあ魔術の練習を再開…」
ミリーナが気持を切り替え、そう口にしたところで。
「ただいまー!」
と、玄関から声が聞こえた。しかし、先程ゼロスが言った「相方」の声ではない。
ドタドタと廊下を駆ける音が近付いてきて、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「ただいま、ミーねえ!」
顔を覗かせたのは、年の頃なら10歳前後。癖のある長い赤毛の女の子。
「お帰り、
「お帰りなさい、リナさん」
ミリーナとゼロスが返事をする。と。
「あ、魔族の人」
リナと呼ばれた女の子は臆面もなく言った。
「いや、魔族の人って…。いえ、間違いではないですが、せめて名前で呼んではいただけないですかねぇ?」
少し困った表情を浮かべて訂正を願うゼロス。
「うーん…。でも名前で呼ぶと、ミーねえと凛ねえが嫌な顔をするから」
「ミリーナさあああん!?」
「いやー、リナが親しげにアンタの名前を呼んでるのを見てると、なんてーか、悪寒が走るのよねー」
ゼロスに詰め寄られたミリーナが、頬を掻き、視線を逸らしながらそんな事をのたまった。
「……ミリーナさんのいけず!」
そう言葉を残し、ゼロスは
「魔族の人、帰っちゃったね?」
「いや、精神世界面から見てるかもしんないわ。どのみち人間には認識できないけど」
「?」
さすがにリナには少し難しかったようだ。
「あ、そういえば凛ねえは?」
「今は出かけてるわ。多分激辛料理食べて帰ってくるから、優しく慰めてあげてね?」
「うん、わかった」
そう言って扉を閉め、足音は部屋から遠ざかっていった。
(……5年前にあたしが保護した子、
そう固く誓う、ミリーナだった。
今回のサブタイトル
アニメ「スレイヤーズ」OPタイトルから
というわけで、【リリすれ】コラボの最終話に登場していた内のひとりです。もうひとりも名前が出てますね。当然、あの人物です。
そして新たに登場した子は…。
まあ、他の作品で既にネタバレしてますが。
さて次回からいよいよTRY/3reiに入ります。
次回「並行世界でゅえっと」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!