東方仮面ライダーパラドクス GAME IS ANOTHER STAGE 作:桐生 勇太
グラファイト視点
「………………ん………」
いつの間に寝ていたのだろう。
額の上にのせられていた濡れた手ぬぐいを外して布団から上体を起こし、ぼんやりする思考のまま目の前の大きな影を見つめた。
「………起きたか」
影が動いた。立ち上がり、より大きくなって迫ってくる。
より正確に言えば、相手は俺の視線の真後ろにいる。部屋の灯篭の明かりの影が壁に映っていたのだ。
「ベイオウルフ………そうか、俺は………」
負けた、のか………
「貴様が気を失ってから8時間ほど経った。一度貴様を我のバグヴァイザーⅡに入れたから傷は消えているが、ダメージそのものは消えてはいない。しばらくひどく痛むぞ」
掛け布団をどかそうと左腕で引っ張ると、掛け布団の上に乗っていた右腕に振動が伝わり、酷い痛みに襲われた。思わず呻きながら右腕を抑えて倒れこむと、今度は背中に激痛が発生して身悶える。
「ぐぁ………! ………くはぁ! はぁ………背中、いつ切られた?」
左腕の酷い痛みや体中を覆う鈍痛はともかく、斜めに真っすぐの背中の激痛がいつやられた物か思い出せない。
最後の瞬間に見た、左腕に剣が突き立てられた瞬間、俺は地面に埋まっていたはずだが………
「なんだ、貴様覚えていないのか?」
「………?」
「貴様の腕に我が剣を突き立て後、貴様の弟子が割り込んできたではないか。我が排除しようとしたら、貴様が我の攻撃に割り込んで来た………のだが、どうやら完全に頭から飛んだようだな」
「………なにも………思い出せない………俺が覚えている最後の記憶は、お前が俺の腕に剣を突き立てたところで最後だ」
ベイオウルフは俺の言葉を聞くと、「とんでもなく失礼な男だ………あれだけの事を言っておいて「忘れた」の一言で吹き飛ばすとはな」と小声で言っていた。
………ひょっとして、俺は何かとんでもない大口をベイオウルフに叩いたのだろうか?
「まあ、いい………少し待っていろ………おい小娘、白湯を持ってこい」
廊下に出たベイオウルフが誰かに声をかけた。
同時に聞こえてくる、かつて聞いたことがないほど大音量の怒声。
「貴方にお出しするものなんか一つもありません!!!!!」
………妖夢の声だ。今はあの音量ですらもこの体に響く。
「勘違いするな。我が飲むわけではない………目を覚ましたグラファイトの事だが………っておい!」
慌てた様子のベイオウルフの声。そして、スパァンと大変景気のいい音で開かれる襖。
胸の中に飛び込んでくる、小柄な少女。
「よ、妖夢か………すまない、心配をかけたようだな………」
「ぐ、グラファイトさんが………もう、目覚めないかと思って………私…!」
妖夢が涙ながらに必死に言葉を紡ぐ。まあ、あれだけめちゃめちゃにされていたらそれは心配もするか。
………しかし………なんだ……その…何だか妖夢がずいぶんくっついてくるな。気のせいだろうが、何だか妖夢が徐々に俺の口に近づいてきているような気もするし………いつのまにこんなに距離が近くなったのだったか?
「あ~………小娘、ちょっとこっちに来い」
いつの間にか後ろに来ていたベイオウルフが妖夢の襟をつかんで引きずるようにして妖夢を運んでいく。
「ちょ!ちょっとぉ!何するんですか!!放してください!!!」
「黙ってついてこい。奴の事で貴様に話がある………まったく、なぜ我が子守りのまねごとを……!」
「な…なんなんだ? 一体…」
………数分後、さめざめと涙を流しながら、妖夢がお盆に乗せた白湯を持ってきた。
「………おい、ベイオウルフ、お前、妖夢に何を言った!?」
泣かすとはよほどの事ではないかと若干不機嫌な声になりつつもベイオウルフを問いただすと、
「別に………貴様が自分の言ったことをきれいさっぱりどこかに落としてしまったと伝えただけだ」
と言われた。
「……それは、俺が妖夢に言ったことか? それとも、何か誓いのようなものを言ったのか?」
純粋な疑問で言ったのだが、横にいた妖夢が床に突っ伏して大声で泣き始めてしまった。
「な!? よ、妖夢!? お、俺は何と言ったのだ!? 教えて…ムグッ」
「それ以上言うな。貴様、泣いている奴にさらに追い討ちをかけてどうする気だ」
………やはり妖夢に対して何か言ったようだな………しかしわからない、俺は何と言ったのだったか………約束? 誓い? ………それとも………?
「ベイオウルフ、お前は俺の言ったことを聞いていたか?聞いていたのなら教えてくれ」
「誰が言うか。自分でもう一度あの小娘に言って見せろ」
「そう言われても、覚えていないものは仕方ないだろう!」
あまりにも理不尽な言いように思わず抗議すると、それを聞いていた妖夢がさらに大きな声で泣き叫んだ。
「よ、妖夢………すまない、どうやら俺はお前に何か言ったのだろうが、俺はそのことを全く覚えていない………た、多分、こんなに簡単に忘れてしまうということは、きっと大したことではなかったのだろう!そう言うことで、何を言ったかは知らんが忘れてくれ! それが一番いい!」
自分なりに考えた精一杯のフォロー。だが、効果がないどころか、妖夢はさらに大きな声で泣き続けるばかりだ。
「………………こいつ、よくもそんな無情なことが言えるな………いや、忘れたからこそ、か………」
あ、あのベイオウルフが本気で妖夢を哀れんでいる………
くそ! 一体どれだけ下手なことを言ったのだ! 俺は!?
ああああああグラファイトォォォ!!!
何で忘れちゃうのおおぉぉ!?
………………………ふぅ、
お読みいただきありがとうございました。