Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
優しいおじさんに連れられて、わたし達は一軒のお店へと来ていた。お店の名前は[
気になるといえば、このおじさんに会ってからリナの様子がおかしい気がする。なんていうか、警戒してるような、そんな気がするのだ。
「……ねえ、リナ。何か気がかりなことでもあるの?」
おじさんが料理を作っている間、わたしはついに堪えられなくなって聞いてみた。
「……うん、いやまあ、あたしの思い過ごしならいいんだけど、ここの店主さん、あたしの知ってるものすっごく関わり合いになりたくない人とそっくりなのよ」
関わり合いになりたくない人?
「でもそれって、
「向こう、っていうか…」
なんだろう。すっごく歯切れが悪いんだけど?
「……まあ、たとえ向こうと同じ様な…同位…存在だったとしても、同じ性格とは限らないけどね」
リナがぼそりと付け足した言葉で、ようやく私にもわかった。そっか、こっちの世界の、その関わり合いになりたくない人かも知れないんだ。だからさっきから警戒してたんだね。
「うん、わかった。確かにそれじゃあ、気になっても仕方がないよね。……あれ、でもなんか、お店の名前でも顔をしかめてたような?」
「あー、あれね。うん。それこそあたしの思い過ごしならいいんだけど…」
「思い過ごし?」
あれ? なんだかリナが青い顔をして、脂汗まで流してる?
「出来たぞ。存分に味わうがいい」
わたしが疑問に思ってると、おじさんが声をかけて器を置く音が聞こえた。
「わあ、ありがとうございます! それじゃあ、いただき…」
お礼を言って、どんぶりの中を見たわたしは、声に詰まってしまった。
……なんて言うか、…………赤い。
「……あの、これは?」
「ん? 麻婆豆腐だが?」
「ラーメンはどこにいったの!?」
「やっぱ麻婆かああああい!!」
わたしとリナは激しいツッコミを入れる。って、やっぱ?
「やれやれ、騒がしいな。麺なぞただの飾りだ。麻婆の海の底に、申し訳程度に沈んでいる」
「うわっ、ラーメンのスープすら無い! 全部、麻婆の餡かけだぁ!!」
お箸で中身をかき分けて、ようやく麺までたどり着いた。わたしは意を決して、その麺をひと口すする。うっ!?
「しかも、見た目どおり辛い!! ゴフッ! 地獄の様な辛さりぇふ!!」
「まったく、文句の多い客だ。先程の客は同じ料理を、綺麗に平らげていったぞ」
ええっ! この地獄のように辛い麻婆ラーメンを!?
「……む。そちらの少女は食さぬのかね?」
え、と思って隣を見ると、リナが物凄く青い顔で小刻みに震えている。ってどうしたのーーーっ!?
「リ、リナ?」
「…………ふ、ふふふ」
突然リナが笑い始める。
「まさか、こんな所に、かの意志を受け継ぐ者がいようとは…」
「ちょ、ちょっと、どうしちゃったの!?」
相変わらずの青い顔で、脂汗をだらだらと流し、小刻みに震えながら、それでもその瞳は澄んでいる。とはいっても、おそらく達観した目だと思うけど。
「この色、この香り、そしてイリヤのその感想。間違いなくこの麻婆は、泰山の激辛麻婆!!」
「ほう、あの麻婆を知っているのか。あそこの味を再現するのには、並々ならぬ努力をしたものだよ」
え、えっと、よくわからないけど、この殺人的辛さの麻婆豆腐を出してるお店が、他にもあるってこと? というか。
「リナはこの麻婆を食べたことがあるの?」
「……昔、お父さんとたまたま入った中華料理店が泰山だったのよ。あの辛さに四苦八苦しながらたいらげた、地獄の記憶が蘇るわ」
……あー、それでこんなに青ざめてるんだ。
「でも、それなら残せばよかったのに」
「……そんな事、出来るワケないでしょう? 死ぬほど辛いことを除けば、美味しく味付けされてるんだから。イリヤだって士郎さんの失敗作、不味くても食べてたんでしょ?」
あ…。わたしは憶えてないけど、確かにお兄ちゃん、そんなこと言ってたね。
「だ、だから…」
リナはお箸を持つと、プルプルと震えながら麻婆の中から麺を引き上げ、口の前まで持ってきて。
「……南無三!」
そう言うと、麺を一気にすすった!
「!? ゲホッ、ゴホッ!!」
盛大に咳き込んでコップの水…じゃなく、氷を口に含んで噛み砕く。そして再び麺をすすり…。やがて麺を食べ終わると、一気に麻婆を飲み干していく。
ごとり
「……ごちそう…さま…でした…」
リナはそう言った後、カウンターに突っ伏してしまった。
……勇者だ。勇者がここにいた。
「うむ。見事な食べっぷりだ。……それで少女よ。お前もこのまま食べるのか、それとも無理矢理口の中に流し込まれるのか、どちらを選ぶかね?」
う、いやな二択! とはいえリナが、あそこまで頑張って食べたのだ。
「わ、わたしも、食べます…」
決意とは裏腹に、わたしが答えたその声は、とてもか細いものでした。
「……ごちそうさまげぷた」
あかいあくむを食べ終わったわたしは、何とかそう言った。その頃にはリナも、何とか復活したみたいだ。
「ふむ。喜べ、少女達。君達の1日分のカロリーは、これで賄える」
「どこまで残酷な料理なのっ!?」
「その言い方はやめてほしいんだけど」
リナが言ってる意味はわかんないけど、きっと関わり合いになりたくない人がこんな言い方してたんだろう。
「……まあいいわ。それより、ちょっと聞きたいことがあんだけど?」
あ。私が聞こうとしたのに、先に言われた。
「この街に、一体何が起きたの?」
「……なんの話だ?」
「いや、あのでっかいクレーターなんて、いかにも何かあったっていう証拠じゃない」
というか、世界単位じゃなくて街単位なら、あれが一番の異常事態だと思う。
「……君達は余所から来た人間か?」
「え、あ、はい…」
「ちょっと、親友に会うためにね」
うん。嘘は言ってない。リナやゼロスさんが得意な、「嘘ではないけど真実全てを語っていない」ってやつだ。
「そうか。随分と寒そうな姿だと思ったが、都会ではそういうのが流行っているのだな」
別にそういう訳じゃないけど、そう思ってるならそのままにしとこう。
「さて、あの大穴だが、あれはガス爆発によるものだ」
「「ガス爆発…?」」
同時に聞き返したわたしとリナは、思わず顔を見合わせた。
「今から5年前、冬木の地下に眠っていた膨大な天然ガスが、何かの弾みで着火、数キロ四方を吹き飛ばす大災害となった。まだ天然ガスが残っている可能性が高いとして避難勧告が出され、今では街の外れに細々と人が暮らしているのが現状だ。このマウント深山商店街もシャッターを降ろす店が増えたものだよ」
……本当にそうなの? ううん、街に人がいなかった理由は多分そうなんだろうけど、クレーターの原因が天然ガスの爆発っていうのが本当かは、ちょっと怪しい気がする。……リナに鍛えられてなければ、あっさり信じてたと思うけど。
「……ま、そういう事にしときましょ」
やっぱりリナも信じてないみたいだ。
「そんじゃ次。なんで今の時期に雪が降ってんの?」
そう、それ! わたしもずっと疑問に思ってた!
「何を言っている。夏には雪が降るものだろう?」
「「そうなの!?」」
またもやリナとセリフが被った。しかも、今回はおじさんも「何を当たり前な」といった表情だから、本当の本当に夏には雪が降るらしい。なんでさ。
「ちょっと予想外だったけど、まあいっか。そんじゃ最後に。
エインズワース家はどこにあるの?」
この質問をした瞬間、おじさんは物凄い形相になって。
「知らんな」
一転、気の抜けた表情になって答えた。
「本当に?」
「知らんと言っているだろう。それより。
麻婆ラーメン、2つで3,200円だ」
………………。
「「有料?」」
「当然だろう」
「ええっ! あの流れって普通、ご馳走してくれるところじゃ…」
「というか、ボッタクリもいいトコじゃないの!」
わたしとリナのツッコミにおじさんは。
「私特製の[辛そうで辛くない、むしろ辛かったことを脳が認識しようとしてくれないラー油]を湯水の如く使っているのだぞ」
「『使っているのだぞ』じゃないわあああッ!!」
当然の様に言うおじさんに、リナも当然の様に突っ込む。
「……まさか、文無しじゃあるまいな?」
「リ、リナ。お金は…?」
「えっと、今日の所は頭金だけ払って、残りは後日ってのは…」
「当然、一括払いだ」
ですよねー。
「食い逃げとは舐められたものだな。だが丁度、豚骨が切れていたところだ。文字通り、身体で支払ってもらうとしよう」
「ラーメン屋さんが放っていいレベルの殺気じゃないよォォ!?」
中華包丁を右手に持つおじさんは、言葉こそ落ち着いているものの、その圧は途轍もない! バゼットさんでも、ここまでの殺気なんて放ってなかったんですけどっ!! そ、そうだっ! リナだったら…!
「リナ! 反撃を…」
「ムリ。麻婆のダメージが、思いの外強くて…」
「のああああああっ!?」
確かにおじさんへのツッコミの時、スリッパ・ストラッシュは一回も出してなかったけど、てっきり場を弁えてるんだと思ってた。
「心臓よりも、肝臓や腎臓の方が高く売れると知っているか?」
「臓器密売!?」
「こっちの人達って、殺伐としすぎだよォォ!!」
「最後の晩餐が私の麻婆だったことを、幸運に思い逝くがいい…!」
「いやああああああ!!」
「どこが幸運じゃああああ!!」
わたし達が悲鳴を上げた、その時。ガラリと入り口の戸が開いて。
「こんにちはー。おじさん、やってるーっ?」
そう声をかけて入ってきたのは、2枚目のアーチャーの男の子だった。
そしてお店を出たわたし達。お金はアーチャーの男の子、確かリナが「ギルガメッシュ」って呼んでたその子に、立て替えてもらった。……だけど。
「せっかく立て替えてあげたのに、なんだってのさ」
そう言ってこちらを向くギルガメッシュくん。少し距離を置いて立つリナの、更に後ろに隠れるわたし。
「今回は服着てるのに、それでも隠れるの?」
「だ、だって、あなたって敵…でしょ? カードの英霊で、ミユを狙ってる…」
リナの後ろから顔を覗かせながら言う。面と向かって言う勇気は無い(キッパリ)!
「君がその話を蒸し返すのかい? 確かに僕たちは戦いあったけど、あれは君の勝利で決着が着いたことだろう? それに僕は黒い方の僕を尊重しただけで、僕個人は君と敵対する理由は無いんだ。
……だからさ。仲良くやろうよ、お姉ちゃん」
お、お姉ちゃん!!!?
「そ、そういう事なら、こっちとしても敵対する必要はないっていうか、立て替えてくれてありがとうとか思ってなくもないんだからねっ!」
「おまいはどこのツンデレだ」
「あはは。与しやすいってよく言われない?」
う。リナとギルガメッシュくんのツッコミがちょっとイタい。
「ところでもうひとりのお姉ちゃんは、どうして距離をとってるのかな?」
リナもお姉ちゃんって呼ばれて、少し照れてるみたいだけど、さすがにわたしみたいにはならないようだ。……って、言っててちょっと落ち込みそうになる。
「……まあ、ぶっちゃけると、近くに寄るとぶん殴りたくなるから離れてんのよ」
「ってリナ!?」
「それはまた、随分と乱暴だね」
ギルガメッシュくんの言うとおりだ。とはいえリナだって、ワケもなくそんな気分にはならないと思うんだけど?
「文句なら、何処ぞの世界のアンタに言って」
何処ぞの世界? あれ?
「ねえリナ。もしかして、それってここに来る前に、世界の狭間から見てた世界のこと?」
わたしは、ここにいるリナとは別の[スィーフィード世界]を見てたけど、リナももしかしたら、わたし達がいた世界やこことはまた別の[冬木]を見てたのかもしんない。
わたしのこの予想は、どうやら正解だったみたいだ。リナが「諦めました」って表情で、溜息をついたから。
「……本人の前で言うのもどうかと思うけど。あたしは[第五次聖杯戦争]が起きた世界を見てたのよ。イリヤもアイリさんから聞いたと思うけど、七騎の英霊を呼び出す方法のヤツをね。
で、その世界ではイリヤがバーサーカーのマスターでね…」
「ええっ!? わたしがマスター!?」
「そ。それでそのバーサーカーを倒したのが、もっと大人のギルガメッシュ。そして…、その後、イリヤのことも…」
え…。その世界じゃわたし、殺されちゃったの…?
「そういう事か。今の僕としてはとばっちりだけど、[英霊の座]では同じ僕だから、仕方がないとも言えるのかな」
「ま、あたしだって、アンタに当たっても仕方がないのはわかってんのよ。ただ、感情の整理にはもーちょい時間がかかると思うから」
そうだったんだ。うん。わたしが殺されたのはわたし自身複雑だけど、それも踏まえて穏便に済ませようとしてるんだから、リナってやっぱりすごいな。
「……ってまあ、それはそれとして。そーいうアンタはなにしてんのよ、ギルガメッシュ!」
「あ、そういえば。さっきもラーメン屋さんに食事に来てたわけだし」
「なんだか今更だね」
わたし達の言葉に、ギルガメッシュくんは苦笑いを浮かべる。
「そうだね。せっかく受肉したんだから、現代の生を謳歌してるといった所かな。幸い…と言うべきかはわからないけど、大人の僕と違ってそこまで傲慢じゃないし、僕のことは気安く『ギル』って呼んでよ」
これはありがたい。「ギルガメッシュくん」って、さすがにちょっと呼びにくいと思ってたんだよね。
「そんじゃあギル、ついでに尋ねたいんだけど。アンタ、エインズワースのこと知ってるわよね?」
「えっ!?」
ギルくんが…?
「ふうん、気づいてたんだ」
「そりゃあね。クラスカードは聖杯戦争に使用されるもの。そしてエインズワースは、聖杯である美遊をさらっていった。更にエインズワースには、クラスカードを使うドールズが最低3人もいる。
以上を踏まえると、この世界の聖杯戦争はエインズワースが興したと考えられるわ。なら当然、クラスカードを創ったのも…」
「ああ、エインズワースだよ」
そ、そうなんだ。
「それに更に付け加えると、アンタは美遊のことを理解していた。なら当然、エインズワースの事も理解しているはず。どう?」
「まったく、よくそこまで思い至れるね」
「あたし得意なのよ。鋭い推理ってヤツ」
いや。真面目にやれば確かに凄い推理力だけど、リナって普段面倒くさがって証拠集めとかサボるから、結構外れる事もあるんだけど。長年友達やってると、そういうトコも見えてきちゃうんだよね。
「それでどうなの?」
「ああ、お姉さんの推理どおりだよ。僕たちカードはエインズワースによって創られたんだ。……それで君達は、エインズワースの何を知りたいんだい?」
「そんなの、決まってんじゃない」
そう言ってリナはわたしを見る。もちろんわたしは頷いた。
「エインズワースがどこにいるか、よ」
「わたし達はエインズワースから、ミユを助けるんだ!」
わたし達の答えに、ギルくんはアハッと笑う。
「お姉さん達、ぶっ飛んでるね。相手がどれだけ醜悪で根深いか知ってるのかな?」
「んなの知らんけど、醜悪な存在なら前世で嫌ってほど見てきたわよ」
「そういえばお姉さんは、[シャブラニグドゥ世界]の記憶があるんだったね」
確かに。厳密にはこのリナとは別の世界だけど、わたしが飛び飛びで覗き見ただけでも、人間の憎悪を感じられるシーンはあった。実際はあれ以外でもたくさん、もっと酷いものも見てきたんだと思う。
「『美遊を助け出す』か。でも、どうやって? 見たところ、武器もろくに持っていない。僕のエアを打ち破ったステッキはどこだい?
もうひとりのお姉さんは[シャブラニグドゥ世界]の魔術があるけど、並みの術じゃ効かないし詠唱のタイムラグが長いよね? かといって、[
確かに、ギルくんの言うとおりだ。リナも渋い顔をしている。
「……でも!」
「……それでも!」
わたしとリナが声を絞り出す。すると。
「……うん。『でも』、『それでも』おもしろい!」
「「……え?」」
「行こうか。僕もエインズワースに、用がないでもないしね」
「案内、してくれるの?」
わたしとしては凄くありがたいけど、さっきまでギルくんは…。
「寂れて退屈なこの街に感謝しなよ。じゃなきゃ、僕もこんな気まぐれ起こさないよ」
気まぐれ…。でも、気まぐれでもいい。これで、ミユを助け出すための一歩が踏み出せる!
「僕と君達の目的は別だけど、目指す場所は一緒。
案内するよ。エインズワースの工房は、クレーターの中央にある!」
「そういえば、リナがお店の名前見て顔しかめてたのって、[麻]で[麻婆豆腐]を思い浮かべたからだったんだね?」
ギルを先頭に歩いてる中、突然イリヤがそんなことを言いだした。いくら話に目処がついたからって、なんちゅうタイミングだ。
「違うわよ。[
「あ、そうなんだ。じゃあ[麻婆豆腐]も…」
うみゅ。これはたまに勘違いされてるわね。
「[麻婆]はまた別よ。これは[あばた顔のお婆さん]って意味。そのお婆さんがお店で出してた豆腐料理が、お客さんから[麻婆豆腐]って呼ばれてて、今ではそれが一般名になったのよ」
「そ、そうなんだ。リナ、詳しいね」
何を言ってるのだ、イリヤよ。
「あたしが料理の由来に詳しいことに、何かおかしな事でも?」
「あ、それもそっか」
いや、そうすんなり納得されても、虚しいものがあんだけど。
そんな下らない会話をしながら、あたし達はギルの後をついて行くのだった。
今回のサブタイトル
Koi「注文はうさぎですか?」から
という訳で麻婆ラーメン回でしたが、田中がいなくても結構話が回る。リナが、お腹が切ない担当を担ってるからでしょうか。
因みに言峰が言っていた「先程の客」は、幕間で話に上がってた「凛ねえ」の事です。
次回「小さな檻の中と外」
見てくんないと、暴れちゃうぞっ!