東方仮面ライダーパラドクス GAME IS ANOTHER STAGE 作:桐生 勇太
グラファイト視点
「武術の………限界?」
「そうだ。小手先の技術、努力を踏みにじる、「力」本来の「姿」を見せてやる」
そう言うと、ベイオウルフは俺を放し、素早く受け身を取り着地して後ろへ飛び退いた俺を見据えた。
「時にグラファイトよ、貴様は、「最強の武術」とは何だと思う?」
「最強の………武術?」
そんなもの、があるというのか? もしそんなものがあるのなら、他の武術が存在することなどできないはずだろう。
「柔術、ムエタイ、中国拳法、空手道、ブラックダンス、相撲、柔道、ボクシング、合気道、剣道、槍道、銃兵法………どれも武術、相手と戦い、倒す、あるいは殺す手段のうちの一つ。そしてそれらすべてが超一流の武道と呼べる………そしてどの武道の出身者も、口をそろえて「俺の武道が最強」と言って見せる。………では、これらの中での最強は?
長い歴史に包まれた中国拳法?
大柄な戦士達が集う閉鎖された国技、相撲?
人を殴ることのみに特化したボクシング?
武器と当身両方を納める柔術?
寝技と組み付きに生涯を捧ぐ柔道?
相手の力を無力化する合気道?
一つの武器を極める剣道?あるいは槍道?
最強が一つあるならば、他の連中の最強論争は全て嘘となる。………さぁ、お前の答えはなんだ?」
「最強の……………武術………………! まさかっ!」
「何が言いたいか分かったようだな。そう。我の答えは………「全て、嘘」だ」
こ、こいつ………な、何ということを………!
「武道とは………武術とは………術とは………「誰か」が使うもの………所詮、道具だ。それだけでは、何の価値もない。使い手によって強くもなるし使い物にならんザコにもなる。地に落ちた刀と同じ。それだけでは、守る力も、壊す力も発揮できん。「最強の存在」が使えば、それすなわち「どの武術でも最強になれる」と同義。
そうだな………例えば、体格によくよく恵まれ、動きも速く、丸一日動き回れる体力もあり、強靭な肉体。剛力を発揮でき、何より、相手の命を奪い、踏みにじることに何の抵抗もないならば、さて………どの格闘技、武術、武器術を使っても最強になれると思わんか?」
「お前………何が言いたい!」
俺の身体から怒気が炎となって吹き荒れる。こいつの言葉を、これ以上聞きたくない。
「技術も、英知も、個が放つ究極の才能を前にしては塵同然。最強の存在こそ、武道を最強たらしめる存在。貴様の師とて、別段刀でなくとも槍なり薙刀なり、それこそ銃なり、何を使っていても強かった。そう思わんか? 必要なのは、技でも小手先の策でも、ましてや努力でもない。強き事。ただそれだけだ! そして………我、最強の肉体持つ者、我、究極の力持つ者、我!魔王なり!!」
「お前………! 武を………! 俺や、妖夢、そして多くの偉大な先人達が歩んだ道を……否定する気か!!!」
「我の言葉を否定したいなら、我を倒せ。何の価値もない、貴様の武で!!!!」
「………良いだろう! ベイオウルフ!お前を倒す!!!」
素手のまま、ベイオウルフへと詰め寄る。
武術を根底から見下し、何も考えずに力押しで勝とうとするこいつには、絶対に負けるわけにはいかない。俺が、必ず勝つ!
「ゼロ距離なら我の長い腕が不利と見たか! 合理的だ……さて、その子細工、我にどこまで通じるか見せてもらうぞ!」
直後に、俺の真横の地面に大きな衝撃が発生した。
ベイオウルフが拳を振り下ろしたのだ。
「フム………確かに、懐に入られると当てずらいな………ならば、当たるまで振り下ろすまで!」
まるで削岩機か高速のプレス機。
本能のまま振り下ろされる右腕、左腕、右腕。
単調………ではあるものの、まさしくその法則性は本能としか言いようがない。
滅多やたらと適当に振り下ろされる、規則性もへったくれもない拳の雨。
まるで、崖の上から無数に降り注ぐ岩石を避けるような難度。
これがもし、俺とベイオウルフが同じ体格だったらこんなデタラメは通用しないだろう。
だが、奴の体は俺の2.5倍以上。重さは1t近くになるだろう。
そんな相手が振り下ろす、破壊の威力のみを求めて全力で振り下ろす拳。
一撃を受けただけで死んでもおかしくはない。
しかも、威力はもちろん範囲が通常のそれと遥かに異なる。
受け止めることはもちろん、投げることもできない…!
避けているだけではどうしようもないと思っていたその瞬間、目の前に巨大な丸太のようなものが迫り、俺はその丸太にぶつかって吹っ飛んだ。
「我が拳だけで攻めると思ったか?」
ベイオウルフの声で理解する。
蹴飛ばされたのか、俺は。
サッカーボールでも蹴るようなただ高威力なだけの大ぶりな蹴りを避け損ねた。
かつて食らったパラドの必殺の蹴り技などとは比べ物にならないほどの威力。種も仕掛けもない、ただの前蹴りで。
「………フン………ようやく呑み込めたようだな………この世の武術全て、飽くまで対人間を想定して作られている。剣道の面、小手、胴は我には届かぬ位置にあるし、固め技、決め技や組み付いての投げなどもこの巨体に掛けるのは現実的ではない………第一、裸締めも、貴様が両腕を思い切り広げても首を絞めるには我の首は太すぎる………これが、武術が通用しない領域。武術の限界だ。
貴様がどれだけ努力しても、勝つことなどできはしない。貴様の戦術のいずれも、我を仕留めることは叶わん」
「まだ……だ………! 武術は人が使うものと言ったな………ならば、武術に限界はない………! 武術を扱う者が限界を超えた時、武もまた限界を超える………!」
「ほぅ………いいだろう、では超えて見せろ。この………武術などまるで関係ない、人外が扱う理不尽そのものの力を!!【
ゲーム「タドルクエスト」の魔王と大魔導士のみが扱うことのできる究極の複合呪文。麻痺属性の雷や氷属性の冷気、炎属性の焔がまとめて一つに複合した巨大な魔法陣が俺の頭上に広がった。
危険なことを知っているのか、妹紅と呼ばれていた女性が「おい!やりすぎだ!ウルフ!!」と怒鳴ったが、当のベイオウルフは
「魔王と戦士の一騎打ち………!手出し、口出しは無用!!!」
「くそっ……!」
足にすべての力を込めて魔法陣から逃れようと全力で横跳びをする。
魔法陣から逃れられるギリギリまで飛んだ瞬間、不意に俺の勢いが消滅した。
そして感じる、自分の足への違和感。
「なっ…!?」
足に何かが引っかかっている………?
首を回し、自分の足に視線を向けると、俺の足をガッチリと掴むベイオウルフと目が合った。
「お、お前………心中でもする気か!?」
「………もう一つ、理不尽を教えてやろう………これは、ゲームの理不尽だ……「自分の攻撃で傷つく敵キャラはまずいない」よく覚えて置け」
その直後、まぶしい光と体を走り抜ける冷気、熱気、痺れ、痛み。
俺の体は度重なる傷で、ほとんど動かせない。
ボロ雑巾のようになり、その場に倒れこむ。
意識が……遠のく………体中……が………重い………
「これが………武の、そして貴様の限界だ………我は本能に従い暴れるだけ。だが、それだけで貴様を圧倒できる。これが才能の差。それに何より、よく見ろ。我の手足を。長く、大きく、頑丈で力強い………これならば、下手な技術は不要、遠心力をかけ、力任せに振り回すことが、最も効率よく我の生まれ持った体の才能を活かすことができる………我は考えに考え抜き、より強さを欲したからこそ、本能に従うことこそが最上と知った。我を何も考えていない馬鹿と同じに見たのが、貴様の敗因だ」
………なるほど………な………才能の…上に………あぐら……を……かく………のでは…なく……生まれ……もった………才……能を……信じ……才…能……に……「身を委ねる」…ことで………生まれる……力………そして……自負心………認識……を……間違え……て……いた………努力………しない…………のでは……なく………努力………して……技……から………身…を……引き剥がしたのか………
「さて………立ち上がってこなければ、我の勝利だが………」
「まだ………俺…は……生きている………続……ける…ぞ…!」
まだ………勝負は……ついていない……
遠のく意識を呼び起こし、感覚の消えた足を引きずって立ち上がる。
息の根がある限り、まだ勝負はついていない。まだ負けていない。
「まだやる気か…よし………では、貴様が気絶するまで付き合ってやろう」
ベイオウルフが大きく腰を下ろし、砲丸投げのように腕を思い切り後ろに引いた。
全体重を乗せる、それ以外に当てやすさや避けにくさをまるで考慮していない、威力のみを求めた溜め。
俺は、防御の体勢も作れず、まともにその拳を受けることになった。
大きく吹っ飛び、庭の砂をまき散らしながら5~6m程転がって回転が止まる。俺はピクリとも動けない。
ベイオウルフが悠々と歩みを寄せ、俺の頭を掴んで強引に直立させた。
「立つのも億劫だろう…? 手伝ってやる………それで? まだやるか?」
「………ぁぁ」
「よし………動くことなどできんだろうが、動くなよ」
再び俺は殴られた。今度は気合で体を動かし、腕を十字にクロスさせて胸をガードしたが、さっきと何ら変わらない。大きく吹っ飛び、また俺は転がった。
………まるで…防御した場所が………急所になったかのような………防御が……まるで意味をなさない………
これが………武術が………通用しない…領域………
「どうだ? まだやるか?」
「………………来い………」
例えどれほどボロボロにされても、心までは決して負けない。
最後の最期まで、俺は降参などする気はない。
………それに、何より、こんな偉大な漢と勝負ができた。それだけでも素晴らしいことではないか。
今度は踏みつけられた。
硬い砂地を圧縮し、俺の体が地面にめり込む。
もう一度、踏みつけられる。
もう一度、
もう一度。
もう一度。
「さぁ、まだやるか?」
「………………まだだ………」
「………良いだろう。では、文字通り死ね」
いつの間に持っていたのか、大きな大剣をベイオウルフが持っていた。
刃渡りは3m程。あの両刃剣と比べていくらか小さい。
「脇差(主力武器ではない、万が一本命の刀を失った際に使う予備の小さい刀)だ………お前の「剣帝」を、ここで終わらせてやる」
そう言いながら、ベイオウルフは俺の右肩のすこし下、右の二の腕に大剣の切っ先を突き刺した。
「ここがどこだか分るか………?」
「………?………」
「ここに、貴様が自分の拳を握りこむための腱がある………もう少し剣を押し込めば、腱が斬れて貴様はもう二度と「握る」動作ができなくなる………貴様は拳を作れなくなるし、ましてや、剣を持つなどとてもとても………さぁ、どうする?」
「………右腕が使えないなら………………左腕一本でやるさ………」
「そうか………よし」
痛みはない。何かが腕に押し付けられているという、漠然とした感覚。
次いでやってくる、痛みとも違う燃えるような熱さと、別れの時に感じる物悲しい冷たさ。
「………さて、それならば左腕は切り落すとするか」
ベイオウルフが大剣を振りかぶった瞬間、急に俺とベイオウルフの間に誰かの影が割り込んだ。
「………妖夢………!」
「これ以上は………見ていられません!」
「見るに耐えないなら失せろ。小娘。これはこいつと我の勝負だ。他者の口だしも手出しも無用」
「妖夢………よせ……下がっていろ………!」
「だめ……ぜ、絶対………私、逃げません!」
「邪魔な………!」
妖夢を掴んで投げ飛ばそうと手を伸ばしたベイオウルフに対し、妖夢は伸ばされたベイオウルフの指の爪と指先の間に長刀を突き刺した。
ベイオウルフは手を引っ込め、傷ついた指をじぃっと見つめた。
「ほぅ………攻撃してきたということは……我とやる、ということか………良かろう」
「なっ!?…よ、よせ……!ベイオウルフ………!妖夢に手を出すな……!」
「《黄河は水溜りを叱りはしない》という格言があるが………我の考えは違う。歯向かう者は、蟻であろうと全力で殺す。それ故の【魔王】よ」
ベイオウルフの腕から雷が放出され、妖夢に向かって飛来した。
妖夢は刀で受け止めたが、そのまま電流が刃を伝い、妖夢に感電する。
「きゃあああ!」
「妖…夢!」
「愛弟子すら守れん…これが貴様の求めた剣帝の姿か?………所詮貴様は、海帝の遺志も、誇りも、何一つ受け継ぐことなどできん………そこで愛弟子が死ぬ瞬間を見ていろ!!!!」
「や………めろ………! やめろォォォォ!!!!」
何故俺の体が動いたか、分からない。
しかし、俺の体が動いたことは紛れもない事実だ。
いったい、どこにこんな力が残っていたというのか。
地面を割りながら跳ね起き、妖夢とベイオウルフの間に割り込む。
ベイオウルフに背を向け、妖夢の小さな、細い体をしっかりと抱き締めた。
直後に背中を駆け抜ける、嫌な感触。
体を切り裂き、刃が体内を通り抜けるのを感じた。
「ぬぅ………! あの状態、あの体勢から、ここまで速く動くとは……!」
「妖夢………無事………か………?」
「ぐ………グラファイトさん! 血が……!」
言われなくとも分かる。背中がバッサリ切られたのだろう。背中から鎖骨にかけてパックリ開いてるのをこの目で見た。9割真っ二つ、と言ったところか。
「死してなお、愛するものを守る。か………どうやら、しっかり海帝から受け継いでいたようだな、グラファイト」
「………当り前だ………俺は、二代目、【剣帝】だ………! たとえ負けても………それだけは……誰にも否定はさせない………!!」
意識が遠のく………今度は、どんなに自身を叱咤しても意識を引き戻せそうにない。
ああ、そうだ………せめて、最期に………………
ベイオウルフに言われて気付いたこの想いを……………伝えねば………
「妖夢………妖夢、お前に、言いたいことがある」
「ぐ、グラファイトさん………放してください…! 傷の手当てをしなくちゃ……!」
「聞いてくれ………妖夢………」
力を込め、ぎゅっと腕の中の妖夢の存在を確かめるように強く抱く。
苦しいかもしれないが、今くらいは許してくれよ…?
「俺は………妖夢、お前の事を………一人の女性として、愛おしいと思っているらしい………」
「………え………」
奈落へ落ちるように、体から力が抜ける。
目を開けていられなくなり、思考も消える。
そして、全て、真っ暗になった。
お読みいただきありがとうございました。
大切な説明が欠けていましたが、ベイオウルフも主人公キャラの内の一人です。