Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ   作:猿野ただすみ

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久しぶりに遅れての投稿です(数分くらいなので投稿することにした)。


小さな檻の中と外

≪リナside≫

「はふぅ。コートってなんて暖かいんだろう」

 

イリヤが安堵の声をあげた。その言葉からわかるとおり、イリヤは今、ハーフコートを着ている。その理由は。

 

「薄着で寒がってる女の子を、放っておく訳にもいかないしね」

 

という訳で、ギルが買い与えてくれたのだ。どうしてこんな礼節のある子が、あんなオレ様キャラになっちゃったんだろう。

 

「……ねえ、今、失礼なこと考えてない?」

「今のあんたじゃなくて、将来のあんたの方なら」

「なるほど」

「納得するの!?」

 

あたし達の会話に突っ込むイリヤ。だがイリヤも、あっちのギルを目の当たりにしたら、納得するしかないと思うぞ?

 

「それよりお姉さんは、そんなものでよかったの?」

「ええ。あまり厚着をすると動きにくくなるし」

 

ギルの問いに答えるあたし。今のあたしは、下に発熱素材の肌着を着て上着、そして薄手のジャンパーを羽織った姿である。もちろんこれも、ギルが買い与えてくれたものだ。

 

「ま、今はそんなことより」

「そうだね」

 

あたしの言葉に、イリヤもうなずく。今、あたし達が立つのは、クレーターの淵。実際に近くで目の当たりにすると、途轍もないのがよくわかる。

 

「……なんだか、サイラーグで赤法師さんがやった術を思い出すなぁ」

 

むみゅ?

 

「イリヤ、どうしてそれを…って、さっきまでいた世界でも同じことがあったのか」

 

聞いてる途中で思い至ったあたし。サイラーグでコピー・レゾがあたし達に仕掛けた、強化版の爆裂陣(メガ・ブランド)で作り上げたクレーターは、確かにトンデモない威力だった。全く同じだったかはわからないけど、それと同じものを見たのなら、イリヤの言うことも納得ではある。

 

「そーいやあのおっちゃん、ガス爆発で出来たって言ってたけど…」

「ガス爆発? ふぅん。一応仕事してるんだ、あの人」

 

感心するギル。と言うか。

 

「仕事って事は、やっぱりあのおっちゃん、聖堂教会の監視者?」

「えっ、それってカレン先生と同じ!?」

「なんだ、気づいてたのか」

 

あたしの発言に、二つの反応が返ってくる。

 

「あたしが見た世界の冬木教会で神父姿をしてたし、あたしが聞いた、あたし達の世界で未然に終わった第4次聖杯戦争のキーマンのひとりが彼、言峰綺礼だったから。聖堂教会の元代行者…魔術協会の封印指定執行者みたいな存在だったって聞いてるわ」

 

実際は代行者と執行者は全く違う目的で動いてるけど、役割としては、まあ似てはいるし、イリヤに詳しく説明しても追っつかないだろう。

 

「なるほど」

「あのおじさん、だからあんな殺気放てたんだ」

 

ギルとイリヤがそれぞれ別のところで納得してる。

 

「それでギル、実際はどうして出来たわけ?」

「うーん。残念だけど、僕も概要を少し知ってるくらいなんだ。ただ、それでも言えるのは、聖杯戦争の失敗、その余波って事くらいかな」

「「なっ!?」」

 

その説明を聞き、あたしは切嗣さんの話、そしてあの世界で冒頭に見た風景を思い出す。だが、聖杯の泥で起きたあの災害は、クレーターなどは作っていなかった。

ならばこちらでは何が起きたのか。……残念ながら今のあたしでは、推測すら立てることが出来ない。

 

「……ま、いいわ。これ以上情報が無いなら、この話は一旦ここまでよ。それより今は、エインズワースの拠点へと行くこと! ……なんだけど。ねえギル。やっぱりこん中って、敵感知や侵入者避けの術なんか仕掛けてあるわけ?」

「もちろん。それを怠るようなら、魔術師として三流ですらないよ。この直径約2キロのクレーターの中は全て、エインズワースの索敵範囲内だよ」

「つまり、入ったら敵には丸分かり、こちらは身を隠す場所すら無い、ってわけか」

 

予想していたこととはいえ、なかなかに厳しいものがある。

 

「車みたいなものを全速で走らせたら…って、それでなんとかなるなら、リナは悩んでないよね」

「ご明察。その程度のスピードじゃ、あっという間に見つかって捕縛されるのがオチだよ」

 

むみゅうう。あたしひとりなら、見つかるの前提で翔封界(レイ・ウイング)で突っ込んで行って攻撃は躱していく、なんて手もあるけど、どのみちリスクは高いし、三人もとなると超低空で飛んでもスピードはかなり落ちてしまう。無い物ねだりはわかっちゃいるが、せめてルビーとはぐれてなければ。

 

「そうだなぁ…」

 

そう言いながら、例の波紋に腕を突っ込むギル。

 

「ヴィマーナがあれば一発だけど、……さすがにあっち持ちか」

 

ヴィマーナ? 確かそれって、伝承にある空飛ぶ乗り物…って、分離する前のギルガメッシュが乗ってたアレか!

 

「あれでもない…これでもない…」

 

そう言いながら、中から色んなものを引っ張り出しては放り投げてゆく。と言うか、この光景って。

 

「なんだか、未来のネコ型ロボットを彷彿とさせるわね」

「リナ。わたしも思ったけど、それは言わないお約束だよ」

 

あたし達がそんな下らないことを言っていると。

 

「お。うん。これでいこうか」

 

取り出したものを見て、ギルは言うのだった。

 

 

 

 

 

「ちょっと、どうかと思う」

 

イリヤは言った。あたしも同感である。

 

「童心に返って電車ごっこっていうのもオツじゃない?」

 

そう返すギル。そう。あたし達は今、ギルが取り出した[身隠しの布]というアイテムで輪っかを作り、その中に入って、電車ごっこ状態でクレーターの中を移動しているのだ。まだ小学生とはいえ、さすがに5年生がやる遊びではない。いや、まあ、遊び目的でないのはわかってるのだが。

 

「……確かに、アイテムの効果で敵に見つかってはいないみたいだけど、さすがにこれは恥ずかしいわよ」

「はは、そういう羞恥心も、時が経てばいい想い出になるかも」

「「いや、絶対に黒歴史だと思()」」

 

あたしとイリヤのセリフが綺麗に重なった。

 

「まあ、意見は人それぞれだけど。でも、効果は抜群だよ。リナさんが言った通り、奴らが気づいた様子は全くないでしょ。

この布に括られたものは、魔術的、視覚的に完全な隠匿状態になる。相手が魔術に頼ってる限り、僕らを感知することは出来ないよ」

 

なるほど。しかし、という事は、である。

 

「つまりそれ以外の感覚…、触覚や聴覚では認識されるって事ね?」

「その通り。だから拠点に乗り込んだら、大きな音を立てないように気をつけてね?」

 

 

 

 

 

「なッ、なにモゲ…」

 

大声を上げそうになったイリヤの口を、その後ろにいるギルが慌てて塞いだ。とはいえ、イリヤが大声を上げたくなる気持ちはわかる。

あたし達は今、エインズワース家の中庭にいる。そこは草木が生い茂り、青空が見える、暖かな陽射しのお城の前である。

ギルの説明によると、彼らが外からは見えないように隠しているって事らしい。なんだかとんでもないことだが、果たして人間の能力で、これだけのことが出来るのだろうか。何かカラクリでもあるような気がするのだが。

 

「……さて、どうしたものかな」

 

建物の外周を探索しながら、ギルが呟いた。

 

「さすがに正面玄関から入るのは不味そうだし、お城の中にミユがいるとは限らないよね?」

 

ふむ。イリヤもしっかり洞察できているようだ。

 

「ま、定番なら離れの塔に閉じ込められた、憐れなお姫様って展開かしらね」

「定番っていうか、お約束だね」

 

あたしの意見に、呆れつつも納得するギル。とはいえ、お約束も侮れないものだ。選択肢として確保しておくべきだろう。

そんな事を考えていた、その時。目前の扉が開き、美遊をさらっていった人物のひとり、金髪ツインテが現れた!

あたし達は壁伝いに横一列に並び、息を殺してやり過ごそうとする。

次の瞬間、腰に差したナイフを引き抜き。

 

がっ!

 

真横に振るった刃が、イリヤの頭のすぐ上、城の壁を引っ掻いた。あ、あぶねー。

 

「……何もない、か。麻婆の匂いがしたのだが…」

 

そう言って去って行く金髪ツインテ。……って、嗅覚のことを忘れてたあああ! それにつけても、おのれ言峰!

 

「やれやれ、危うくゲームオーバーだったね」

 

ホントに、あたし達が小学生だったから助かったよーなもんだ。前世のあたしは、ガウリイと出会った頃でもけっこお背が低かったが、それでも今のイリヤよりかは背が高いので当然アウトである。

いや、今はそんな事より。

 

「ねえギル。あの金髪ツインテって、ベアトリスと同じドールズよね?」

「なんだ。あの子とはもう会ってるのか。うん、そうだよ。ドールズは、エインズワースが使役する傭兵みたいなものさ。エインズワースの邪魔をするなら、必ず立ちはだかる相手だよ」

 

ふみゅう。なかなかに面倒な相手のようだ。

 

「……ねえリナ、ギルくん。この先、怪しいと思わない?」

 

イリヤが扉を見つめながら言う。ふむ、確かに。ギルも同じ意見のようだ。ならば当然。

 

「……行ってみよう!」

 

あたしが口にするより先に、あたしが思ったのと同じことをイリヤは言うのだった。

 

 

 

 

 

「どうなってるの? 本当にここ、冬木市?」

 

さっきも似たようなことを思ったけど、イリヤの疑問はもっともであった。何しろ。

 

「なんか、ローマの地下水路って感じね」

「まったく、()()()()()()()()()()()()

 

といった感じだからだ。しかしギルの今のセリフ。持ってきたっていうのは一体…。

 

「……ハズレかな。こんな所にミユがいるとは思えないよ」

 

イリヤが言う。確かに、エインズワースにとって大事な聖杯である美遊を、この様な場所に閉じ込めるとは思え…をや?

 

「ちょっと待って」

 

あたしは意識を研ぎ澄ませる。……あたしには、ガウリイの様な達人クラスで気配を読むことは出来ない。しかし、一般人が気配を消さずにいるのなら、意識さえすればそれを感じることが出来るくらいには、気配を読むことが出来るのだ。

 

「……向こうの扉の奥に、誰かいるわ。ただ、何となくだけど、美遊じゃない気がする」

 

最後のは気配を読んで、というよりも勘で言っているのだが、あながち間違ってないと思う。

 

「どうするかは二人に任せるよ」

 

ギルは早々に選択を放棄する。あたしの心は既に決まっている。だが、それでもあたしはイリヤに尋ねた。

 

「イリヤはどうしたい?」

「わたしは…」

 

イリヤは一瞬だけ考えてから、はっきりと答えた。

 

「その人に会うべきだと思う。敵か味方か、あるいは一般人かも知れないけど、私達にとっては大事な情報源だと思うから」

「……オッケー。それじゃあ会いに行きましょうか」

 

そう言いながら、あたしは嬉しい気持ちを押し隠す。イリヤの答えは、あたしが考えていたことと同じだったから。

 

 

 

 

 

扉に近づいてハッキリしたのは、それが牢獄のそれらしいということだった。ご丁寧にも、大きくて頑丈そうな錠前が二つも付いている。つまり、少なくとも中の人物は、エインズワース家にとっての敵に当たる可能性が高いという事だ。

 

「……あの、誰かいますか?」

 

イリヤが尋ねる。しばらく沈黙が流れ。

 

……誰だ?

 

中から掠れた声が返ってきた。

 

「男の人の声?」

「やっぱり別人だったみたいだね」

「それにしても、随分と掠れた声ね」

 

あたし達はそれぞれに思いを述べる。

 

エインズワースの人間じゃ…ないな…。お前達は、何者だ…?

「わたし達は、友達を助けに来たんです!」

とも…だち…?

 

イリヤの返答に、再び疑問で返す男の人。あたしは、ある可能性を思い浮かべながら言った。

 

「美遊です」

……!

 

息を呑む気配がする。そして。

 

ははは…。そうか、願いは叶っていたんだな…。

……俺は、美遊の兄だ

 

……やはり、そうか。彼は…。

 

「君か…! 驚いたよ。まさか、まだ生かされてたなんて!」

「ギルくん?」

 

驚くギルに、それを疑問に感じているのだろうイリヤ。それはあたしも同じだが、どこかで繋がりがあるか、あるいはカードの状態でありながら、外の様子を把握していたかだろう。こっち(子供)のギルはわからないが、あっち(大人)のギルガメッシュなら、そんなインチキをやりかねないし。

 

お前は、誰だ…? 俺を知っているのか…?

「知っているよ。初めましてだけどね」

 

どうやら後者の可能性が高そうである。

 

「あの、ミユのお兄さん。どうしてこんな所に閉じ込められてるんですか?」

……俺は、失敗しちまったんだ

 

イリヤの問いに、彼は答える。

 

美遊を取り戻すために、俺はエインズワースと戦った。使えるものは、なんだって使ったさ。そうして美遊を、このクソッタレな世界から解放してあげられたんだ。……なのに…美遊はまた、戻って来ちまった…。ああまでしても、運命の鎖からは、逃げられなかったんだ…

 

……運命、ね。

 

俺が、最低の悪だって事はわかってる。……だけど、それでもどうか…。頼む! 美遊を…救ってやってくれ!

 

彼の切実な想いが伝わってくる。

 

「……運命っていうのがなんなのかはわかりません。ミユは、過去のことを話してくれなかったから。ミユが、ここまでとんでもない何かに囚われてるなんて、知らなかったから。

……わたしが知ってるミユは、喋るのが苦手で、表情があまり読み取れなくて、何を考えてるのかわからなくて、……最初はちょっと、怖かった。

でも、今ならわかる。ミユはただ、すっっっごく不器用なだけ。

不器用な表情の向こうに、ミユの不器用な気持ちが隠れてた。友達になろうって言ったわたしに、命懸けで応えてくれたんです。

運命とかこの世界の事情は、まだよくわからないけど、わたしにとってはそれだけで充分。友達だから助ける! ミユを不幸にする人は、絶対に許さない!」

 

イリヤ…。

 

「その論理がどこまで持つか…」

 

ぼそりと呟くギルの言葉を、すこぶる性能の良いあたしの耳は聞き逃さない。

 

「確かに困難かもしんないけど、可能性は0ではないんじゃない?」

 

あたしが同じ様に呟くと、ギルは驚いた表情であたしを見た。

 

「……ホント、面白いお姉さんだね」

「そりゃどうも」

「え? え?」

 

突然、普通の声量で言い合うあたし達に、イリヤがキョトンとしている。まあ、それは置いといて。

 

「さて、美遊のにーちゃん。あたしからも言わせてもらうけど、今の美遊は、運命に抗うことを諦めちゃいないわよ。なら、兄であるあなたも諦めちゃ駄目よ。あなたが諦めたら、きっと美遊は幸せになれない。あたし達は美遊の友達ではあるけど、美遊の兄はあなたしかいないんだから!」

……! けど、今の俺は…

 

ハッとする気配は感じたものの、それは一瞬だけ。牢獄に封じられた身では、出来ることも無いと思ったのだろう。

 

「確かに、今のあたし達じゃ、あなたを助け出すことは出来ないかも知れない」

 

これは牢獄から出せない、という意味でなく、出せても、今のあたし達では守り通すのは難しいという意味だ。おそらく彼があたしの予想通りの人物なら、あるいは戦うだけの力があるのかも知れないが、この声からも疲労の激しいのがわかる。そんな人物に、無理を強いることは出来ないだろう。だが、あたしが言いたいのはそこではない。

 

「でも、希望を捨てないことは、どんな状況でも出来るわ。それなら今は何も出来なくても、最後の最後まで希望を持ち続けることが、今のあなたに出来ること。エインズワースにひと泡吹かせたいなら、必ず生き抜いて、美遊と一緒にあなたも幸せになることこそが一番なのよ!」

 

あたしの意見に、しかし彼は。

 

……だが、悪である俺が、幸せを望むなんて事…

 

……まったく。

 

「そんなら、あたしが許す!」

……!?

 

扉の向こうから、驚く雰囲気が伝わってくる。さらに。

 

「わたしだって、同じだよ! ミユのお兄さんは、ミユのために戦ったんだから、ミユと一緒に幸せになる権利はあるはずだよ!」

 

イリヤもまた、彼を受け入れた。

 

……まったく、君達は…

 

呟くように言う彼の声に、僅かながら力が戻る。そう感じたその時。

 

「イリヤッ!」

 

小さく叫んでその手を引き、飛び退いた直後。

 

ばきゃあああん!!

 

乾いた音と共に、ギルが目前に張った防御結界が破壊される。

 

「な、なに!?」

 

突然の出来事にイリヤは驚き、ギルは。

 

「危ないなあ。不意討ちなんて、小者のすることだよ」

 

呆れたように…いや、呆れて言った。

 

「どうやって侵入したのか答えろ」

「……結構、複雑な気分だよ。僕がその姿に相対するなんて」

 

その疑問に、ギルは答えようとはしない。

 

「答えぬのなら、ひとりずつ殺していく」

 

アーチャー(ギルガメッシュ)]のカードを夢幻召喚した金髪ツインテが、複数の金色の波紋から武器を覗かせ、そう脅しをかけるのだった。




今回のサブタイトル
新井素子「大きな壁の中と外」から

読んでわかるとおり、リナは美遊兄が何者なのか当たりをつけてます。まあ、イリヤ世界で美遊自身がバラしてるようなもんですが。どうしてイリヤは気づかないのか(特に声の枯れてないTV版)、むしろそっちが謎ですね。

次回「魔法少女イリヤはうつむかない」

見てくんないと、暴れちゃうぞっ!
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