東方仮面ライダーパラドクス GAME IS ANOTHER STAGE 作:桐生 勇太
早苗視点
「お力になれず、おまけに神社で暴れてしまい…申し訳ありません、早苗さん」
「いえ、気にしては、いませんから………」
さとりさんがそう言って頭を下げる。むしろ気を使わせてしまってこちらが恐縮して頭を下げると、さとりさんは「心は私の専門分野なのですが…あんなに取り乱してしまうなんて」とうなだれた。
さとりさん………古明地さとりさんは、俗にいう「さとり」妖怪。心を読む妖怪さんです。パラドさんが何かを悩んでいてそれを隠していたことは察していたので、第三の目を用いて相手の表層意識を見ることができるさとりさんならあるいは、と思ったのですが………
「それで………どうでしたか? パラドさんの心は」
「………あんな心は、初めてです。普通、心は一個の生命に対し一つまで…と相場が決まっているのですが」
さとりさんによると、パラドさんの心を読もうとして第三の目を発動したが、見れなかったとのことです………他の、数多の心にさえぎられて。
「他者の心………魂を体に定着させるのがあの方の能力なのか、それとも悪霊のようにあの方に魂が張り付いているのか………それすらも判別できず………気が付いた時には、アレを遠ざけたいい一心で、思わず、攻撃をしてしまい………」
「そ、そんなに………さとりさんから見て、恐ろしいものだったのでしょうか?」
「ふつうは一つの物が異常に多くある………早苗さんは首が、あるいは目玉がなん十個も異常に多くある者を見て、少しでも不快に思うなら、おそらく先ほどの私の恐怖の片鱗だけでも理解できるかと」
さとりさんはぼそりと「あんなモノ、二度と見たくない」と呟きました。普通の心がどんなものかが理解できるさとりさんには、パラドさんの心の異常さが普通以上に分かってしまったみたいです。
「あの…どれくらいの魂が…パラドさんの魂にくっついていたかは、わかりませんか? 大体でいいので………」
「………20と少し………くらいだったと思います。すみません、アレをもう一度見て正確な数を数える勇気は、私には………」
「いえ…どうも、ありがとうございました」
さとりさんは変える支度を済ませ、神社の外に出た時に思い出したように振り返り、私に一言だけ言いました。
「私があの人の心をのぞこうとしたとき、見つめた先で、数多の魂に見つめ返されました………あれが、自分の心を見られる感覚なのでしょうか」
さとりさんを見送って、眠ってしまったパラドさんを運び込んだお部屋に行くと、お部屋のふすまが開いていて、縁側に人影が腰を下ろしています。
「パラドさん、まだあんまり動いては………」
「ん…」
首を回し、振り向いた人はパラドさんではありませんでした。
黒いコート、紺色のジーンズを履いていて、髪の毛はやや癖のある茶髪。どことなく不機嫌そうにもけだるそうにも見える表情をしていて、少しとがった切れ目の目に見つめられます。
「あ………えっと、あなたは………?」
「巧………乾巧」
今回は、乾さん………つまり、そう言うことなんでしょう。
乾さんの横に腰を下ろし、分かっていながらも、分かり切った質問をつい飛ばしてしまいます。
「あの………パラドさんは?」
「寝てる」
「そう………ですか」
また、眠ってしまいましたか。まあ、乾さんが出ている時点でもう察していましたが。今回も、また解決できずに失敗してしまったということでしょう。
「あんた、なんだってこいつにかまうんだ?」
「はい?」
「面倒だろ、どう考えても」
「ああ………だって、一度仲良くなってしまいましたし………パラドさんを、助けてあげたいんです」
「あんたのこと、忘れられてもか」
「これが初めてじゃありませんし………また仲良くなって見せます!」
「…そうか」
ぶっきらぼうに呟くと、乾さんはごろんと仰向けに横になり、空をジィッと見つめてしまいました。話し合いは終わり、と言う意思表示なんでしょうけど、今回こそ聞きたいことがあるんです。
「乾さんがどういう方かは大体予想がつくので聞きませんが、今回パラドさんが見たものを、教えていただけませんか?」
「ダメだ」
「またそれですか………前の方もそうでしたし………教えていただかないと、こっちもどうしていいのか分かりませんよ。教えてください」
「俺だけの問題じゃないし、大体俺は死んでんだ。生きてるあいつから聞き出せよ」
「パラドさんは言ってくれないんですよ………そのせいで、何度もやり直しです。前回はアンクさんでしたし、その前は信彦さん………初めての音也さんの時なんて大変だったんですよ? 神奈子様を口説き始めちゃうし………………驚きましたよ。いつの間にかパラドさんが消えてて、見たことない男の人がお部屋にいて………皆さん、パラドさんの心を、教えてくれない………」
パラドさんが何を見たのか、それさえ教えてもらえれば、進めるうえで手掛かりになるかもしれないのに………どうして皆さん教えてくれないんでしょうか………
「他人に教えたって意味がない。自分のことは自分で何とかするべきだ………ってのは建前で、俺も、誰も、言う勇気がないんだ。怖くて言えないんだ」
「………それが、皆さんが言ってくれない理由………ですか」
そう聞き返すと、乾さんは「そうだ」とだけ答えて目を閉じてしまいました。パラドさんも、それは同じなのでしょう………でも、これではいつまでたっても同じことの繰り返しです。次は多少強引にでも………
そんなことを考えていると、不意に乾さんが跳ね起き、こっちに顔を向けました。
「え? え? どうしたんですか?」
「あいつが起きる。準備しろ」
「え!? もうですか!?」
早い、いつもならまるまる1日はこのままなのに、今回はとっても早いみたいです。
慌てふためく私をしり目に、乾さんは自分の掌をのぞき込みました。音もなく、真っ白な灰が乾さんの掌から零れ落ちます。
乾さんの身体が完全に灰になり、風に乗ってお部屋の中に吸い込まれるように入っていきます。慌てて追いかけ、お部屋の襖を開けると、パラドさんが横になっていました。
これで、もう5回目。
パラドさんは、何かの拍子にパラドさんの魂と一緒にパラドさんの体に入っている他の人の魂さんの記憶を思い出します。
よほど怖いのか、悲しい記憶なのかは私には分かりませんが、何度か記憶を思い出して、パラドさんが許容できる量を超えた時、パラドさんは発狂に近い状態になり、しばらくの間パラドさんの魂は他の人の魂さんに体をランダムに明け渡し、眠ってしまいます。
パラドさんの魂が眠っている間は、そのランダムに選ばれた他の魂さんがパラドさんの身体をその魂さんの生前の姿に変え、ある程度好きに行動します。
しばらくするとパラドさんの記憶から許容できなかった記憶………思い出した過去の他の人の記憶と、それまでの間の自分の行動すべてを完全に忘れた状態で目を覚まします。
つまり………パラドさんは、私や諏訪子様、神奈子様達と過ごした全ての時間を忘れてしまいます。
横になり、お布団の中に入っていたパラドさんの目がぱっちりと開きました。
「あ、気が付きましたか?」
もう、何度この最初の声掛けをしたでしょうか。私とあなたの初めまして。
「………ん………」
眠そうに眼をこすり、パラドさんが体を持ち上げて一つつぶやきます。
「俺の覚悟…………………何だったんだ………まあ………生きているのは悪くない………」
いつもの通り、パラドさんは何か一生懸命考え始めてしまいました。狙いすましたタイミングで、「あの?」と声をかけると、パラドさんがはっとしてこちらを見直しました。
「ああ、悪い。気を失ってたみたいだな。ありがとう。あんたは?」
「わたしは、東風谷早苗と言います!」
あなたにする、6回目の自己紹介。初めまして、パラドさん。
「いい名前だな。………じゃあ、ここは何県のあたりか教えてもらえるか?」
「………………やっぱり」
パラドさんは、何が「やっぱり」なのかわからずに首をひねってしまいました。「やっぱり(また忘れてしまったんですね)」でも大丈夫です。ここでやっぱりと口を滑らせて言っても、フォローは完璧に考えていますから。
「やっぱりあなたは、先日の「星降り」の人ですね」
星降り
それは、幻想郷に起きた大異変。博麗大結界が破られて、幻想郷が大混乱になったあの事件。パラドさん、あなたがここに来た日。
また初めましてになってしまいましたが、パラドさんを私は助けたいです。パラドさんとは2~3日づつくらいしか一緒にいたことがありませんけど、それでもパラドさんは優しい、素敵な人だって私は覚えています。
だから、もう一度、初めましてをしましょう。
この幻想郷の説明を済ませて、パラドさんに帰るまで行くところがないだろうしここでお世話をしますと話すと、パラドさんは「世話になりっぱなしは悪いし、雑用くらいはさせてくれ」と言いました。本当に変わりませんね、パラドさん。
「じゃあ………世話になる。よろしくな東風谷」
「………はい、よろしく、お願いします………」
また………私のことを早苗と呼んでくださいね、パラドさん。
※今までのシーンで読み返すとおかしな点※
0:初手の段階から早苗がやたらパラドに親し気。グラファイト編の妖夢の場合は親しくなるためのとっかかりがあったが、パラド編にはそれが無い。
1:パラドが初めてやるはずの雑務の呑み込みがやたら早い。初見のはずの雑巾がけもまるで何度もやったことがあるかのような対応。
2:パラドが素手で薪を裂いていた時、早苗が全く驚いていない。幻想郷の住民なら素手で木を裂く位は珍しくはないが、それでも最初に斧を探していたあたり、最初の段階で斧が必要と判断した過去があったから。早苗は過去の体験をなぞっているのが分かる。
3:パラドの表情を読むのが得意な早苗。1日そこらの付き合いではあの勘の良さは異常。しばらく付き合いがない限りは。
4:早苗の「やっと名前で呼んでくれましたね」今回の周期では魔理沙の泥棒トラブルがあったため、今までと比べて呼び捨てのタイミングが遅れたからこの言葉が出た。
5:パラドの「………諏訪子って誰よ?」と言う言葉。早苗の神社に住むうえでの説明に漏れがあったことを表している。何度も繰り返しているせいで、説明したか否かを失念したようだ。もしくは、魔理沙の泥棒トラブルが無ければいつもはこの段階ですでに諏訪子がパラドと会っていたのかもしれない。
6:パラドが夢を見て神社から飛び出した今回の周回での1回目の記憶覚醒時、狙いすましたかのように早苗が登場し、見事なカウンセリングでパラドを立て直した。早苗はある程度は記憶に混乱するパラドの対処法が分かっている。
7:早苗の「何かまた見たりしたんですか?」と言う言葉。この時の段階では早苗が本来知りえる情報は「パラドが夢で何かを見た」のみであり、「時々誰かの記憶を垣間見る」ではないはず。雑用中に眠って夢を見るとは考えにくいため、何度もパラドの相手をしている早苗はもう「時々誰かの記憶を垣間見る」ことを熟知しているからこそこの言葉が出た。
8:パラドの「何も見なかった」と言う嘘を早苗が見破り、早苗に呼ばれてさとりが来たこと。これまでの周回でもパラドは1回目以降は自分で何とかしようと早苗に「何も見なかった」と嘘をつくようになっており、強硬手段として心を読めるさとりを呼び出すことになった。残念ながら、結果は芳しくなかったようだ。