東方仮面ライダーパラドクス GAME IS ANOTHER STAGE   作:桐生 勇太

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第28話:それは誰かが抱いた吐き出せぬ怒り

パラド視点

 

「えんやらどっこいせと言いたい気分だが、果たして本当にえんやらどっこいせと掛け声を言う肉体労働者はいるのだろうか」

 

 くだらんことを考えながら薪割りで割った薪を薪小屋に積み込む。まだ二回しかやったことは無いが、原木用意→割る→積む→まとめて運ぶだけの単純作業。なれるとかじゃなく元々簡単な作業だ。全体の大まかな動きさえ抑えられれば手慣れたものよ。

 

 わざわざ一束ずつ手で運びこむのも面倒なので、掴んでポイポイと景気よく投げ込む。初めは通りかかった早苗に怒られたが、投げ込んだ薪の束が完璧に積み上げられていたのを見て納得していた。たとえブン投げても綺麗に入りゃいいんですよ。本棚に本を投げ入れたら怒られるが、多分本も本棚も傷まないように、かつ騒音もしないように投げ込めれば怒る奴はおるまいて。

 

「さーて、あとは掃除と…」

 

 次の仕事にとりかかろうと準備を始めていると、急に背中に誰かがおぶさってきた。

 

「うわ~い」

 

「仕事中だ。降りろバカ」

 

 乱暴に背中に張り付いた相手を振り下ろそうと身をよじるが、離れる気配がまるでない。驚いた話だよな。こんな面倒くさい親戚の子供みたいな奴が、ここに祭られてる神なんだぜ?

 

「降りろって諏訪子。後で遊んでやるからさ」

 

「おおう、早苗だって様付けするのに出会って二日目の君はもう呼び捨てかい? 若さは恐ろしいね~」

 

「神だ何だというならもうちょっとそれらしくしてくれ。悪いけど俺の地元にも自称神で何かと突っかかってきた奴いたし対応は雑になるぞ」

 

「自称神と本物の祭神を同列に扱うとはやるね~」

 

 そうぼやきながら俺の背中から降りた女、洩矢諏訪子。髪型は金髪のショートボブ。服は青と白を基調とした………なんて服だっけか、「壺装束」だったか。んで足には白のニーソックス。頭にはなにゆえかカエルのような目がついた市女笠をかぶっている。

 

「知ってるか? 外の世界にはゲムデウスっていう全能の神がいてな、俺はそいつと2回戦って1回倒したことあるんだぜ? 我神殺しぞ、恐れよ」

 

「1回勝って1回負けなら五分じゃない? と言うか、勝った方の1回はどうやって勝ったのさ?」

 

弱点属性(ワクチン)の攻撃を使って死の特攻をしてだな」

 

「その1回引き分けじゃん?」

 

「ものの見方は人それぞれだからな!」

 

「0勝1敗1分けだよ。認めよ?」

 

「うるせー お前を背に乗せたまま壁にもたれて休憩(つぶ)しちゃうぞ」

 

「鬼じゃん?」

 

「ウイルスじゃん?」

 

 下らない軽口を繰り返し、諏訪子を引きはがしてポイっと放り投げた。常識的に考えて少女を投げ飛ばすなんてクソ野郎もいいところの所業だが、投げられた諏訪子はクルクルと空中で回転して、神社の屋根にきれいに着地した。

 

「少女を投げ飛ばすのは感心しないぞ~?」

 

「お前今さっき自分を神だって言ったじゃねぇか」

 

「その理屈で考えても神を投げ飛ばすのはもっと良くないと思うよ?」

 

「神(自称)を空中にカチあげてタコ殴りにしたことあるから大丈夫。投げるなんて今更だ」

 

「最低じゃん?」

 

「あの時は神側が悪いことしてたからセーフ」

 

「アウトじゃん?」

 

「今考えると人道的に俺も神(自称)もアウトだったからセーフ」

 

「ツーアウトって知ってる?」

 

「マイナスにマイナスかけるとプラスになるんだぞ。知らんのか」

 

「マイナス+マイナスじゃん?」

 

「うるせー」

 

「あ、逃げた」

 

 諏訪子はいいやつだけど、フレンドリーすぎて逆に対応が分からん。友達みたいに軽い感じでいいのかね………まあ、もうすでに友達とくっちゃべってるような会話だったか。

柱に抱き着き、するすると滑って諏訪子が地面に降りた。そのままとてとてと歩いて神社の部屋の中に飛び込む。

 

「冗談の訂正しておくけど、俺が倒したゲムデウスって奴は「神的な存在」ってだけでホントの神じゃないぞ」

 

「そんなのどーでもいいよ。ただ…」

 

 その直後、直前までニコニコ笑っていた諏訪子がすっと目を細め、少女な見た目にまるで似つかわしくない妖艶な笑みを浮かべた。

 

「キミが神サマと正面きって戦えるくらい強いのは嘘じゃないんでしょ?」

 

 膨れ上がった諏訪子の威圧がこちらに飛んで、庭で砂利をつついていた鳩やら森の奥にいた小鳥がバッと空へ飛び立った。

当然俺は無視して箒を拾い上げて、神社の参道に積もった落ち葉を掃き始める。

 

「ちょっと~無視はないんじゃない?」

 

「知るか。挑発にいちいち乗ってやるほど俺は面倒見がよくねぇだけだ」

 

 多分昔の俺だったらビビッて明後日の方に走り去ってただろうけど、威圧の中に本物の殺気が無いんじゃいちいち反応する意味なんてない。そんないたずらにいちいちリアクションを返すなんて面倒だ。よって無視。

 

「ケンカは早苗に止められてんだ。遊びたいなら他あたりな」

 

「ちぇ~」

 

 追加でぶーすか文句を言っているみたいだけどもう無視でいいや。

洩矢諏訪子は、ここ守矢神社に祭られている「本当の」祭神らしい。

表向きにはもう一人いる八坂神奈子が祭神の一柱という扱いらしい。

なんでやろね。隠す意味ある?

まあその辺の構成はよくわからんし。あんまり部外者が首を突っ込む問題でもないな。

 

 無心になって落ち葉を掃いていると、いつの間にやら諏訪子が箒を持って俺と一緒に掃除していた。

 

「神様がやることじゃないだろうに。俺がやるから神棚でふんぞり返ってろよ」

 

「まぁまぁ、神様が住み家である神社をきれいに保つためにお掃除するのもいいでしょ? ただ君を見ているのも暇だしね」

 

 (だったら神社の中にでも引っ込んでろよ)と視線を向けてみるが、諏訪子は鼻歌を歌いながら落ち葉を掃くのに夢中で無視される。ため息を一つこぼすと、諏訪子が顔をあげてにっこりと笑った。

 

「今早苗は中で仕事中だからね。君に何かトラブルが起きた時のために私はここにいるからね」

 

「………そりゃどーも」

 

「…くひひ、今朝はうちの早苗とお楽しみでしたね?」

 

「! うっせ!」

 

 早苗はいいやつなんだが、よもや今朝のことを全部神奈子と諏訪子にばらすとは思わなかった。 なんでもいつ取り乱すかわからない俺を一人にしておくのは良くないと判断したらしく、常にだれかがそばにいるように配慮したらしい。 ただ………

 

「パラドさんは泣いて取り乱していて、とっても辛そうでした! 神奈子様、諏訪子様、パラドさんを一人にしないようにお手伝いしてください!」

 

 ………よもや泣きじゃくって早苗の手に縋りついたことまでしゃべるとは思わなんだ。恥ずかしすぎだろ………無自覚な鬼………いや、優しい鬼畜と呼ぼう。

 

「まあまあ気にしない。大の男が、プ…泣いたからって…クププ…笑うような薄情者は…プププ…この神社には一人もいないからね」

 

「そうだな。神は人じゃないもんな! 早苗は笑ってなかったしな!」

 

 ばつの悪さをごまかすために落ち葉掃きに集中して作業をすると、異常なまでに早く終わった。一か所に集めた落ち葉はどうすればいいのかとぼんやり考えていると、諏訪子が箒を落ち葉の山にぶっ刺した。

 

「おい、お前まさか………」

 

「1回やってみたかったんだよね~ そりゃあ!」

 

 諏訪子が箒を一気に持ち上げて振り回す。箒に引っ付いた落ち葉が持ち上がり、大量の落ち葉が宙を舞った。

 

「おま………やり直しじゃねー………か………」

 

 呆れながら宙を舞う落ち葉を見つめていると、不意に何かに似ているな、と思った。

 

(まるで………風に揺られる羽みたいだ)

 

 俺の視界が、急に暗転した。

 


 

「おぉい! 木場!」

 

誰もいない野原、男が一人、誰かを探して視線を巡らせている。

男は視線の先にある木、より正確に言えばその木の根元にあるものに気が付いて走り出した。

 

木の根元には真っ白な灰、大量の純白の羽、そして赤い携帯電話が落ちていた。

 

「これは………まさか………」

 

拾い上げた携帯電話を見つめ、男は茫然とつぶやいた。

携帯電話の持ち主は、男が探していた木場と言う者の持ち物ではない。

それでも、男はその赤い携帯電話の持ち主に心当たりがあった。

 

男は携帯電話をポケットにしまうと、男の友人のもとへ向かって歩き出した。

 

男は何を考えているのだろうか………

 

――――――――――――――――

 

――――――――

 

――――

 

――

 

新宿駅へ向かった男は、駅前の街灯にもたれかかって座り込んでいる友人を見つけた。

その友人は、男が見つけた携帯電話の持ち主、長田結花とデートをする約束をしていた。

明らかにおかしい。遅刻にしても何時間も遅れるのは異常なはず。

普通ならすっぽかされたと怒って帰ってもおかしくないのに、男の友人は長田結花を信じて待ち続けていた。

 

男は友人のそばに立ち、友人の肩をゆすった。

友人は自分が寝ていたことに気が付くと、誰かに起こされたことにも同時に気が付いて顔をあげた。

 

「結花さん! あ…たっくん………」

 

待ちわびた相手が来たのだと喜んでいた顔が、悲しげにゆがむのを見て、男も悲痛な思いに身を裂かれそうになった。だがここで自分が悲しんではいけないことを。男はちゃんと知っていた。

本当につらいのはだれか、男は理解していた。

 

「ごめん……つい寝込んじゃった………そろそろ、帰った方がいいよね…うん………」

 

友人はばつが悪そうに立ち上がり、諦めたようにそう言った。

そうなのだ。どれだけ待っても、長田結花が来ることはない。帰るのが一番の選択肢だ。

男は友人と共に歩き出す。一緒に住む、クリーニング屋に向かって。

 

「結花さん…来てくれなかった…初めてのデートだったのに…」

 

帰り道、友人はそうこぼした。

恋焦がれた人との初めてのデート。

昔からメル友としてお互いの名前すら知らなかったのに、道端で出会った、初恋の相手の正体はそのメル友だったという奇跡的な出会い。

初めてのデートに来てくれなかった、ではなく、これなくなったと言うことを男は友人に伝えたかったが、その言葉を飲み込んだ。

 

「やっぱおれ、振られちゃったみたい!」

 

そんなことはない

そう男は叫びそうになり、唇を少し震わせた。

長田結花はお前が好きだった。

来てくれないんじゃない。

これなくなったんだ。

彼女はもう、この世にはいないんだ。

 

そう、叫びそうになった。

だが男は口をつぐみ、黙って聞いていた。

 

「それ」を伝えても、何の救いにもならないことを男は分かっていたからだ。

だから何も言わない。何も言えない。

 

男は口をつぐみ、黙って友人の後を追った。

 

――――――――――――――――

 

――――――――

 

――――

 

――

 

「ほらじゃんじゃん食べてよ! おれの奢りだからさ!」

 

レストランのテラスのテーブルに乗せられた大量の料理を、友人が勢いよく食べている。やけ食い…と言うにはあまりにも爽やかに、また友人は気丈に振る舞い、笑顔で料理を口に運んでいた。

 

「いいよ、無理しなくて…って言うかあたしと巧で奢っちゃおうかな! ね、巧」

 

友人の体面に座る、男の隣に座る女が、そう気づかわし気に話す。

出来る限り場を明るく保とうと努力していることは、誰の目を見ても明らかだった。

 

「…ああ」

 

普段なら男は、「なんで俺が奢らなくちゃいけないんだよ」と大声をあげて糾弾するが、力なく頷いた。それがむしろ、友人が自分が気づかわれていることを痛感することになることも知らずに。

 

「もういいって! そんなに気を使ってくれなくてもさ。おれ別に気にしてないからさ。結花さんのこと」

 

そんなはずないだろう

そう男は叫びそうになり、唇を少し震わせた。

お前みたいな優しい奴が、本気で人を好きにならないはずがないだろう。

そんなにすぐ立ち直れるほど、半端に好きになったわけがない。

馬鹿にするな。お前が悲しんでいることなんて、バレバレだ。

 

そう、叫びそうになった。

だが男は口をつぐみ、黙って聞いていた。

 

「それ」を伝えても、何の救いにもならないことを男は分かっていたからだ。

だから何も言わない。何も言えない。

 

男は口をつぐみ、黙って料理を口へ運んだ。

 

「結花さんには結花さんの、気持ちとか事情があったんだろうし」

 

事情、か。

気持ち、か。

相手が悪いなんて、これっぽっちも思わないんだなと、男は思った。

何時間も待ちぼうけを食らって、

待ちつかれて眠ってしまうほど待たされて、

それでも会うことはできなかったのに、

「しかたない」ことだったと信じて、相手の文句なんか一言も言わない。

男は、友人のことを、世界一優しい男だと信じた。

 

「たとえ二度と会えなくても、結花さんなら、きっと幸せになれるだろうし」

 

男は視線を外した。

それ以上聞いていられなかった。

幸せになっていると信じさせることが、友人の最後の希望だと知っているからだ。

だから、何も言うことはできない。

 

「それにほら見てよ! 結花さんだっておれのこと応援してくれてるよ。おれの夢がかなうように………」

 

最後に送られてきたメールを二人に見せ、友人は幸せそうに笑った。

 

――――――――――――――――

 

――――――――

 

――――

 

――

 

「啓太郎………」

 

帰り道、長田結花からの最後のメールを読んでいた友人………菊池啓太郎の瞳から、涙があふれた。啓太郎の涙に気が付いた女は、悲し気に顔をゆがめ、ぼそりと啓太郎の名をつぶやいた。

 

(ごめん、啓太郎…俺彼女のこと、助けてやれなかった…ごめん…ごめんな)

 

男は、心の中でただ啓太郎に謝罪した。

無力な自分を恥じ、伝えられないもどかしさを全身にたぎらせ、ただ心の中で謝罪を続けた。

 

自分の無力を嘆くという憤怒を宿す自分の腕から灰が零れ落ちたことに、仮面ライダー555は気が付いていない。

 


 

「………さん………………パラ………さん………パラドさん!」

 

 不意に意識が覚醒し、目が覚めた。いつの間にか気を失っていたのか、神社の部屋に寝かされていて、早苗に肩をゆすられていたみたいだ。

 

「パラドさん…よかった…気が付いたみたいですね」

 

「あ、ああ………………」

 

 何か、見ていた気がする。気を失っていた時に。

仰向けの状態で右の掌が見えるように腕を持ち上げ、手のひらをじっと見つめた。

どれだけ見つめても、こすっても、手のひらから灰が落ちることはなかった。

 

「パラドさん…?」

 

「んあいや、何でもない」

 

 慌てて上体を起こし、何でもないとアピールするために軽く手をひらひらさせて見せたが、早苗はまだ心配そうだ。

 

「諏訪子様がいきなりパラドさんを背負ってお部屋に入ってきて、パラドさんがいきなり倒れたと伺って………」

 

「心配、させたよな、悪い………」

 

 困ったことに、気を失っていた間に何を見ていたのかまたしても忘れた。諏訪子にも迷惑かけたみたいだな………にしても、俺は何で気を失ったんだっけ?

 

「パラドさん……何かまた見たりしたんですか?」

 

「ああ、そのことだけど………」

 

 自分の感じた想いを口にしようとしたが、すぐに口をつぐんでしまった。

(また早苗に頼るのか? おかしなものを見るたびに早苗に頼って、頼りきりで、それでいいのか?)

 

「……パラドさん?」

 

「…! あ~いや、今度は特に何にも見てねぇよ。悪いな、なんか心配かけて」

 

 これでいい。

俺はどう転んでも最後には元居た世界に帰らなくちゃいけないんだ。おかしなものを見るたびに早苗に頼っていたら、いつまでも向こうに帰れない。今ここにいる間に、俺が自分で解決しなくちゃいけないんだ。

 

「そう…ですか……じゃあ、念のためにもうしばらく横になっていてください」

 

「おう、悪いな。少し横になったら、また仕事再開するからさ」

 

 早苗はぺこりと行儀よく頭を下げ、部屋から出ていった。

うまくごまかせたかなと思っていたが、早苗は俺が嘘をついていたことを察していたらしい。

 

そして次の日、神社にやや癖のあるボブの薄紫色をした髪の毛で、フリルの多くついたゆったりとした水色の服装をしていて、下は膝くらいまでのピンクのセミロングスカートの少女がやってきた。

触手みたいな複数のコードで繋がれている目玉が印象的な少女は、早苗にお願いされてやってきたらしい。




お読みいただきありがとうございました。
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