東方仮面ライダーパラドクス GAME IS ANOTHER STAGE 作:桐生 勇太
グラファイト視点
「剣術では俺の完敗だ。………よくこんなバカげた取り組みに付き合ってくれたな」
実際問題、あのまま犬走が退いて、「何と言おうが剣術で勝ったこちらの勝利」と言ってしまえば俺の敗北は動かなかった。
素手で戦いを続けるなどと明らかに無謀な宣言に付き合ったばかりに結果的に負けることになったのだ。
「いえ……相手の秀でた物を超えてこその勝利ですから。あのまま戦っていてよかったです。武器術とはまた別の、素晴らしい技術を体験できました」
「そうか………それは何よりだ。………遅くなってしまったな。せっかくだ、泊って行け。屋敷の主には俺から頼んでおく」
気が付けば、いつの間にか日は傾き、夕日が淡く沈み始めている。剣術の話もしたいし、どうせなら泊っていってもらおう。
「いえ、それは流石に………」
「いや、この際言うが、まだ帰ってもらっては困る。………厄介な天狗を捕まえるためにもな」
小声で最大の目的をつぶやくと、犬走は「あ…」と納得したように声を漏らし、「そう言うことでしたらお世話になります」と少し大きな声を出した。
妖夢に「お前の刀とあと手のひらほどの石、そして手ごろな棒を持ってきてくれ」と頼むと、何かよく分かっていないようだったが「はぁ…?」と駆けだしていった。
「どうやって捕まえるつもりですか?」
「なあに………向こうから来てもらうまでだ」
妖夢が持ってきた棒を受け取り、犬走には先に屋敷に入っておくように促す。
「妖夢、すまんが持ってきてくれたその石を上に放ってくれ。放り投げたらすぐに刀を抜いて準備しろ」
「え?……はい。じゃあ…いきます! えいっ!」
妖夢が上に投げた石が重力に引かれ、吸い込まれるように落下する。
目の前を石が通り過ぎようとしたその瞬間、庭の木々の中の一本にしっかりと狙いを定め、勢いよく棒を振って石を打ち出した。
葉に覆われた木の中に吸い込まれる石。
直後に響く何かが割れる音と、同時に轟く「あや~~!!!!?」と言う悲鳴。
「ホームラン、と言ったところか」
直前まで何をさせられているのか分かっていなかった妖夢は小さな声で「あ、なるほど」とつぶやいた。
木から人間のシルエットをしたものが転がり落ち、そしてすぐに立ち上がってこっちに走ってくる。
どうやら件の文屋は女だったようだ。
セミロングの黒髪で頭には赤い山伏風の帽子、服装は黒いフリルの付いたミニスカートと白いフォーマルな半袖シャツ。足には………底が高くなっているから、下駄?………いや………だが靴にも見える………何とも中途ハンパな履物だ。
烏天狗と言う名だけあって、真っ黒な羽が背から突き出している。不意に、脳裏を手羽先がよぎった……………腹が減ったな。
「ちょっとぉ! なんてことするんですか! このカメラ、取材用の一点モノなんですよぉ!高いんですよぉ!?弁償物ですよ……って………」
マシンガントークを始めたその女に刀を抜いて威圧すると、声がぴたりと止まった。逃げようと後ずさるが、察しのいい妖夢がすでに刀を抜いて背後に回り込んでいた。
「文屋の烏天狗、射命丸文だな………?」
「は、はぁ………」
「………敷地内に不法侵入」
「うへっ」
「無許可で撮影」
「げげっ」
「肖像権の侵害」
「んぎっ」
「並びにプライバシーの侵害」
「ひぎぃっ」
「しかもそれを記事にして拡散」
「アヘェ…」
「そこに正座しろ。首を落とす」
「ひょえぇっ!」
流石に本気で首を飛ばす気はないが、こういう輩は徹底的ににやったほうがいい。
見過ごせば見過ごすほど悪化して無法化するのは目に見えてる。
「く、首を斬られる前に質問っ!どうやって気づいたのでしょ~か!?」
「お前の部下が持ってきた新聞の写真だ。斜め上からの角度、しかも写真の下部に影が映りこんでいた。あれは木の上に昇って撮ったからだ。下部の影は撮影が不得手だったことが理由ではなく、木の枝と葉に隠れながら撮ったせいで枝か葉のどちらかが写りこんだから。当たりだろう?」
「うぐっ……お、お見事です………し、しかし、それだけでは私がどこから撮影したか分からないはずです!」
「写真の中に屋敷の縁側が映っていた。あれで大体どこから撮影していたかを考えた。写真の場所もちょうどこの場所だからな、なら、同じ場所に来る可能性が高いと踏んでいた。
極めつけは、シャッターの音だ。どれだけ抑えても、戦っている最中と決着の瞬間にカシッという音が聞こえた。前回は気づかなかったが、気を付けて感覚を研ぎ澄ませば見つけるのはたやすい。カメラを壊したのも、破壊すれば怒ると思ってな。やってみたら案の定釣れた」
「おおぅ………つ、釣られてしまいました………」
悔しそうにうなだれる天狗。まったく、こんなことをしているから商売道具を壊される羽目になるんだぞ………
「妖夢、先に厨房に行っておいてくれ。後から俺も行く」
「はい…グラファイトさん、私が前に言った幻想郷最速の天狗とは、この文さんです。くれぐれも気を付けてくださいね」
「ああ、分かっている…」
小声でそれとなく注意し、妖夢は屋敷に引っ込んでいった。
「うう、う………カメラは失いましたが、この射命丸文、こんなことでへこたれはしませんよ! せめて取材だけでもお願いします!!!」
「断る」
「そこを何とか! お代官様!!!」
「却下」
「お大臣様!そこを曲げて!!!」
「はぁ……一言だけだぞ」
「いよっ大統領!!!」
………調子のいい奴だな、こいつ。
……………………………そうだ、良いことを考えたぞ。
「しかし、その前に………流石に破壊するのはやりすぎたかもしれんな。カメラを見せて見ろ。直せるやもしれん」
「え!? 本当ですか!!? ぜひお願いします!!!」
「ああ………なるほど………一眼レフタイプ………使っているのは思った通りフィルム式か………表のレンズが砕け、ストロボも脱落しているな………」
本当は直す気などさらさら無いが、手渡されたカメラを手の中で弄び、いじる雰囲気を出す。
「な、直せそうでしょうか………?」
「直すわけがないだろう、バカめ」
「ヘ?」
直後、カメラのフタを力任せにこじ開け、中のフィルムを取り出して思いっきり引っ張り夕日に当てた。
「ぎょええぇぇぇ!!!!!!!!?」
『感光』と呼ばれる現象。光を色分けして小さなドットで形成するデジタルカメラとは違い、フィルムカメラの場合はフィルムに光を焼き付けることによって肉眼の視界とだいたい同じ理屈で景色や人物を記録する。つまり、フィルム本体を直接光にさらした場合、フィルムが光に反応し撮った写真が全部真っ黒、もしくは真っ白に染まってしまうのだ。
ほんの少しフタを開けて光をカメラ内に入れるのを、0.1~2秒やっただけでも現像した写真がオレンジ色に染まるのは日常茶飯事。
フィルム本体を直接取り出したということは、つまりこれまで撮った写真が全部吹き飛んだということだ。
「な………な………なんて……こ………と………が………」
絶望に喘ぐ天狗の眼前に、先ほどカメラを手渡された時に天狗のポケットからこっそりスッていたものを取り出して見せる。
「これはなんだ?」
「あ………取材のメモ帳………?」
「成程、よし、紅蓮爆竜剣………っと」
「あんぎゃああぁぁ!!!!!!!!?」
メモ帳を炎を纏わせた愛刀で叩き切る。慈悲はない。
メモ帳は一瞬にしてめらめらと燃え上がり、やがて燃え尽きた。
「も……燃え尽きた………真っ白な………灰に………ここ数週間の秘蔵の特ダネ………全部………」
「さて………制裁は済んだ、俺も厨房に向かうか」
すっきりしたし、夕食の支度をせねばと屋敷の中に引っ込もうとすると、いつの間にか復活していた天狗が俺の裾を掴んだ。
「こ、この際他のネタやカメラは諦めましょう………ですが、せめて一言だけでも取材を!このままでは私、骨折り損のくたびれ儲けですよう!」
………そうだった、そういえば勢いで言ったものの確かに「一言だけ」と取材の約束をしてしまっていたな………
「………よし、分かった。一言だけ、くれてやる。一度しか言わないからよく聞いておけ」
「……!はいっ! それでは、お願いしますっ!!!!」
天狗は嬉しそうに涙ぐみながら俺を見つめる。俺はとびっきりの笑顔を作りながら裾をつまむ天狗の手をそっと引きはがし、引き戸を掴んで準備が完了するとその一言を放った。
「消え失せろ、このパパラッチ」
それだけ言うと、愕然とした表情の天狗が言葉を発するより先にぴしゃりと戸を占めた。
「騙された~~!!! 訴訟~~~~!!!!!」と大きな声が響くが、無視。
せいぜい、骨折り損のくたびれ損を味わうがいい。
数日後、写真が付いていない一面に【実録!ぐう畜剣客】という記事が載るのだが、まだそれは先の話だ。
お読みいただきありがとうございました。