東方仮面ライダーパラドクス GAME IS ANOTHER STAGE 作:桐生 勇太
※今回は若干内容がショッキングです。苦手な人はあるいは読み飛ばした方が…※
パラド視点
「パラドさん、明日はパラドさんに会ってほしい方がいるのですが、よろしいですか?」
俺が倒れた後の夜、夕食中に早苗から出た言葉がそれだ。突然の来客、しかも俺に。よくわからなかったけど断る理由もなし、OKと返事を返したが………
「結局誰なんだ? その明日来るって奴」
「心配しなくても大丈夫ですよパラドさん! 変な方ではありませんから!」
これだよ。
なんでか知らんが何度聞いても何も情報を出してくれない。唯一分かる情報は、変な奴ではないということだけ。………これだけ問いただしても情報がそれだけって、それはそれで変じゃね?
そしてそんなことを疑問に思って悩んでいても、結局明日には会うから関係ないようなもんなんだけどね。
「それで、パラドさんはその後大丈夫なんですか?」
「ああ、今朝倒れた後は健康そのものだし、心配することないぜ」
「………そうですか」
目を伏せながら悲しそうな顔をする早苗を見て、やっぱり心配かけたよなぁと猛省することしかできない。寝ている間に1回。落ち葉が舞うのを見て1回。それぞれバラバラのタイミングに見る何かの記憶。何が引き金になるかがわかんないのと、誰のどんな記憶だったのか目が覚めてからすぐ忘れるってのが一番ネックだよなやっぱり。
多分、俺がかつて取り込んだ誰かの魂の記憶なんだろうけど、自分で自分の中にある記憶をほじくり返そうとしても何にも思い出せないんだよな、これが。
まあ俗にいう「何を忘れたんだか忘れた」ってやつだ。何かを見たことは分かってる。何かを忘れたことも分かってる。それが思い出せない、と。
「何がトリガーになるかわからんから困るな………っとと、あちち………」
ちゃぶ台に乗せられた料理の一つ、味噌汁を飲もうとしたら舌が驚いた。冷まそうとしばらくフーフーしてから少し唇を触れてみたが、煮えたぎるような熱さに変化はない。
「…? パラドさん、どうかしましたか?」
何だこれ、こんなに熱いもん人間の食うもんかよと疑問に思いつつ5分ほど味噌汁と格闘していると本気で困惑した顔の早苗が俺に聞いてきた。
「いや、なかなか熱くてさ………手こずってる」
「………? 昨日のお夕食もお味噌汁でしたけど、普通に飲んでましたよね?」
それを聞いて驚いた。
そういやそうだったな、昨日は普通に飲めてた。今お椀の中になみなみと注がれている味噌汁は湯気こそ上げていないもののマグマ級の熱さを秘めている。
ところがどっこい、昨日の俺はもうもうと湯気が上がる味噌汁をうまいうまいと飲んでいた。
不思議だな~と思いつつ上の空で味噌汁をグビッと飲み込み、直後に俺は死を覚悟した。こんな熱いもの飲んだら、死ぬ。味噌汁が口の中に滑り込み、のどを伝って体内に入り込んだ。
顔をしかめ、味噌汁を睨みつけながら俺は一つつぶやいた。
「ぬっる」
人肌ほどにまでぬるくなった味噌汁をグイッと全部飲み込み、早苗に頼んで熱々の味噌汁のお代わりをついでもらった。
湯気がもうもうと上がる熱々の味噌汁は、出汁と味噌の分量が絶妙でうまかった。
夕食を終え、早苗の食器洗いを手伝ってから自分の部屋に戻り、今朝起きたことを起こい出して布団をじっと見つめた。
「…また明日の朝にああなるなんてことないよな………?」
何が原因かわからない以上、考えても仕方無いことなんだがそれでも不安だ。………考えてみれば、昼に俺が落ち葉掃きをしていた時、落ち葉が何かとダブったんだったっけ………ひょっとして、誰かの魂に強烈に張り付いてる記憶の情景に俺が近づいた状態になることでトリガーになったりしてるのか?
だとしたら回避手段は皆無と言っていい。何がきっかけになるかわからないうえに、日常のちょっとした場面ですら起きるんだったら………
「………まあ、悩んでも仕方ないか。覚悟を決めて寝てみよう」
見る可能性大いにあり。見ない可能性もあり。
じゃああーだこーだ悩んでも意味はない。見た時は自分で自分の感情に対処。見なかったらラッキー。軽く考えすぎだけど多分長考しても答えは変わらないんだよね。
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「あ、パラドさんおはようございます!」
「おう、おはよ~」
結論、何にも見なかった。
何か見たことを忘れている可能性もあるけど、今までの二回は見たことは覚えてるけど見た内容を覚えられていない状態だったし、見たことまで忘れたことはないからから多分違うだろうな。
一回見た記憶は二度は見ないのかもしれないし、あの時寝ている間に俺が何かしら寝返りなり寝ぼけてなり何かトリガーになるようなことをやった可能性もあるしな。
まあパニックになるようなこともなかったし、よかったよかった。
朝飯を食べて昼になって掃除して、昼飯を食べて諏訪子を手慰みに作ったオセロでコテンパンにしていると早苗に呼び出された。
「角とられっから負けんだよ。もう一回やるか?」
「んぐぐ…もう一回!」
「パラドさん、お客さんが………古明地さとりさんが来ましたよ」
「んあ、そうか。じゃあ悪いな諏訪子、また後でな」
部屋から出て廊下に立つ早苗と合流した。早苗は神奈子をオセロに誘いに行った諏訪子をほほえましそうに見送る。
「諏訪子様楽しそうですね…パラドさんの地元にあった遊びがすごく気に入ったみたいです」
「よえーけどな。今んとこ俺の30連勝中」
「強いんですねパラドさん…」
「一応向こうでは「天才」と呼ばれてたからな」
今ではもう昔の話だ。
永夢の身体にバグスターウイルスとして感染していたころ、よくゲームの大会で優勝して天才ゲーマーって呼ばれてたっけ。最近は全然ゲームなんかやってなかったし、いくらか弱くなった自覚はあるが、それでもゲームをやり始めてから一日程度の相手に負けるほど腕は落ちちゃいない。
早苗に奥の部屋に案内されて、部屋の中で待ってろと言われたので座って待つこと1分そこいら。
不意にふすまが開いて、早苗が先に部屋に入ってきた。後に続いて、やや癖のあるボブの薄紫色をした髪の毛で、フリルの多くついたゆったりとした水色の服装をしていて、下は膝くらいまでのピンクのセミロングスカートの少女がやってきた。
「パラドさん、こちら、地底にある「地霊殿」の主の古明地さとりさんです!」
「おう………俺はパラド、よろしく…ん?」
入ってきた少女、古明地さとりは、俺の顔を見た瞬間に顔を真っ青にして固まった。いきなり驚愕されて困惑した俺はどうしたものかと居心地の悪い思いになった瞬間、古明地がいきなりその場にしりもちをついた。
「ひっ……やあぁ!」
「え!? さとりさん!?」
「うお!? ちょ、大丈夫か!?」
人の顔見てしりもちをついて怖がるとか失礼すぎないかと思いつつも、心配なことに変わりはない。慌てているだけの早苗をどけて、肩を揺さぶって顔を覗き込もうとした瞬間、俺と顔をあげた古明地の目が合った。
「ひっ…!」
目が合った瞬間に古明地の目に恐怖が浮かぶ。今度はなんだと思った瞬間、古明地の掌から大量の光弾が発生し、一気に俺に向かって飛んだ。
よける間もなく、まともに食らって吹っ飛んだ俺は壁を突き破り、隣の部屋の壁に衝突して停止した。
「痛てて…何なんだよ、いきなり………」
幸い大きく吹っ飛ばされたものの大した大怪我はせず、壁にもたれかかってへたり込んだだけで済んだ。
「ん………?」
自分の座っている態勢に、違和感を覚えた。
……………!
そうだ、俺は……………………わた、し…は………
こうやって何かにもたれかかって、死んだことがある。
「………馬鹿な女。死になさい…今ここで」
木にもたれかかりながら息を荒く吐く少女に、誰かが声をかけた。長い黒髪の女が蔑むような視線を向けながらエビのような姿の怪人、ロブスターオルフェノクへと変貌した。
少女は抗おうと体に力を込めたが、一瞬体がぼやけただけで少女の身体には何も起こらなかった。
「変身………できない………!」
「どうやらオルフェノクの力を失ったようね」
死が、少女の身に近づいている。少女は目をつむり、怪物である、オルフェノクである自分を愛してくれた人間の青年を思い浮かべた。
まるで、青年との思い出のすべてを魂に刷り込むように………
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命の灯が消えかける少女は、木の幹にもたれながら座り、最期に最愛の相手へメールを打っていた。伝えたいことがたくさんあった。彼が楽しみにしていたデートに行くことができない謝罪、彼と出会えたことへの感謝。そして彼の夢を応援したい思い。残されたわずかな時間を使い少女はメールを打つ。
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ごめんなさい、啓太郎さん
私、今日行けそうにもありません。
私も、啓太郎さんと普通のデートがしてみたかったな。みんながしてるみたいに。
お茶を飲んだり、映画を見たり、散歩したり。
私、幸せでした。啓太郎さんに出会えて。
どうか、啓太郎さんの夢がかないますように。
世界中の、洗濯物を真っ白にして
そして、世界中のみんなが、幸せになりますように。
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最期にメールを送信し、少女…長田結花はゆっくりと目を閉じた。
死への恐怖は、結花にはなかった。
殺されたことへの怒りも、私にはなかった。
私の身体が徐々に崩れ、宙へ灰と羽が躍る。
あぁ………啓太郎さん………
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嘘だ………こんなこと、あっていいはずが無い。
これが事実なら、
「ごめん、啓太郎…俺彼女のこと、助けてやれなかった…ごめん…ごめんな」
「人間のせいだ………! 奴らが……奴らが長田さんを!!!!!」
「オルフェノクなんて滅べばいいんだよ一人残らず!………この俺もな」
「だから一生懸命生きてんだよ…人間を守るために!」
「守る価値のないものを…守っても仕方ない!」
「また…会えるか?」
「君が人間を捨てるなら…友として。 人間であり続けるなら、敵として」
「俺は人間を捨てたりはしない。何があってもな」
一体、何のための絶望だったのだ。
何のために?
誰がために?
何の意味があって?
無いと言うのか、何も。
そんな、そんな馬鹿な話があるものか。
嘘だ。
こんな記憶、まやかしだ。
あっていいはずがない。こんなこと。
しかし、
三人が三人なりに見た絶望の記憶が、俺の中に入り込んだせいで一つに混ざった。
見えてはいけない部分が見えた。
知ってはいけ無いことだった。
こんな………こんな………
ああ、あ…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あああ ああああああああああ あああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あ あああああああああああああ あああああああああ ああ あああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああ
「………さん………………パラ………さん………パラドさん!」
「があぁ! はぁ! はぁ!」
胸が苦しい。体が燃える。痛い。痛い。痛い痛い痛い。頭が砕けそうだ。
「パラドさん! しっかりしてください!」
だれかの、こえが、きこえる、でも、あれ、あれは、だれの、こえだっけ
「ああ、あ……ぎぃっやああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
体中を覆う鈍痛。もはやどこが痛いのかすらわからない。体中の至る所に爪を立ててかきむしり、自分の髪の毛を掴めるだけ掴んで力任せに引きちぎった。
「ぐ、ぶげ………げえぇぇぇぇぇぇぇ!!がぁ!げほょ!!!!おごゅ!!!!ぅがゃ!!!」
腹の中のものがすべて逆流して口から噴出した。水たまりのように畳に広がった吐しゃ物のど真ん中に何度も何度も吐き続けながら頭を打ち付ける。畳が吹き飛び、床が割れ、額が割れても何度もやめられずに頭を振り続けた。
床を割ったせいで打ち付けられず、ただ頭を振り下ろすばかりだが、それでもどうしてもめられない。頭をぶっ壊さないと、俺の頭がおかしくなりそうだ。
「パラドさん! やめてください! 落ち着いて! こっちを見て!!」
「ぎ、がぁ………ああ!」
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殺せ……殺せ……人間を殺せ………
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ダレカノ コエガ キコエル シタガワナクチャ
コロセ コロセ ニンゲン コロセ メノマエニ オンナガ イル
チョウハツノ オンナガ コッチヲミテル ダレカニ ニテル オマエ オマエ シッテルゾ
オマエ オマエ ヨクモ オサダサンヲ コロシタナ
オマエ オマエ ユルサ ユルサナイゾ
オマエ オマエ オマエモ オマエモ コロシテ コロシテヤル
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よせ! やめろ! 木場!!!
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「あ、がぁう!!!!」
早苗の首元まで伸ばしかけていた右腕を左手で掴んで止め、逃がさないように手首に噛みついた。砕けた床板からのぞく五寸釘を左手でつかみ、暴れ狂う右手に何度も何度も突き立てる。
それでも暴れ狂う右手は止まらない。釘を突き刺した穴から青い焔が瞬き、肩の付け根から指先までがまるで切り落とされたトカゲの尻尾みたいにのたうち回り、何度も何度も跳ね回る。
「止まれ! 止まれ! 止まれ!! 俺は、俺はもう、誰かを傷つけるのなんざ嫌なんだよ!!!!!!! 止ま、れぇ!!」
穴だらけになった右腕から感覚が消え、腕を持ち上げられず所存無さげに指が畳を何度も何度も引っ掻く。恨めし気にもがく右腕は、やがて少し震えて止まった。
「よかっ た…さ、なえ……………」
これで誰かを傷つけることはない。
安心した俺は、そのままゆっくりと床に身を預け、すぅすぅと寝息を立てた。
お読みいただきありがとうございました。