ありふれているさよなら   作:ひらそん

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短編集と言っておきながら延長戦を始めましょう。
はじまりとおわり、おわりとはじまり。


メモリーロード

仕事で出身大学の近くに来た。

あの日から忙殺の日々で過去を見に行く余裕が出来た今はもう桜が咲く季節になってしまった。

思い出させる出来事もなくまぁ平和な日々でもあったのかもしれない。(もっとも精神的には平和ではなかったが)

駅前の古本屋であったコンビニの角を冷めた目で見つつ曲がる。

そこには去年と変わらない左右の淡くとも幸せそうな色に染まった木。

「静」の美としては文句のつけようがない景色である。

しかしこれは懐かしい思い出を切り取った様な、何処か足りないものだった。

「静」の間からは僅かに歴史を感じる色の建物が見える。

これまた静だが壁には工事用の足場を組み立てている作業員が見える。

 

駅の古本屋も大学の校舎も、静かなうちに思い出は変わってしまう。

私たちの思い出が変わるように。

 

 

私は鞄から一眼レフを取り出し桜と桜の隙間から僅かに見える校舎を切り取った。

なんだかそのうちこの風景は無くなり思い出からも消え失せる様な気がしたのだ。

望遠レンズを付けていたのでファインダー越しには目で見た風景を圧縮した様な画が映る。

桜からのぞいてくる校舎は結界の切れ目から見える夢(あちら)の世界のようだ。

あの子の眼にはこの様に結界の境目が視えたのだろうか。

蓮子は段々と"ファインダーから見える結界"に夢中になる。

 

 

蓮子はシャッターを切る。

「静」には静が持ってこいだろう。

 

しかし物理では到底分からない動きもある。

 

 

 

「蓮子」

 

 

 

懐かしい響き。

確かに後ろにいる。

零れないよう上を向く。

そして

 

 

 

「メリー」

 

 

 

とだけ返す。

解散の時はお互い桜のように綺麗に散ったがやはり晴れても解けきれないモノは残っていた。

 

蓮子は零れるモノをしっかりと整理して前を向く。

 

「静」であった桜は見えない風に吹かれて舞い散る。

さっきまで見ていた結界は境目が分からなくなった。

もう思い出の結界は必要ない。

 

後ろを振り向くとあの時の様なシュチュエーション。

淡くとも鮮明な花びらが過去と今を同調させる。

 

記憶の道、未知の記憶。

風が止むと淡いメリーが現れるだろう。

一年前より老けているかもしれない、また一段と大人になっているかもしれない。置いてかれる不安を感じる。

しかしずっと心の底にあった不安は今期待に変わり、期待は今幸せに変わろうとしている。

 

風の音が止む。

桜のカーテンはが舞い降りる。

 

今、私は「動」を感じる。

それは舞い散る桜の花びらでもあるし閉じた結界でもある。

自分の心臓でもあるし近くで吹いている風の音でもある。

 

一年前に感じた「動」である。

 

ひとつ違うのは"おわり"ではなく"はじまり"であるという事だ。

 

さぁ、再びはじめましょう。

 

 

「メリー」

 

「蓮子」

 

 

 

幕が開いた。




はい、解散の続編を書かせていただきました。

まぁ今ネタ切れ感を完全に受けておりますがなんとか短編集を続けたいと思います。

まぁこの回の解説は要らないかな。
だってこれ自体が補足みたいなものですから。


さて、前回の逃避についての私なりの解釈を。

まず誰と別れたのかといいますと現代社会ですね。
いわゆる現(うつつ)の世界。
西東京郊外という若干の土地勘があるエリアを具体的に出させていただきました。
先進的な都市と原風景が入り混じる東京郊外、悩みを中高生なんてニュータウンのどこにでもいそうですよね(いるよね?)。

三毛猫は別れを強調する為に置いたオブジェクトの様なもの。

諏訪子様出すなら長野でやれとか色々思われた事はあると思いますがあんまり田舎過ぎても早苗を取り巻く変化が少ないと思ったので..

まぁ関東民からすると八王子とかあの辺は甲信越への玄関口的なものなので多少は意識してます。

次回は逆パターンもアリかななんて思ってたりするのでホントに出るかも()

次回も読んでねー。

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