東方仮面ライダーパラドクス GAME IS ANOTHER STAGE   作:桐生 勇太

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 すみません。切りどころが分からず、今回は約7000字といつもの3~4倍くらいの文字数になってしまいました。
 長いですが、そこんところよろしくお願いします。


第10話:充実した日々と、妖夢の異変

 あれから一週間が経った。

 

 妖夢は、経験がなく物を教えることに慣れていない俺のつたない指導にも全力で応えている。根が真面目なのだろう。俺自身も素直に努力を重ねる彼女の姿に煽られ、ついつい気合が入りすぎてしまう。

 

 日が昇るより2時間ほど前、にわかに空がうっすらと白く染まる時。俺はいつもその時間に起き、一度全裸になって厨房裏の井戸から汲み上げた冷水を頭からかぶって一日の始まりの気合を入れ、すぐに服を着て妖夢の部屋へと向かう。

 

「起きろ、妖夢。稽古を始めるぞ………って………起きていたのか」

 

 妖夢は既に起床しており、自分の布団をたたんでいる真っ最中だった。

 

「いえ、今起きました。支度をして、すぐに庭へ向かいますので…」

 

「分かった。先に行っているぞ」

 

 初日に起こした時は「まだ日も登ってませんよ!?」と驚かれたが、最近はすぐに起きて行動が始められるようになった。いい傾向だ。

 

庭で準備運動をしていると、妖夢が庭へ飛び出してきた。

 

「すみません! 遅れました!」

 

「いや、いい。この時間からなら十分だ。………さて、今日は基礎体力を向上させることに重点を置く。刀は一旦置いておけ」

 

「はい!」

 

 ハキハキと素直に言うことを聞くから、こちらとしても指導のし甲斐があると言うものだ。屋敷の縁側に刀を置いた妖夢が戻ると、俺は今日の稽古の内容を伝え始める。

 

「昨日も言ったが、お前の細腕では接近戦での打ち合いになった時に力負けしてしまう。そこで、それを補う力が必要だ。お前に最も適しているのは、やはりフットワークと持久力だと思う。出来る限り早く、細かく相手の周囲を動くことで自分なりのスタイルを目指せ」

 

「はい!」

 

「そのため、まずは走り込みから行う。幸い、ここ白玉楼の階段はバカ長い。階段ダッシュを上り下りの往復2周行う。自主的に初めから終わりまでの時間を数えておけ。それが終われば次は5分間の休憩をはさみ、反復横跳び10分間を6セットだ。俺はもう準備運動は終わっているから先に行く。準備運動が済み次第、お前も合流しろ」

 

「はい!」

 

 果てが見えないほどの階段。少なくとも20km以上はあるだろう。これを出来る限り高速で往復する。

 

20分程走り続けると、ようやく最終段が見えてきた。石の階段を下りきり、足の裏が地面と触れた瞬間にすぐ反転する。次は登り。足を踏み外すと落ちかねない下りと違い、上りはただ単にきついだけだから気が楽だ。まあ、もっとも………

 

「上が霞んで見えんな………」

 

 この果てがないように見える階段を上りきって、さらにそこからもう一往復。

普通の人間であれば、往復どころか片道だけで心が挫けそうな内容だが、幸い俺も妖夢も並ではない。

中腹あたりまで登っていくと、上から妖夢が降りてきた。すれ違いざまに、一応注意を挟んでおく。

 

「飛ばさずに一段一段丁寧に降りろ。そうした方が効率もいいし、何よりも足を細かく動かせるようになる」

 

「はい!」

 

 しかし………速いな、妖夢の奴。次に降りる頃には追い付かれそうだ。やはり、間合いをつぶす脚力やフットワークの軽さに関しては天性のものがありそうだ。

 

「………ペースを上げるか」

 

 一応俺は妖夢のアドバイザーを買って出た身。あっさり追いつかれたら面子も何も無くなる。先ほどよりもより大きく両手を振り、より足を上げる。

一気に速度を上げた影響で、体に風を切る感覚がより強く感じられるようになった。

頬をくすぐりながら抜けていく風が心地いい。

 

 速度を上げたおかげか、5分弱ほどで最上段までたどり着いた。

これならば追いつかれる心配も無いかと高をくくり、余裕で反転すると………

見下ろす限り見下ろして、かなり下の方、豆粒ほどの大きさに見える妖夢がこちらへ向かってものすごいスピードで駆けあがってきていた。

 

「な………何と言うスピードだ………!」

 

 冗談じゃない。階段の真ん中ほどですれ違ってから、まだほんの5分しかたっていないはずだ。

片道約20kmほどと考えて、締めて30kmを5分で走破したと言うのか。

 

「くっ………!」

 

 可能な限りの最速で走り出す。下らんプライドかもしれんが、ここであっさり追い抜かれるのは絶対に避けたい。

 

 全速力で走り続けるが、最上段まで一気にのぼり、馬鹿げた速度で駆け下りてくる妖夢の気配が後ろに迫ってきているのがわかる。

真横に妖夢の気配が並んだと思った、その瞬間、妖夢の気配がぐんと遠くへ離れていった。

 

「抜か………れた………? ………いや、妖夢の気配は後方………」

 

 恐る恐る振り返ると、バテてしまったのか、先ほどまでの半分以下のスピードまでに落ちた妖夢が息を荒くしてあえいでいた。思わず足を止め、妖夢の方向へと逆走する。

 

「大丈夫か?」

 

「は………はい……ハァ…ハァ……何とかグラファイトさんに追いつこうと頑張ったんですけど…ハァ………体力が………持ちませんでした………ハァ…ハァ……」

 

「自分のペースで走ればいい。まずはゴールまで足を止めないことから始めろ。良いな?」

 

「はい………ハァ…ハァ………すみません………」

 

「今は、取りあえず歩いてでもいいから完走を目指せ。俺は先に行くぞ」

 

「はぃ………」

 

 消え入りそうな声を出し、早歩きほどの速度で妖夢が進みだしたのを確認して俺は走り出した。

………自分のペースで走れなんて偉そうなことを言ったが、俺自身のペース配分もメチャクチャだったことは、妖夢には秘密にしておこう。

 

 再び階段を下りきってまた昇っていると、普通の人間のランニングほどの速度で駆け下りている妖夢とすれ違った。

 

 ………回復力も並ではないな………あの様子だと、小走り程度の速度なら一昼夜ほど動き回れそうだ。………後は、全力での動きをどこまで持続できるかだ。

 

一足先にゴールし、柔軟体操をしていると妖夢が昇ってきた。立ち上がって次の指示を飛ばす。

 

「十分間の休憩だ。すぐに運動を辞めると負荷がかかるから、軽い早歩きを1~2分ほどしておけ。柔軟体操が終われば、座って休んでいろ。俺は反復横跳び用に線を引いておく」

 

「はひぃ………」

 

 今にも倒れそうな様子の妖夢を置いて、手ごろな棒を使って庭にガリガリと線を引く。本来こういった美しい和式の庭の地面をいじくるのは気が引けるが、残念ながらテープも練習に丁度よさそうな板の間もない。後でしっかり綺麗に元に戻すからと心の中で言い訳をしつつ、三本の線を引いた。

 

「よし………時間にはまだ早いが、先に妖夢に説明だけしておくか」

 

「抜重………ですか?」

 

「そうだ。古武術によく使用される移動法で、地面を「蹴る」のではなく「倒れる」力を使って無駄なく移動するための技術だ」

 

 簡単に説明すると、肩幅に足を開いた状態から普通のサイドステップを行う際に、大抵の人間は地面を蹴って移動する。

右側に行くのならば左足で地を蹴り、左に行くなら右足で、と言った具合だ。

 

 しかし、この移動法にはかなりの無駄が存在する。

それは、「足で地を蹴る時間」と「その蹴った力が体に伝わるまでの時間」と言う二動作が必要不可欠なのだ。

 この二つの無駄を省く手段が、前述した「倒れる」と言う動作になる。

右側に移動する際、右足を一気に持ち上げると、二本の足で体を支えていたために必然的に体は右に向かって傾き、倒れそうになる。この動作の事を「足を抜く」と称す。

その倒れる力を利用し、また一瞬だけ右足で支えては右足を浮かせて移動する。

動きやすくするためにも、当然右足は後ろに軽く下げる程度に、反時計回りの円を描きながら移動するのが理想だ。

 こうすることで、最初手から「地を蹴る」→「力が体に伝わる」→「移動開始」の手順をすっ飛ばし、「足を抜くことで移動開始」と言う一つの挙動で動くことができる技術だ。

 

「そんな兵法が………! それをすれば、高速で動けるんですね!」

 

「いや、普通に横飛びをするのと大して変わらん」

 

「あれ?」

 

「このやり方は、最初の動作が「若干早くなる」のと「移動するのにたいして体力を使わない」と言う二点だけだ。だが、互角の力量の相手と戦う際、その「ほんの少し速い動き」と「ほんの少しケチった体力」で差が付く。覚えておいて損はない」

 

 いくら地味でも、基本中の基本でも、極めれば開けるものがある。

先ずは基本やちょっとしたテクニックからやっていけば、極めた基礎が応用を行う時により完璧なものへと導くだろう。

 

「基本の素振りや型、基礎体力と同じだ。基本を手を抜かずにやった者が最終的に真の強者になる。一からお前のすべてを見直すぞ」

 

 妖夢に簡単な抜重のやり方を説明し、反復横跳びを行った。

新しい初動を教えたために始めこそたどたどしかったが、やがてスムーズに速く動けていた。やはりと言うべきか、踏み込みや間合いの掌握、短~中距離の高速移動は天才的なセンスだ。

 

 もっとも、最後のラスト2セットほどにへばり始めてしまったが。

………継続的な走り込みを毎回メニューに取り込んでみるか。

 

「よし、早朝稽古はここまでだ。ここからはお前が俺に指示をくれ」

 

「はい。ではこれから、いつもの通り幽々子様の朝食を作ります。幽々子様のお食事が済み次第、私たちの朝食を開始します。食べ終わったら、幽々子様と私たちの分の食器を洗って、それからお庭の手入れ、お屋敷の廊下を雑巾がけし、最後に小物類を磨きます。終わるころにはお昼なので、幽々子様の昼食、私達の食事、食器洗いを済ませれば、あとは自由時間となります」

 

「分かった。では午後からも稽古を入れよう。昼食を取った1時間後に開始だ。午後には実践方式の稽古を行う」

 

「はい!」

 

 使用人としては妖夢が俺の先輩であり上司、しかし剣術では俺が指導役兼監督役。何とも奇妙なことだ。

 

そして、午後の稽古を、日が暮れるまで行い、夜の幽々子の食事を作り、俺たちも食事を済ませて就寝。そして、日が昇るよりも早く、再び早朝の稽古を始める。

 

――――――――――――――――

――――――――

――――

――

 

「妖夢、稽古を………」

 

「おはようございます! 支度はもう済んでますので、行きましょう!」

 

「………徐々に早いな」

 

――――――――――――――――

――――――――

――――

――

 

「昨日は足腰を酷使しすぎたから、今日は腕立て、腹筋、体幹トレーニングを重点的に………」

 

「はい!」

 

「腕立ての一番きついポイント、腕を曲げきる中間で20秒停止しろ。その腕立てを50回だ」

 

「は、はいぃぃ………」

 

「よし、では次、腹筋の………って、大丈夫か? 50は多すぎたか………少し休め。10分間の休憩にする」

 

「………うひぃ……………」

 

――――――――――――――――

――――――――

――――

――

 

「グラファイトさん、どんどん食材を運びこんでください!」

 

「あ、ああ………この大量の食材、つまり今日は………」

 

「週に一度の大食い日です!」

 

「………午後の稽古を少し削るぞ。これは………時間がかかりそうだ」

 

――――――――――――――――

――――――――

――――

――

 

「そういえばグラファイトさんってお庭のお手入れ、手慣れているようですけど………」

 

「ああ………一応、ガーデニングの経験はあるような無いようなものだからな………もっとも、和式ではなく洋式だが………」

 

「なんだか意外ですね~」

 

「そ………そうだな………」(もっとも、俺が感染していた女の記憶だよりだが…)

 

――――――――――――――――

――――――――

――――

――

 

「刀の構え、やって見せろ」

 

「こ、こうでしょうか………?」

 

「そうだな………もう少し腰を下ろしてみろ。踏み込み具合は変わるか?」

 

「あ、少し速度に乗りやすいです」

 

「ならばそれに合わせて構えを………」

 

――――――――――――――――

――――――――

――――

――

 

「前への移動は早くなったが、左右への移動速度が落ちたな………また構えを見直してみるか」

 

「う~ん、もうちょっと私の足が長ければ助かるんですけどね~」

 

「足の長さか………待てよ、大股に足を開いて開いた足を抜重として利用すれば………」

 

「あ、初速が乗るおかげで速く左右にも動けます!」

 

「うん………よし、これで行こう」

 

――――――――――――――――

――――――――

――――

――

 

「さて………水浴びの水も乾ききった。妖夢を呼びに行くか………」

 

「グラファイトさん、おはようございます!」

 

「おお、とうとうここまで来たか………」

 

 最近、妖夢が俺に合わせようとしてかどんどん起きる時間が早くなっている。

朝一の行水を見られては困るし、明日はいつもより少し早めに起きるか………

 

 などと考えていたが、甘かった。

 

「グラファイトさん、おは………!!!!!!!!」

 

「ん?」

 

 いつもより30分程早く起きて行水を行っていたが、それでも足りなかったようだ。幸い背を向けている体勢だったが、少なくとも全裸の男の背中を見られたことになる。

 

「………目汚しをしたな………すまん、一日の気合を入れるために、毎朝ここで水浴びをしていたのだ………って、妖夢?」

 

 妖夢は顔を真っ赤にしながらしばらく棒立ちしていたが、やがてそのまま糸が切れたように倒れこんだ。

 

「お、おい! 妖夢!? 大丈夫か!?」

 

 結局妖夢は目を回してしまい、朝の稽古は中止となった。

 

昼の少し前に目を覚ました妖夢は恐縮していたが、妙なものを見せてしまったのは俺の方だから気にするなと言い、そのまま午後の稽古は行うことにした………のだが

 

 

「長刀と短刀、それぞれには長所、短所がある。長刀はリーチが長く、一撃が重い分小回りが利きにくい。短刀は小回りが利き、連撃を比較的安価に繰り出せるが一撃の重さとリーチに欠ける。この二つの……………? おい? 妖夢、聞いているか?」

 

「…………………」

 

「おい! 聞いてるのか!!?」

 

「みょん!? は、はい! 済みません! も、もう一度お願いします!」

 

 妖夢は、ぼーっとすることが急に増えた。こちらの話を聞いていなかったり、よそ見をしていて怪我をしそうになるなど危なっかしい面も見え始めた。

 

本人は何もないなどと言っているが、何もないとは思えない。しかも………

 

「妖夢、起きろ。朝だ。稽古をするぞ」

 

「ううん………むにゃむにゃ………」

 

「………………」

 

 前まで少しでも早く稽古を始められるようにと早起きに精を出していたのに、今では毎日寝坊する体たらく。しかも、こっちが揺さぶってもなかなか起きない。

 

「………遅い………」

 

 階段の走り込み。初めのうちは順調に記録が伸び、ゴールまでの時間が短縮されていたのだが、最近は記録が壊滅的だ。前までは俺がゴールした後の10分以内には必ず終えていたのだが、今回は俺がゴールしてからかれこれ30分。一向に昇ってくる気配がない。

 

「途中でトラブルでも起きたか………? 降りてみるか」

 

 階段を下り始めてから10分。一向に妖夢が昇ってくる気配がない。よもや、階段から滑り落ちて大怪我でもしたのではないかと焦り始め、大股で階段を駆け下りていると、中腹あたりで階段の端にうずくまっている妖夢の姿がぼんやりと見え始めた。

 

 やはり何かあったのか、俺はさらに少しでも速く向かおうと強く階段を蹴ったが、近づき続けていると途中でとんでもないことに気付いた。

 

 妖夢は、階段の脇に生えている花を摘み取っていじくっているではないか。

 

「妖夢!! 何やってる!!!!!」

 

「へ? ぐ、グラファイトさん!? あ、あの………これは………」

 

「あまりにも遅いから心配して来てみれば、お花摘みとはな………!」

 

「す………済みません! ごめんなさい!!」

 

 妖夢は涙ながらに必死で謝罪し続けていたが、こんな調子が続いてしまっては稽古がまるで進まない。

 

「………もう今日の稽古は終わりだ。午後も中止にする。………明日も、一日休んでいろ」

 

「…! そっそんな!? だ、大丈夫です! もうさぼったりはしません! で、ですから…!」

 

「どうもここ数日、お前は稽古に身が入っていないようだ。俺も少し稽古に根を詰め過ぎたかもしれん………今日明日は、ゆっくり自室で休んでいろ」

 

「ま、待ってください! グラファイトさ………」

 

「いい。何も言うな。………話は終わりだ。少し早いが………朝食にしよう」

 

「そ、そんな………」

 

 考えてみれば、俺も最近妖夢にかかりきりで自分の修行が疎かになっていたかもしれん。いい機会だ。今日明日は、自分の稽古に取り組むとしよう。




お読みいただきありがとうございました。
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