Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
並行世界でゅえっと
「はい、到着です」
空間の狭間から助け出してくれたゼロスが、軽い口調で言う。あたし達が現れた場所は、大きなクレーターの中。そう。2枚目のアーチャーを倒した後に、あたし達がいたのと同じ場所だ。しかしその環境から、あたし達がいた世界ではないのもわかる。何しろ、今のこの格好ではメチャクチャさぶい。まるで真冬、……いや、まるっきり真冬の気温なのだ。おまけに雪まで降ってるし。
「では、僕はこれで」
「えっ、もう行っちゃうの!?」
とっとと帰ろうとするゼロスに、イリヤがそんな事を言うが。
「僕の仕事は、あなた方をこの世界に送り届けることですから」
「相変わらずのお役所仕事ね」
呆れてため息を吐くあたし。
「まあ、それに」
「うん?」
「こちらでは、並行世界の僕が何かお仕事してるみたいなので、その邪魔はしたくありませんから」
「いや、積極的に邪魔してほしいんだけど」
魔族の企みが、人間にとっての世界平和であるはずもない。ましてや、[
……まあ、関わった以上、見て見ぬフリも出来ないんだけど。我ながら、難儀な性格である。
「えっと、そのお仕事って、詳しくは知らないんだよね?」
「はい。先ほども言いましたが、並行世界の僕たち魔族がどんな計画を立てているのかは知らないんですよ」
イリヤの質問にゼロスは答えた。そして続けて。
「……まあ、もしかしたら、というのはありますけど、あなた方に披露する義理もありませんしね」
そんなことを言う。あたしとあなたの仲じゃない、なんておどけて言いたいところだが、あたしとゼロスはあくまで利用し利用される間柄だ。利用するためなら教えてくれるだろうが、それならそれでワザと誤解するように誘導されかねない。実際、この世界で何かやってるゼロスにはしてやられたわけだし。
「……まあ、僕とリナさんの仲です。ひとつだけヒントをあげましょう」
は? たった今まで考えてたことを、見透かされたんじゃなかろうか。そう思ってしまうようなタイミングだった。
「おそらく彼らの狙いは、ピトスを利用することです」
「「……ピトス?」」
「はい。ピトスがなんなのかは…秘密です!」
こいつ、本当はこれが言いたかっただけじゃなかろーか。
「……では、今度は本当に失礼させてもらいますよ。リナさん、あなたとは再会しないことを願って」
「……とか言って、何度も再会してるけどね。とはいえ、今度会ったら敵同士かもしんないし、あたしも再会しないことを願ってるわ」
あたしの返答に、ゼロスはニッコリと笑って消えていった。
「さて、あたし達も行きましょうか」
「……うん」
イリヤは不安そうに、でもしっかりと頷き答えた。
坂道を下っていく途中から見える街並みは、予想以上に驚かされるものだった。何しろ、巨大なクレーターがあったのだから。
……おや? あの端の方って、あたし達の世界だと神名の家がある辺りじゃ? この世界に黒神家があるのかは知らないけど、もし存在するなら、無事であってほしい。
「それでイリヤ、どこから行く?」
「……わたしのお家。こっちじゃどうなってるのか知りたい」
「そっか。うん、そうだね」
並行世界とわかってても、そりゃあ気になるだろう。あたしだって、自分ちがどうなってるか気になってたかも知れないんだ。
……そう。かも、である。あたしの場合はそれ以前の問題だった。だって、あたしの家が在った場所はクレーターの中なのだから。
この世界に、お父さんやお母さんはいたのか。いたとしても、あたし…[稲葉リナちゃん]は生まれてたのか。もし三人家族だったとしても、今も無事でいるのか。
……ハッキリ言って、考えるだけ無駄である。もちろん心配はしているが、現状では調べようがないのだ。今出来るのは、どこかで無事でいてくれることを願うくらいだろう。
「……ごめんね、リナ」
「え、何が?」
「だって、リナの家は…」
イリヤ、気がついてたのか。まったく、この子は…。
「もう、イリヤってば気にし過ぎよ! 確かに気にならないって言ったら嘘になるけど、この世界の両親はあたしにとってはあくまで、[一也さん]と[サナさん]だもの。無事であってはほしいけど、イリヤほど気にしちゃいないわ」
もちろん嘘ではないし、強がりでもない。それでも、しっかり別けて考えられない部分もあるけれど。これが凛さん風に言うところの、[心の贅肉]と言うやつだろう。
「さぁ、さっさと行って、確認を済ませるわよ。あたし達には、美遊を救うって目的があるんだから」
「! うん、そうだったね!」
あたしが発破をかけたことで、ようやくイリヤも活気を取り戻した。
「うわぁ、見事に潰れてるわね」
「だね」
あたし達は、立ち入り禁止になっているその家の前に佇み言った。とはいえ。
「でも、ここに住んでたのは、わたし達じゃなかったみたい。家のデザインが少し違うし」
そう。この家の残っている部分を見る限り、向こうの衛宮邸とは若干異なっている。もちろん誤差の範囲かも知れないけど、現状は別の家庭が暮らしてたと考えていいだろう。
「イリヤ、大丈夫?」
「うん、ヘイキ。もしわたしひとりで、並行世界に飛ばされたって気づいてない状態で見てたら、きっと取り乱してたと思うけど」
結構イリヤも、自身を客観的に見られるようになってきたようだ。
「ねえ、リナ。今度はどこへいく?」
さっきあたしが尋ねたことを真似してか、イリヤがそう聞いてきた。ふむ、そうね…。
「それじゃあ商店街の方に行ってみましょうか。あそこなら、少しは
そうなのだ。実はここへやって来るまでの間、人っ子ひとり出会っていないのである。そもそも住宅街なのに、人が暮らしてる気配のない家が多い。理由として考えられるのはあのクレーターなのだが、果たして…。
まあ、そんな事考えてても仕方がないか。とにかく今は情報が欲しい。
てなわけで、マウント深山商店街に向かって歩き始め公園の前を通りかかったとき、ようやく第一村人(笑)と出会うことが出来た。
「見ィつけた」
美遊をさらってった赤毛の方だけど。うん。このタイミングじゃ、会いたくなっかった。
「あん? ホワイトロリと赤毛ロリかぁ」
「ホ、ホワイトロリ!?」
「アンタだって赤毛ゴスロリでしょうが!」
こいつ、なんかムショーに腹が立つ! あたし達に勝手なあだ名を付けてっ! ……って考えてみたら、あたしとやってること同じだわ。コイツのことも、赤毛ショートとか赤毛サイドとか赤毛ゴスロリとか思ってたし。
「へぇ。アンタ、なかなか吠えるじゃん」
「吠えるって、あたしゃ犬かっ!?」
あたしのツッコミに、赤毛ゴスロリはニヤリと笑う。
「そっかぁ。犬なら、躾けが必要だよねぇ?」
そう言って取り出したのは、バーサーカーのクラスカード!
「
そのカードを右腕に限定展開し、手甲をはめた巨大な腕になった!? バカな! 限定展開には高位の魔術礼装が必要なのに!
……ええい! そんな考察、今は後回しだ!
「イリヤ!」
「うん、リナ!」
あたし達は頷き合い。
「「戦略的撤退ッ!!」」
言って赤毛ゴスロリから逃げ出した!
「逃げるの? いいよ。あたし、そういうのも好きだしィ」
彼女がそう言った後、ギシリという何かが軋む音が聞こえる。何かと思い、ちらりとそちらを見ると、なんと限定展開した右腕で乗用車を持ち上げていた。なんて馬鹿力! っていうか、どうやってあの重量を支えてるんだ!?
いやだから、そうじゃないっ!
ぶうぉん!
赤毛ゴスロリがあたし達に向かって自動車を投げつけ、あたしは。
「
高圧の風の呪文で自動車を弾き返す…のはさすがに無理だけど、その軌道をずらし、並ぶ家のひとつへと突っ込んでいった。どうか誰も居ませんよーに。
「へぇ、やるじゃん」
そう言う赤毛ゴスロリは、肩に電柱を担いで近づいてきた。彼女はその電柱を振り上げ。
「
あたしが唱えた呪文で地面が盛り上がり。
「ゴーレム! 敵の攻撃を止めてっ!」
『ま゛!』
ずぎゃごおっ!
命令を受けたゴーレムが電柱を受け止めるが、その衝撃で破壊される。しかし電柱も同じく、衝撃で真ん中からポッキリと折れ、先の方は砕け散った。
「ゴーレムもしっかりと命令をすれば、ちゃんと働いてくれるんだ…」
イリヤが呟くように言う。うん。前に見たのは、ナーガの暴走ゴーレムだったもんね。
「へー、あれを防ぐんだ。凄いじゃん、赤毛ロリ」
「赤毛ロリ言うんぢゃない! あたしの名前は稲葉リナよっ!」
「わ、わたしだって、ホワイトロリじゃなくってイリヤだよっ! イリヤスフィール・フォン・アインツベルン!」
あたしとイリヤが言うと、赤毛ゴスロリが頬を掻く。
「あー、別に名前が知りたかった訳じゃねーけど、まあいいわ。名乗られたんだしこっちも名乗らないとね。
あたしはベアトリス・フラワーチャイルド!! エインズワースの超絶美少女ドールズよ!!」
「そ、そんなこと言ったらリナだって、美少女天才魔道士なんだからっ!!」
「えっ、ちょっとイリヤ!?」
この子、何張り合ってんのよ!? いや、美少女も天才魔道士も自認してるし言ったりもするが、さすがに他の人からこういう紹介されると、ちょっとばかし小っ恥ずかしいんだけど。
「へぇ、天才魔道士。それじゃあこっちも、少しは本気出さねーとだわ」
そう言って、赤毛ゴスロリ改めベアトリスが限定展開を解く。って事はまさか!? あたしは[
「
やはり、と思ったところで、ベアトリスの動きが止まった。一体…。
「あん? 何? 今、ちょーいいトコだったんですけどォ」
……誰かと話してる? もしかして、念話が出来るのか?
「……ちっ、しょうがない。アンタらはまた今度ね。今度は絶対、ブチ殺すからッ!!」
そう言って跳躍すると、クロエのように屋根伝いに立ち去っていった。
「……助かった、のかな?」
「みたいね」
イリヤの疑問に答えるあたし。
「……さて、と。ともかくこれで、目的にひとつ近づいたわね」
「えっ?」
あたしの発言に、イリヤが驚いている。って事は、まだ気がついてないのか。
「ベアトリスが言ってたでしょ。『エインズワースのドールズ』って」
「あ…。という事は、ミユをさらったのはエインズワースって人?」
「そうゆーこと!」
言ってあたしはウインクひとつ。
「まあ、エインズワースってのがどこにいるかはわかんないけど、それでも重要な手がかりには違いないからね!」
「うん!」
イリヤが力強く頷いた。
「そうとわかれば、早速情報収集よ! という訳で、当初の予定通り商店街に行きましょ!」
「そうだね。攻略にはまず情報だって、落とし神も言ってたし」
イリヤよ。どーしてそこでギャルゲーの神様に頼る。いや、間違ってはいないんだけど。
そんなこんなで[マウント深山商店街]までやって来たあたし達。それはよかったのだが。
「お腹すいたぁ…」
あたしは絶賛空腹中だった。
「リナ、相変わらず燃費が悪いね。そりゃあわたしだってお腹すいてるけど」
イリヤはそう言うが、こればかりは如何ともし難い。ましてや、途中で一旦魔力を回復させたとはいえ、大技を連発したのだ。いつもより空腹になるのが早くても、仕方がないというものだろう。
それはともかく。
「ご飯ぷりーず!」
「ちょっと、リナ!」
へたり込むあたしにイリヤは困り果てるが、こういう時のあたしはただの子供だ。自分で言ってて情けないが、事実なので仕方がない。
「ほら、駄々をこねないで」
「やーだー」
……我ながらかなり我が侭だ。イリヤに悪いとは思うものの、自分ではどうしようもない。なんか、前世よりも我慢が利かなくなってるような気がする。
「……む。腹を空かせているのか?」
そんなあたし達に、突如声がかけられる。はて、どこかで聞いたことあるような? そんな疑問を浮かべながら振り向くと。
「所望なら、私が食事を提供するが」
そう言ったその男の顔を見て、あたしは固まった。
「本当ですか!?」
何も知らないイリヤは、その申し出に喜んでいる。しかしあたしは、とてもそんな気にはなれない。
「言峰…綺礼…」
あたしはその男の名前を、ぼそりと呟くのだった。
今回のサブタイトル
TVアニメ「異世界かるてっと」から
という訳で、残念ながら
田中「田中はリストラされたですか?」
という事になりました。【NEXT/2wei編】書き始めた頃には、既に決定事項でしたが。この頃に予想していた田中の正体が、自分が考えた展開だと意味を為さなかったのが原因です。代わりに、[監視役]としてある人物がいますが、それは秘密です。
因みに、田中の正体は的中してました。
次回「ご注文は激辛ですか?」
見てくんないと、暴れちゃうぞ!